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三十四話『仲間との わかれ』


――― …


「… ほう!」


骸骨の剣士、グランドスは、橋の上に完全に身体を乗せた俺の姿を見て驚きと喜びの混ざった声をあげた。


「よもや貴様のような子供がムークラウドに派遣したゴブリン部隊を壊滅させるとはな… 意外なことだ」

「その若さでそのような腕を持つとは… 期待が出来るではないか、勇者よ…!」

「抜けい、貴様の武器を…。そして構えるがよい。決闘だ!」


グランドスは両手の黒い大剣を前方に十字に合わせると…左手の大剣を前に、右手の大剣を肩に担ぐ。これが構えらしい。


一方の俺も… 自分の武器を構える。


銀の杖を、天空に向けて… 一歩ずつ、ゆっくり、グランドスに近づいていく。


… 身体の震えが、バレないように。


俺の武器、俺の姿を見てグランドスがまた驚いた。


「貴様… その格好、その武器… 僧侶か?」


「… ああ、そうだ」


俺の言葉にグランドスは低い声で、高らかに笑った。


「ハアッハッハァーーーッ!! とんだ聖職者がいたものだな!! よもや100体のゴブリンを壊滅させる僧侶がいるとは!!」


「俺だけの力じゃない。みんなで… 1人1人で、協力が出来たからだ」


「それでは、貴様は弱いのか?」


グランドスの問いかけに… 俺は震えを隠しながら答えた。


「強いさ」

「少なくとも… この場を凌げるくらいには、な」


「… ほう」


その答えは、期待の出来る答えだったらしい。骸骨の兜の中の表情は見えないが… きっと微かに笑ったのだろう。そんな声色をしていた。


… 作戦に移る前に。

少なくとも、聞いておきたいことは聞いておかなくては…。後ろにいる悠希や敬一郎にも、伝わるように…!


「グランドス!…聞きたい事がある」


「なんだ、勇者よ。決闘の前に萎えたくはない。早く済ませろ」


「… 何故この船をつけ狙った。魔王の命令なのか?そして、どうして… 決闘なんて形にしたんだ。さっさと撃ち落とせば良かっただろう」


「… … …」


グランドスは剣の構えは解かずに、言った。


「我は魔王様の『3つの盾』。常に魔王様を危害から守る、3つの盾である。 …そして我は『力と死』を司る盾である。すなわち」

「力で相手をねじ伏せ… 確実に魔王様の敵を死に追いやる。その立場にある」

「だが… この強大なる力。未だかつて、対等に渡り合った相手がおらぬ。我が剣… いや、我が盾は、錆びつきそうなのだ」

「そこに情報が入った。我々が放ったゴブリン部隊が壊滅させられたという情報がな。我の心は躍ったぞ、勇者よ」

「魔王様からの直接の命令で、部隊を壊滅させたという勇者を始末しろという命令が下った。…だがな」

「方法は仰られなかった。つまり…始末の方法は我が決めて構わぬ、という事」

「そして… 勇者は、目の前に現れたのだ。 これは機会なのだ。我の錆びついた盾としての存在を、研ぎ澄ませ、磨き上げる絶好の機会!…逃しはせぬぞ」


… 強キャラっぽい理由だな。

つまりコイツは今まで自分と対等に渡り合える相手に出会った事がなくて… 俺がその存在であるのかを、確かめたいって事だ。


コイツの目的が分かったところで、少し安心をした。


あくまでグランドスの考えは、強い者との決闘。つまり… 今この場で俺達を始末しろという命令を出されているものの、自分の考えもしっかり持っているというものだ。


… それならば。


俺は後ろにいる悠希と敬一郎に、振り返らずに言った。


「… 悠希!… 敬一郎! … 返事はしなくていい、聞いてくれ」


後ろから、確かに2人の存在は感じる。2人はきっと…俺の後ろで、頷いている。

…運転手の執事さんにも聞こえるように言わなくてはいけない。



俺は大声で、叫んだ。



「 ムークラウドの街へ戻れ!! そこで… また会おう!! 絶対に生き延びろ!! 俺も絶対に… 生き延びる!!」



「え… ど、どういうことだ…?」


「センパイ、なにを…?」



2人の動揺の声が聞こえると同時に、俺は上空に掲げていた杖を… 一気に振り下ろした。



「 光の(シャイン)… 聖矢(アロー)ォォォッ!!! 」



最大まで溜めた光の聖矢(シャインアロー)が、天空から勢いよく降り注ぐ。


「ぬう…!?」


グランドスは予想していなかった攻撃に少し驚いた。

しかし… グランドスに当たりそうな矢は、ことごとく大剣で弾かれていく。まるで何も持っていないように、大剣を軽々と扱う骸骨の剣士。


「どうした勇者よ!! こんな攻撃では我は倒せぬぞ!!」


光の矢はどんどん弾かれていく。


しかし、グランドスは気付いていなかった。


自分に向かってくる矢はほとんどなく… その狙いのほとんどは 『橋』 そのものにあった事を。



船と船を結ぶ機械の腕の桟橋に降り注ぐ光の矢。それは突き刺さり、小爆発を起こし… 鉄製の橋を壊していく。


グラリ。


橋が大きく揺れる。 矢はどんどんと橋に突き刺さり、爆発して… その鉄の身体を破壊させていく。 地震のように、俺とグランドスの身体は揺れた。


「な、に…ッ!?」


(壊れろ…! 壊れろ壊れろ、壊れろォッ…!)


