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Peaceful  作者: 石丸優一
7/24

Guess

激動の一日が終わり、数日が過ぎた。

 

今日もスティーブは会社へ向かう。

 

 

「うぃーす」

 

「おはよー!」

 

「やぁ、スティーブ」

 

「スティーブ、おはよう」

 

ミリアとアル、ゴメスが出勤していた。

 

「ラファエルはどうしてる?」

 

アルが耳打ちしてきた。彼はマーカス伝いに、スティーブがファントムズのリーダーになった事を聞いている。

 

「元気だぜ。腕っ節が強い弟じゃねーか。

ウチのメンバーとしては申し分ねー」

 

「それでも心配なんだよ。

とにかく今は、抗争が起こらなかった事で一安心だがな。ありがとう」

 

 

「よう、みんな!俺様の登場だ!」

 

マーカスも事務所にやってきた。

その場の全員が挨拶を返す。

 

「スティーブ、こないだはヤバかったなぁ!興奮したぜ!」

 

「またその話か。もう飽きた」

 

「あー?なんだよ、つまんねー!」


ケンカがあってからというもの、マーカスは毎日こんな調子だ。

 

「てめーは指くわえて見てただけだからそう言えるんだろーが。

ケンカになりゃあウチを潰したらイイ、って意気込んでたくせによ」

 

「うるせー!てめーを守ってやったんだろ!」

 

「はいはい!朝から言い合いしてないでぇ!

仕事にかかるよぉ」

 

いつものようにミリアが二人を仲裁する。

もちろんミリアもスティーブがチームに復帰し、悩みが解決したのは知っている。ここにはいないがロッソも同じだ。

 

「あ、そうだ。ケイティから配車要請がきてるよ。

スティーブ、彼女の家分かるよね?」

 

「んなぬっ!?」

 

「おう、分かるぜ。喜んで迎えに行くよ」

 

スティーブより先にマーカスが反応している。

悔しさと羨ましさが入り混じった視線を向けてきた。


 

ブロロ…

 

ガチャン。

 

「あら!おはよう、スティーブ」

 

「おっす、ケイティ。また会えて嬉しいぜ」

 

ケイティは赤毛を左右に三つ編みし、灰色のハットをかぶっていた。

白いホットパンツに、太ももまであるブーツを合わせている。

 

「図書館までお願いします」

 

「了解。そうだろうと思ったよ」

 

スティーブがタクシーを発進させる。

 

『よう!マーカスだ!

デートは順調かよ、色男!』

 

「あー、うっせー」

 

早速マーカスが嫌みを無線機から投げかけてくる。

 

「返さなくて大丈夫ですか?」

 

ケイティが笑う。

 

「んー、そうだな。

…スティーブだ。ケイティは今日も素敵だぜ。イイ雰囲気が壊れるから外野は黙ってろ」

 

『んだと、こらぁ!』

 

『スティーブぅ、ケイティに変な事しないよーに!』

 

「了解、なるだけ頑張ってみよう」

 

「あら、私に何かしたいんですか?」

 

ケイティには冗談が通じないので要注意である。


「は?あー…そうだな。デートに誘いたい気分だよ」

 

ストレートに欲望丸出しで「やらせろ」なんて言ってしまえばミリアの雷が落ちる。

スティーブはやんわりと文学少女にアプローチした。

 

「いいですね!是非!」

 

「おぉ?受けてくれるのかよ」

 

「もちろん!」

 

警戒心がまるでないらしく、ケイティはスティーブの誘いを承諾してくれた。

 

「マジかよ!今夜はどうだ?」

 

「えぇ、いいですよ」

 

にこりとケイティが笑う。

 

「酒は飲めるか?」

 

「はい!少しなら飲めます!」

 

「よしきた!じゃあ、メシと一緒に酒も飲める店にしよう!」

 

夜の楽しみが出来たスティーブは上機嫌だ。

愛するミリアには悪いが、ケイティにはきちんと同意を得ているので飲みに行くぐらい何の問題もない。


ケイティも本気で楽しみらしい。

本の話でもないのに声が大きくなってはしゃいでいる。

 

「スティーブ、電話番号教えて下さい!」

 

「ほらよ」

 

運転中なので、スティーブは自分の携帯を後ろのケイティに放る。

 

「はい、登録出来ましたよ。私は昼過ぎには家にいますから、お仕事が終わったら電話してね」

 

「任せとけ。今日はしっかりメシ代を稼いでおくよ」

 

「うふふ、ありがとう!

楽しみですね!」

 

 

タクシーがクーパーユニオンライブラリに到着した。

 

「それじゃまたね!スティーブ!」

 

手を降って去っていくケイティ。

スティーブの好みであるグラマーな女とは少し違うが、可愛い女だなとそれを見送った。

 

「許せミリア…俺は男なんだ!」

 

意味深な独り言を発し、スティーブが勤務に戻る。


 

「あら、スティーブ。お帰りなさい」

 

勤務時間が終了し、スティーブが一番最初に事務所に戻ってきた。

 

「よう」

 

ミリアとは目も合わせず、そそくさと帰ろうとするスティーブ。

 

「…?」

 

ミリアは不審に思う。

ちょうど、マーカスのタクシーも戻ってきた。

 

「ようようー!おつかれさーん!」

 

「マーカス、おかえりぃ」

 

スティーブは一応はマーカスに向けて手を上げた。

 

「スティーブ、何か用事?」

 

たまらず訊くミリア。

 

「ん!?いや…あぁ、まあな」

 

「ヘイ、スティーブ!なんだなんだ!

