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三十話『空飛ぶ ふね』


――― …


「…ふむう」

「つまり君達3人は、魔王を討伐するために旅に出たいと申すわけだな?」


腕組みをして椅子に深く腰掛けるゴトー町長は、目を閉じたまま俺達にそう問いかけた。


町長には、俺達がしようとしている事をすべて伝えた。


今回の街への魔物の襲撃。

その原因となった魔王の討伐を俺達が目的としている事。そして…できれば色々な情報も聞いておきたい。

俺は町長の問いかけに返答する。


「ええ。なので、町長にお尋ねしたいのです」

「魔王とは一体何者なのか、この世界の何処に存在しているのか。どうすればそこに行ける事が出来るのか。どうすれば倒せるのか」

「すべてで無くてもいい。…何か知っている事はありませんか?」


俺は一歩前に出て、机の上に両手を乗せ身を乗り出した。


…イシエルが言うには、この人物がこの世界を更に発展させてくれる…という事だ。

つまりは俺達プレイヤーに対して何か有益な情報を持っているという事。それを聞きだす事が、このゲームの進展に繋がるはず。

それが…この校長のキャラクターの、使命のはずなのだ。


詰め寄って顔を覗き込む俺に対して…


町長はカッ、と目を開いて、答えた。



「知らぬ!」



… … …。


「えー …」


「お主らはまだ若いじゃろうから知らぬこともあるだろうが、魔物の存在はワシが生まれる遥か前より確認されている」

「ムークラウドの街の周りにはスライミーが蔓延っており、ワシらのご先祖様はそれら外敵から身を守るため、この街を高い塀で固めた」

「つまり…魔物がいるのと同様に、魔王が存在するということも、ありきたりの、当たり前の話なのじゃ」

「詳しく研究している者もおるじゃろうが…なにぶんこの街は、今まで平和じゃった。スライミーしか周りにおらんからの」

「魔王に関する情報は、おそらくこの街には皆無じゃろうな」


… 的が外れたという事か。


俺は後ろに一歩下がって、敬一郎に耳打ちする。


「どうする、敬一郎。これから」


「んー… とりあえずこの街の中で情報洗ってみるしかないんじゃねーの?外に出たところで何があるかわからねーんだし」


「いや、町長がこう言っている限りは街中に情報があるってワケじゃないんだろ。あくまでこれはゲームの中なんだし」


「え… つまりコレ、詰んでるってこと?先に進めなくなったってこと?」


会話をしている俺達を後目に、今度は悠希が前に出て町長に話し掛けた。


「あのー、校長… じゃなくって、町長さん。じゃあ別のコトを聞きたいんスけど…」


「おお。君達の役に立てることをワシが知っておるとよいが」


「この世界にある街は、このムークラウドだけじゃないっスよね?何か他の街や村を知ってたりしないっスか?」


… なるほど。

この街に情報はない、って事は別の街に移動するって事か。珍しく冴えてるな、悠希。


悠希の問いかけに、町長はすぐに答えた。


「そうか、君達はこの街から出たことがないのだな。この辺りには草原とムークラウドの街しかないからな」

「東の方向にしばらく進むと、巨大な森林地帯…『神樹(しんじゅ)の森』がある。その森を抜け、更に北東へ… 街道沿いに進んでいけば、港街『クラガス』に到着するはずじゃ」

