第13話 作戦開始
トゥーリィと軍曹が帰ってきた後、作戦を伝える。
作戦とは呼べないものかもしれないが、まあ、目的と大凡の手順を共有した。
そして、臨機応変が要される潜入工作の指示に求められるサインの確認だ。
遠方から送る合図、そして、近接でのハンドサイン。
更に、暗闇での触打サインも確認。
したのだが、多分、伍長はそもそもこういう信号の基本を理解してなかった。
これには俺も曹長も、トゥーリィですら、あれだけあった暇な時間に教えなかったことを後悔した。
まあ、彼女は耳がいいし、最悪小声で指示を出すかな。
敵に耳のいいのがいたら終わりだけどな。
これも含めて全て訓練なしのぶっつけ本番。
その場その場の柔軟な対応・指示が求められる。
俺のミッションは、シスリス少佐の救出、そして、全員の生還だ。
「じゃ、行きますよ? 準備はいいですか?」
「大丈夫だ」
俺が言うと、すい、と浮き上がる。
そして、徐々に移動する速度を上げていき、風を切る高速になるまですぐだった。
「んー! んーんー!」
後ろで伍長が叫ばないように口を押えている。
まあ、無理もない、真っ暗な夜に、空を高速で飛行するのはかなり怖い。
慣れているトゥーリィはともかく、曹長も同様のようだ。
軍曹は、まあ、相変わらず泰然としてるので、何考えているか分からない。
「目標発見、塀側には衛兵がいます。扉の前には二人」
空から見ると点々と灯りが見えるそこが、クシャラ城だ。
周囲には高い壁。
その中には、今は暗くてよくは見えないが、一見貴族の邸宅のような建物があるはずだ。
前に来たことがあるので知っているが、そもそも、貴族の邸宅が夜だからと言って真っ暗になることはありえない。
地上の建物はただのカモフラージュの哨戒塔のようなものだ。
塀の上には衛兵が巡回しているが、主に塀の外を監視していて、中を見ている様子もない。
幸い、塀の中は点々と明かりはあるが暗く、下手に外に降りるより、中に入った方が見つかりにくそうだ。
「よし、扉の前に降りろ」
「はいっ」
「ここから先はハンドサインをメインに会話する。暗くて見えなければ手を使った信号に移行する」
俺の指示の直後、降下を始め、衛兵の目の前に降りた。
「うっ!」
「がっ!」
俺と曹長が一人ずつ倒して、扉を開く。
鍵はかかっていない。
塀が頑丈だから、内部に入り込むことなんて想定していないのだろう。
俺たちは音を立てずに中に入る。
まるで貴族の別荘にも見えた建物の内部は簡素になっており、内部に人の気配はほとんどない。
さて、ここまでは問題ない。
前に来た時はもっと苦労したけど、今回はあっさり侵入できた。
牢は前に来た時は大勢いたし、まあ、ご老人ばかりだったから、今回の現役の少佐は場所が異なるかも知れない。
『衛兵が異変に気付くまでの短期間に終わらせるぞ? まずは伍長、構造を把握してくれ』
俺がハンドサインで指示を出す。
「?」
『伍長、早く構造把握を!』
(構造把握しなさい?)
ハンドサインが通じないと分かったのかトゥーリィが小声で耳打ちする。
伍長はこくこくと頷いて、物を落とす。
いくら伍長がドジだからと言っても、これは故意にさせたことだ。
それはほぼ音もせず、床に落ちた。
が、これは人間には聞き取りにくいが、とてもよく響く音が出る物体らしい。
トゥーリィが取り寄せて伍長に与えたと、俺もさっき聞いたばかりだ。
「…………! …………!」
そして、なんか、伍長があわあわし始めたので、トゥーリィが耳を寄せる。
『正面0時の右方向に地下への階段あり、ただし、階段前に衛兵二名。階段下の長い廊下の向こうに二名』
『俺と曹長が倒す。准尉はここを守れ』
『了解』
俺と曹長は、音が出ない最速の移動で廊下を渡る。
『俺が向こう側だ!』
『了解』
俺と曹長は教科書通りの強襲で、二人を倒す。
『来い、足音に注意しろ』
背後から三人を呼び寄せる。
音を立てずに速く走れない伍長と、速く走る気のない軍曹が遅い。
下に降りると、地下だけあって暗い。
だが、遠くに光が見える。
おそらくそこに二人、いるのだろう。
『よし、准尉と軍曹、作戦F決行』
『了解。軍曹』
「なにか」
普通に喋るなよ!
この子何でもありだな。
『軍曹、三秒後!』
「うむ」
軍曹が浮き上がる。
軍曹がそのまま表に出て、高速で突進していく。
俺はその後に続いて、走る。
もちろん高速の軍曹には追いつけない、だが、軍曹があまりに異様なおかげで、後ろを走る俺の事は一切注目されない。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
「ぐぁっ!」
軍曹が一人を倒した隙に俺が更に後ろからもう一人を倒す。