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ガイジの女の子達をまとめることになった。  作者: 真木あーと
第二章 彼女たちに何が出来るか
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第1話 私服を買いに行こう

 さて、あの魔法使いがどんな魔法を使ったのかは分からないが、トゥーリィのありえない提案は上層部を通過してしまった。

 まあ、その代わり、自分たちの身分を示すために、少なくとも本部では胸または襟に階級章を付けることを義務付けられることになった。

 それ自体は大した大きさでもないし、いいんだけど。


「なあ、これ、勲章は付けなくていいんじゃない?」


 いきなり私服と言われて、慌ててスーツを仕立ててもらった俺が、軍服ならともかくスーツには目立って不格好になる勲章に困っていた。

 何しろ、こんな奴どこにもいないんだからな。


「軍人にとって、勲章は誇りであり、階級章よりも本人を評する証です。小官にとっては憧れです」


 生粋の軍人である曹長に言われると、なんだかむず痒いものがある。

 彼女も今日から軍服ではなく、クリーム色のブラウスに黒のタイトなスカートになっている。

 スタイルがいい子がタイトな服を着ると身体が強調されていいよね。


 目のやり場に困るけど。


「まあ、付けるよ、外出の時は外せるんだしな」

「それがよろしいかと」


 曹長が微笑む。


「うん、まあ、とりあえずじゃあ、外事警察隊の職務を決めようか」

「そうですね。では、外事警察隊の目的から定義を考えましょう」

「そうだね、五人で出来ることを考えようか」


 手柄にならない程度にね。


「この隊の目的は、外国人や他民族の他国軍誘致や諜報活動、テロ行為を取り締まる事ですが、本来なら百人前後の人員が必要と思われます。これは中尉殿が隊長をなされていることでも分かります。それを五名、しかも尉官お二人となりますので、下士官三名で行う場合、目的を限定し敵を削減していくほかないと思います」

「そうだね。まず思いつくのは、敵国要員(エージェント)の削減。本来なら周辺諸国全てを監視すべきだろうけど、人員不足だから、現在交戦中のシーラ王国を優先しよう」


 帝国は周辺諸国と交戦しまくっているため、常に何国かと交戦しているのだが、幸い現在の交戦相手は、最後の首都隣国であるシーラ王国のみだ。

 ここさえ属国にしてしまえば、帝国の首都は全国境を属国に囲まれることになるため、全戦力を集中させているのだ。


「他にも最低限可能な仕事として──」

「失礼する」


 何の前触れもなく、ノックすらなく、詰所との間のドアが開く。


「軍曹、勝手に入るとは何事か! ここは軍事機密も──なんて格好してるんですかっ!」


 上官の前で部下を叱る口調だった曹長が、ただの驚きに変わる。

 まあ、無理もない。

 アルメラス軍曹が、あの小さな女の子が、下着姿で現れたからだ。

 軍曹の胸が思った以上に膨らんでいて、この子が子供ではなく十六歳の女の子であることを主張していたが、何事? え? 向こうで何があったの?


「軍服が駄目と言われたのだが、この胸に階級章を付けると痛いのでどうすれば──」

「ちょっと! なんでそっちに行くのよ! 私に訊けばいいでしょうが!」


 向こうから慌てたようにトゥーリィが追いかけて来た。


「だがトゥーリィ、私の上官はエイリスなのだ」

「いいから! こっちに来なさい!」


 トゥーリィが軍曹の手を引っ張る。


「落ち着くといい。私は落ち着いている」

「落ち着ぎ過ぎよ! あ、先輩、今立て込んでるからまた後で!」


 そう言って詰所へ戻って行った。


「……何なんだあれ?」

「様子を見てきます」

「うん、あの子が服を着たら俺も行くから呼んで?」


 曹長の背中にそう頼んだ。

 壁の向こうからは、曹長の怒鳴る声、トゥーリィの反論する声、静かになったと思ったら小声の軍曹が何かを言っていて、更に曹長が怒鳴っていた。

 曹長も大変だなあ、他人事じゃないんだけど。


「お待たせいたしました。どうぞ」

「うん、じゃ、みんなおはよう」


「おはようございます、先輩!」

「うむ、おはよう」

「お、おはようございます!」


 みんな挨拶は返してくれるけど、軍曹を除く全員私服だし、誰も敬礼しないので、本当ここ、軍隊の詰所なのかと疑問に思ってしまう。


「で、さっきなんで揉めてたんだ?」

「いえ、副隊長殿が、全員私服であるべきだとおっしゃり、小官は自由でいいのではと進言し、意見が合わず、その間軍曹が何故か服を着なかったので……」


 正直、どーーーーでもいいことで揉めるなよ、と思うけど、まあ、トゥーリィとしては一人を許すと全員軍服に戻るからそこは譲れないし、曹長も自分も軍服に戻したいからそう言ったのだろう。

