#05-01「巫女 出雲いおり」
「ほーら、はやくする。さっさとのぼる」
空まで続くように思える石段を、咲子に手を引かれてのぼってゆく。
べつに手を引かれなくてものぼれるのだが、繋がれた手を離すことが惜しく感じられ、イッセーは手を引かれるまま、神社の階段をのぼっていた。
階段をのぼりきったところに、鳥居がある。イッセーはそこで立ち止まった。
「ここがお前がお百度参りをしていた場所か」
「べ、べつに百回なんて行ってないしっ! じ、十回くらいだし……っ!」
トラックに撥ねられたイッセーが、ICUに入院していたとき、咲子は必死に回復を祈願してくれていたらしい。
その話を聞いて、咲子と学校帰りにやってきたのだ。
〝神〟の実在は、なにしろ自分で見てきて実地に確認してきたわけだから、他の神に感謝を捧げることは、やぶさかではない。
「じゃ、お参りしよっ」
「待て。咲子」
歩き出そうとした咲子の首根っこを掴む。
ぐえ、と、美少女らしからぬ声があがる。
「なにすんの!」
「まず礼だ」
鳥居をくぐるまえに一礼する。咲子も神妙な顔になって、イッセーを真似る。
次に手水舎に寄り、ひしゃくで水を汲んで、左手右手と洗い、最後に口をゆすぐ。
「うえっ? 飲むの?」
「飲まん。口をすすぐだけだ」
そして本殿に向かう。
参道のど真ん中を歩こうとする咲子の首根っこを、再び掴む。
「ぐえ。――またやるし!」
「参道の中央は神の通る場所だ。端を通るのだ」
「そっか。……詳しいね。イッセー」
「本を読んでいるからな」
神社に来たことはないが、知識としては知っている。
神に対して、特別な敬意を持っているわけではないが、咲子が祈った相手なので、礼を尽くすのは当然だ。
「つぎは参拝だ」
「ん」
賽銭箱の前に立つ。
咲子が十円玉を入れる。イッセーも懐から取り出した物体を入れようとした。
「入らんぞ?」
ぐいぐいと押しこもうとするが、賽銭箱の木の枠が狭くて、まったく入らない。
イッセーの手が掴んでいる〝物体〟は、レンガぐらいのサイズがある。
「ちょっ――! それ! 何千万――!?」
咲子が目を剥いて驚いている。
「たった一千万だ。――少なかったか?」
たしかに命の謝礼としては安すぎたかもしれない。
菜々子に連絡して、至急、現金を十億ぐらい持ってこさせようとすると――。
「馬鹿! 馬鹿なの!? 五円とか十円とかでいいんだってば」
「そんな低額通貨は持っていない」
「はい! あげるから! これ使って!」
十円玉を一枚渡される。
イッセーはそれを入れた。
札束のほうも分割して、百万円ずつくらいにすれば入ることに気がついて、あとから押しこんでおく。
「この鈴って、なんで鳴らすの?」
「神に知らせるためのものだ」
「そっか。……詳しいね、イッセー」
二礼二拍手。
そして手を合わせて、お祈りをする。
――咲子が世話になったな。
イッセーはそう祈った。
◇
あら?
境内の掃き掃除をしていた巫女――出雲いおりは、参拝客に目を留めた。
高校生ぐらいのカップルが来て、騒ぎ声をあげながら参拝していた。
さっきまでは、それを微笑ましく眺めていたのだが……。
その片方の男の子のほうに、なにやら、〝邪気〟を感じた。
巫女としての修行を積んだ彼女の目には、少年の体から、黒々とした瘴気のようなものが立ち上っているように見えていた。
コミカライズが決定しました!
5/13(月)「となりのヤングジャンプ」にて連載開始! ニコ静でも5/19(日)から連載開始です!
また小説も書籍化も進行中です!
諸々あって、書籍化とコミカライズの順番が逆になりました。




