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七十一話『魔王に なるには』


――― …


「…ッ! イシエル…!」


黒鳥は、紅い目を老木の枝からこちらに向けて俺達を見下ろしている。


「あの鳥、この前も森にいた…!ま、マコトさん、大丈夫なんですか…?」


不安そうに言いながらカタナに手をかけるカエデに対して、俺は首を横に振る。


「こっちに襲い掛かってくるようなヤツじゃないんだ。ただ… 少し、アイツの話に集中してみる」


「は…はい。お邪魔して、スイマセンでした…」


カエデやルーティアさんには、単なる不気味な鳥くらいにしか映らないのだろうな。

俺達プレイヤーにしか語り掛けない、黒鳥。



イシエルは俺達の様子を少し伺ったところで、再び脳内に語り掛けてきた。


『今回の出来事は、プレイヤーが引き起こした事で、ゲーム内で生じるクエストとは違う… キミたちはそう考えているみたいだから、説明しにきたよ』


「… でも実際、さっきのウインドウにはクエストクリア、って…。生徒会長サンが引き起こした事態が、クエストになっちゃった、ってコトなんスか…?」


イシエルに対しても、悠希はセンパイ口調だ。


そしてイシエルは、その疑問に小さな頭を頷かせる。


『キミたちは、少し誤解をしているみたいだから説明しておくね』

『ゲームというのは決められたシステム、決められたシナリオの中での出来事を体験していくものに過ぎない』

『しかしこの夢のゲーム、『ムゲンセカイ』は、キミたちの夢で構成されているゲーム』

『つまり… 全てのクエストは、キミたちプレイヤーの動きで発生しているという事さ』


「…! そ、それじゃあ…」


俺の驚きに、イシエルは心を読んだような言葉を続ける。


『そうだよ、マコト』

『ゴブリンの襲撃も、キラーコングとの戦いも。すべてはプレイヤーであるキミたちがいるから、発生する』

『このセカイで引き起こされる『出来事』。そしてそれに関わる『プレイヤー』。この2つが関わり合った時、初めて『クエスト』は発生する』

『その出来事がムゲンセカイの中の人物や魔物でのみ構成されるか、プレイヤーが関わっているかは関係ないのさ。出来事は、出来事なワケだからね』


「…!!」


俺達プレイヤーと… ムゲンセカイの出来事が関わって、初めて『クエスト』になる。


以前、キラーコングとの戦いのクエストで、イシエルは『この村はキミが介入しなければ滅びる運命だった』… そう言っていた。

つまりクエストとは… 単なる運命の流れ、出来事に過ぎないのだ。

それが、ゲームで生じる事でも、プレイヤーが引き起こした事でも。『ムゲンセカイ』がクエストと捉えれば、それはクエストとしてプレイヤーに与えられる。


… … …。


待て。


俺はイシエルに… 恐ろしい事を聞いてみる。


「… このゲームの終わらせ方は… 魔王を倒す事、だったな」


『そうだよ』


「じゃあ… 例えば柊のように、自分自身が魔王になる、なんて事…。それも、クエストとして認識されてしまう… という事になるのか?」



イシエルは、無慈悲に答えた。


『 そうだね 』


俺の背筋に寒気が走る。


敬一郎が、思っている事は同じのようで… 俺の次の疑問を代弁してくれた。


「待てよ…!! それじゃあ、このゲーム… 魔王を倒すゲームじゃなくなっちまうじゃねェか!?プレイヤーが自分自身でクエストを生じさせちまうなら…なんでもし放題になっちまう!!」


『そう。ムゲンセカイは… プレイヤーが全てを『創って』いるんだよ』


…創る…!?


『魔王も、魔物も、街も、人も。すべてはゲーム内に配置されただけのものに過ぎない』

『ゲーム内で過行く運命の中に、プレイヤーがどう介入するか。それこそがムゲンセカイの醍醐味となる』

『魔王を倒せば、このセカイは終わる。けれどね…』


『プレイヤー自身が、魔王となれば… このセカイは、永遠にそのプレイヤーのものにだって、なるんだよ』



…!!!


