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ガイジの女の子達をまとめることになった。  作者: 真木あーと
第二章 彼女たちに何が出来るか
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第7話 近接戦における格差

「仕方がないわね……これじゃ、あんたも張り合いがないでしょ?」 


 俺の隣にいたトゥーリィがすっと、立ち上がり、身体をほぐす。


「私が、相手してあげるわ」

「副隊長殿が、ですか?」


 表情も変えないまま、曹長が問う。

 そして、ちらり、と俺を見る。


「そうよ、いいですよね先輩?」

「んー、まあ、いいぞ?」


 この子の戦いも見ておいた方がいいし、戦力がほとんどいない現状、尉官だけど俺やこの子も含めて戦力をフル投入しての作戦を考えなきゃならない。

 この子にその気があるならありがたいことだ。


「そういう事よ、ま、生意気な部下にお仕置きをするのも士官の務めだし、悪く思わないことね」

「はっ、胸を借りるつもりで挑ませていただきます」

「胸を、借りる……いい度胸ね!」


 ちなみに曹長の胸は大きくて、トゥーリィが十五歳なりの胸だから大きさが違うってとったんだろうね、トゥーリィ。


「ま、私は手加減してあげる、そうでないとあんた、死んじゃうからね? でも、あんたは手加減しなくていいわ、全力で来なさい?」

「了解しました」


 曹長は強い。

 だが、トゥーリィも希少な魔法使いとしてかなりの腕を持つ。

 本当なら前線で百人レベルの兵を一掃するほどの力を持っていて、事実、彼女の兄は前線で戦ってエースとなり、階級を上げているくらいだ。


「じゃ、始めるわよ──」


 ぼう、とトゥーリィの周囲に魔法陣が浮かぶ。

「精霊たちの祖よ……っ!」

「動かないでください」


 トゥーリィが呪文を唱え始めた時、曹長の短剣の先が、彼女の首筋にあった。


「な……ななっ!」


 あまりの速さに驚くトゥーリィ。

 が、次の瞬間──。


「ぐぁっ!?」


 曹長の短剣の柄が、トゥーリィの顎を叩く。

 顎は打撃されると脳天に響く。

 トゥーリィはふらふらとした挙句、こてん、と倒れた。


「あ……れ?」


 呆然としている、トゥーリィ。


「なぜそのような動きにくい服を? 下着が丸見えになっていますが」

「え? きゃぁっ!?」


 トゥーリィは慌てて足を閉じる。


「ちょっと! なんで殴ったのよ? 最初で勝負着いてたでしょうが!」

「動くなと言ったのに動いたからです」


 あっさりと答える曹長。


「……分かったわよ! じゃあ、もう一回! 行くわよ、精霊の祖よ……っ!」


 自分のタイミングで勝手に始めていきなり呪文を唱えたトゥーリィは、その一瞬で間を詰めた曹長の剣の柄が目の前に見えたため、呪文を止める。


「く……っ! わ、ぶへっ!?」


 今度は足払いで転ばされ、無様に崩れ落ちる。


「今は動いてないでぶべっ!?」


 起き上がろうとしたトゥーリィの後頭部を靴で踏みつける曹長。


「おや、そうでしたか、失礼しました」

「おい、曹長!」


 いまだに踏みつけている曹長に言う。


「ご安心を。ラバー底です」

「いや、そうじゃなくってね?」


 この、礼儀正しい子が、戦い中は仕方がないにしても、多少強引に戦意のないトゥーリィ相手に足払いを極め、そして、侮辱とも言うべき踏みつけを行うとは。

 これまでずっと平気な顔をして来た。

 トゥーリィに毎日のようにこいつ呼ばわりされ、三年も年下の女の子に馬鹿にされて来た。

 俺はそういう事には慣れている子なんだな、と思っていた。


 軍では階級が全てであり、下士官からするともの知らずな上官などいくらでもいるからだ。

 が、そうではなかった。

 曹長はずっとストレスを溜めていたんだ。


「うがぁぁぁぁぁっ!」


 キレたトゥーリィが、魔法も使わずに徒手で襲いかかった。

 が、それこそ戦闘経験豊富な曹長とは戦いにもならない。

 普通なら軽く避けるだけの曹長が、避けずにその襟を掴んで頬をぺちぺちと十回ほど叩く、そして、鳩尾に軽く拳を三度ほど入れる、など、明らかにオーバーバイオレンスを繰り広げた。


 ぺちぺち、という可愛い擬音を使ったが、一ぺちにつき、トゥーリィのツインテールが水平になるくらいの威力だ。


「うわーーん!」


 号泣をはじめたトゥーリィ。

 本日二人目の号泣者だ。


「曹長、そのくらいにしなさい」

「了解しました」


 すっと直立する曹長。

 もはや戦意のかけらもないトゥーリィが泣きながら戻って来る。


「せんぱぁぁぁぁい!」

「近い近い!」

「仇討ってくださぁい! あいつ、倒してください!」


 泣き叫びながらも、全くぶれないこいつの態度だけは、本当、尊敬してもいい。


「さっきのはお前が全面的に悪いからな? お前の攻撃は状況を考えてなさ過ぎる」

「どういうことですか?」


 これは、俺が言うよりも、負けた相手に言ってもらった方が効果的だろう。


「曹長、彼女の欠点を挙げてくれ」

「はっ、僭越ながら申し上げます。副隊長殿の攻撃は呪文を使用すべきでないと愚考いたします。戦闘中に、ターゲットを自分に定めている相手がいる状況では、略式の魔法を使用すべきです」


「でも、お兄様は前線で巨大魔法を使っているわ」

「呪文が必要な魔法を使用する場合の例外として、自分を確実に守ってくれると信頼できる者がいる場合に限るでしょうか」


 まあ、そうだな。

 こいつの兄さんも、中隊長だから、周囲に自分の護衛がいるだろうし。


「ですから、副隊長殿はまず、略式魔法での戦闘を組み立てるべきです」

「…………」


 それが正論であることは、トゥーリィも理解しているのだろう。

 だから、何も言い返せない。


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