#05-03「巫女さんにお祓いされてみた」
長らく更新が停止しておりましたが、連載、再開でーす。
「払い給え清め給え……」
祓串を左右に振りつつ、巫女――いおりが祝詞を唱えている。
懸命に祓串を振る彼女と向かいあって正座し、イッセーはお祓いを受けていた。
神の残り香を払うのに、神に祈ってどうするのか。いや別の神なら効果はあるのか。
アヌビスはべつに邪悪なものではない。
死を司る神だから邪悪な気配と感じるのだろうが、イッセーは死がかならずしも悪いものだとは捉えていない。
実際に死んでみたからわかることだが、死というものは、次のステージへの移行なのだ。
「畏み畏みももうす……」
いおりは熱心に祓串を振る。お祓いを続ける。
お祓いを何回か受けるうちに、イッセーは体になにか未知の力を感じるようになっていた。霊力というものだろうか。
彼女に霊力があるというのは、どうやら本当のことらしい。除霊にも自信があるように見受けられる。
だが、根本的に無駄なことをしているわけだ。
その件について、すでに彼女には説明済みである。「神気の残り香だから無駄だ」とは伝えてある。
だが言えば言うほど、彼女はムキになる。「必ず除霊します」と決意を新たにして挑んでくる。
「……~~――!!」
祓串が打ち振るわれ、祝詞が終わった。
それと同時に、いおりはがくりと膝をついた。
「だいじょうぶか?」
しばらく荒い息をついていたいおりは、十数秒もしてから、ようやく顔をあげてきた。
「は、はい……、たいしたことはありません」
強がる彼女だが、その額にはびっしりと汗を浮かべている。
全然たいしたことになっている気がする。
「除霊とやらは、できたのか?」
「い、いえ……、だめでした……」
まあ、そうだろう。
原理上、不可能なのだ。
仮にアヌビスが邪悪なものだったとしても、人間である彼女の手には余るはず。
……いや? 邪悪なのか? あのグータラ神は、七つの大罪のうちの「怠惰」担当である気がする。
「で、ですが……。必ず除霊します」
彼女はそう言った。
「だからそれは……」
と、何度目かの言葉を言いかけて、イッセーは、その言葉を飲みこんだ。
除霊の必要がないということは、もう飽きるほどに伝えている。
同じ事を何度も言わない主義のイッセーであるが、そこを曲げて、何度も言っていた。何回言ったのか、覚えていないほどだった。イッセーは完全記憶を備えているので、これはただ単に、数えていないというだけであるが。
彼女の負けん気は、相当に強い。
除霊できなければ負け、とでも思っているのだろうか……。
「必ず貴方を救ってみせます! だから安心してください」
……ちがった。
いおりは救おうとしていたのだ。イッセーのことを。
イッセーは居心地の悪さを覚えた。
天才であるイッセーにとって、「守られる」ということは、ほぼ生まれて初めての経験であった。
今回の〝攻略〟は、どうも調子が狂う。
「イッセーさん……。必ず、私が守りますから」
いおりは真正面から
うむ……。
なんか困る……。
ぴろりん♡
――と、どこかで好感度が上がる音がした。
いおりからではないようで、どこか他からだ。どこからなのかは、よくわからない。この拝殿には、いま二人きりしかいない。
「ところで、あの、イッセーさん?」
ずいっ、と顔が近づいてくる。
彼女の汗の香りなのだろうか。体臭が漂う。
それは決して不快なものではなく、どこか本能的なものを掘り起こすようで、やはりイッセーにとっては未知の感覚だ。
清潔感と透明感のある彼女から、こうした生物的な印象を受けるとは、不思議な気がした。
「……なんだ?」
イッセーは聞いた。彼女はなにかを聞きたがっている。
「ひとつ、お尋ねしますけど……。まだぱんつを見たいですか?」
「ああ……。無論だ」
イッセーは当然のごとく、そう答えた。
彼女のパンツを見たいという気持ちは、以前よりも強くなってきている。
特にいま、彼女の香りを嗅いでから、見たい気持ちが盛りあがってきている。
パンツが見たい!
余はパンツが見たいぞ!
「そうですか……。まだ……、そんな邪な気持ちが……」
いおりは顔を曇らせる。
「そういえば、ひとつ、おまえに確認せねばならないことがあった」
「なんですか?」
「おまえはその巫女服の下に、そもそもパンツを穿いているのか?」
イッセーが問うと、いおりは緋色の袴の裾をきゅっと掴んだ。
じっとりと湿度の高い視線で、上目使いになって、イッセーを睨んでくる。
「やはり……、邪悪です。邪です」
「なにが邪悪なものか。これは純粋な気持ちだ」
「ぱんつを見たがるなんて、おかしいです」
「いやおかしくはない。パンツが嫌いな男子はいないぞ」
イッセーは断言した。
この件については、クラスの男子たちの証言も取って検証している。
パンツが見たくなることを、やれおかしいだの、やれ変態だのと、咲子が言うもので、その場で、クラスの男子たちからデータを得て論破した。
結果。
クラスの男子、全一五人中、女子のパンツを見たかった者――。一五人。
つまり全員だ。
結論。
パンツが嫌いな男子などいない。
「それは……! そうかもしれませんけど……!」
いおりは言葉に詰まった。あまり男女の機微に詳しいほうではなかった。だがそのくらいは知っている。
「けど――! だけど普通はそんなおおっぴらにしたりはしません! そういうものです!」
「そこについてはうちのクラスの男子たちも同じ事を言っていた。口に出せるおまえは勇者なのだと。そこに痺れる憧れる、などとも言っていたが」
まったくもって意味不明だ。
勇者の定義が勇気あるものなのだとして――。なぜ、パンツを見たいと口にすることに勇気が必要になるのか。
庶民の考えることは、まったくもって、よくわからない。
「それが普通です! 思っても口に出さないものです!」
「余がパンツを見たいと思ったのなら、それは既に決定事項だ。パンツを見ることは確定された未来に過ぎない」
「なにを真面目な顔で力説しているんですか」
「余は真面目だからだ」
「いえ、ですからそれは邪気の影響です! 本当のイッセーさんに戻ってください!」
本当の自分もなにも――。これが自分であるのだが?
「埒が開かんな。とりあえずパンツを穿いているのかどうか、それを教えてくれ」
「邪悪です!」
「襦袢は下着ではあっても、パンツにはあらず。余はパンツが見たいのだ」
「ですから邪悪です!」
まったく埒が開かないな。
だが、イッセーはこんなやりとりを楽しく感じていた。
つぎは2~3日中には、なんとか~。




