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二十四話『きょうりょく ぷれい』


「さて、と…」


目の前のゴブリン達を焼き払ったところで、ふうと溜息をついた。

そして俺は右耳に手を当てて、『脳内通信』を待つ。


すると…


『お疲れ様、名雲くん。後攻のゴブリン部隊はまだ街のほうへ突入する気配がないようだ。一息ついて大丈夫そうだ』


優しそうな男性の声が俺の頭の中で声をかけた。


「ありがとうございます。他の門の様子はどうですか? …ええと…」

「生徒会長、さん」


俺のそのぎこちない呼びかけに、通信をする相手のフッと小さい笑い声が聞こえる。


「生徒会長、なんて長い呼び方をしないでくれ。同じプレイヤーだろ?(ひいらぎ)でいいよ。名雲くん」


「…あ、ありがとうございます…。ええと、柊先輩…」


「北門の浅岡くん、西門の長谷川くんも敵部隊を全滅させた。既に次の部隊に備えられている。南門もおかげ様でゴブリン部隊を壊滅させられたよ」


「良かった…!南門も無事ですか…!」


俺と通信をしているのは、生徒会長の柊宗司(ひいらぎそうじ)先輩だ。

そう、生徒会長と俺は今、脳内で通信をして現状を話し合っている。


――― …


時を遡ること、二時間ほど前…。


時計塔広場に、俺、悠希、敬一郎… そして、何度か全校集会で見知っていた人の姿があった。

少し伸びたセミロングの髪型を前で半分ずつに分け、少し下にズレた眼鏡をクイ、と目元に戻す。クールな印象を受ける切れ目だが、優しそうな笑顔を俺達に見せた。


「せ、生徒会長サン…っスよね」


悠希のその問いかけに柊先輩は手を後ろで組みながらコクリ、と頷いた。


「まさか生徒会長までこの世界にいるなんて…」


俺の驚きをあまり気にせず、敬一郎は話を進めた。


「今回のイベントで俺達三人に協力してくれることになった、生徒会長の柊先輩だ」


「柊宗司だ。僕のスキルが役立ちそうなので、今回はキミたちに協力させてもらうことになった。…前線には立てないが、よろしく頼むよ」


「スキルが…?」


どういうことだ?俺と悠希は首を傾げる。敬一郎は話を続けた。


「柊先輩の職業は『魔法使い』だ。それで、覚えているスキルの中に… …」


敬一郎がそこまで言ったところで、柊先輩は話を割り込ませた。


「そこから先は僕の方から説明するよ。本人の口から離した方が分かりやすいだろう」

「僕の職業は『魔法使い』。残念ながらこのイベントに対する準備が間に合わなくて…未だにレベルは『9』だ。だから前線に出て戦闘に参加は出来ない…。しかし」

「君達のサポートなら出来ると思ってね。僕のスキルを活用して、協力をさせてもらう」


魔法使いの、スキル…。一体どんなスキルを?と思っている間に柊先輩は説明をしてくれた。


「僕は、通信(チャット)というスキルを持っている。このスキルは…」

「遠く離れた相手と電話をするように、脳内で…そう、イシエルがやっているのと同じように、言葉を送り合う事ができるというスキルだ」


「え…!」


「このスキルがあれば、イベント中の戦況を君達に報告することができる」

「ムークラウドの東西南北4つの門から、魔王軍の侵攻が開始される。状況を報告することで街への被害を食い止める事ができるはずだ」

「もっとも、君達の活躍にすべてを賭けられるのであれば、の話だけれど…」


生徒会長がそこまで語ったところで、敬一郎が一歩前に出てきて説明をしてきた。


