魔王様、敵が増える
「悪いな嬢ちゃん。今日はもう満室だ」
「……嘘…でしょ」
あれからまたひたすら歩き続け、隣国、スキエンティアに到着。そして目に入った宿屋を訪ねてはこのやり取りをもう3回ほど繰り返している。
つまり、3軒の宿屋に断られているという事だ。
悪いな、と苦笑いのおっちゃんを見るのも3回目
なんでよ!!なんでこんな田舎村の宿が全部満室なのよ!!おかしーでしょーよ!!
まさかこれは嘘で私がよそ者だからとかじゃないでしょーね!?
とは流石に言えないので大人しく退散。一応周りを確認してもテーブル囲い座ってお酒を飲んでるおっちゃんばかり。おっちゃん達の装備からして冒険家とか旅人っぽいので私がよそ者だからという理由ではないらしい。
だとするとやっぱり女の私1人っていうのが原因?お金持ってないように見えるのだろうか。どちらにせよ私はここにも泊まることは出来ない……いくらなんでもこれはひどい。休ませてくれたっていいじゃないか!くそう(泣)
痛みや疲れ消耗した体力は回復魔法で治るけど、精神的にはもう限界。この辺りの宿屋は全部満室。いや、ほんと何なん?いじめなの?
「ねぇ、おっちゃん。なんでこの辺りの宿全部満室なの?そのセリフ聞くの3回目なんだけど。」
「なんだ、嬢ちゃん他でもそんなこと言われたのか!ハッハッハッ!運がねぇな嬢ちゃんハッハッ」
「………」
カッチーン。なんだこの失礼な奴。台風でも起こして宿ごと吹っ飛ばしてやろうか??
「悪かったって、そんな怒んなさんな。嬢ちゃんは初耳か?今日から14日間は皇太子殿下の帰国を祝うお祭りが開催されてる。なんせ1年ぶりの帰国だからな、盛大なものよ。だからその間この国のどこに行っても空いてる宿屋はもうねぇと思うぞ」
……え、パードゥン?
イヤイヤ、冗談はよしてください!私の空耳かなーー?だ、だって皇太子様が帰ってきただけでしょ!?皇太子殿下ってあれでしょ、王様の子供の王子様でしょ?海外出張なんて普通でしょ!ねぇ!
「……さすがに嘘よね?世界地図でいちばん大きい国でしょ、ここ」
「嘘なんかじゃないさ、こんな田舎の宿屋にまでよその国から客が祝に来るんだ。それだけ皇太子殿下が人々に好かれているということさ」
す、好かれているとかそんなもんじゃないよ!これが本当ならアイドル並みですけど、海外のトップスターが日本にやって来ちゃったくらいのレベルだよ!
まぁ、私は嫌い。ついさっき嫌いになりました。会ったことないあなたのせいで私泊まる宿がありません。野宿です!
よりによって何故今日からっ…!!
思わず頭を抱えてしゃがみこむ私を見ておっちゃんがおいおい大丈夫か?とカウンター越しに心配してきた。ごめん、今はそっとしておいてくれ。自暴自棄になりそうだ。
「……はぁ…。ちょっとわかんないんだけど、この国だけでならまだ分かるけどなんで他の国の人達までわざわざ祝に来るの?」
頭を抱えたまま質問すると私のそばに来てしゃがみこんでくれた
あの、気遣いは嬉しいんだけども、視線痛いからやめて。仕方ないので立ち上がる。
「それはな、皆、皇太子殿下に救われた者達さ」
あー、はいはい。アイドルじゃなくてスーパーヒーローだったのね。ですが私はスーパーヒーローな王子のせいで被害被ってる最中なんですがね。
そこんとこ、どーゆーお考えで?