第3話 あの頃の後輩
「お待たせいたしました」
最後のトゥーリィが定刻通りに到着し、全員が合流した。
ちなみに、伍長は場所が分からずふらふらしてて、そこらの男にナンパされていたので連れてきた。
ちょっと前まで餓死寸前みたいだった伍長も、少しはふっくらとして来てるし、トゥーリィの服の可愛さと本人の元からの可愛さもあって魅力的な女の子に見えるからな。
あと、いまだにどう見ても軍人には見えないのも、ナンパされる原因かもな。
その際に「悪いね、彼女は俺のものだ」って言った、まあ、変に部下だとかいうより一言で済むからな。
そうしたら伍長が真っ赤になって、「あ、あの……良き妻になれるかどうか分かりませんが、一生懸命──」とか言い出したので、早急に誤解を解いた。
「シスリスはまだ来てないんですか?」
「彼女は八時に来るように言ってある。俺たちがここに来なかったら事件が起きてるだろうと言ってな」
「そうですか、それは先輩らしい采配ですね」
トゥーリィと曹長を一緒に行動させれば、喧嘩するし場合によってはそれが任務に影響しかねない。
それに、明らかに様子のおかしい曹長には出来る限り負担はかけさせたくはない。
だから、そんな指示をした。
そう、思っていることだろう。
思っているなら少しは仲良くして欲しいものだが。
「それで、これからシルラ人居住地へ行こうか」
「そうですね、まずは近くまで行きます」
そうか、行けば警戒されるから、近くで待機して盗聴するのか。
「確かに少しいつもと空気が違う気がするけど……本当にそんな大それたことがあるのか?」
「なければ、お茶とディナーでもして帰りましょう」
「お前なあ」
「だってない方がいいですよね? 喜ばしいじゃないですか」
「まあ、そうだけどさ」」
「喫茶店を一店、買収してあります。そちらは今晩自由に使えます」
「……手際がいいな」
まあ、昼に来てそのまま話を付けたんだろう。
そういうしっかりとしたところを普段から見せて欲しいものだ。
こいつは、俺の愛情を確かめるためにあえてしっかりしてないところがあるからな。
「とりあえず、そこに行こうか」
シルラ人居住地の道一本離れた場所にある、繁華街の喫茶店は、この時間既に閉店していた。
「ご苦労様、後はいいわ。鍵は明日の朝までに届けさせるから」
慇懃な、おそらく店主から鍵を受け取ったトゥーリィが言うと、彼は一礼をして出て行った。
「さて、スプラ、よろしく頼んだわね?」
「あ、あの、これ食べてからでいいですか……? あと、余るなら持って帰って……」
伍長はおそらく店主がサービスで置いて行った、テーブル上のパンとクッキーを物欲しそうに見ていた。
「あなたも大分図太くなったわね。いいわ、好きにしなさい?」
少し呆れたように言うと、トゥーリィは広い店内で俺の隣に密着するように座る。
「随分仲が良くなったんだな?」
あの、人が右を向けと言ったら、何の疑問もなく、ずっと右を向いていそうな伍長が、自分の要求を命令よりも主張してくるなんてな。
「そういう風にしてって言っただけですよ? 私の家の者は私を甘やかすことしかしませんから、せめて身近には言うことを聞かない子がいて欲しいって思っただけです」
「トゥーリィって言う事を聞かない子がお気に入りなんだ?」
「お気に入りって言うか、私の言うことを聞くだけの人間なら、家に沢山いますよ。でも、私の言うことを聞かない方が、意見を言ってくれる方が、将来絶対親友になれるかなって思っただけです」
へえ、この子も色々考えてるんだ。
俺はこの子と学校で一緒にいたのは十三歳の頃だし、最近の言動もずっと甘えた様子ばかり見てたから、自分のわがままを聞いてくれる取り巻きが欲しいから伍長に近づいたのかと思っていたけど、そうでもないのか。
成長は、しているんだな、身体だけじゃなく。