「柊先輩には、時計塔の最上部から街を見下ろして待機をしてもらう。この時計塔の上からなら、東西南北全ての門を見下ろせるからな」

「そこから魔物達の侵攻の状況を俺達に通信(チャット)で伝えてもらう事により、俺達の動きをより効率的にすることができる」

「生徒会長と昨日たまたま話をする機会があってさ。夢現世界の中にいることは前のイシエルの集会で知っていたんだけど…まさか生徒会長を仲間にできると思わなかったな」


…流石、敬一郎。改めて尊敬する。

イシエルの話に集中するだけだった俺と違って、集まっているプレイヤーをしっかり確認していたということか。


「すごいっスね…!で、で、私達はどう動けばいいんスか?」


悠希が感激して生徒会長と敬一郎に聞くと、2人は…俺の方を見た。敬一郎が俺に話す。


「今のところ、レベル10を超えているプレイヤーは…俺、真、悠希ちゃんの三人だけだ」

「何人かのプレイヤーに修行の話は伝えたんだけれど、時間がなくてレベル10まで間に合わなかった。確信がなかったからな…」

「イベントに参加をしてくれる奴も募ったんだけど…積極的に、とはどうしてもいかなかった。それでも防衛ということで戦闘に参加してくれるのは、レベル9が2人と、レベル8が3人だけだ」


推奨レベル以上のプレイヤーは俺達3人だけということだな。10未満のプレイヤーは自分の命をあくまで最優先にしつつの魔物からの防衛…ということか。

積極的に魔物を倒しにいける俺達の存在が鍵になってくる。

そこで…生徒会長が、俺の目を見て話し掛けてきた。


「名雲くん、といったね。最大レベルのプレイヤーは、君だ。君がやりやすいように作戦を考えてほしい」


「え…?」


俺が…作戦? 

驚いている俺に向かって敬一郎が付け加えてくる。


「俺達3人、そして協力をしてくれるレベル10未満のプレイヤー5人。生徒会長は時計塔から通信をして戦況を俺達に逐一通信してくれる」

「だから、その配置を真に任せたい。最大レベルのお前が動きやすいような配置にしてくれた方が効率的にイベントを攻略できる、と思ってさ。俺と生徒会長で決めたんだ」


「… … …」


俺が、作戦を。

生徒会長を差し置いて、人望の厚い敬一郎を差し置いて。…何のとりえもない、平凡以下だった学生の俺が…。

この夢現世界においては、今現在において最強のプレイヤー。そして…このイベントで最大に期待をされている人物、ということか…。


… … …。

ものすごいプレッシャーだ。握っている拳に汗が滲み出てくる。


…しかし。やらないわけにはいかないのだ。


このムークラウドの街を。人々を。プレイヤー達を。守るという決意を俺は固めたんだ。


それなら…どんなことだって、やる。責任を負うのを恐れていてはいけない。失敗は、元々許されてはいないのだ。

俺が全力を出せるように作戦を立てれば、それでいい。失敗をしないように、みんなを守れるように。


「… センパイ、大丈夫っスか…?」


心配そうに俺の顔を覗き込んできた悠希の頭に手をポン、と乗せて、俺は余裕ぶった笑顔を見せてやった。


覚悟は、初めからできているのだから。笑ってやるくらいの余裕すら、作ってやれ。

俺は俺にそう命じた。


「… … …」

「北門に敬一郎。 西門に悠希。 そして…東門に、俺が1人ずつ待機し、侵入してきた魔物を蹴散らす。推奨レベルは余裕で超えている3人だ。絶対に対処できる」

「残りのプレイヤーは南門に集結。お互いをカバーしあって、最大限対処してほしい。どうしても無理なら、生徒会長の通信(チャット)ですぐに連絡、素早さの高い悠希か、速度強化の術(スピードマジック)をもっている俺がすぐに駆けつける」

