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五十八話『女子の かいわ』


――― …


「へー。カエデちゃんって、まだ14歳なんだ」


「はいっ。えと…ユウキさんは…?」


「16だよ。私の方がちょっとだけお姉さんだね。…でもそこまで身長が変わらないのが悲しいところだなぁ」


「ま、まだこれからじゃないですか。ボクも、ユウキさんも…!」


悠希と、カエデ。

2人の女子は荷馬車の後ろに腰掛けて、流れていく草原の景色を見ながら呑気に会話をしていた。

必然的に女子同士は引かれあい、会話をして、仲良くなっていく。これから始まるであろう異変へ立ち向かう恐怖を、少しでも忘れるためでもあるのだろうか。


カエデは同年代の女の子を見るのも、ニンゲンの女性を見るのも初めての事で、悠希の事をまじまじと観察している。


「な、なに…?」


「…ご、ごめんなさい。ボクとニンゲンの女の子さんって、どう違うのか知りたくて…!」


「あははは…そんなに違わないんじゃないかなあ。カエデちゃんの方がケモミミとか尻尾とか可愛くて羨ましいよ私」


「か、カワイイ…? …そんなこと、初めて言われました…」


今までネックだった猫の耳と尻尾を褒められ、カエデは頬を赤くして俯いた。


「あーチクショウ、喰ってしまいたいっス」


「え?なにか言いました?ユウキさん」


「なんでもないよ。…えーと、カエデちゃんは、マコトセンパイに助けられた、って言ってたっけ?」


悠希は溢れる衝動を話題を切り替えることで抑えるのだった。


「はいっ。神樹の村の中で魔物に襲われたボクを助けてくれて… それに、ボクの生まれ故郷の近くにいた魔物も、一緒に倒してくれたんです」

「なにより… ボクに戦う勇気を教えてくれました。マコトさんがいなかったら、ボク… ずっと戦えなかったと思います」

「強くなるのが、夢だったのに…。カタナも満足に握れない日々が続いていて。でも、マコトさんがいてくれたから。ボクも強くなろうと決められたんです」


「… あはは、センパイらしいなぁ」


「せんぱいらしい?」


悠希は軽く笑って、藁に身を預けて仰向けになり、青空を遠く見つめながら言った。


「基本的にはダメニンゲン。無気力で、勉強も出来ないし、運動だって私の方ができる。…でも…」

「誰よりも人のコトが気遣えて。自分のことみたいに心配してくれて。…自分の命と同じくらい、他の人の命のコトも考えてくれてる」

「それを守るために自分ができることなら何でもする。…ホントは、もっと強くて、かっこよくて、芯が強い人なのに… ホントもったいないよなあ、マコトセンパイって」


「… … … あの」


「ん?なあに?」


「ユウキさんは、マコトさんのコトをお慕い申しているのですか?」


「ブボァッ!!」


悠希は口につけた水筒の水を噴出して、藁から急いで身を起こして全力で否定する。


「げ、げほげほげほっ!! な、なんでそういう事になるのかなぁ、あはははははははは!! もーカエデちゃんったらー!!!」


「ゆ、ユウキさん… 顔がコワいです…」


カエデは笑顔と焦りが入り混じった汗と水だらけの顔でどこか遠くを見つめながら否定するのだった。



「… でもユウキさんって、マコトさんのコト、すごく知っている感じしますよね。どのくらいお付き合いされているんですか?」


「お、お付き合いしてないから!! そういう仲じゃないから!!」


「いえ、あの… ご友人として、どのくらいという… 意味なのですが…」


「… … … あばばばばばばばば」


ユウキは笑い声とも何とも分からない声を発しながら顔をひたすら赤くした。


少し間をおいて落ち着くと、咳払いをして話す。


センパイとして(・・・・・・・)は…一年くらいかな?」


「え、そうなんですか?なんだか… もっとずっと前から知っていらっしゃるような口ぶりでしたから…意外です」


「… … … そうだね。まあ、色々あってさ。 …とにかく、センパイと後輩になったのは、一年くらいかな」

「…私は、もっとずっと前から、知ってたんだけどね。でもマコトセンパイは、忘れてるみたいだけど」


「まあ、忘れてらっしゃるんですか。マコトさん、案外ヒドイんですねっ」


カエデがプリプリ怒っていると、悠希は慌てて否定した。


「すごく小さい時の話だから、仕方ないんだよ。…それに」

「なるべく… 思い出して欲しくないんだ。その時の事。 …私は、ね」


「… そう、なのですか…?」


「… … …」

「さっ、私の話はおしまい!今度はカエデちゃんのコト、色々聞かせてよ!」

「クヌギさんって言ったっけ?なんか獣人ってもっとケモケモしてるんでしょ!?知りたいなー、教えてよー」


「け、けもけもとは、いったい…」


困惑するカエデに、悠希は半ば強引に詰め寄って、話を膨らませようとするのだった。


――― …


「マコトさん」


馬の手綱を握って前を向いたまま、ベルクさんが俺の方へ語り掛けてきた。


日が落ちて、もう草原は暗くなってきている。

ムークラウドに到着するのは深夜になるそうだ。その方が街に侵入しやすいだろうという計画のための時間だった。


あと5時間もすれば、街の東門へ到着するだろう。


悠希とカエデは藁のベッドに横になり…眠れているかどうかは定かではないが、目を閉じて仮眠をとっていた。 敬一郎は保存食の干し肉を食べながら、辺りを警戒していた。


「なんですか?ベルクさん」


「ムークラウドには予定通り到着すると思われますが… 仮に東門から街へ侵入したとして、どういう行動をとりましょう?」

「私は一応執事ですので、出来れば一番に町長の安全を確認しに行きたいのですが…。マコトさん達はいかがなれますか?」


それもそうか。ベルクさんは出張で俺達に着いてきてくれていたわけだし、本来であればゴトー校長… ではなく、町長の元へ行くのが当然の話だ」

俺達もそれに同行したいところだが…。


「… すいません、俺はまず、街の状況を探ってみたいと思います」

「自分の師匠のキオ司祭の様子や、知り合いのシャーナさんの安否も心配なので… まずそちらの方に向かいたいと思ってます」

「ケーイチローとユウキとカエデは…出来れば自分の判断に任せたいと思っていますけど。でも町長の屋敷の方に同行してもいいかと思います」


俺の提案にベルクさんは首を横に振った。


「ご心配しないでください。マコトさんはどうか、お仲間様と行動してください。街では何が待ち構えているか分かりませんからな」

「執事というのは、町長を守る立場としてもあるわけですからな。私も、それなりの覚悟はしております」

「どうかお気になさらず。マコトさんは、すべき事を全うしてください」


「…ありがとうございます、ベルクさん」


そう言うベルクさんの背中に、俺は小さく唱えた。


「… 観察(ウィデーレ)…」

「… … … !!」


「どうかなさいましたか?マコトさん」


「…いえ、なんでも…」

「…ベルクさん、何者なんですか…?」


「はっはっは、どうなさったんですか」

「町長の執事。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」


「… そう、ですか…」


俺は表示されたウインドウを、苦笑しながら… 消した。




【名前:ベルク・ラミュード ♂】

レベル:18

職業 :執事(ランクC)

HP :99

MP :66

攻撃力:80

防御力:58

素早さ:74

魔力 :78



――― …


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