 俺も軍施設内での他人の目が痛いし、出来れば軍服でいたい。


「まあ、ここは自由意志で決めれば──」

「先輩!」

「近いって! あと隊長と呼べって」


 抱きついてくるのではないかと言う勢いで近寄って来たトゥーリィから一歩離れる。


「この隊は、普段着で行動すべきというムーニョ中将閣下の指示があるのです!」

「中将閣下!? え? なんで?」

「私が言いに行ったからです」


 平然と言うけど、当たり前だけど、中将閣下ともなればそうそう尉官などに会ってはくれない。


「え? どうやって?」

「お父様に、外事警察隊の提唱者の方をお聞きして、その方にご挨拶がしたいと言ったら、その方がムーニョ中将閣下だったのです」


 ああ、そう言えば、オルティが言ってたな、どこかの中将の思い付きだって。


「え? じゃあ、そもそも私服可ってのも?」

「ええ、中将閣下から指示していただきました」

「…………」


 なんなの?

 なんなの、この子の行動力?


「え? 何でそこまでしたの?」

「だって、先輩に軍服姿なんて見せられませんから……」


 照れながら言うけどさ。

 いや、確かに可愛いけどさ!


「それだけのために?」

「はい、だって、スティー伯爵家は恋愛体質ですから」


 また、それか……。

 ていうか、それだけのために俺たちまで私服勤務なのかよ。

 もしかして、この子は物凄く有能な子なのかも知れない。


 方向さえ間違っていなければ。


「それで、この子は私服持ってないって言うし、あの子もあんな汚らしいのしか持ってないらしいんですよ」

「す、すみません……!」


 ぺこぺこ謝るのは、スプラ伍長。

 彼女の服はワンピース、と呼ぶにはあまりにも簡素過ぎる、何だろう、筒状の布に肩のところだけ縫い合わせて、袖を付けたような服だった。


 しかも薄汚れていて、薄いから透けて見えそうだ。

 俺もそんなに詳しくはないけど、たとえ庶民でも、あんな服の子は見たことがない。


「しょうがないから今から買いに行こうっていう話になりまして」

「ですから、勤務中だと言っているのです!」

「でも、勤務で使うんだから、今行くべきよね?」


 本当、この二人、何かにつけて意見を(たが)うよな。

 まあ、でも、仕事しろ、と言っても、まださせる仕事を考えてるところだからな。


「いいよ、行っておいで?」

「はい、行ってきま~す! あ、あんたも来る? そのだっさい服の代わりくらい買ってあげるわよ?」

「結構です」


 物凄く、女の子っぽい仕草の敬礼をして、曹長を皮肉気に笑ってから、軍曹と伍長を引き連れて出て行った。


「……いいのですか? 仕事中ですが」

「うん、でもまださせることがないからさ、今のうちに仕事を少しでも決めておこう」


 曹長がいらいらしているのが分かる。

 それがトゥーリィの態度か、服を貶されたことかは分からないが、とにかくトゥーリィのせいだ。


「そうですね、誰もいないのでいい機会ですし、警邏するにはどの地域を重点的にすべきかを考えましょうか」

「そうだね、誰もいないなら、俺たちも出かけよう。歩いた方が現地を確認できる」


 曹長をイライラさせたまま、二人で話し合うより、身体を動かせた方が気も晴れるだろう。


「はい、この近辺だけでも回った方がいいですね」


 よく考えたら、首都全体を警邏するのは広すぎて無理だ。

 だから重点的にすべきポイントを絞るべきなのだ。


「じゃ、行こうか」

「はっ」


 俺と曹長は詰所を出る。

 かくして、外事警察隊は全員が出払うことになった。


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