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四十九話『勝利の うたげ』


――― …


「大型のキラーコングを討伐。…そこのニンゲンが、か」


再び長老のテントを訪れた俺を待っていたのは以前と全く変わらない訝しげな長老の表情だった。

深い毛並みで隠れた瞳の奥から、俺を見定めるような狐目の眼光が発せられている。


俺は、その言葉に慌てて付け加えた。


「いえ、俺だけじゃありません。カエデが、頑張ってくれたんです。集団のキラーコングを、ほとんどカエデが剣術で殲滅してくれて…」


俺の言葉に長老の眉毛がピクリと動く。


「… 敵を見ただけで震えあがっていたカエデがか?」


その長老の様子に、俺の後ろで腕組みをしていたクヌギさんも加勢をしてくれた。


「ええ。守護剣士として私が保証します。 マコトくんと、カエデ。村を襲おうとしていたキラーコングは、この2人で殲滅してくれました」


クヌギさんの力強い声に、カエデは少し照れくさそうに頭を掻く。

だが、長老の態度は変わらない。テントの真ん中に陣取るように堂々と胡坐をかいたまま、俺達への質問を続けた。


「キラーコングはこの一帯には出現しない筈じゃ。 それが今になってどうして出現したと思う」


「そ、それは… ええと…」


話しづらそうにしているカエデの肩をクヌギさんがポン、と叩いて後ろに下がらせた。

クヌギさんは長老と対峙して、口調の強い会話を始めた。


「昨日のカエデやマコトくんの匂いを嗅ぎつけたんだと思います。 恐らくは同族が殺された復讐のために遠征をしてきたのかと」


「それでは、キラーコングはニンゲンとカエデの2人が招いたと言っても過言ではないのではないか?」


「その原因もあるかと。 しかし今まで、キラーコングに喰われた獣人も数知れません。いずれはこうなる結果だったかもしれない、とも考えられます」

「今回出会った大型のキラーコングは、私の力だけでは到底討伐できる魔獣ではありませんでした。もしあの魔獣に村に攻め込まれていたら… マコトくんが居なければどうにもならなかったと思います」

