第5話 精鋭? 部隊
職業軍人になるには、少年士官学校を卒業して准尉になる他に、兵士養成所に入り、一年ほどでそこを出て伍長になる方法がある。
伍長で始まった兵は、軍曹、曹長と階級が上がっていく。
ここまでが下士官だ。
で、この国は軍国主義国とは言え実質は貴族主義国だ。
貴族が拝命される尉官より上は細分化されて階級も数多く存在する。
が、下士官にはほとんど階級がない。
伍長、軍曹、曹長の三階級だけだ。
昔は上級伍長だの、二等軍曹だの細かくあったらしいが、廃止されたらしい。
簡単に言えば、貴族から見れば、庶民の上下関係など無きに等しいからだ。
下士官は自分たちの命令を聞いていればいい、誰が偉いとか細かくても逆に指揮系統に支障をきたす、という考えなのだ。
まあ、そういう体で、ただ面倒なだけなんだがな、実際。
この国の軍人で徴兵以外の大半を占める下士官の階級なんていちいち構っていられないってのが事実だ。
ま、でも、給料は同じ軍曹でも何種類かあるみたいだから、特に不満もないらしいけど。
で、だ。
大抵の職業軍人は、軍曹で退官する。
伍長から軍曹っていうのは、功績があったり、なくても、そろそろ一人前の軍人だな、と認められれば昇格する。
だが、下士官最上位たる曹長は何らかの功績などがなければ、まず昇格できない。
時々あるのは、退官間際の軍曹が、皆に好かれる存在であった場合は、上も推薦して、退官前数か月だけ曹長をやって去る、というものだ。
何しろ曹長は下士官と言っても、小隊長くらいは任命されることもある。
自らが強いだけではなく、臨機応変に部隊を指揮し、また、育成をすることが出来る、優れた下士官でなければ到達出来ないのだ。
そんな、一生かかっても到達不可能な軍人が大半の階級に、十八で到達したという奴が副官になるらしい。
「志願者、ってことは、募集をかけてたのか?」
「もちろんだ。どうせ各隊、いや、各局、人を出すのを渋るだろうからな。本人の志願という形でなら引き抜きやすいと思って、隊の目的と隊長の名前を書いて、各局の掲示板に貼っておいた。そうしたら、曹長が来たから、隊のリーダ兼お前の副官にいいと思って採用したんだよ。年齢的にも近いからな」
隊のリーダは隊長じゃないのか? なんてことはなく。
士官というのは、基本的に現場の戦いを知らず、現場的な戦いや方策は知らないもの、いや、知らなくてもいいものとされている。
まあ、俺は色々あって現場で泥にまみれて功績を上げたりもしていたけど。
だから、隊員個別の管理や戦い方の指導は、現場を熟知した軍曹や曹長の担当となる。
それがリーダという存在だ。
副官、というのは俺の仕事の補佐を行う。
大抵の場合、隊長たる少尉中尉というのは若造で、曹長はベテランということが多く、現場をよく知る副官が補佐に入ることで、隊として間違いのない方向に進ませるわけだ。
さっき出て行ったこいつの副官も爺さんと呼んでいいくらいの年長者だった。
まあ、早い話、俺にはリーダも補佐もいらないけど、隊を一人で動かすのは大変だろうし、体面上着けなきゃならないんだろう。
それで、まあ、付けてくれたってことだ。
あれ? おかしい。
いや、そいつのことはいいんだけど。
優秀な奴なら、手柄を押し付け放題だから望ましくはあるんだけど。
「ちょっと待て、俺の名前を明記した? 俺、任命されたの今日なんだが」
「そりゃあ、今日言ったからな」
「何で事前に募集回ってんだよ!?」
「募集なんてそんなもんなんだよ。募集のせいで事前に知ってる奴なんてよくいることだ。一応は軍事機密ではあるんだが、いちいち規制する必要もないからな」
「それでいいのか……?」
まあ、人事が最高機密である人事部が言ってるんだからいいんだが……。
そう思ってんの、こいつだけじゃないだろうな?
「で、その曹長含め隊員は九時任命だから、既に詰所に集まってるはずだ。お前の執務室はその隣で、副官の机もそこだ」
「分かった、それはこの建物か?」
「西別棟の三階だ。あと、演習は裏の西第二演習場を使え。共用ではあるが、おまえ達以外割り当ててない」
「ああ」
俺はオルティに手を振って部屋を出た。