「船による他の大陸との貿易が盛んな街での。…そういう意味では、この街より遥かに君達の求める情報が集まった街かもしれんのぉ」


「決まりだな」


町長の言葉に敬一郎が言って、俺達3人は顔を見合わせて頷いた。


なるほど。それが次の目的地ということらしいな。

俺は町長に希望を抱きながら聞いた。


「町長。そのクラガスの港町へは、どのくらいで行けるんですか?」


俺の質問に、町長は笑顔で答えた。



「歩いてじゃと一カ月じゃな。旅の支度を十分に整えていくがよい」



… … …。


いっか、げつ。


「… あの」


「ん?なんじゃ?」


青ざめた俺の顔を見ても、町長の笑顔は変わらない。


「もう少し早く行けないもんですかね」


「無理じゃの。馬を借りるにしても、途中にある『神樹の森』は言ったように大森林じゃ。馬で通れる道ではない。歩くしか道はないぞい」

「お主達はまだまだ若いんじゃし、旅にはそれくらいの余裕を見んとな。はっはっは」


はっはっはじゃないよこの親父…。


「あの…すいません。急ぐ旅なので…どうにかする方法とか、ないですかね。どうしても」


「なんじゃ、何を急ぐ必要があるんじゃ」


「えーと、それは…」


言葉に詰まる俺に、敬一郎が割り込んできて助け船を出してくれた。


「2日前のように魔王の軍勢がいつ街を襲うかも分かりませんし、すぐにでも魔王討伐をしたいと思いまして」


「先日のような魔物の襲撃はもうないじゃろう。ワシが生まれてからあんな事は一度も起こっておらん。もう100年は安泰じゃろうよ、はっはっは」


なんていうお気楽な町長だ…。


今度は悠希が助け舟を出そうとしてくれる。


「あ、わ、私の友達が魔王に殺されまして… その、どうしてもすぐに敵討ちをしたいと思ってるんス…!」


「ん?それではワシよりよっぽどユウキくんのほうが魔王について詳しいのではないか?その友人の記録を探してみればおのずと魔王に近づけると思うがの」


「う」


… 悠希。 嘘なんかつき慣れてないんだからやめといてくれ。俺はそっと悠希の前に手を出して悠希を後ろに引っ込めた。


…1カ月。

俺達の存在は、もう現実世界にはない。ゲームクリアまで夢現世界に身体を移している。

だから…早めにクリアをしたい。

早く魔王を倒し、早くモブの生徒達を解放して…一刻も早くこんなゲームは終わらせたいのだ。次の街まで1カ月なんてそんな途方もない話が、これから幾つ出てくるんだ。




…少し間を置いて。

町長は困った顔をしている俺達を見つめて言った。


「ふむー。まあ… 理由は分からんが、とにかく急いでいるという事じゃな」

「他ならぬ街の英雄の困りごとじゃ。ワシが解決してやろう」


「え… ほ、本当ですか?」


「ああ。クラガスの街まで、1日で到着させてやる」


… い、1日!?

また話が急に変わったぞ…!?


俺達3人は、町長の机に詰め寄った。


「お、教えてくださいっス!その方法!」


「特別に、ワシの『船』を貸してやろう」


「船…って、この辺り草原ですよね?船なんか出せないし意味ないんじゃ…?」


「ふっふっふ…。ワシの船が行くのは、海や川ではないぞ」


町長は、書斎の天井を指さした。



「空を行く船。その名も『魔力船』じゃ」



――― …


「これが… 魔力船」


その船の大きさは、公園の池によくあるカヌーより少し大きいくらいだった。想像していたものよりだいぶ小さい。

先端には運転席らしき座席と操舵輪が一つ。座席は2人が座れるくらいのベンチが3つ並んでいる。

カヌーの前後左右に4つ、見たことのないような装置が取りついている。大きめの扇風機のような装置が、地面の方向を向いて。

まさか… これで飛ぶというのか?


俺達3人は、屋敷の中庭にあった町長のプライベート魔力船を、疑惑の眼差しで見つめていた。


「随分まじまじと見つめておるのぉ。まあ、なかなかお目にかかることもないじゃろう。魔力を動力にした飛空艇じゃ。小型じゃがの」

「クラガスの街まで、この船で空を飛べば1日…10時間も飛ばしておれば着くじゃろうて。他ならぬ君達の願い、このワシが叶えてやろう。はっはっは」


… … …。


すごく有難い。

すごく有難い話ではあるのだが…。


そもそも現実世界の飛行機もロクに乗ったことのない俺達3人は、町長に聞こえないように小声で相談をする。


「… コレ、本当に大丈夫だと思うっスか…?」


「わからん。あのタヌキ体型の親父のことだ。泥の船かもしれないぞコレ」


「お前が体型のこと言えるのかよ敬一郎」


「うっせーよ…! …とにかく、1カ月歩くかコレに乗るかしかないんなら… 乗るしかないだろコレに…!」


「うわー、俺高いところ駄目なんだよなー…。しかもこのカヌーで空飛ぶとかホント有り得ないし…」


泣きそうな顔で魔力船を見つめる俺の前に、町長が飛び出してきた。


「ひいっ」


「準備が出来たら出発するぞい。操縦はワシの執事にさせるからの」


町長の後ろにいる、先ほど屋敷の案内をしてもらった老齢の執事さんがペコリと俺達に頭を下げた。俺達もつられて頭を下げる。


「準備…か。遺書でも書いておくかな… いでででで」


縁起でもないことを言う敬一郎の足を踏みつけてやる。



とにかく、これで旅立つしか道はないように思える。


俺達が、ムークラウドの街から離れる時がきたのだ。


… … … 準備、か。



「それじゃあ、申し訳ないんですけれど… 少しだけ待っていてもらえますか、町長さん」



――― …


お読みいただきありがとうございました!貴重なお時間をありがとうございました。


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