第1話 それぞれの結果
俺が少尉に昇進してしばらく経った頃、つまりは親父に少佐になったら子爵を譲る、と言われてしばらく経った頃だったと思う。
俺は狩りの際、道に迷い山を越えて隣国に行ってしまい、シーラ王国のクシャラ城に捕らえられた町人の救出命令が下された。
その頃俺は、いい成績を上げまくっていたので、こういう特殊任務を良く任されたのだ。
ま、そんな任務は慣れたものだ。
俺はそれを難なく全員を救出した。
が、そこには大いなる誤算もあった。
救出ターゲットは民間人。
要人でもないご老人であると、何も思わなかったのが災いした。
彼らはほぼ全員退役軍人で、元曹長や、勲章持ちもいた。
更に退役後村長になった人もいた。
曹長って今では若い曹長が身近にいるけど、本来は下士官最高位であり、一緒の尊敬の念を持って称されるべき英雄でもある。
そんな彼らを救出してしまったのだ。
軍国主義のこの国では、退役軍人、特に勲章持ちや曹長には一定の敬意を払っている。
俺は直感的にまずい、と感じた。
このままでは、また勲章を与えられて昇進してしまう、と。
俺は信頼できる部下の軍曹に、手柄を全て貴官のものにするから、と頼み込んだ。
驚く軍曹は、それでも了承してくれた。
口の堅い、信頼できる奴だったので、俺も安心した。
安心したのだ、信頼できる部下だったから。
しかし、だ。
その部下は「こんな名誉な勲功を、代理で受けるわけにはいかない」と、俺の勲功だと言ってしまったのだ。
そのおかげで俺は勲章を授与され、中尉に昇進した。
手ひどい裏切り。
だが、「こんな素晴らしい上官を持って私は誇り高い」と言わんばかりの笑みを見ると、俺もそいつを責めることが出来なかった。
それで、今回の事になるんだけど。
ちょっとまずいことになった。
この国の英雄である少佐を助けたんだ、そりゃそうなるだろう。
誰もが、大元帥ですら救えなかった少佐を、俺たちは救ったんだ、そりゃあ勲章級の手柄だ。
それだけじゃない、テロの鎮圧、魔法使いを含む特殊部隊の壊滅、その一つ一つが勲章をもらってもおかしくはなく、それら全てが一連となれば、特別に二階級昇進すらあり得てしまう程の、「英雄」クラスの功績だ。
でも、俺はそれらに関しては、優秀な部下たちの功績として譲る算段は出来ていた。
……はずなのだが、彼女たちは、あっさり裏切った。
トゥーリィに関しては単純だ。
「先輩は少佐になったら結婚しなきゃならないんですよね? だったら私が結婚してあげますよ」って理由だ。
本当、この子だけは信じちゃ駄目だ。
いや、結婚出来るならして差し上げますよ、俺は!
トゥーリィは、恋愛脳が行き過ぎな以外は、出来のいい、躾も出来ている、しかも可愛い女の子だ。
頭脳に関しては、まあ経験不足の無知を除いては俺よりも鋭いところもあるし、俺がいなくなったら、この隊を任せても、ちゃんとやって行けそうだ。
曹長とは仲も悪いが、俺がいるからってだけで、俺がいなくなれば、まあ、ちゃんとやって行ける奴だろう。
これが生涯の妻となるって言うなら、俺だって頼み込んで結婚してもらってもいい。
スティー伯爵令嬢なら良縁だし、それが確実なら俺は喜んで少佐に、そして、トゥーリィの夫になってやろう。
が、うちの親がそれを認めなかったとしたら?
もしくはスティー家の当主が認めなかったら?
そうなったら俺は、どこの誰とも分からない女の子と結婚することになる。
それが嫌だから、って何度も説明したんだが……最後まで理解してくれなかった。
そしてトゥーリィは俺に押し返す。
この攻防、一番手痛かったのは、曹長がトゥーリィ側に付いたことだ。
まあ、彼女は別にトゥーリィに協力したわけではなく、俺の事を心の底から尊敬してくれて、俺の功績を熱く上官に語ってるのだ。
まるであの時の軍曹のように。
で、最終的に勲章を授与された。
これはぎりぎりまでの押し問答があって、なんとか隊員全員、という事になった。
が、俺は大尉に昇進してしまった。
で、トゥーリィは少尉になった。
何もしなくても、まあ、准尉から少尉なんて簡単になれるし、それ以上の事は少なくともこの子はしたからな。
で、もちろん俺とトゥーリィの攻防は隊全員に影響した。
結果、まず、スプラ伍長は軍曹に格上げになった。
任命は下士官人事担当のオルティからだったんだが、それを聞いた彼女の最初の言葉に、俺はよく吹き出さずにいれたと思う。
だってさ「それで、お給料はおいくらになりますか?」なんだよ。
いや、分かるよ、知ってるよ、彼女の家が貧しいって事はさ。
でも、さすがに任命最初にそれはないだろう。
俺の方からオルティに「隊長として後で言い聞かせますので、この無礼をご容赦ください」と言っておいた。
アルメラス軍曹はさすがに昇進しなかった。
まあ、軍曹から曹長はかなりハードル高いからな。
今でこそ軍曹の一階級だけど、元々三、四階級あるからな、軍曹って。
俺も口下手な彼女こそ格好の標的として、功績をかなり盛って伝えたから、曹長くらい行くかと思ったが、これまでの経歴もあるので、ギリギリ昇進はなかった。
とはいえ、内部的な階級は上がっているので、給料は上がったようだ。
それで満足だったのか、不満だったかは、無表情で無言だったから全く分からないが。