「すぐに駆けつけられるよう、門に侵入してきた魔物を最大限の速さで排除。ピンチの門のカバーに入れるようにしたい」

「それには…生徒会長さんの適格な指示が、必要不可欠です。…よろしくお願いします!」


俺は柊先輩に頭を下げて、大きな声で言った。

この作戦には、何より生徒会長の状況判断が大切になる。誤った情報や指示を与えれば…それだけで甚大な被害が出てしまう。


生徒会長は… 頭を下げている俺に歩み寄って、しゃがんで下から覗き込んで、笑ってくれた。


「伊達に生徒会長をしていないよ。…状況判断なら、任せてくれ」

「前線に出れない分、精一杯協力をさせてもらう。…全員で、この街に傷一つつけないよう、守っていこう」

「よろしく頼む。名雲くん」


「… … …!!」

「はいッ!!」


俺は下げていた頭を上げて、生徒会長と固い握手を交わした。


――― …


「おりゃああッ!!」


いつの間にか、後攻のゴブリン部隊が続々と門から侵入をしてきた。

俺が杖を振るスピードは遅く、下手をすればゴブリンに見切られて、避けられてしまう。しかし…。


俺のスキル。観察(ウィデーレ)で見たところ… ゴブリン1体のレベルは、8。10以上低いレベルの敵に対し、俺の武器『聖なる銀杖』は…。


「ギィェエエエエエエエエッ!!!」

「あ、あ、あぢィィ~~~ッ!!燃えちまううう~~~ッ!!」


聖なる白色の炎で、燃やし尽くす事ができる。つまり、触れさえすれば、勝てるのだ。サポートジョブでしかなかった、この俺が。

スライミーにすら苦戦をしていた俺が…今、この街を守り切るという最重要ポジションの一角を担っている。


負けられない。負けるわけにはいかない。

それは段々と、敵との圧倒的な戦力差によって余裕となり、勝利への確信へと変わる。


勝てる。出来る。

俺達が…この街を守る、ヒーローになれるんだ…!


「…ッ!はあッ!」


後ろから飛びかかってきたゴブリン2体に対して、杖の突きを素早く繰り出す。

腹部にヒットした銀杖から広がる炎は、あっという間に身体を燃やし尽くした。


「ギャアアア~~~!!」


見切れる。

そして、速い。

ステータスがアップしているからだろう。現実世界より身体は軽く、敵の動きを見切れる。


正面から突進をしてきたゴブリンのパンチをバックステップで避け、脳天を思いきり杖でブン殴る。


「ぐえええッ!」


…聖なる杖をこんな使い方していいのだろうか、という気持ちはあるのだが、致し方ない。街を守るためだ。武器なんだし。


「こ、この僧侶…」

「強いぞ…ギギギッ…」


「…おしまいか?あと5体… なんなら逃げてもいいんだぞ」


「く、この…舐めやがって…!」


余裕ぶった笑みをゴブリンに見せつけたとき。


俺の頭の中に、柊先輩から通信が入った。


『名雲くん!大変だ!』


「え、どうしたんですか?」


その声は切羽詰まった様子だった。杖をゴブリン達に向けて警戒をしながら、俺は通信を聞く。



『ボスモンスターが出た!君もそちらに急行してくれ!』


「え、でもこいつらを片付けないと…!場所はどこなんですか!?」


『北門!浅岡君のいる場所だ!』


「敬一郎が…!?で、でもレベル15の敬一郎なら対処できるんじゃ…!?」


『いや…かなり苦戦しているんだ!どうやら敬一郎君のジョブではボスモンスターとの相性がかなり悪いらしい。君達の協力が必要だ』


相性…!?素手では分が悪い相手ということか。だとすれば話は変わってくる…!


「しめたっ!!」


「な、し、しまった…!」


俺が話し込んでいるうちに、5匹のゴブリンは左右に分かれ、俺の横をすり抜けようと走りだす!


「逃がすかァッ!!」


「ギャヒィィ!!」

「グエッ!!」


2匹を捉えて倒すものの… 3匹を街中に放ってしまった。3匹は素早く狭い道を通り逃げ去ってしまう。


『作戦を変更する!西門の長谷川君と、南門のプレイヤー5人は門の敵を殲滅次第、街中の残存ゴブリンの殲滅につかせる!』

『逃げたゴブリンは気にするな!場所は僕が把握できる。急いで北門に向かって、浅岡君の援護をするんだ!』


「わ…分かりました!すぐ向かいます!」


命令は、適格だ。ボスモンスターが出たのなら、最大レベルの俺がいくしかない!

敬一郎がピンチ…あいつのことだ、うまく立ち回ってくれていると思うが…とにかく早く向かわなければ!


速度強化の術(スピードマジック)ッ!」


俺は自分自身に速度強化魔法をかける。

身体が熱くなり、力が漲る。足が、動きたくてたまらないという風に疼く。

急いで、北門へ…!!


「待っててくれよ、敬一郎…ッ!!」


俺は全速力で街中を駆けていった。


――― …


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