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二十九話『町長と ほうしゅう』


――― …


宿屋に宿代を支払い、俺達は女将さんに別れを告げた。

「もう少しいてくれてもいいのに」と少し寂しそうに微笑む恰幅のいい女将さんを見て、悠希は少しだけ涙ぐんでいた。

敬一郎が「また女将さんの料理、食べにくるから!」と明るく言って俺達はレンガ造りの通りを歩き始めた。


町長の家は宿屋から10分ほど歩き、時計塔広場の近くにある。

街の中心部。周りをオレンジ色のレンガの塀で囲んだ大屋敷。大きなムークラウドの街を納める町長の住まいにはふさわしい、威厳のある家だった。


鉄柵の入り口から俺達は中に入り、芝生の中庭を通って屋敷の入り口にたどり着く。

呼び鈴を鳴らすと、中から老齢の執事が顔を出し、俺達の顔を見るなりすぐに屋敷の中に通らせてくれた。


巨大なエントランスの煌びやかなシャンデリアや飾ってある装飾品に目を奪われながら、俺達3人は屋敷の奥の方へ進んでいく。


2階への階段を上り、その一番奥の部屋。



これでもかと言うほど書物がズラリと並んだ書斎。

その部屋の更に奥に、漆塗りの立派なテーブルがあり、そこに男性が一人座っていた。


どうやら、この人物がムークラウドの町長らしい。


「「「 … … … 」」」


俺達はその見知った顔に言葉を失った。


「おお、勇者諸君!このたびは街を救ってくれて有難う!ワシからも礼を言わせてもらうよ!」


「「「 … … … 」」」


「…?なんじゃ?黙りこんで、どうしたんじゃ?」


町長。

その人物は…。


我が学校の、校長の姿をしていた。


「…まぁ、安田が司祭ならこういうコトもあり得るか」


敬一郎がボソッと呟いて一人で納得したように頷いた。


「やすだ? 何を言っておるかは分からんが、とにかく… ワシが町長の ゴトー じゃ。今後もよろしく頼むよ」


後藤(ごとう)校長でゴトーって、そのまんまだな。もはや苦笑いしか出てこない。


俺は咳払いをして話をはじめることにした。


「お初にお目にかかります。えーと、お招きいただいて、ありがとうございます。俺は僧侶のマコトで、こっちは武闘家のケーイチロー。あとこのちっこいのが忍者のユウキです」


「ちっこいは言わなくていいと思うっス…」


俺達3人が小さくお辞儀をすると、町長は嬉しそうに大声で笑った。

敬一郎より更に横幅の広い、恰幅のいい中年。頭の薄毛は夢の中でも変わらないようだった。


「噂には聞いておったが、まさか勇者達がこんなに若いとはな!我が町にこんな勇敢な若者がいるとは、鼻が高いぞ!」


夢現世界では現実世界の性格もある程度同じキャラになるみたいだけれど… 普段は普通の、少し物静かな優しい校長だというイメージだった。

どちらかというと豪快で豪気なオッサンキャラの感じがするが… まあ優しい性格はそのままなのだろう。嫌なイメージではない。悠希が言うような黒幕っぽさは微塵も感じなかった。


校長こと、町長のゴトーは俺達に話し続けた。


「今日は街を救った英雄である君達に褒美をとらせようと思ってな!君達がいなければ街がどうなっていたかもわからん。ワシ達の命の恩人じゃ。報酬はしっかりと用意しておいたぞ」


報酬…。


その言葉を聞いて、俺は気になっている質問を町長に言った。


「あの… 街を救ったのは俺達だけではありません。魔法使いのソウジや、他のプレイヤー… じゃなかった。他に作戦に協力してもらった人達も沢山います。その人達にはもう、会ったのですか?」


俺の言葉に町長は首を振った。


「いや、所在が分かっているのが君達3人だけでな。他にも街を守るのに尽力してくれた人がいるとは聞いておるが… 街を探させても見つからん。なので、一先ず君達だけを呼び寄せたというワケじゃ」


