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ガイジの女の子達をまとめることになった。  作者: 真木あーと
第一章 ガイジの問題ある女の子たち
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第2話 帝国の歴史

 剣と魔法の時代、勇者と魔王の時代は、確かに実在した。


 魔王の放った魔物たちは世界中に蔓延(はびこ)り、人々は身を護るために剣を取り、魔法を駆使した。

 多くの魔物、強い魔物がいる地域の近隣の町には冒険者たちが集い、魔物を打倒しては報酬を受け取っていた。


 いつか誰かが魔王を打倒すると信じ、または、自分こそがそれであると研鑽し、強さを競い合っていた時代。

 それは、確かに存在したのだ。


 遙か遠く、戻ることの出来ない過去の、物語でしか語られない昔。


 人の寿命を持っている者ならば、息絶えた。


 その時代を自らで見聞きしたものは最早いない。


 ならば、それは本当に存在したのか、誰も証明は出来ない。


 だが、誰もが物語を聞いてその時代を知っており、その時代が移り変わり、今の時代につながっていることを理解している。



 誰もが知る、その歴史の変換点は、オルジス王国で起きた。


 その時代、この国は冒険者の街として栄え、その中心地でもあった。

 この街で生まれた四人のオルジリア人、つまり原住民が、やがて冒険者となり、そして、魔王を打ち滅ぼした。


 今ではその四人は、勇者、魔法使い、僧侶、盗賊、となっているが、勇者は別に勇者という家系に生まれたわけでもない、おそらくただの剣士だ。

 おそらく、四人の中で最も強く、そして、戦い方法が最もオーソドックスだった彼が、物語の都合上、勇者という事になったのだろう。


 魔王が滅びれば、残された魔物は統制を失い、次々に駆除されていった。

 また、弱い魔物は品種改良されて家畜や愛玩動物になり、やがて魔の脅威は消え失せた。


 魔が駆逐された世の中では、剣や魔法杖を持つ意味もなくなり、人々はそれらを手放していった。

 これからの世界では、剣も魔法も時代遅れになり、それらは平和利用されていくことだろう。

 誰もが、そう思っていた。


 だが、オルジス王国は、オルジス王国国王だけは、そう思ってはいなかった。

 オルジリア人である四人が魔王を打ち滅ぼした、という事はつまり、オルジリア人は強い、という証明ではないか、と思った彼は勇者たちを歓待し、厚遇して王国の兵を鍛えさせる仕事を与えた。

 強兵化した王国兵は、周囲を圧倒する存在となった。


 ある日、隣国のカルサ王国に攻め入り、制圧した。

 そして、カルサ王国を属国にした後、帝国主義を掲げ、国名もオルジス帝国に変えた。

 オルジス帝国は本来の国土を首都と呼び、それ以外の属国にした国土をそれぞれの王国名で呼んだ。


 皇帝は、この帝国主義宣言、つまり他国を攻めて領土にしていくぞ、という宣言に隣国諸国が警戒し、隙を突いて攻め入って来るだろう、と考えていた。

 であるから、軍の更なる強化を考案した。


 この時、皇帝に取り入って、その卓越した知識で、軍師にまで上り詰めた男がいた。

 その男は、現在では当然既に死んでおり、異国から来た程度しか素性が分からないのだが、本人は異世界から来た、と名乗っており、当時は誰もがそれを信じるほどの改革を帝国にもたらせたのだ。


 まず、帝国は軍国主義を掲げ、兵たちを完全に合理的に再編していった。

 それぞれの伝統ある騎士団の名も廃し、組織として細分化した。

 師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊、班などと分け、役割と数値でそれぞれの集団を管理した。


 そして、階級すらも細分化した。

 階級が一つでも違えば絶対服従が命じられ、全員が周りに負けまいと競い、更に軍を強化させた。


 そこまでしても、近隣国全てを敵に回すにはあまりにも人手が不足していた。

 一つ、二つの戦場であれば、負けることはないが、まだ帝国の国力も近隣国と大差ない頃であるため、当然の話だ。


 そして強気の皇帝は、軍師の助言を受け、戦線を縮小することはなく、現在に至るまで残る最悪の指令を発令した。

 いや、もちろんこの国を治める偉大なる皇帝の指令は、当然偉大なのだが、偉大としか言えないのだが、とにかく、その発令は国内に大きな影響を与え、そのまま今に至る。


 それが、国民皆軍人令だ。


 名前の通り、帝国民は全て軍人であり、兵として従軍することは当然の義務である、という命令だ。

 そう、この道三十年の肉屋も、生まれてこの方、農業しかやっていない農民も軍人なのだ。


 ただ、許可を得て軍を休んでそれぞれの仕事に従事しているだけなのだ。

 まあ、とはいえ、全員が全員、軍に従事していれば、誰も生産をしなくなり、国は滅びてしまう。


 だから、双方を実現するために、導入されたのが徴兵制だ。

 男女とも、生きている間に少なくとも最低一回、多ければ何回でも徴兵されることになる。

 もちろん職業軍人として、専業となる者も多い。


 これには当然、皇帝から皇族、貴族に至るまで、男女とも、貴族の妻を除き全員当てはまることになる。

 彼らには旧い貴族特権として、ある程度高い職位からの従軍が可能ではあるが、軍人であることには変わりがない。


 それから時が経ち、この体制を作った者たちは死に、勇者たちが伝説となった頃になっても、相変わらず帝国は侵略し、この制度も継続していた。

 長く続いた体制で、この国は「政治家」という職業が失われた。

 軍の最高責任者たる皇帝、そして彼から軍を預かる大元帥、そして、各軍の元帥、将官たちがこの国を治める、という、ある意味時代を逆戻りするような状態となった。


 皇族や貴族は存在する。

 だが、その皇位や爵位よりも、軍の階級がその者の優劣を決めていた。

 この国では、軍人になることは義務であり、特に貴族は常に軍人でなければその地位や待遇を享受できない。


 そして、他国との戦いで功績を上げなければのし上がることも出来ない。

 だから、帝国は永遠に戦争を続けなければならない。


 魔王は滅び、勇者はいなくなった。

 だが、剣と魔法だけは、形を変えて存在し、戦いの時代は続く。

 敵は魔物ではなく、人間と変わっただけで。


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