表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/82

四十七話『終わりと さいかい』


――― …


「… ふうッ」


カエデは、刀身を鞘に納め、張りつめていた息をふう、と吐き出した。

両断した首から血が噴き出る前にカエデは魔獣の身体から跳躍し、地に降り立った。

そして、ボスキラーコングの身体は、岩盤が倒れるようにその場に倒れる。



「… … …」

「まごどざぁぁぁん、ご、ごわがったよぉぉぉ… !!」


まるで別人になったようなカエデが、俺の所へ涙と鼻水を垂らしながら近づいてきた。


「あ、あははは… カエデ…よく、がんばったよ…! 本当に…」


俺はその小さな身体を抱きとめて、頭を支える。


力を溜め込んだ、斬撃。隙の大きい技だが、威力は抜群… あの大きい魔獣を、一撃で倒す程の技だ。

やはり、カエデの才能はクヌギさんが見込んだ通り… …。


「… あ」


俺も、カエデも勝利で我を忘れていたが、もっと大事な事を思い出した。

振り返って、その場に座り込んでいるクヌギさんに慌てて近づく。


「し、師匠! 大丈夫ですか!?」


「ごめんなさい、クヌギさん!今、回復魔法をかけますから… 待っていてください」


「…ふ、ふふ… 有難う。助かるよ」


クヌギさんは疲れ切った笑顔を俺達に向けた。だが、その笑顔は心底楽しそうな表情だった。


「… 似ているな。カエデも、マコトくんも」

「… カエデ。本当に、成長したな。…恐怖心を捨て去ったかと思えば、もう巨大な敵にも怯まないようになってきた」

「もうお前は、私を超えているのかもしれない」


「そ、そんな事ないです!ボク、ようやくスタートラインに立っただけで… 師匠やマコトさんが居なければ、ボク…!」


「… 少なくとも、これだけは言っておいてやろう」


クヌギさんはふっと優しい笑顔を見せて、跪いてクヌギさんの心配をしているカエデの頭に、ポン、と手を置いた。



「お前は 剣士になったんだ」


「… … …!」


その言葉に、カエデの瞳から涙が一筋落ちた。


「――― ッ。 有難う、ございます…ッ! 師匠…!!」


カエデは跪いたまま頭を下げて… 心からの感謝を、自分の師に述べた。



「… … …」


俺はクヌギさんの回復をしながら、なるべく息を殺していた。

せめて、この場の邪魔をしないように…!


… なんというか。

とても、回復しづらい…!!



――― …


「すごいすごい!! カエデおねーちゃん、しゅごけんしさまみたいだったよー!!」


「あ、あはは… ありがとう、モミジちゃん。モミジちゃんも無事で良かったよ」


ぴょんぴょんと飛び跳ねてカエデの周りを駆けるモミジちゃんに、カエデは照れくさそうに頬を掻きながら言った。


「アタシもぜったい、クヌギさまやカエデおねーちゃんみたいなけんしになるんだー!もう決めたもん!!」


「そ、それは… なによりで…。 も、もういいから、ね?」


興奮冷めやらぬモミジちゃんを、カエデは恥ずかしさを隠すように抱きかかえた。



「… 大丈夫ですか?クヌギさん」


「ああ。さすが、僧侶だな。さっきまでの痛みが嘘のように引いていて… 腕も動かせる。…本当に、恩に着る。マコトくん」


クヌギさんは立ち上がり、自分の身体を確認するように腕をブンブンと振ってみせた。

猫の顔を笑わせて、気持ちのいい笑顔を俺に見せてくれる。


「お礼を言うのは俺の方です。恩返しが少しでも出来ていれば…」


「これで、長老のキミに対する考えも少しは変わってくれただろう。村の危機を救ってくれた英雄なんだ。私がしっかりと説得に当たるからな」


「あ、ありがとうございます。でも… 英雄は、カエデの方ですよ」


「… … …」


クヌギさんと俺は、モミジちゃんと楽しそうにはしゃいで、照れているカエデの表情を見つめた。


「あの子に戦いは、向いていないかもしれない」

「血生臭い戦の場にあの少女を置くことは、正しくないのかもしれない」

「でも、キミとカエデが居なければ… 私やモミジが、どうなっていたか、分からない」

「だから… これで良かったのかも、な」


「… … … はい。俺も、そう思います」


クヌギさんとモミジちゃんを、助けられた。

そして、カエデの… 剣士になる、道しるべを与えるきっかけになれた。


今回の出来事の主人公は、他でもない、獣人達だ。

だが、そこに… プレイヤーで、現実世界の人間である俺が介入して… そして、無事にこの出来事を、乗り越えられた。


俺だけが強くて、何かが成り立つワケじゃない。


人が。プレイヤーが、モブキャラが… たくさんの人達が、このセカイを形成している。


俺は、僧侶として… 誰かが強くなるサポートをしていくべきなのかもしれない。


そして、人と一緒に、強く、逞しくなれる。


それはきっと… すべてのセカイで、共通して言える事なのだろう。



「 マコトおにーちゃん!クヌギさま! ポポンの実、たくさんとれたんだよ! おいわいにたべよーよ! 」


俺が考え事をしていると、モミジちゃんが籠いっぱいの実を持って近づいてきてくれた。

サクランボより一回り大きい、真っ赤な実。つやつやと光沢を放ち、甘い匂いがこちらにまで伝わるほどだった。


「おお、モミジ。ありがとう。 マコトくんも食べてみるといい。初めてだろう?」


「は、はい。こんなに美味しそうなものだったとは…」


「たべてみてたべてみて! ほっぺがおちちゃうんだからぁ~!」


ごくり。


戦いで疲れ切った頭と身体に、この果物の甘さは至高のご褒美だろう。

俺は遠慮なく籠からその実を一つ手に取った。


「そ、それじゃあ遠慮なく。 いただきま――― 」

「!!!!」


口に、その実を運ぼうとした瞬間。



俺は慌ててその実を戻して、『それ』の方向へ走った。



「え…?マコト、さん…?」


カエデ達はその様子に、目を丸くした。


――― …



「… … …」


それは、木の枝に止まり、こちらをじっと伺っていた。


いつからそこに居たのだろう。どこまで、俺達を監視していたのだろう。


… いや、そんな事はどうでもいい。


「… 久しぶりだな。 …会いたかったよ」



「ま、マコトさ~ん! ど、どうしたんですか…!?」


カエデ、クヌギさん、モミジちゃんがこちらに近づいてくる足音がした。


そして俺の後ろで立ち止まり… 俺と同じ方向へ、顔を上げた。


「… マコトくん? なんだ…?」



「マコトさん… なんですか、あの… 鳥…。 マコトさん、知ってるんですか…?」



「… ああ」

「ずっと探していた… 俺の運命を決める、凶鳥だよ」


「 … イシエル…!! 」



その黒い身体の鳥は、半透明の身体をこちらに向けて、紅い瞳を光らせた。



『久しぶりだね、マコト』


『ゲームを楽しんでいてくれて、何よりだよ』


『そして… 生き延びていてくれて、本当に嬉しいよ ―――』



イシエルは、感情のない声で、そう喜んだ。


――― …


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