第3話 俺とお前の運命
「トゥーリィ、あのさ」
俺は思い立って口を開いた。
「トゥーリィはスティー伯爵家を恋愛体質って言うんだけどさ」
「はい、もちろんです。これは代々言ってるみたいですね」
「でもさ、俺からすれば、お前んちは恋愛体質でも何でもないんだよ」
「何ですか! 先輩でもさすがに私の家の悪口は許しませんよ!」
頬を膨らませて抗議する。
あざといのは分かっているんだが、それでも可愛いんだよな、この子。
「そのつもりはないけどさ、俺からすればスティー家はうっかり思い込みの強い家系なんだよ」
俺が言うと、トゥーリィは頬を膨らませて、ぼん、と体当たりしてきた。
そのまま俺にもたれかかって来る感じも、あざといのは分かっているんだ。
けど、その全ては容認できる、可愛いから。
「あのな、お前の先祖の魔法使いはな、確かに勇者に惚れていた、これは事実だ。かなり勇者にもアピールしてたのも事実だ」
「はい、そうです……って、なんでそんなこと知ってるんですか?」
おそらく、スティー家の中での言い伝えなのだろう、それを知っているので驚いている。
「だがな、勇者の方も魔法使いを憎からず思っていて、姫の求愛や王の結婚許可を丁重に断ったんだよ。魔法使いと一緒になるためにな」
「え……?」
この人は何を言っているんだ、なんでそんなことを知っているんだ、という表情のトゥーリィ。
「それで、勇者の方は万全の態勢で、魔法使いの求愛を受けようとしていた。そうしたら、魔法使いはもう別の男とくっついてたんだよ。それでその男とその子孫たちがお前たち、スティー家なんだよ」
おそらく知らなかったのだろう、呆然と俺を見ているトゥーリィ。
「え? じゃあ、勇者はどうなったんですか?」
「勇者はニエラ侯爵の名前を貰って、代々受け継いでるんだよ」
「ニエラ侯爵って言うと……今の大元帥でしたっけ?」
トゥーリィは思い出すように言う。
「そうだな」
だから、俺は答えだけを告げる。
これ以上は、言う必要はないだろう。
「あれ? ちょっと待ってください? ニエラ侯爵って、先輩の母方の──」
「エイリスには、甘いおやつくれる義務がある」
「うわっ!? 何だよ軍そ……アルメラス軍曹! 部屋に入る時は挨拶くらいしろよ」
何の音もなく入って来たアルメラス軍曹に、俺とトゥーリィはびくん、と驚いた。
ちなみにシスリス准尉の方からは見えていたのだろう、驚かなかった。
「挨拶より優先すべきものがある場合は、挨拶は後回しにすべきだ」
「いや、何だよその挨拶より優先すべきものって?」
「エイリスは私のアックスを壊したから、甘いおやつで詫びるべきだ」
この子は真顔で何言ってんだ。
「いや、悪かったけどさ。あれは支給品だし、新しい支給申請していいのが支給されただろ?」
「そういう問題ではない。武器には魂が宿るのだ」
真顔のままそう言われると、なんか、悪いことした気になるけどさ。
「いやさ、魂が宿るとして、じゃあアルメラス軍曹は、魂を壊されて甘いおやつで許すのか?」
「…………」
黙っちゃったよこの子。
頭の回転遅い子だから、問い詰められると頭がついて来れないのかな。
「あー……でも、軍曹は寛大だからそれで許してくれるんだな?」
「それだ、それが言いたかったのだ」
俺が答えに誘導してやったら、それに乗りかかった。
まあ、いいや。
「じゃ、しょうがないから甘いおやつに連れて行ってくるよ」
「あ、私も行きます!」
「隊長、仕事中ですが!」
シスリス准尉が苦言を呈す。
「そういう仕事なのよ。あなたもたまにはどう? 社会に触れるのもいい勉強になるわよ?」
「…………そうですね、今日は行ってみましょうか。皆さんの話も聞きたいですし」
シスリスが、ため息交じりにそう言ったので、外事警察隊は、全員揃って警邏という名のサボりをすることになった。