3節 狂い出す日常(三)
天使と名乗る金髪の美少女アリス=ベルズヘブンはまずこの世界について話始めた。
「まず、この世界はいわゆる人間界と呼ばれるところです。通常、人間は本来善でも悪でもないとされています。善とは天使への適性、悪とは悪魔への適性です…」
「ちょっと待った!」
月城は思わず疑問を口に出す。
人間界、天使、悪魔、通常聞き馴染みの無い言葉に思わずよろけそうになる。
「適性って、まるで人間が悪魔や天使になるみたいじゃないか。」
「その通りです!人間は成長する過程で善や悪の適性を高めていきます。つまり、良い行いをすれば天使に近く。ということです。」
月城はこの突拍子もない話をいつもなら信じることはなかっただろう。しかし、この奇妙な状況が信じざるを得なくさせていた。
「じゃあ、人間はいつその天使や悪魔になるんだ。」
「通常は、死んだ時とされています。正確には死んだ時、基準値に達していれば…の話です。天使や悪魔になるのはとても難しいことなんです。大抵の人間は基準値に届くことはありません。」
「…届かなかった人間はどうなるんだ?」
「記憶を無くしてもう一度人間に生まれ変わるだけです。いわゆる輪廻転生ってやつですね!」
アリスの屈託のない笑顔に月城はどこか安心を覚える。まさに天使と呼ばれるものであると納得させられてしまった。
「…この世界についてある程度理解はできた。だが、なぜそれを俺に話すんだ?」
「それは、わたしが千隼様を天上界へ連れて行くために来たからです!」
月城の懐疑的な視線に気にせずアリスは続けた。
「先程、天使や悪魔になるのは、死んだ時に決まると言いましたが、例外があります。それこそ、今回がまさにそうです。千隼様は、わずか、17年ほどで人が一生をかけても越えられない基準値を大幅に越えてしまったんです。本当に尊敬します、千隼様!」
え!思わず声が出た。自分が善の値を積みすぎた…?ありえない。
そう思った…しかし、一つだけ思い当たる節がある。自分はドがつくほどの完璧主義者だ。もし今まで完璧を目指し鍛錬して来た行動が、善に区分されるもの、見かけだけの善だと判断されていたなら、可能性はある。
「俺が善の行動を積みまくったってことか?」
恐る恐る月城は尋ねた。
アリスは満面の笑みではい!と答える。
「千隼様は1日1膳どころか、1日100善くらい、なされていましたからね!しかも、修行僧なんかの比じゃないくらい自分を鍛錬なさっていて、天使にもファンがいるくらいですよ!」
なるほど、自己鍛錬まで善に入るのか…、はぁ…。思わずため息が出た。
「千隼様はこれからは天使として共に励んでいきましょう!」
あ…否定する間もなく、気づいた時には気を失った。