六十七話『ランクBの のうりょく!』
――― …
… … …。
此処は… 元の、書斎だ。
何分…何時間と、あの『覚醒の間』で過ごしたような気分だった。
心は落ち着き、状況はすぐに理解出来る。
俺を狙う、竹川と柊のルークデュラハン二体。
俺の後ろにいる、敬一郎と悠希。
書斎の上に拘束されて気を失っているカエデとベルクさん。
… そして、その状況を打開しようとする俺の、心。
「…グ…ッ!」
「か、覚醒したのか…名雲…!」
「… … …」
柊が歯を食いしばり、俺に問いかける。
「… 試してみればいいじゃないか」
俺の心に、絶望はない。恐怖もない。
「… センパイ…」
「真… お前…」
後ろで心配そうに声をかけてくる2人に俺は振り向き、少し微笑んだ。
「悠希、敬一郎。 …安心して」
「俺が絶対に… みんなを、護ってみせるから」
――― 俺の心に、明確に存在するもの。
それは…。
明確に相手を打ち倒そうとする、確固たる意思のみ。
そして、この街の瘴気を必ず晴らそうとする決意のみ。
「名雲…!! お前を、倒す…!!」
竹川先輩が再び弓を引き、スキル発動の準備をする。
あらぬ方向に弓を向けている事から、能力である『跳弾』を使おうとしている事は理解できた。
「喰らえ!! 剛力の一撃+跳弾 !!!」
天井に当たった高速の矢は、地面へ。壁へ。何度も何度も跳ね返りつつも、確実に俺の喉元を狙って突き進んでくる。
「センパイ!!!」
悠希の声と同時に、俺は唱え… 叫んだ。
「 ――― 大地の神の加護を、大地へ …!!」
「 大地の 神域 ッ!!! 」
俺は杖を勢いよく地面に叩き付ける。
瞬間。俺の周囲の地面に魔法陣が展開し、光が溢れる。地震のように地面が震え、床が音を上げ裂け始めた。
そして…。
「 …ッ!? なにィ…!?」
柊が呻く。
俺の周囲の地面… 書斎の床が、変形しているのだった。
まるでそれは、俺を守る壁のように、そこに聳え立つ。床から突き出た巨大な石壁は俺の周囲を囲み… 竹川の剛力の一撃の矢を、弾き飛ばす。
「…! 俺の、スキルが…!!」
「… … …」
俺が右手を上から下げると、俺を囲んでいた石壁も地面に沈んでいき、消える。
そして俺はゆっくり、柊と竹内の方向へと歩んでいく。
「… 真、お前…その能力!! 覚醒の宝石を砕いたおかげで… ランクが上がったのか!?」
敬一郎の言葉に俺は頷く。
この能力。使い方。その全ては、覚醒の間を出た時から頭に入り込んでいた。
そして… この能力を使用出来る、職業の名前も。
「センパイ…!! センパイの、今のジョブは…!?」
… 俺は悠希の言葉への答えを、柊と竹内にぶつけた。
「俺は… 【 ランク B 】 ッ!! 神託の使い手 だ!!」
「ふざけるなァァ!! やれェ!! ルークデュラハンッ!!」
二体のルークデュラハンの鉄球が俺を上空から捉える。
真っ直ぐに振り下ろされるその鉄球を見据えて、俺は 右手を下から上へ勢いよく掲げた。
「はァッ!!」
先ほどと同じように、地面から石の壁が出現する。
今度は地面から、俺の頭の上まで。虹のように広がる石壁はそのまま鉄球を受け止め… その鉄球を、砕いた。
「な…!!?」
「高速の連撃!!」
連続で竹川の矢の連撃が俺に向けて襲い掛かる。
真っ直ぐに。地面に跳弾して。 無数にこちらに向かう矢の大群。
「!! はッ!!」
俺は杖を再び地面に。
俺の頭の上を守っていた壁は地面に消え、代わりに俺の目の前に巨大な石の壁が出現する。
横に大きく広がった壁は、矢の連撃を全て弾き飛ばした。
「…ッ…!!」
「…竹川。柊。終わりだ」
「同じランクB。レベルは俺の方が上。 …加えて、お前らの手の内はすべて読めている。圧倒的に俺の方が優位になった」
「グゴオオオオオ!!!」
2人を守るように、2体のルークデュラハンが俺に襲い掛かってくる。
武器を壊されたルークデュラハンは拳で俺を打ち倒そうと振りかぶって突進をしてきた。
――― だが。
「 ――― 風の神よ。 俺達に力を !!」
「 風の神域 !!」
