第12話 これを、まとめるのか
「まあな。だが、貴官は……いや、もういいや、お前はさ、色々軍の規律を違反し過ぎてるんだよ。どうして九時任命なのに、俺より部屋に来るのが遅いんだよ?」
俺の下だったからよかったけど、普通の隊なら殴られてるからな、これ。
「士官学校でやり直してこい!」って怒鳴られて。
「それは、一旦家に帰って着替えていたからです」
「うん、それも問題だろ」
という事は、任命はちゃんと軍服でしたのか。
まあ、さすがにオルティがあんな性格とは言え、少年士官学校卒業したての女の子がドレスで現れたら追い返すし、上官である十時任命の俺に言うよな。
「軍人である以上、仕事は軍服で行う。これは言うまでもない事だろ?」
「だって……久しぶりに先輩に会うのに、あんな個性のない服装で会うなんて出来なくて」
そんな、はにかみながら言われましても!
「軍服に個性があったら狙い撃ちされるからな? あのな? 軍人ってのは軍服を着て、胸の階級章でその人が自分より上か下かを判断して応対するんだよ。そんなドレス着てたら誰だか分からないから、そりゃ『誰だ貴様は!』って言われるだろ?」
「こいつみたいに?」
曹長を指さすトゥーリィ。
ちなみに曹長は既に俺たちの事は他人事として、書類に目を通していた。
「こいつって呼ぶな。彼女はシスリス曹長だ。さっきのは別に曹長は悪くないぞ? お前がそんな格好してるのが悪い」
「でも私、先輩の前で軍服なんて着たくないです……」
「あのなあ……」
もしかするとこの子、あの軍曹や伍長よりも面倒かもしれない。
「あ、でも、外事警察隊って、街を回って不審な人物を探したりするんですよね?」
「え? んー、まだ職務内容はこれから決めるんだけど、そういう事もあるかも知れないな?」
冷静に考えたらそんな職務でもないんだけど、いきなり言われたらそういう事もあるかもな、と思ってしまうのは仕方がない。
「だったらそれ、私服の方がいいですよね? 怪しまれないですよね?」
「いや、だろうけど。その時だけ私服になれば──」
「だったら!」
ばん、と俺の机を叩く。
「この隊は特別に私服勤務にしましょうよ!」
「いや……な?」
「私、頼みに行ってきます!」
そう言って、再びトゥーリィは走って出て行った。
「はあ……」
「お疲れ様です、隊長。何か飲み物をご用意いたします」
「ああ、悪いね」
俺は、脱力して机に伏せた。
何なんだこの隊?
人数少ないし、しかも、その半数以上がどうしようもない隊員じゃないか。
何より俺以外全員女の子と来た。
男は前線で活躍したがるし、活躍させるものだからしょうがないにしてもなあ。
まあ、これまで見たことのないアルメラス軍曹や、スプラ伍長はともかく、トゥーリィはもう少しまともかと思っていたんだがなあ……。
十三歳のあの子はもっと頑張り屋で、俺に認めて欲しくて何にでも一生懸命で。
俺も自分で結婚相手決められるなら、あの子を選んだかもしれなかったくらい、いい子だったんだよ。
確かに昔っから恋愛脳だったけどさ、もっと一途な感じだったんだよ……。
恋愛体質のスティー伯爵家、かあ。
俺を好きになるのも、血、なのかなあ?
「お待たせいたしました、コーヒーです」
「ありがとう」
曹長が淹れてくれたコーヒーに口を付ける。
うん、ちょうどいい濃さだ。
この子、だけなんだよなあ、まともなのは。
「なあ、曹長はこの隊で何が出来ると思う?」
「それは……」
困ったように目を背ける曹長。
ま、そうなるよな?
「とりあえず、この隊の目的から任務を細分化して、優先事項と何が出来るかを考えて行こう。みんなを遊ばせておくわけには行かないからな?」
「了解しました。まずは任務の確定より行いましょう」
この子がいれば、何とかなる、そんな気がするくらい頼もしい副官だった。




