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3-2

~3-2~


 「終わりました、処理を願います」

 相手の返事を待たず電源を切る。元より仕事の完了報告用に設けられた回線の為然して気も咎めない。端末を懐に収めた私は現場を後にした。


 今夜は春先と思えぬほどの冷え込みに加え驟雨に見舞われる散々な陽気だった。思わず頭を過るのは、こんな日は四肢の断面が痛むとあれが訴えていた事。寝苦しい思いをしていなければ良いと何にともなく祈っておく。


 とは言えそんな冷雨も仕事の後には好都合と言える。特注の撥水性の高いコートは其処彼処に赤黒い水滴を湛えていたが、刺すように冷たい雨は其れらを洗い流す役目を十全に果たしている。にも拘わらず、体内を流れる液体に特有の鉄臭さから来る不快感は拭い去ることが出来ない。直にでも身に纏う全てを放り出したい欲求を抑え近場のセーフハウスへと向かった。



 道中歩を進める毎に増していく不快感に耐えかねた私はセーフハウスの一つである安宿の一室に辿り着くや否やコートを床に放り投げると身に付けた衣服もそのままにシャワー室に駆け込んだ。


 蛇口を捻ると先程まで浴びていた雨と然程に違いの無い冷水が降り注いだ。呼吸の乱れを整えながら耐えていると徐々に水温が上がっていく。濡れて肌に張り付いた肌着を介して降り注ぐ温水がそのまま全身に染み込んで行く様な錯覚を堪能しながらその場に座り込んだ、漸くと着衣を解いていく。不快感も幾らかは和らいでいくのを感じていた。


 人心地ついた私は脱ぎ捨てた衣類を屑籠に収め室内に用意していた着替えを身に付けると備え付けのソファに腰掛ける。落ち着いてくると今度は強い疲労感に見舞われた。この場で夜を明かす気は更々無いものの、帰宅するのは暫し休息を得てからにしよう。


 ソファに腰掛けながら室内を見渡す、他にすることも特に思い付かない。元より休息と装備の補充の為に用意した隠れ家に過ぎないこの部屋には酒瓶の一本も用意はしていないのだった。


 仕事で訪れる機会の多い町外れには此処と同様のセーフハウスを何軒か用意してある。この部屋のように1年分の宿泊費を前払いした安宿、低所得者向けのアパルトマン、朽ちかけた木造の廃教会などその形は様々だった。


 自分以外の掃除屋を知己に得る機会が無かったため彼らも同様なのかは分からないが、「きっと仕事に必要になる筈だから」と手配師に勧められるままそれらの物件を購入或いは賃借している。そしてその言葉が事実であることは直に理解できたし、今もまたその有用性を再確認しているのだった。

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