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4節 真実



眼が覚めると、まだ見慣れぬ天井、空気。

俺、月城千隼もといチハヤ=ベルズヘブンとなった俺はベッドから身を起こそうとしていた。


「おはようございます!ち、チハヤさ…」

「姉なんだから様はいらないって言っただろアリス」

「じゃあチハヤくんで…」

あどけない笑顔を向けてくるアリスにこんな幼い姉がいてたまるかとツッコミたいところだが、俺、月城千隼はアリス=ベルズヘブンの弟、つまり、チハヤ=ベルズヘブンとしてベルズヘブン家の養子として迎えられてしまったのだ。


時は遡ること数日前…

気を失ったかと思えば、見知らぬ景色で目を覚ました。

のどかな草原だったが近くに見える街並みは中世ヨーロッパのように洋風な建物が並んでいた。

「ここが、天上界…?」

隣には可憐であどけなさの残る天使がいた。

「早速で悪いのですが、千隼様にはその…か、家族になってもらいます!」

え?なにを言ってるんだろうこの子は。


「ち、違います!そそそそう意味じゃなくて、あ、そういう意味じゃないことも無いんですけど…ベルズヘブン家の養子になってもらいたいんです。」

「あ、あぁ。それは何か理由があるのか?」

「はい。先程も言いましたが、人間から天使になる者はほとんどいません。ですので、こちらの世界にいる天使のほとんどは、こちらの世界で天使の親によって生まれ、育てられた者たちなのです。天使の社会は家柄も重要になってきますので…」


「なるほど。人間界から来た俺には身分を保証する家柄とかが無いとまずいってことか。」

「はい。それで人間界から連れて来ることを任せられたベルズヘブン家が身柄まで保証するようにと天界会議で定まりましたので。」

俺は了承の返事を告げ、ベルズヘブン家へと連れられた。


「こ、これがアリスの家…なのか?」

尋常じゃなく大きく立派な御屋敷だ。


「一応ベルズヘブン家は、天界会議へ出席権を持つ50の家柄の一つですからね!」

人間界でいう大貴族のようなものだろうか。


「行きましょう!」

アリスに手を引かれ御屋敷の中へ入っていく。

手を繋がれた時少しドキッとしたのは気づかれていないだろう。


扉を開けると大きな階段のまえにメイドや執事と思しき人がずらっと並び一斉に頭を下げる。


階段を上って正面の部屋の扉を開けると、アリスと同じ金髪でダンディなおじさんが大きな椅子に腰掛けていた。

「やあ、君が千隼君だね。アリスから話は聞いてると思うが、君の養父となるクローゼ=ベルズヘブンだ。これからよろしく頼むよ。分からないことがあったら何でも聞いてくれ。」


圧倒的な風格に気圧されそうになる。

「よろしくお願いします。では、早速質問してもよろしいですか?」

「ああ、なんでも聞いてくれ。できる限りのことは答えよう」

できる限り…。

「では、まず一つ、私がこの世界に連れて来られたのは何故ですか?俺が善の基準値を大幅に超えたことだけですか?」

俺が「例外」となったのはそれだけが原因じゃないと考えていた。


「やはり、なかなか勘が鋭いようだねチハヤ。ただ、大まかな理由は君が基準値を超越したことにあるよ。」

大まかな…。

「安心してくれチハヤ。私たちは敵じゃない。」

味方…ではない?

「君はなかなか疑い深いようだね。そうだね、君にはちゃんと説明しよう。」

クローゼさんの視線が穏やかになったような気がした。

「まず、君の善の値が大きくなりすぎたことによって、神格というものが出てきてしまったんだ。つまり、天使になり掛けてしまったということだ。そうなることで君の周囲の善悪のバランスが崩れ始めた。善と悪というのは本来、釣り合いを保っているんだ。強すぎる善があれば強すぎる悪が対抗せざるを得なくなる。」

稀崎咲良…その名前が頭に浮かんでいた。


「やはり君は相当頭が良いね。私たち天使の役目は善と悪が釣り合いを取れるように善の値を調節すること。反対に、悪魔の仕事は悪の値を調節することだ。そう、悪魔は君の善に対抗するために稀崎咲良に目をつけた。彼女は人知れず自分よりも能力の高い君に嫉妬していたんだ。その負の感情を狙われた。悪魔は彼女に負のエネルギーを貸し与えた。そして、あの日、つまり時が止まったあの日にそれが爆発した。」

「……」


何となく言いたいことはわかっていた。あの日の稀崎咲良はどこかおかしかった。でもそれに目を向けないようにした。わざと自分に好意を抱いてるんだと勘違いした。目を背けたのだ。自分が完璧でさえあれば良いという感情が一人の人間を悪魔に変えてしまった。


「稀崎咲良は君を殺そうとした。」

「……」

「やはり…。という感じかなチハヤ。彼女は君の予想通り、悪魔になった。アリスが時を止めたことで何とか君を助けることはできたけど、稀崎咲良を止めることは出来なかった。君と同じように彼女は悪魔の世界へと連れられた。

「俺のせいだ…。」

「チハ…「なんて言わないぞ俺は。だから嫌いなんだこの世界は。どこまで独善的なんだ。」

そんな俺の姿を見てクローゼさんはにっこりと笑う。さっきまで心配そうな顔をしていたアリスも微笑む。

「君はやはり良い天使になるよチハヤ。」


「一緒にこの世界を救ってくれませんか?」

アリスはそんなことを言って可憐な笑顔を向けた。



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