「彼が力を貸してくれなければ。そして彼が、私の弟子を覚醒させてくれなければ。今回の戦いは無事では済まなかったはずです」

「いずれくる脅威を未然に防いでくれた、と考えていただきたい」


… イシエルの言葉の通りなら、この集落はいずれキラーコングに滅ぼされる運命だった、と。そしてその運命を俺が変えた、という事らしい。

ムゲンセカイの住人であるクヌギさんにはその事は分からない筈だが… 的を得た事をしっかりと長老に伝えてくれている。

本来はゲームを把握している俺がしっかり説明するべきかもしれないけれど、そもそも獣人たちにこれがゲームのセカイの話だなんて… 信じてもらえるワケないしな。

しっかり伝えてくれるクヌギさんが本当に頼もしくて、有難かった。


クヌギさんの態度に長老は黙り込んだ。


「… … …」


「長老。ニンゲンの中には、確かに獣人を良くない方向に導く存在もいると思います」

「しかし、マコトくんは違う。我々に個性があるように、ニンゲンの中にも特質がある。我々を、良い方向に導いてくれる存在が」

「マコトくんははぐれた仲間を探しているそうです。モミジを… ひいては獣人達すべてを守ってくれた彼に、今度は私達が力を貸す番です」

「『扉』の使用許可をお願いします」


昨日と同じお願いを、クヌギさんは長老に頭を下げて言った。


「… … …」


後ろに下がっていたカエデがクヌギさんの横について、同じように頭を下げた。


「… 忌み子のボクのお願いなんて、長老には不快なものかもしれません。…でも、お願いします!」

「ボクを助けてくれたニンゲンのマコトさんに、どうしてもお礼がしたいんです。そして今できるお礼は… マコトを、お仲間にいち早く合流させることです」

「お願いしますっ!!!」


精一杯大きな声で、カエデは叫んだ。


… 泣きそうになる俺も、2人の後ろで頭を下げた。



長老はしばし沈黙すると、俯いて肩を震わせた。


「く、くく… …」


「… 長老?」



「はっはっは…!! 成程、よく分かったわい」

「クヌギもカエデも、このニンゲンをよく見定められたようじゃの。それなら儂も安心して君をこの村から出せるわい」


長老は今まで張りつめていた態度を一変させて、大声で笑った。

上を向いたその顔は、満面の笑顔の狐顔があった。


カエデは一歩長老に近づいて、嬉しそうに聞いた。


「そ、それじゃあ… 許可を頂けるんですか!? 『扉』を使うことも…!」


「勿論じゃ。守護剣士とその弟子がここまでの信頼をおくニンゲンであれば心配はなかろう。むしろ儂は、長老として礼を言わねばならぬな」

「マコト、と言ったか。この村を救ってくれて… そしてカエデを救ってくれて、感謝する。本当に有難う」


「い、いいんですよ、お礼なんて…!むしろ俺を村においてくれていただけで本当に感謝しているんですから…!」


…長老は、カエデの事もしっかり仲間と思っていたんだな。意外な長老の言葉に少し驚いた。昨日はあんな事言っていたけれど、『カエデを救ってくれて』なんて事をしっかり思っていてくれたんだ。



