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1-1

 ~1-1~


 今の住まいは数年前知人を通して購入した物だ。築年数は私の歳に近い程と聞いていたが前の住人の手入れが行き届いていたのだろう、新築とまではいかないまでも快適な住空間が残されていた。


 とりわけ私が気に入ったのは据え付けの書架が壁一面にずらりと立ち並ぶ広い書斎、そして三口コンロと薪オーブン備え付けのオープンキッチンである。一部屋毎が広々と作られている分間取りは単純なものとなっており、階段を一段ずつ降りるにつれ大きくなる物音がキッチンから発せられているという事は容易に判断がついた。


 下階に降りた私はしかしキッチンではなく浴室に歩を進めた。思考は完全に覚醒していたが物音の正体を確かめるよりも先に全身に残る倦怠感を早急に洗い流したいという欲求が勝ったのである。


 手前の洗面所兼脱衣所に身に纏う衣類の一切を脱ぎ捨てると浴室に入りシャワーの蛇口を捻る。頭上から浴びせられる熱湯が先程まで感じていた肌寒さと倦怠感を徐々に解きほぐしていく。湯船に湯を張るのも億劫だったため洗髪、洗顔、洗体のみを一通り済ませて早々に浴室を出た。



 キッチンの惨状については例える言葉が見つからなかった。よって視界に順に入ってきたものを有り体に羅列してみる。


 まず目に入ったのは朝食にしばしば利用する即席の唐黍菓子が床に一粒、少し間を置いた位置にもう四、五粒同様の物が、更に十センチほど先に目をやると唐黍菓子が床に見事な世界地図を描いていた。


 その中心にまるで世界を我が物と主張するが如く横たわるのは今朝から、いや昨晩から、いやいやここ数カ月私の悩みの種となっている同居人その人であった。もっともその顔は半分近く唐黍菓子の箱に突っ込まれているため本物かどうかは疑わしいが、四肢の全てを前腕及び下腿から欠損している少年というのもこの世にそうそう居て堪る物では無いので恐らく本人だろう。


 「・・・箱ごと食らうとは豪勢な朝食だな」

 この後に行わねばならない始末の手間を思えば開口一番悪態を吐いてしまった私を誰が責められようか。

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