… … …。


生徒会長の柊宗司先輩は、ゲームを続けなかったのだろうか。

あのイベント以来顔を合わせていなかったから、お礼を言いたかったが… ムークラウドにはいないらしい。

外に出てもスライミーだらけの草原が広がっているだけだし…アテもなく遠くに行くような人にも思えない。やはりゲームを終わらせたと思うほうがいいのか。


他のプレイヤーも、何人が残っているのだろう。イシエルのあの選択肢により、今のプレイヤーは何人になっているのだろう。

敬一郎は何回か街をブラついてきたらしいが、知り合いには巡り合わなかったそうだ。やはりあの選択肢じゃ、現実世界に帰るという選択をした人の方が多いのだろうか。

誰だって、自分の命は大切だ。そうする気持ちは分かる。


でも…せめて何人が残っているのかは知りたい。

イシエルはそれをアナウンスするつもりはないのだろうか。この世界に入り込んでからイシエルの声は未だに聞こえていないのだった。


「…マコト?マコトよ? どうしたのじゃ?」


「え… あ、ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて」


町長の声で我に返った。


…とにかく、色々な事は町長の話を聞いてから考えることにしよう。


ゴトー町長が手を叩くと書斎のドアが開いて先ほどの執事が赤い色の箱を持って入ってくる。それは、RPGでよく見る宝箱の形をしていた。


「まあとにかく今は褒美じゃ。開けるがよい」


褒美。


街を守ったお礼。 何が入っているのだろう。


「ありがとうございます」


俺は一歩前に出て一礼し、宝箱の蓋を開ける。



そこには、メリケンサックのようなリングのついた道具が一つ。


それに小さめの、手の先から肘くらいの長さの鞘のついた刀が一本。


あとは麻の小さな巾着のような謎の袋が一つ。ほのかにポプリのような香りがした。


俺達がそれぞれそれを手に取ると、町長が説明を始めた。


「君達の職業を聞いて、それぞれ役立ちそうな物を集めさせておいた」



「その武器は『メルコンの拳』。メルコン合金という特殊な合成金属を使った拳にはめ込む、武闘家の武器じゃ」

「武闘家の使う『オーラ』の力に金属が反応し、威力を増幅させる効果をもつ。拳法を嗜む者には必需品らしいぞい」


「おお…。なんかスゴイな…」


敬一郎はステータスを開いてその能力をチェックしながら、拳にはめ込んだメリケンサックを嬉しそうに眺めていた。


【メルコンの拳(攻撃力+18)】

【特殊効果:『オーラ』を使う手技を使用する時、その威力を20%増幅させた攻撃や技を繰り出す事が出来る】



「その刀は『忍刀:刹那(せつな)』。名前の由来は、抜いた瞬間…刹那の瞬間に敵を切り刻めるほどの威力を秘めた刀、というコトらしいぞ」

「有名な刀匠のものらしい。特殊な効果はないが、忍者たるもの切れ味のよい刀は持っていなくてはな」


「わー!有難いっス!クナイだけじゃ心もとないっスからね!」


【忍刀:刹那(攻撃力+25)】



「そして…その小袋。それは僧侶のマコトくんが持っておるとよい」

「既に武器は司祭様から銀の杖を託されているようじゃからの。別のアイテムにしておいた」

「キオ司祭達教会の者たちで錬成してもらった『聖なる守り』じゃ。回復効果のある薬草や聖なる水に浸して乾かした香草、幻の花なんぞ…とにかく色々詰まっておる小袋らしい」

「有難いものじゃ。身に着けておけば、瀕死のダメージも一度くらいは防げるやもしれぬな」


…えらくロールプレイングっぽい説明だが、ありがたく身に着けておこう。

袋の紐を俺は首にかけて、ネックレスのように『聖なる袋』を装備した。


「… キオ司祭。町長。ありがとうございます」


【聖なる袋(防御力 なし)】

【身に着けた者が瀕死のダメージを受けたときに身代わりに受けたダメージを掻き消してくれる。一度発動すると消えてなくなる】



3つのアイテムをそれぞれ身に着けたところで、俺はふと思い出した。


『イベントというからには、達成報酬がなにより重要だ』

『達成報酬は…武器。このイベントで活躍を認められた上位数名のプレイヤーには、強力な武器を進呈しようと思う』

『そしてもう一つの報酬。それは…ある『重要人物』との謁見が許可されるよ』

『その人物との出会いで、キミの物語は更なる進展をしていくだろう。夢現世界は、更に広がっていくんだ』


…つまりはこれが達成報酬。そして重要人物とは…この後藤校長こと、町長との謁見だったというワケだな。納得した。



…と、いう事は。イシエルの言葉が間違いでないのなら、この町長が俺達の物語を進展させてくれるキーパーソンであるという事だな。


… … …。


「… ま、またワシを睨みつけて…なんじゃ、何を考えておるんじゃ。勇者よ」


… 睨みつけてしまっていたらしい。


「ご、ごめんなさい。…町長に、聞きたい事があるんです」


「ほう、なんじゃ。他ならぬ頼みじゃ、なんなりと聞くがよい」



「この世界の事について、教えてほしいんです」



――― …


お読みいただきありがとうございました!貴重なお時間をありがとうございました。

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