魔法の才能
前話をキリ良く進めた結果、今回の話が短くなりました。
申し訳ありません。
「それじゃあ先生の授業って、その魔法の開花ってのを促す授業ってこと?」
褐色娘から投げやり気味な質問が飛んできた。
どこかガッカリしたような感じがするのは、期待していた授業とは違うと思っているからか。
「そんなことをわざわざ授業にしてもつまらんだろ? 自分と向き合う時間なんてものは、時間のある学生の内ならいくらでも作れる。
それこそ、寝る前にベッドの上で色々と考えてれば良い」
「だったら、何させる訳?」
「書いてあっただろ? 魔力操作だ。
さっきまでの魔法開花の話は、あくまでも、この授業を受けたお前たちの好奇心が、魔法使いに向いているというだけの話だ。
その方向への発展は俺の知ったことじゃない。勝手にしろ。
俺が教えるのはそこに至る前の基礎の基礎。
“魔力を持つ”という才能があるお前たちなら、誰でも出来ることだ。
だがその前に……お前たち、強化の魔法は教わったか?」
全員を見渡しながらのドールの質問に、生徒たちは最初、戸惑いの表情を浮かべながら周りにいる子達の様子を伺っていたが……男子生徒の塊から一人、褐色娘周辺の女子達からは二人ほど、手が挙がった。
「三人、か。ということはこの学校も、間違えたことを教えているということか」
「間違えたこと……?」
挙げた手を下ろしながらの男子の言葉に、ドールは「ああ」と一つ頷く。
「良いか? この世界に『強化』の魔法なんてものはない。
そもそも、その教わっている強化の魔法なんて代物が、俺が教えようとしている魔力操作に他ならないんだからな」
「『強化』の魔法が、無い……?」
「えっと……じゃあ、今オレたちが教わってるのって……?」
「さっき言っただろ? これから俺が教えることになる魔力操作だ。
魔法を教える学校ですら広まっていないのが不思議で仕方ないが、魔法なんてものは才能の世界だ。一人一人違う才能があって、一人一人に才能を伸ばす術を身に着けさせる必要がある。
こうした学校に入るのすら魔力を持っていることが最低条件として必要だろ?
それなのに、入学してから先は、誰でもしているような共通努力でどうとでもなる、という教え自体がバカげている。
大方、『強化』の魔法とやらば、誰にでもある魔法の汎用的な才能の一つ、とでも言われたんじゃないか?
本当に『強化』の魔法があるなら、ソレはその子個人の才能だ。その授業で教えてくれたものよりも、数段上のものになるだろうさ」
「そ、それじゃあ先生!」
昨日私達が助けた女の子が、勢いよく手を挙げる。
「今、その『強化』の魔法が使えない人は、魔法の才能が無いってことですか……?」
ただその上げた手とはウラハラに、質問する声には何の勢いも感じない。
むしろどこか切羽詰まっているような、不安げな印象さえ受ける。
「今年入学していても、入学して一年経っていたとしても、魔法の才能が無いってことにはなりません」
この質問はドールには答えられないだろうと、代わりに私が答える。
「魔法の才能が無い、というのは、魔力を持っていない人たちのことを指します。
だから魔力が無ければ入学すら出来ないこの学校にいるあなた達は、魔法の才能が必ずあります。無いということはあり得ません。
今、自分の魔法を開花出来ていないということは、ただ自分を見つけることが出来ていないだけ。
そして見つけた自分以外にあった可能性を、知れていないだけ。
そもそも魔法というのは、体内にある魔力を、自分の中にある開花した属性というフィルターを通すことで、魔力ではなく異物として認識させて、体外へと放出させることを指します。
つまりただの呼吸と同じで、魔力を持っている身体なら当然にある機能そのものです。
それなのに今の魔法学校では、生徒を呼ぶためにその部分に目を向けさせず、誰にでもあるものとして『強化』の魔法だなんて嘘をついて、当然に使える魔力操作を教えている。
そうして満足させ、卒業生にこの学校を広めさせ、少しでも来年度の生徒数を増やそうというその醜い──」