1節 狂い出す日常
俺、もとい月城千隼は完璧な自分を演じている。それは、学業、運動、生活面のことなど、とにかく全ての事で完璧でありたい完璧主義者である。
そんな俺は、今日も今日とて高校二年生として退屈な学園生活を過ごす。
と思っていたが事態が変わった。
放課後に女子から呼び出しを受けたのだ。
…いやこれ事態が俺の退屈な日常を脅かすものではない。むしろ見て呉れだけは良い自分にはそれほど珍しいことではなかった。高揚こそすれど、毎回適当にあしらってしまうのだが、
しかし、その呼び出しをしたのがクラス委員長の稀崎咲良となればまったく話は変わってくる。さっきから心臓の鼓動が鳴り止まないのもそのせいだ。少なからず意識はしてしまう。少々大人びているとはいえ自分は高校生なのだ。思春期なのだから仕方ないと適当な理由をつけて自分をごまかす。
月城千隼が動揺するのも無理はない。稀崎咲良は完璧主義者の彼から見ても完璧に近い。
成績優秀、容姿端麗でありながら、愛想が良く、クラスをまとめ上げるほどのカリスマ性すら持つ、学園のアイドル的存在だ。
中学、高校と同じ学校で、去年、一年生の時には同じクラスであった訳だが、特別親しいかと言われればそうではなかった。
いつでも圧倒的人気を誇っている彼女の周りには男女問わず人が大勢集まった。自分から声をかけに行かなければ話すことさえできない。もちろん彼にその理由はないので、現状のような関係となった訳だが。
だが、今日、突然席まで来たと思えば
「今日、放課後話があるんだけど、残ってて貰ってもいい…かな?」
とだけ言い、了承の返事を告げるとすぐに去ってしまった。
結局内容の分からぬまま、あれやこれやと想像を掻き立てている間に5時間目、6時間目と過ぎ、放課後がやってきた。
別れの挨拶をつげ他のみんなはそれぞれ去っていった。
誰も居なくなって少ししたくらいで、咲良が目の前に立ち、口を開く
「あの、さ…」
「う、うん」
「…」
沈黙が続く。
そして、何かを決心したように咲良は
「ん…とね、私……」
と言いかけてまたしても彼女の口は止まってしまった。
そして、また流れ出す沈黙の時間。
今回はさっきよりも長いような気がする。
まだ彼女は喋り出そうとしない。
それどころか彼女の身体が固まって動いていないような気さえする。
…いや、完全に固まってる!?
稀崎咲良の身体は時が止まったかのように動作を停止していた。
事態が飲み込めない。
…一体何が起こったというのか、
気づけばさっきからカチカチと秒針の進む時計の音を聞いていない気がする。それを見るば、当たり前かのように止まっていた。さらに、窓から校庭の方を見ればいつもはバットの金属音がうるさい野球部も、俺が所属するサッカー部も、時が止まったかのように動きを静止していた。
間違いない。この世界は間違いなく時が止まっている。そう判断せざるを得なかった。
少し落ち着きを取り戻すとともに、困惑を抑えきれない自分とは裏腹にどこかこの状況にわくわくする自分がいることに気付いた。しかしまあ、とりあえずはこの状況を確認しなければならないのだろう。この世にも奇妙な現象について……