第2話 調査の結果
「さて、残りの仕事、片付けようかな」
俺は隊長室に戻ると、曹長に聞かせるようにそう言った。
曹長は軽く頭を下げただけで、仕事に戻っている。
この部屋に緊張感が漂ってると感じるのは、俺だけなんだろうか?
「さっきの件は今、トゥーリィに調査に行かせてるよ」
「そうですか」
いつもなら「あの方ならそのまま遊びに行くのではないですか?」などと言いそうなのに、今日は言わない。
「伍長もつけたから大丈夫だと思う」
「そうですか」
それでも何も言わない曹長。
いつもなら──ってのは、もういいか。
「……今日さ、夜に時間はあるかな?」
「特に予定はありませんが」
「もしかすると、仕事が入るかも知れないから、空けておいて欲しい。トゥーリィの報告次第になるけど」
「了解しました」
何もなければ、食事にでも連れて行って、励まそうかとも思うけど、そんなことをしたらトゥーリィが黙っていないし、部下の貴重な自由時間を奪うことにもなる。
連れて行くなら、トゥーリィも連れていくことになるだろうし、そうなると……ああ、隊全員で行くのもいいかも知れないな。
そんなことで曹長が元気づくとはなかなか思えないけど。
「せんぱーい、いますか?」
しばらく無言で仕事をしていると、トゥーリィが部屋に入ってくる。
「思ったより時間かかったな? って、出て行った時と服が違うじゃないか」
「さすが先輩、私をよく見てますね」
「いや、分かるさ普通」
「それで、報告しますねー」
「あ、そっちに行って、伍長も交えてにしよう」
「でも、スプラはシルラ語話せませんよ?」
「聞いたニュアンスも確認したいからな」
「そんなことくらい、私でも出来てますけど……」
半ばトゥーリィを押し切るように、待機室へ入る。
「で? 何か分かったか?」
こちらも服装が変わっている伍長と三人になって話を切り出した。
ちなみに軍曹は、甘そうなおやつを食べていた。
多分、トゥーリィの土産だろうな。
「さて、話をしましょうか? スプラ」
「は、はいっ!」
緊張でがちがちになっている伍長。
この子、もしかして、俺がそばにいれば筋肉痛になってある程度筋肉つくんじゃないか?
「それで、この子が言葉を聴き私がそれを訳していたのですけど、どうも今日の夜七時に集合して、テロを起こす計画があるようです」
「は……?」
トゥーリィの口調が、あまりにも普通だったので、俺は何か冗談でも言われたのかと、何度も反芻したが、そこに冗談の要素はなかった。
「え? 本当か?」
「本当です。本当に運が良かったとしか言えませんね」
確かに、今日の今日でたまたま警邏に行って不審に思って調べたら、今日テロがあるとか。
「それは、本当なのか? どこを襲撃する計画か分かるか?」
「それは、大火事を起こし、あと市民を何人か殺戮するだけのようです」
「…………それって何か意味があるのか?」
「そこまでは分かりませんけど……」
テロの計画、というのは当然事例として俺も研究した。
だが、想定したのは、この国の主要施設の破壊、主要人物の殺害など、帝国に直接的なダメージを与えることが目的のものばかりだ。
だからこそ、俺たち外事警察隊が結成され、未然に防ごうとしているのだ。
それが、火事と平民の殺害?
いや、確かに家が焼かれたり焼死する人も出るだろうし、そういう人には申し訳ないけどさ。
前線で人が死ぬことを考えたら、大したダメージは帝国という国家にない。
それに、何の意味がある?
治安は確かに悪くなるし、全くダメージがないわけじゃないけどさ。
わざわざ、海外から大量にこの国に入って来て、その結果が治安の悪化って、さすがに割りが合わないだろう。
偽漏洩か?
「……とにかく、今夜の七時にテロがあるってことだな?」
「違います、実行は八時です」
「さっき七時って言ってただろ?」
「それは集合時間ですよ。実行は八時からです」
「紛らわしい言い方するなよ!」
「でも、この場合、テロの時間より集合時間の方が重要なんじゃないですか?」
「…………っ!」
正論を、トゥーリィから聞かされると妙に納得は出来ない。
「……分かった、じゃあ、今夜六時半に集合だ。えーっと、どこにしよう。指令! 十八時半、エリア十三、二、十字路、軍本部側」
「ヒトハチサンマル、エリア十三、二、ジュウ、エッジ了解」
「ひとは……りょ、了解」
伍長が少し不安だが、まあ、何とかなるだろう。
今夜は長くなりそうだな。
「曹長、時間外で申し訳ないけど仕事が入った。指令を聞いてくれるか?」
「もちろんです」
「悪いね。指令! 二十時、エリア十三、二、十字路、軍本部側。詳細は臨機にて!」
「ニマルマルマル、エリア十三、二、ジュウ、エッジ了解」
曹長の敬礼。
そう、俺は、彼女に俺たちの集合から一時間半後の時刻を命じた。
「定刻不在の際、警戒せよ」
「……はっ!」
曹長が一瞬躊躇してからそう応答する。
「俺が時間通りに現れなかったら、何かあったと思って欲しい」と、続けた。
聡明な曹長の事だ、これで俺の指示の意図が分かっただろう。
そう、俺たちは、戦争に行くのだ。