「それでは、長老。…『扉』を使用させていただきます」


「うむ。これが鍵じゃ。周囲に警戒して使うんじゃぞ」


クヌギさんは長老の懐にあった金色の鍵を受け取った。


「… マコト」


「は、はい?」


長老に名前で呼ばれて、俺は少し戸惑いながら返事をした。何やら長老は手招きをしている。

俺が膝をついて近づくと、先ほどの鍵と同じように長老は懐から何かを取り出した。


それは… 神秘的な青色に輝く、小石だった。


周囲を薄く照らす程の光に包まれた、青に輝く石。掌より少し小さなサイズの、綺麗な丸型に整えられた石を、俺の手に握らせた。


「この村の秘宝じゃ。今回の礼に受け取っておくがいい」


「ひ、秘宝!?そんな大事な物…!!」


俺が断ろうとすると、長老は首を横に振った。


「儂らにこの石の使い方は分からん。しかし、代々この村に受け継がれておった石じゃ。 『覚醒の宝石』 という」

「聞きかじった話によると、この石はニンゲンがその使い道を知るという事が分かった。…噂じゃがの。何やら、大いなる力を得るための『鍵』になる宝石であると…」

「街に戻って金銭に変えるのも良いだろう。この宝石の使い道を調べるのも良いだろう。 とにかく、コレはマコトに受け渡そう」

「モミジを守ってくれた、儂からの礼じゃ。受け取ってくれ」


「… … … ほ、本当に、いいんですか…?」


「宝は、宝。食い物になりもせんよ。 この村は狩猟と採集で成り立っておる。金も宝も、元々は要らぬのじゃ」


「… … …」

「ありがとうございます…。 それじゃあ… い、いただいておきます…」


「ほっほっほ」


俺は光る宝石を、掌にぎゅっと握りしめた。



【 マコトは 『覚醒の宝石』 を手に入れた 】



――― …



「… !! カエデちゃん!それにマコトさんも! ケガはしていないのかい!?」


長老のテントの前で待っていたモミジの母親の猫獣人は、俺達の姿を見るとパタパタと駆け寄ってきた。

その後ろにはモミジちゃんがいる。 どうやら事情はすべて伝わっているらしい。


その姿に、カエデは申し訳なさそうに言った。


「え、ええ。大丈夫です。 … ごめんなさい。ボクのせいで、モミジちゃんを危険な目に合わせてしまって…」


「何言ってるんだい。モミジはこの通り、傷一つ負ってないよ。カエデちゃんがしっかり守ってくれたから無事に戻ってこれたんじゃないか」


「へへへー。アタシのしゅごけんしさまだもんね、カエデおねーちゃん!」


「あ、あははは…。 … ううう…」


申し訳なさと恥ずかしさで、カエデは顔を真っ赤にして俯いた。その様子をクヌギさんは嬉しそうに眺めている。


「マコトさんも… 本当にありがとうございました。あなたのおかげでモミジも無事に帰ってくれました」


「い、いえ… そんな。カエデが頑張ってくれたからですよ」


「これでもう、カエデちゃんやマコトさんを煙たがる獣人もいないでしょう。なにせ村の英雄なんだからね」


モミジの母親は腕組みをして満足そうにうんうん、と頷く。

そして俺の方を見て、質問をしてきた。


「それで… この村を発つんでしょう? いつ旅立つつもりだい?」


「… できれば、早く。とは言ってももう夕方ですし…どうしようかなと思っていますけど… クヌギさん、どうすればいいんですか?」


俺が振り返ると、クヌギさんは首を横に振った。


「夜の森は危険だ。今夜は私のテントで過ごしてもらう方がいいと思う。…急いでいるところで申し訳ないがな」


「… いえ。大丈夫です。すいません、今日もお世話に… … いたっ」


そう言って振り返っている俺の背中に、衝撃が走った。どうやらモミジの母親に、背中を叩かれたらしい。


「よしっ、それじゃあ決まりですね! クヌギさん、支度手伝ってもらってもいいでしょうか!」


「…? ??」


首を傾げる俺とカエデに、クヌギさんは可笑しそうに微笑んだ。


「分かった。手伝わせてもらうよ。料理は得意だからな」


「アタシも手伝うー!芋の皮むきなら任せて!」


俺とカエデは2人で、モミジちゃんと、その母親と、クヌギさんに聞いた。


「「 あのー、一体、なにがはじまるんですか?? 」」


そして俺達2人の質問に、3人が答えた。


「「「 お祝いの 宴だよ(っ!!) 」」」



――― …


その夜。


集落の中央の広場に大々的な宴会場が設けられた。

木のテーブルがずらりと並べられ、その上には森の幸の獣肉料理や野菜、木の実のオードブルが盛りだくさん。

村の獣人達ほとんどがその場に集まり、俺達のための宴を開いてくれたのだ。


ランタンの光に照らされてオレンジ色になる村の様子は、幻想的で、とても美しいものだった。

そして、犬や猫、狐の獣人達がその場で楽しげに酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打つ。


宴の中央に俺とカエデは座らされ、ある獣人からは感謝を、あるいは謝罪を… そして、酒の混じった息をかけられながらも暖かい歓迎の言葉を受けた。


村をキラーコングから守ってくれた、守護剣士。そしてその弟子と… 勇気ある客人。

俺達の扱いは、英雄だった。


酒はさすがに飲まなかったが… 俺はその宴の雰囲気に、酔っていた。

楽しくて、美しくて… そして、暖かい。


俺は時間を忘れて、宴を楽しみ… 獣人の人々との会話を楽しんだ。


そしていつの間にか疲れ果て、クヌギさんのテントのベッドで、眠ったのだった。



――― …


「カエデ」


「… はい、師匠」


「本当にいいんだな。…後悔はしないな」


「はい。…ボク、決めました。明日、マコトさんにお願いするつもりです」


「… そうか」

「私からもマコトくんに伝えてみよう。迷惑にならなければ… な」


「…ありがとうございます」

「… … …」


「… … …」

「そう悲しい顔をするな。自分で決めた事なんじゃないのか」


「… … … はい」

「… でも、ボク…師匠に、なにも…」


「お前が気にする事じゃない。…とにかく、今日は休め」

「明日の朝、『扉』の前で… マコトくんと話してみようじゃないか」


「… … … はい」

「… おやすみなさい、師匠」


「… おやすみ、カエデ」


――― …


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