大地の神域を変え、今度は風の神を呼び寄せる。
一瞬で地面に展開する魔法陣は、今度はすさまじい突風を呼び起こした。
「…!? グゴッ!?」
――― その風と俺は、同化するように動く。
追い風は、俺自身の速さを、そして力を助け、増していく。
素早さを加算した俺はルークデュラハン2体の拳を目にもとまらぬ速さで避け…。
そして、銀の杖を一気に2体の甲冑に叩き込んだ。
「グゴゴゴゴ!!??」
「ゴゴォオーーーーーーッ!!!」
レベルで10以上劣るルークデュラハンの身体が、一瞬で燃え盛った。
アンデッドである2体の魔物の身体が聖なる炎に焼かれ、浄化され… やがて灰だけが、そこに残った。
「 敬一郎!悠希!! 風の神は2人の味方でもある!! 」
「悠希はベルクさんとカエデを救出!! 敬一郎は竹川の相手を頼む!!」
「!!」
「そうか、俺達にも、真の能力の効果が…!!」
ランクB、神託の使い手の、能力。
このセカイを構築する4つの神… 炎、水、風、地。その四神の恩恵を、『神域』という形で受け、仲間に、そして俺に効果を及ぼす事ができる。
大地の神の恩恵。地面をコントロールし、自在に変形をさせたり、強固な石の壁を一瞬で出現させ、強力な『盾』を構築する事ができる。
そして… 風の神の神域では…。
「…ッ!? は、速い…!?」
柊が驚愕した。
まるで光のように悠希は書斎の本棚を駆けのぼり、刀でカエデとベルクさんを高速している縄を切った。
地面に落ちる2人の身体を… 風の神の突風が、優しく抱くように地面に下ろした。
「す、スゴイ…! この風…私の味方をしてくれる…!! 身体が風になったみたいっス…!!」
悠希は書斎の床に倒れた2人の前に立って、刀を構えて2人を守ろうとした。自信たっぷりな笑みを浮かべて。
「 高速の連撃 !!」
「! ふんふんふんふんーーッ!!」
竹川の矢の連撃は、まるで残像でも見えるかのような敬一郎のフットワークで、掠りもしなかった。
右に、左に、矢を回避しながら前に突進する敬一郎。
「すげェ…!! 全身が羽みたいに軽いぜ…!! これなら全く当たらねェ!!」
敬一郎は前に、竹川の方向へ突進していき、拳を後ろに。技の準備を開始した。
「はァァァ…!!」
「ぐ…! や、やめ… やめろォォ!! 来るなァァ!!」
矢を我武者羅に連射する竹川。
だが敬一郎は、それらすべてを避けて… そして、竹川の正面にまで、たどり着いた。
「俺は… 俺は、罪を… !!」
「… … …」
「 虎王撃 !!!」
メルコンの拳でオーラを増大させた、敬一郎の必殺の一撃は―――。
竹川先輩の腹部を捉え、強烈な正拳突きとなって、叩き込まれる。
「ぐ、ガ… ッ!!」
「ガアアアアアーーーーーッ!!!」
一瞬、空中に浮いた竹川先輩の身体は、次の瞬間には車に吹き飛ばされたように、後ろへ。
本棚の本をなぎ倒しながら、吹き飛び… そしてその場に崩れ落ちた。
「… ちょっとは加減しておきましたよ、先輩」
「… 俺の、勝ちです」
敬一郎は地面に落ちた竹川先輩の弓を手に取って、そう告げた。
「名雲ォォォ!!」
怒り。憎しみ。そのすべてをぶつけるように、柊は俺に攻撃魔法を仕掛けてくる。
「ファイアボォォーール!! くたばれェェ!!」
魔法使いの技か。
柊の杖から発せられる火球が、次々に俺の方向へ迫ってくる。
神域を変更するまでもない。竹川の矢より遥かに遅いその魔法を俺は避けながら、魔法の準備をする。
「名雲ォォォ!! お前を、お前を殺して… 僕が王になるんだァァァ!!!」
「… … …」
上空に、光の矢が出現する。
火球を避けながら攻撃魔法の準備を終え… そして俺は、柊生徒会長に言う。
「… 終わりにします、生徒会長」
「アンタも俺も… 目的は同じだ。…魔王を倒す、その目的だけは…!」
「だけれど… 今、この戦いは… これで、終わりだ !!」
俺は上空に構えた杖を… 生徒会長に向け、振り下ろした。
「 光の聖矢ォォォ !!! 」
「 ――― !!!」
生徒会長に、光の矢が降り注ぎ。
巨大な、白い爆発を起こし、その身体を包み込んだ。
――― …