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六十三話『闇の中の さいかい』


――― …


「… いない…!?」


行く手を遮るスケルトン達を撃破しながら、俺達は町長の屋敷へ到達した。


幸いな事に、そこには魔物の群れはおらず静まり返ったものだった。だが… 同じく、カエデとベルクさんの姿も、ない。


「カエデちゃん達… 確かにココにいるって通信(チャット)があったんですよね…?」


辺りを不安そうに見回す悠希に、俺は頷いた。



町長の屋敷は鉄柵に囲まれ、広い中庭を抜けると大きな二階建ての屋敷がある。

広いとはいえ、人家の庭。見渡せない範囲ではないはずだが… それでも、そこには人の気配は全く無い。

ただ、薄気味悪く瘴気が渦巻いては空に立ち上っているだけだった。


「よくねぇ雰囲気だな。…まさか、2人ともどこかに攫われたとかじゃないだろうな…」


敬一郎の予想に寒気がする。

ベルクさんもカエデも、スケルトン程度の魔物ならあっという間に倒せるはずだ。しかしあの慌てた様子と、ここに姿がないという事は… …。



その時。


中庭の先。

町長の屋敷の大きな扉が、不気味に軋んで、開いた。


「…!?」


俺達はそこから何かが飛び出してくるのではないかと身構える。


しかし… そこからは何も出てこない。ただ扉が開いただけ。 …しかし、扉を開けた人物も、そこには存在しないのだった。


「… 中に入れ、って事なのかな」


「何にしても悪趣味なヤツだぜ。…完全に俺達をビビらせようとしてやがる」


薄暗い中庭の、更に暗い屋敷の中。 扉の奥には、微かにランタンの灯りが見えるだけで、あとは闇と瘴気が包んでいる。


「…い、行くしかないっス…。あの中にきっと、カエデちゃんも、ベルクさんも…」


怖いものは苦手らしい悠希も、その恐怖を押し殺して一歩前進した。


…今度は、俺が先頭に。悠希が次に扉の中に入り、殿(しんがり)を敬一郎が務める。



確信した。

これは単なる、魔物の襲撃なんかではない。


何者かが、この街を… 支配しようとしているのだ。


そしてその何者かが、この町長の屋敷の奥に潜んでいる。…そして、俺達を招いているのだ。



…恐怖よりも先に、俺には思う事がある。


――― 絶対に、そいつを、止めてみせる。


その決意を胸に、俺達は屋敷の中へ足を踏み入れた。


――― …


以前来た時に目を奪われた煌びやかなシャンデリアに、灯りは点いていない。

代わりに道端に置かれたランタンが、不気味に屋敷の中を照らしている。


屋敷の中にも、魔物はいない。

エントランスから廊下の隅々にかけて闇と瘴気が支配し、静寂に包まれた屋敷は不気味さを更に増していた。


「… センパイ、このランタン…」


「ああ、分かってる」


悠希の気付きは、俺も既に勘付いていた。


このランタン、ただ無造作に灯っているわけではない。


入り口からエントランス、そして吹き抜けの階段を上り… 二階にまで、ランタンが置かれている。屋敷の中には、そこしか灯りは無い。

そして二階に上がると… そのランタンは真っ直ぐに、一番奥の部屋にまで配列されていた。


一番奥の部屋。

それは以前この屋敷を訪れた時に案内された、町長の書斎だった。


「… お招きされてるようだな。真、どうするよ?」


「… 正面から行くしかないだろうな。敵が何者であろうと、とにかく会ってみない事には何も分からないし… 俺達も、そうするしか道はない」


俺と敬一郎は顔を見合わせて話した。


足音で軋む廊下を慎重に、一歩ずつ… 最奥の書斎まで進む。


行くしかない。この街の異変も、カエデとベルクさんの所在も、町長の行方も、この奥の部屋にしか、答えはないはずなんだ。


俺と悠希と敬一郎は、書斎前のドアまでたどり着くと…。



勢いよく、そのドアを開けた。



――― …


書斎は、暗闇に包まれていた。視界には何も映らない。


だが… その気配だけは、感じ取る事ができた。


「――― クククク…」


薄気味悪く、静かな笑い声だけが、書斎の中に響いた。


俺は暗闇の中に叫ぶ。


「… 出て来いよ! 人を招いておいて、姿も現さないつもりか!?」


暗闇が返事をする。


「――― すまないな。少し君達の様子を観察したくてね。まあ、演出だと思ってくれ」

「これから始まる決闘への、ささやかな前座だとね ――― 」


「決闘…!?」


「決めるんだよ」

「僕か、君か… このセカイを統べるのにふさわしいのは、どちらかを… ね」


セカイを、統べる…?


ワケが分からない。

俺を誰かと勘違いしているんじゃないのか?そんな疑問を抱いた時。


暗闇が、動く。


薄暗さに慣れてきた目で、微かに目の前に人物がいることが目視できた。


そして、その人物が、一歩近づき… 天井を指さすのが見えた。


指さした、天井。正確に言えば、書斎の上。

広く伸びた天井には、柱のように本棚が伸びている。


その本棚に、ランタンの灯りが光った。


「…!!」


「ベルクさん… カエデちゃん!!…町長まで…!!」


悠希が叫んだ。


本棚の最上部には、ロープが巻かれている。

そこにぐったりと頭を垂れて瞳を閉じて、磔にされている人物が、3人。


ゴトー町長。執事のベルクさん。そして… カエデだった。


闇の中の声が言う。


「殺してはいないよ。僕の魔法で眠ってもらっただけさ」

「流石に大人数でこられては、こちらが不利なのでね。少しの間、ぐっすり夢の中で眠ってもらう」

「――― とはいえ、此処は夢の中、だけどね。クククク…」


「…!?」


夢の中…!?

それを知っているという事は、こいつは…!!



それを俺が勘付いた瞬間、部屋に光が灯った。

部屋の四方に配置されたランタンが、薄暗くも明るく、広大な書斎を照らす。


そして… 闇の中の人物も、俺達の前に、姿を現すのだった。


「… ッ…!!??」


「そんな… アンタは…!!」


「嘘…!? だって、貴方は…!!」


俺達は驚愕の声を、その人物にあげた。


『その人は』薄気味悪く微笑み… 眼鏡をクイ、と上に上げて、俺達に一歩ずつ、近づいてくる。



「久しぶりだね」

「少し驚いて欲しくてさ。演出に拘らせてもらったんだ」

「… 始めよう」

「ムークラウドの… ひいては、この『ムゲンセカイ』の運命を決める、決戦を ――― !!」


その人物は、杖を前に構える。


俺は、銀の杖を前に構えて… 精一杯の声を、その人物にかけた。



「… なんでだよ… !!」

「柊 生徒会長 …ッ!!!」



(ひいらぎ) 宗司(そうじ)先輩…。生徒会長は、微笑むのを止めなかった。


その笑いは、俺達に向けられた… 明らかな『敵意』だったのだ。


――― …


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