それは、今までは考えられなかった事だった。


俺は… すべてのプレイヤーは、魔王を倒してこのゲームを終わらせるという一つの目的のために存在していると思っていた。


しかし、柊は違っていた。

自分こそが魔王を打ち倒して… そして、新しい魔王として、このセカイに君臨する。


このゲームを… 終わらせない。


そんな選択肢が、存在していた。


つまり… 魔王を倒したプレイヤーが、その願いを成就させられるのだ。


学校の生徒が、ムゲンセカイの住人が住まうこのセカイから、人々を解放させるか。


あるいは… 沢山の人達が構成するこのゲームの『魔王』として、このセカイを支配させるか。


それは… プレイヤーの、自由なのだ。ムゲンセカイがクエストとして捉えれば、それはプレイヤーを強くするクエストとして発生してしまう。


このセカイを生かす事も、そして殺す事も。すべては… そのプレイヤーの意志が、決定してしまうのだ。



『それじゃあね、マコト、ケーイチロー、ユウキ』

『忘れないで。ムゲンセカイは、キミたちが創るセカイなんだ』

『光のセカイも 闇のセカイも』


イシエルの幻影はそう言い残して、フッと消えた。


――― …


「… … …」


俺達3人は、その事実に呆然としている。

ムゲンセカイは…単に用意されているだけのセカイではなかった。

俺達プレイヤーが、どう動くか。それでこのセカイが最終的にどうなるかが、決まってしまう。この夢の運命は、俺達が握っているのだ。


「…センパイ…」


「… 敬一郎、悠希」


「… なんだよ、改まって真剣な顔しやがって」


「魔王を、いち早く倒そう。…柊のようなプレイヤーが、まだこのセカイの中にいるかもしれないんだ。…急がなくちゃ」


俺達3人のすべき事は変わらない。

どのみち、このゲームから早く学校の人達を救い出さなくちゃいけない。そのためにこのゲームのプレイを続けているんだ。


今は…その緊急性が増しただけ。逆にいえば、それくらいしか変わった事はないのだ。


「あたりめーだろ。とにかく次の目的地にいかなくちゃな」


「そうっス!とにかく魔王の居場所を早くつかむために… 旅を続けるだけっス!がんばりましょう!!」


「…ありがとう、2人とも」


そして、このゲームを終わらせる。…俺達なら、それが出来る。それをずっと、信じているんだ。


「…で」


敬一郎がコホン、と咳払いをして言う。



「魔王を倒すために…次に何処にいけばいいんだ?」



「… … …」


そうだった。

俺達に必要なのは、魔王の情報。


それを掴むために多くの人が集まっているクラガスの港町を目指していたはず… なのだが。


「えーと、魔力船は修理中で、運転手のベルクさんもムークラウドにいる…んスよね」


「クラガスの港町へは東の神樹の森を抜けていかなくちゃで… 最低でも何週間かかかるんだっけな。…歩いて」


「… … …」


俺は頭を抱える。


どうしよう。あれだけ盛大に見送ってもらったのに… またムークラウドに戻らなくちゃいけないのか…?

というか、この往復だけでどれだけの時間を費やしているんだ。


…あ。俺はふと思いついてカエデの方を見る。


「…そうだ。カエデ!」


「は、はい?なんですか?」


「あの魔法の『扉』!あの洞窟を使えば、とりあえず獣人の集落まではすぐに行けるんだよな!?それなら港町まで行くのに少しは時間が短縮できるはず…!」


「… … …」


カエデは申し訳なさそうに俯いて… 俺に言う。


「ご…ごめんなさい。前もそうだったと思うんですけれど… あの洞窟、『鍵』が必要なんです。それで… ボク、その鍵、持ってません…」


「… … …」


当たり前だ。

あの洞窟は獣人の集落の秘密の通り道で、カエデは剣の修行で俺達についてきているんだ。なんであの洞窟の鍵を持っていると思ったのか、俺は。


…絶望的だ…。


俺達は頭を抱える。



「アンタ達、魔王を倒す旅してるんだよね」


突然、ルーティアさんが俺達に聞いていた。


「… … … はい、そうです」


「それで、この先魔王の足取りを掴むのにどうするのか途方に暮れていると。そういうワケだ」


「仰る通りです…」


敬一郎が情けない顔をして答えた。


そんな俺達の顔を見て… ルーティアさんは、自慢げな笑顔を見せる。



「それなら… 教えてあげようか。魔王の居場所」


… … …。


は?


俺達3人は顔を上げて、ルーティアさんの方を見た。


「教える、って言ったの。魔王がいるところ」

「正確には――― 魔王の事を調べている『研究所』をね」


――― …


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