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五十一話『洞窟の でぐちへ』


――― …


ゴゴゴゴゴ…。


『扉』が轟音を立てて、その門を閉じ始めた。


俺とカエデは、洞窟の中に。

クヌギさんは俺達の姿を、洞窟の外の森から見届けていた。


「それじゃあな、マコトくん。…カエデ。 旅の無事を、神樹の森の中から祈っているよ」


「…ありがとうございました、クヌギさん!どうかお元気で…!!」


「… … …」


カエデは涙をグッと堪えて、俯いている。両手を握りしめ… 剣士として成長した自分を、心配させないように、泣かないように。


しかし、とうとう耐えきる事は出来ず。


瞳を潤ませながら、一歩前に出て、クヌギさんに頭を下げた。



「ありがとうございました、師匠ッ…!!」

「ボク、強くなって帰ってきます!守護剣士として腕を磨いて… この森に、帰ってきます!」

「だから、待っていてください…!! ボク、ボク… ッ …!!」



カエデの力強い言葉に、クヌギさんは扉が閉じる一瞬。大きな猫目の瞳を拭った。


――― ガタン。


そして扉は、完全に閉じられた。




外界から隔離された洞窟の中は暗闇が包むかと思っていたが、扉が完全に閉じられると同時に、光が薄く洞窟全体を照らす。


まるで、蛍の光。


青色に光る小さな光の粒達が洞窟の壁に張り付き、辺りを照らしていた。

まるでそれは夜の星空。 現実の世界ではまずお目にかかれない光景だった。



「… … …」


カエデは、閉ざされた扉の方を向いてしばらく俯いて、悲しみに耐えていた。


…無理もない。母親も同然のクヌギさんと、初めてカエデは別れて、旅をするのだ。

カエデの年齢は、まだ14歳だと聞いた。現実世界なら、まだ中学生。両親がいなくて、当時まだ幼かったクヌギさんに育てられて… そして、今、別れた。

どれだけの悲しみと決意を背負った旅立ちだったのか、想像も出来ない。


…カエデを連れ出すのは、やはり断った方がよかったのだろうか。


そんな事を考えているうちに、カエデはクルッと俺の方を振り向いた。


先ほどまでの痛いほどの悲しみを背負った感情はない。

それを掻き消すように、俺に…そして自分に向けて、精一杯の笑顔を作った。



「… お待たせしました、マコトさん! 先に、進みましょう」



――― …



洞窟の中を、俺達は進む。


青い光の粒が照らしているとはいえ、薄暗いことに変わりはなかった。

曲がり、うねり、上下に伸びる一本道を、カエデが先導して先へと歩んでいく。


「この光は、この洞窟に満ちている魔力の結晶なんだそうです。自然発生して溢れた魔力は地面から浮遊し… こんな風に洞窟に張り付いて、辺りを照らしているんだとか」

「よく見ると壁には幾つも魔法の紋章が描かれているんです。この魔力を利用して、元にある距離を縮小する魔法をこの洞窟に張り巡らせているんだとか…」


「…詳しいね、カエデ。此処を通った事があるの?」


俺の質問に、カエデは照れ笑いをした。


「いえ、初めてです。朝に師匠から聞いた話を伝えているだけでして…」


「ははは、なんだそりゃ」


俺達は笑いながら、洞窟の中を先へ先へと進んだ。



「… マコトさんのお仲間さんに会うの、とっても楽しみです。ニンゲンの方なんですよね?どんな方なんですか?」


「えーと… 2人いてさ。1人は男で…信じられないくらいの脂肪を身にまとった格闘家なんだ。加えて猫耳フェチでもあるから気をつけた方がいいよ、カエデ」


「…ねこみみふぇち。 あの、それは一体どういう意味なんですか?ボクは何を気をつければ…」


「なんでもない、忘れてくれ」


ゲームのキャラクターに伝えるべき言葉ではなかったな。俺は自分の言葉を後悔した。


「ケーイチローっていうんだ。変わった名前だろ」


「…聞いたコトのない響きのお名前です。…なんだか、どんな方だかワクワクしちゃいます」


「あんまり期待しないほうがいいよ。ただのデブだから。 …まあ、いいデブだけどね」


「… … … あの、よいデブとはどういう… 世の中にはわるいデブの方もいらっしゃるのでしょうか…?」


「ごめん、カエデ。なんか俺… キミのこれからの成長に非常に悪い影響を与えそうな気がする…」


少しだけ年下なだけなのに… 森で育った純朴な少女との会話に、俺の神経はすり減っていく。


俺は話題を変えて、もう1人の仲間の話をする事にした。


「もう1人はユウキっていってさ。カエデと同じ、女の子なんだ」


「わあ、ニンゲンの女性の方なんですね!ボク、初めて見ます!楽しみです!」


「… … … アレが初めて見る女性、か」


せめてもうちょっと女性らしい外見と性格のニンゲンの方と出会わせたかったな…。まあいいか。


「歳も俺より1つ下だから、カエデとも仲良くできると思うよ。なんか感じも似てる気がするし」


「楽しみですっ! … あ、でも…」


喜んだ風な様子を見せて… カエデは何かに気付いたように、シュンと落ち込んだ。


「ごめんなさい。…そのお仲間さんを、探さなくちゃいけないんですよね。まだ見つけてる手立ても分からないし… ボク、勝手に燥いじゃって…」


「い、いいんだよそんな、気を遣わなくて。… それに…」

「絶対、2人を見つけてみせる。 伝えたはずなんだ。ムークラウドの街で必ず再会するって」

「俺の親友は絶対にそこで待っていてくれている。…今は、そう信じる事が、何よりの手立てなんだ」


カエデを。そして、俺自身を勇気づけるように、俺は拳を握って笑顔を見せた。

カエデも、俺のそんな様子を見て安心したようで俺に笑顔を見せてくれる。


「はいっ!ボクも精一杯、お手伝いさせていただきますね!」



… 2人旅、か。


それがいつまで続くか分からないけれど… やるしかない。


俺の仲間を見つけるまで。…俺の仲間が、生きていると信じて。



「… あ、マコトさん。アレが出口みたいですね」


会話をしているうちに、洞窟の出口にたどり着いたらしい。

少し離れた場所から、外界の太陽の光が溢れている。岩で閉ざされている行き止まりだが、それは紛れもなくこの洞窟の出口のようだった。


「ホントだ。… あっという間だったな。本当に森の外に出ているのかな…」


「とにかく開けてみます。えと… 手をかざせば…」


出口に鍵は必要ないらしい。


カエデが岩に手をかざし、少し触れただけで… 岩は入り口と同じように、横に轟音を立ててスライドしはじめた。



太陽の光が、洞窟の中を侵食するように、入り込んでくる…!




そして、その瞬間。



俺の頭の中に、懐かしい声が響いたのだった。




『センパァアアアアアアア―――― イッ!!!』



「 !!?? 」



脳内に響いたその声は。



紛れもなく


長谷川悠希の 通信(チャット) だった。



――― …


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