第5話 襲撃!
「私がドアを開けていいですか?」
「トラップの可能性は?」
「ないです、スプラでなければ聴けないという事は、誰にも気づかれていないと思っているんですよ?」
微笑むトゥーリィ。
今から襲撃って時に、なんでこんなに落ち着いてるんだろう?
この子は実戦が初めてで、しかも演習ではずっと負け続けてるんだよな。
その謎の自信はどこからくるんだろう?
「サン、フタ、ヒト──」
ばん、とトゥーリィがドアを開ける。
警戒をされる前に、入り込みドアを閉める。
「こんにちは~。外事警察隊の者です。こちらでテロの計画があるとお聞きして──」
「うぐぁっ!」
にこやかに挨拶するトゥーリィに襲いかかった男を、俺が仕留める。
「火の玉乱舞!」
トゥーリィの放った無数の火の玉が、狭い室内に飛んでいく。
「うわっ」
「熱い! 熱い!」
「火がっ、火がぁぁぁぁっ!」
それだけで、もう、敵は混乱状態だ。
「取り囲んで殺せ! 生かして返すな!」
怒鳴る男。
あいつボスか。
まさか襲われるとはかけらも思っていなかったのだろう、指示が曖昧すぎるし、自分の守りも固めずにボスだと俺に教えてくれている。
しかも、まるでシルラ訛りを隠せていない。
あれは、特殊部隊じゃないな、実行リーダってところか。
「さあ、火だるまになりたい子から、順番に来なさい? どうせ、全員火だるまになるんだから」
トゥーリィの言葉と、いつもは見せない嗜虐な笑い。
ぞっとする敵たち。
可愛い女の子の嗜虐的な笑みってのは、魔法使いってのも相まって恐怖に感じるだろう、特に初見には。
全員が一致して動きが止まったのは、ほんの一瞬だった。
だが、その一瞬を、俺は見逃さなかった。
「…………っ!」
頭を下げ、背を低くして、敵をすり抜ける。
動きが止まっている、油断し切った敵など、障害物でしかない。
そして──。
「ぐぁぁぁぁっ!」
確実に、ボスを仕留めた。
そして、恐慌に陥りそうになっている敵に紛れ、俺はシルラ語で叫んだ。
『逃げろ! うわぁぁぁぁっ!』
恐怖の叫び声ってのは、周りの感情を大きく同調させやすい。
襲撃野戦ではよく使う手だ。
その直後、トゥーリィが大きな火をぼう、と上げたので効果は絶大だ。
『わぁぁぁっ!』
『出口はどっちだ!』
『た、助け』
我を失った敵は、もはやシルラ語で叫んでいる。
室内にいた者たちは、慌てて我先に逃げ出して行った。
残ったのは、俺と焦げ臭い匂いと、生きてここを出られなかった哀れな者の、亡骸。
そして、恍惚とした表情の、トゥーリィ。
あ、ヤバい、この子、恋愛より戦闘好きになったらどうしよう。
「やっと、二人きりになりましたね? んーっ!」
と、思ったけど、そんなことはなかった。
身を寄せてキスを迫るトゥーリィを引き離す。
「いや、伍長が聴いてるから! 伍長、逃げた奴の足取りを追えるだけ追え。誰かに報告してる奴がいたら場所を覚えておいてくれ!」
引き離してもくっついて来るトゥーリィを抱えて部屋を出る。
周囲の人影はまばらだが、音が外に漏れていたのか、何人かがこちらの様子を窺っている。
俺は周囲を警戒しつつ、まずは伍長から情報を訊くために、元の店に戻る。
「どうだった?」
「ひほふぃふぉうふぉふふぃふぇふふぃふぉふぁ」
「いや、食べてからでいいから」
口の中をパンとクッキーでいっぱいにした伍長。
「俺とトゥーリィはまた出て行くけど、伍長は曹長と会う時間までここにいていいし、急いで食べる必要はないから」
「は、はい、あの、一人の方が、奥の家まで走って報告をしたようです」
俺は詳しい場所を確認する。
「そうか、ありがとう、じゃ行ってくる!」
俺は、トゥーリィを抱えたまま、再び外に出る。
あの実行犯たちはもとより、リーダですら手練れではなかった。
おそらく捨て駒だろう。
だから、この国内に、あいつらに指示を出した奴が必ずいるはずだ。
あの家で暴れれば誰かがそいつに報告に行くと考え、あえて逃がしたのだ。
「あの家か!」
シルラ人居住地の、そこは確か旧居住地。
少し大きめの、だが古い家。
「カウントなしで開ける!」
「トラップは?」
「発動したら後は頼む!」
答えを聞かず、俺はドアを開けた。
「外事警察隊だ! お前がテロの主犯か!」