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七十六話『汽車の たびじ』


――― …


汽笛を鳴らし、汽車は走りだす。

白い蒸気は森に溶けるようにあがり、車窓から流れては消えていく。


ゆっくりと。悠然と。次第に魔力列車は速度をあげて、駆ける。

鬱蒼とした神樹の森の中を駆けて、列車は北へ。


目指す場所は、魔科学研究所。

そこがどんな場所かは分からないが… ゲームをクリアするためには、そこに行くしかない。


俺は車窓の外の景色を眺めながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。


「… とにかく、行くしかない、か」


魔力列車が出発して一時間。

まだ汽車は森の中を抜けない。緑の木々の中を隠れるように走り抜けていく。



敬一郎は車内の探検へ。カエデも一人では怖いらしく、敬一郎についていった。

俺は旅の疲れもあり少しでも身体を休めておきたくて、合い向かいの座席に一人座ったままだ。


そこへ、先頭車両から戻ってきた悠希とクリスさんが戻ってくる。

なにやら大きな包みを悠希は抱えていた。


「あれ?デブセンパイとカエデちゃんは?」


「探検だとさ。後ろの貨物列車の方も見に行ったみたいだよ」


「はえー、元気ですねー2人とも」


「そういう悠希とクリスさんは何しにいってたんだよ?」


俺の質問に、クリスさんはニヤリと笑う。

抱えていた包みを座席の横についているテーブルに置いて、俺の正面の席に座った。


「お弁当です!車掌さんから貰ってきました!」


「へー、駅弁。オツだなぁ」


「その名も魔法弁当! 魔力回復に効果のある薬草の炒め物や滋養強壮に良い魔法生物の肉焼きなど、魔力のいいものが盛りだくさん!この魔力列車の名物です!」


… トカゲとか入ってたらどうしよう。


品のいい木箱の弁当箱を開けると、中身は普通の青菜の炒め物やよく焼けた肉だったのでとりあえずは安心した。



俺と悠希は口にそれらを運びながら、クリスさんに質問をする。


「魔力列車、っていうからには、魔力で動いているんですよね?」


「ええ。魔力を含んだ鉱石を動力に動いています。巨釜に鉱石を入れて燃やす事で魔力が膨らみ、それらを動力として車輪に伝える。煙突から出ているのはその燃やした煙ってワケです」


なるほど。蒸気機関車とあまり変わらないワケなんだろうな。


「そういえば、なんだか機関車より静かですね。もっと五月蠅いくらいかと思ってましたけど…」


そう言う悠希の声もしっかり聞こえるほど、この魔力列車は静かに走っている。

多少煙突からの煙があがる音や車輪の回る音は聞こえるものの、想像していたよりはずっと静かだ。


「魔力列車は、あくまで秘密輸送列車…。この乗り物が魔王の目にバレてはいけませんからね。音もさることながら、敵に見つからない仕掛けがたくさんあります」

「巨釜から発生した魔力は、同時に各車両の魔法陣に連結。絶えず存在を消す魔法を展開する事によって外界からは全く認知されない存在となっています」

「線路に関しても汽車から出る魔力により常に同じ魔法がかかっています。まさにマボロシの汽車、というわけです」


魔科学研究所とイオットを結ぶ秘密の列車か。

なんにしても、ルーティアさんに。そしてこの乗り物に感謝しなければ。これがなければ物語はここまで一気に展開しなかっただろう。


… いや、ひょっとしたら。


偶然ではなく、このゲームが、俺達を知らず知らずのうちに導いているのか。


あるべき路線に、いつの間にか俺達は乗せられているだけに過ぎないのかもしれないな。



「… あ!」


悠希が驚いたように立ち上がり、窓の外を指さした。


「センパイ!! 森を抜けましたよ!」


「あ、ホントだ…!」


車窓は森を抜けて、草原へ。

見渡す限りの大草原には、ポツンポツンとスライミーが飛び跳ねている。


晴天の空に巨大な木々が伸び、ゴツゴツとした岩の上では見知らぬ獣たちが昼寝をしていた。



ムークラウドの周辺を、抜けたのだ。


草原には見知らぬモンスターが蔓延っている。

こちらの列車へは全く勘付いていないようだが… ひょっとしたら戦う事があるかもしれないな。


「… ねえ、クリスさん。もしこの列車の前にあの魔物達がきたら、どうするんスか?」


「あははは…。聞かない方がいいですよ」


… なんとなく察してしまった。

俺は深くは考えず、窓の外を眺めながら弁当を食べた。



ビー!!


ビービー!!


突然、サイレンのような音が客車内に響いた。


「!?」


「な… なんの音っスか!?コレ…」


「さ…さあ…。私も、初めて聞く音です…!」



続いて、車内放送が流れる。


先ほどの車掌のおじいさんの、慌てた声だ。


「みなさん… 大変です!後部の貨物車両に、侵入者ですじゃ!!」



…!!


しまった、貨物車両には敬一郎とカエデが…!


「し… 侵入者?!絶対に見つからないはずの魔力列車に、どうして…!?」


「とにかく行きましょう、クリスさん! 2人が危ない!!」


俺はクリスさんの手を取り、座席から立ち上がる。



前に進む魔力列車を、後ろへ、後ろへ。警戒しながら、俺達は急いだ。


一体、侵入者とは…!?



――― …


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