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ガイジの女の子達をまとめることになった。  作者: 真木あーと
第二章 彼女たちに何が出来るか
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第4話 士官と下士官

「これを後いくつかの国境入出国管理隊を周ってやることになるけど」

「えー、今日はもう帰りましょうよ~」


 俺たちをここに運んできたトゥーリィが言う。

 たちまちさっきまでの軍人口調、軍人としての敬礼が失われた。


「いや、まだ就業時間はあるし、すべて周れるんじゃないかと思うけどさ」

「やです!」


 副隊長の准尉が、隊長の中尉に向かって業務に関しての返答が「やです」。

 隊によっては斬殺もされかねないレベルの答えだ。


 もちろん、この子は俺がそんなことをしないと分かっていて、俺がそれを容認することで、俺が彼女を甘やかせていることを再確認しているのだ。

 何しろこの子は、徹頭徹尾恋愛体質なのだから。


「仕方がありませんね。では我々だけでも参りましょう」

「あんただけ行けば? 馬車もないけど、歩いて行けるの?」

「…………」


 本当にトゥーリィは曹長にきついよな。

 階級は確かに上だから曹長も耐えてはいるけど、いつかキレるかも知れないな。


「パラエル准尉、少年士官学校で習わなかったか?」

「また、他人行儀な言い方をして! 何をですか?」

「『兵卒は大切にせよ、下士官は尊敬せよ』ってな」


 これは少年士官学校で何度も何度も、嫌になるほど言われる言葉だ。

 少年士官学校に通うのは基本的に貴族の子息子女で、卒業すれば全ての兵卒、つまり徴兵と、全ての下士官の上位となる准尉を任命される。

 標準卒業年齢十五歳の若造、いやガキが、それらの上に立つのだ。


 前線で戦う兵士たちは、そのガキが死ねと命じたら死ななければならない。

 だからこそ、士官学校では、これらはゲームではなく采配に不手際があれば実際に人が死ぬのだという事を徹底的に教えられる。


 そして、経験豊富な下士官たちの意見を尊重し、彼らのノウハウを吸収しろ、と教えられる。

 それを一言でまとめたのが「兵卒は大切にせよ、下士官は尊敬せよ」だ。


「えー、でもぉ、この子たちに何か尊敬できるところってあるんですか?」


 それを言われると何も言えない。

 軍曹や伍長は、俺もどうしようかと悩んでいるところだ。


 いや、それでもこいつの態度は違う。

 俺が思うのとはまた違うのだ。


「彼女たちは全員お前……貴官より兵役が長い。つまり経験に長がある。特にシスリス曹長は五年の経験があるし、その五年で曹長にまで上ったんだ、敬意を示すべきじゃないか?」

「こいつに?」

「こいつって言うな、曹長と准尉って階級一つしか変わらないんだから、お互い尊敬しあうものなんだよ」


 言ってから、的を得たというトゥーリィの顔を見て、しまったと思った。


「階級が一つしか違わないって言いました、先輩?」

「いや、言ったけど、それだけじゃなくってさ」

「准尉と曹長、士官と下士官にどれだけの差があるか、先輩なら、ご存じでしょ?」


 俺、ではなく、曹長をあざ笑うように見ながら言うトゥーリィ。


「あのな、シスリス曹長は騎士爵の子女だから、別に入ろうと思えば士官学校に入れるんだよ」


 子供の頃はまだ平民の娘でしかなかった曹長だけど、今や騎士爵の娘。

 貴族の娘として、入ろうと思えば何の苦も無く、少年士官学校へ入れるのだ。


「だったら入学して三年間、学んで来ればいいじゃないですか? 三年後、私はどうなってると思います? 准尉のまま、なわけないですよね?」


 つまり、お前の曹長と私の准尉の間には三年の差がある、と言いたいのだろう。


「けどさ、曹長は士官学校に通わなくてもなうと思えば士官になれるんだぞ?」


 まず、彼女の父親、ティブズ・シスリス少佐がその代表格だ。

 彼は伍長から士官学校に通わずに少佐にまで昇進しているのだから。


「ああ、それも調べたから知ってますよ? 上官二人の推薦に加え、人事下士官担当の推薦があって、人事を中心とした戦務の将官が会議をして決定するんですよね?」


 いや、何で調べてるの、この子?

 絶対曹長を叩く材料を探してたよね?


「分かる? 上官二人って、先輩と私なのよ? つまり、私があんたを『彼女は准尉に上げるべき』って思わない限りあんたは上がらないのよ! 分かる? 私にどういう態度を取ればいいと思う?」

「トゥーリィ! いい加減にしろ!」


 さすがに俺は怒鳴った。


「お前が誰を好きで、誰を嫌いでも構わない。だけど、それで業務上の信頼関係を崩すことは俺が許さない!」

「…………っ!」


 さすがにそこまで言われると思わなかったのか、目を見開いて驚くことしか出来てない。

 その瞳が徐々に潤んで──。


「ご、ごめんな……さい……!」


 泣き出した。

 あと、関係ないけど、伍長が今にも泣きそうなくらい震えてる。


「いや、泣かなくても! ごめん、言い過ぎた、俺としてはもっと隊員同士仲良くして欲しいってだけなんだよ。そういう、ぎすぎすしてるといざという時に命預けられないし」


 俺は泣きだした後輩におろおろするばかりだった。


「ごめんなさい……」


 いつの間にか目の前にトゥーリィの頭が。

 これは、撫でた方がいいんだろうか?

 とりあえず、撫でてみる。


「ん……先輩のなでなで、気持ちいいです……」


 涙をこぼして、そのまま身を寄せて──。


「ちょ、ちょっと待って! 落ち着こう!」


 俺が寄って来るトゥーリィの肩を掴んで止める。


「もう、許してくれますかぁ?」


 そんな潤んだ瞳で見られると──!


「分かった、ごめん、俺も言い過ぎた」

「分かりました。私もごめんなさい」


 あっさり俺から離れるトゥーリィ。


「はあ、あざとい人ですね」


 向こうでため息を吐く曹長の声。

 え? あれ? あざとい?

 ってことは、泣きから入った、今の一連の行為全部……?


「じゃ、帰りましょうか?」


 さっき泣いていたとは思えないほどの笑顔で、トゥーリィが笑う。


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