降り注ぐ光の聖矢(シャインアロー)に、俺はそう願い続けた。



「センパイッ…!? そ、そんな事したらダメです!!やめて… やめてェッ!!」


「真ォッ!! てめぇ、なにやってるんだッ!!お前まで落ちちまうぞ!!」



悲痛な悠希と敬一郎の声に、俺は仲間をたまらなく愛おしく思った。


…絶対に、生きて、また再会したい。それだけを望んで… 今は、橋を壊すことだけを… !!



「貴様ァァァーーーーッ!!!」


揺れる桟橋の向こうから、グランドスが俺に向かって突進してくる。… どうやら、俺の狙いに気付いたらしい。俺の首を取りにきた。



… それこそが、この作戦の、最大の狙いだ。あとは… うまく橋が壊れてくれるだけ…!!



「折れろおおおおーーーーッ!!!」


光の聖矢(シャインアロー)が、途切れた。既にボロボロだが、橋は崩れなかった。あと一押し… あと一押しだけ…!

すでに眼前に迫っているグランドスと、降りあげられた2本の大剣。その大剣が振り下ろされる前に…。


バキッ!!


俺が思いきり振り下ろした銀の杖が、橋の最も脆くなった部分を、叩いた。


甲高い金属の音が耳に入る。 それは… 破損の音。 金属と金属が壊れ、砕ける音。現実世界では有り得ない話だが… この世界の俺の攻撃力なら、どうにかなったらしい。



橋は、壊れた。

巨大な敵の魔力船と小さなこちらの魔力船を支える金属の橋は真っ二つに折れ…。



俺とグランドスの身体は、空中に放り出された。



「センパァァァァーーーイッッ!!」

「マコトォォォォーーーーッッ!!」



叫ぶ2人の仲間の声が、一瞬の静寂が包む夜の空に響いた。



――― …



観察(ウィデーレ)で見たグランドスのレベル…。


それは…『レベル:70』。


今の俺達のレベルではヤツを橋から落とす事さえ不可能なレベル差だ。

だから… まずはヤツを油断させる事がこの作戦の肝。 適度に相手に近づき… 橋が壊れる瞬間に、逃げるよりも俺の方へ向かってくるような距離感が大切だ。

そのためには、どうしても俺も一緒に落ちなければいけない。血気盛んな相手に、まずはこの攻撃(シャインアロー)が、自分に向かっているものだと思わせる。

だが、実は狙いは、橋そのものにある。

気付いた時にはもう遅いくらいに橋を壊し… 俺とグランドス、2人で落ちる。


そしてこの作戦… 悠希と敬一郎に話せば、絶対に止められるというのも分かっていた。

だからアイツらには最後まで話せなかったし、そうするしかなかった。

…あとは無駄に俺の後追いをせず、逃げる方向に行ってもらうよう祈るしかないが… うまくいってもらうように信じるしかない。

拘束は解けたのだ。執事さん… どうにか船を飛ばせると、願おう。


魔王直属の剣士の襲撃。


生き延びる方法は… 多分、これしかなかった。


…絶対に生き延びる。



俺は真っ逆さまに落ちていく。スピードを上げ、風を切り、大地へと…。神樹の森へと、着実に… 『死』へと向かっていた。



…だが、確証はあった。


… 『聖なる袋』。これさえあれば… 致死ダメージは、一度だけ、防げる。

致死ダメージ。すなわり空中数千メートルから地面に叩き付けられても… そのダメージは、一度だけ…防げるはずなのだ。

あの町長の言葉を信じるなら。キオ司祭が錬成してくれたこのお守りを信じるなら。


… 今は、そうするしかないのだ。



『小僧』


頭の中に、グランドスの声が響いた。

どうやらアイツも、通信(チャット)のような魔法を使えるらしい。


『仲間を助けるために自らが犠牲になったか。…素晴らしい勇気ではないか』


『その勇気に免じて… 一度だけ、貴様らのことは見逃してやろう』


『ただし… 約束をしろ。勇者よ。 このグランドスと、必ずもう一度、戦うと』


『我は… 我が居城にて、貴様らを待つことにしよう』


『力を得たならば、我のところへ挑むがよい。我を倒さなければ、魔王様に近づくことは、できん』


『答えよ、僧侶よ』


『貴様の名を、覚えておきたい』


グランドスの姿は、空中には既になかった。…ワープ能力かなにかを持っていたのだろうか、計算外だった。

だが… 俺達のことは、見逃してくれるらしい。今は、その言葉、信じるしかない。


気絶しそうになる身体と精神。


近づく地面。


俺は胸元の聖なる袋を、離さないようにしっかり握りしめて、答えた。



「俺は… マコトだ…!! 僧侶として、絶対に… 絶対に、生き延びてやるッ…!!」



グランドスの声は、フッと微かに笑う声がして、途切れた。



… そして、神樹の森が、近づく。



死ぬ。



だが、信じなければ。



生き延びると。



――― …


お読みいただきありがとうございました!貴重なお時間をありがとうございました。


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