ミリアと三人で飲みに行こうぜ!」

 

マーカスがわざと予定を押しつけてくる。

 

「わりーな、今度にしてくれよ」

 

「あー?俺様の誘いを断ってんじゃねーよ、タフガイ!」

 

「謝ってるだろうが!じゃあな!」

 

ドルン!


「なんだあれ?」

 

「なにかしらねー?」

 

スティーブを見送る二人。

 

「ま、あんなカスはシカトしといて飲みに行こうぜ!」

 

「アタシは安くないよー」

 

「分かってるって!」

 

 

 

自宅にバイクを停め、シャワーを浴びるスティーブ。

 

新しいリーバイスを履き、気合いは十分だ。

 

携帯電話を取り出す。

 

プルプル…

 

「もしもし」

 

「よう、ケイティ。仕事から帰ったぜ」

 

「ハイ、スティーブ。

お疲れ様でした。迎えに来てくれるかしら?」

 

「あぁ。タクシーを呼んで迎えにいくよ。楽しく飲もうぜ」

 

もちろん別会社のタクシーを家に呼び、母親に夕食は外で食べると告げた。

 

 

「ハワードビーチへ向かってくれ」

 

運転手に行き先を伝え、ケイティの家に向かう。


「ドライバー。今からガールフレンドを拾うんだ」

 

「ほーう。そりゃ楽しみだね、兄さん」

 

初老の運転手は上機嫌なスティーブの話に適当に返した。

 

「彼女を乗せたらマンハッタンに頼むよ」

 

「了解。素敵な夜になるのを願ってるよ」

 

やがて住宅街に入り、ケイティの姿が確認できた。

 

ガチャン。

 

「こんばんは、スティーブ!」

 

「よう、かわい子ちゃん」

 

「それじゃ、出すよ」

 

ケイティは朝会った時と同じ格好をしていたが、髪の三つ編みだけは解いている。

 

「リトルイタリーのレストランでディナーなんてどうだ?」

 

「オーケー!ちゃんとお腹空かしてきました!」

 

「ドライバー、リトルイタリーで降ろしてくれ」

 

「あいよ」

 

タクシーがダウンタウンを目指す。


 

料金をスティーブが支払い、二人は地面に足をつけた。

 

「うーん、いいにおい」

 

時刻は午後七時。

軒を連ねるいくつものイタリアンレストランからは香ばしいニンニクやチーズのにおいがしている。

 

「この店なんかどうだ」

 

「はい!」

 

適当にスティーブが店を選び、二人は入店する。

 

「いらっしゃいませ。お二人様でございますね」

 

スーツ姿の従業員が彼らを席に案内する。

 

「せっかくだ。テラス席でも構わないぜ、ケイティ?」

 

「私はどちらでも構いませんよ」

 

二人の会話を聞いた店員が「ではテラスへどうぞ」と言って席を換えてくれた。

メニュー表とナプキンを置き、彼が去っていく。

 

ケイティは早速メニュー表を開き、ワインの欄を楽しそうに見つめている。


「なんだ、ワインに詳しいのか?」

 

「いいえまったく!ただ、イタリア語が並んでいるのって楽しくないですか?

特にワインの名前なんて面白くて!」

 

「そ、そうか」

 

スティーブにはよく分からない考えであるのは言うまでもない。

 

「ウェイター!」

 

「スィ」

 

イタリア語で「はい」と返事をして、店員が寄ってくる。

二人は安価なテーブルワインと肉料理、さらにピザを注文した。

 

「イタリアンレストランだから店員さんもイタリア人なのかしら?」

 

「スィ、シニョリーナ」

 

「わぁ!『お嬢さん』ですって!」

 

ウェイターが微笑んでメニュー表を持って下がる。

ケイティは文化的なものには何にでも興味を持つ性分のようだ。

 

「ニューヨークは人種のサラダボウルだからな。色んな奴がいるさ」

 

「そういえばあなたも英国紳士でしたよね、スティーブ!」

 

「いや、あれは…」


もういちいち説明するのが面倒なので、スティーブはイングランドの出身であるという事で落ち着いた。

物心つく前の話だからイギリスの事は訊かれても知らない、と付け加えておく。 


「あ、ワインが来ましたよぉ」

 

先ほどのウェイターが二人にワインを注いでくれた。

中身が半分ほどになったボトルをテーブルに置いて帰っていく。

 

「乾杯しようか」

 

「せっかくだからイタリア語で!」

 

「はぁ?めんどくせー。

何て言うんだったか、サルー?」

 

「ふふ、それはスペイン語ですよ。

サルーテぇ!」

 

「大して変わんねーじゃねーか!

サルーテ!」

 

グラスがチン、とぶつかり、ケイティは一口ちびりとグラスを舐める。

酒に強いスティーブはごくごくとそれを飲み干した。


「すごいですね!お水みたいに!」

 

「あー?まあワインなんかスコッチやテキーラに比べれば水みたいなもんだぜ」

 

確かにワインはリキュール類よりもアルコール度数は低い。

水だという表現は言い過ぎではあるが。

 

数分後にピザと肉料理が運ばれて、二人は舌鼓をうった。

 

「おいしい!」

 

「うん、ウマいメシとイイ女。最高だな」

 

「あら!私はイイ女なんですか」

 

ケイティが頬を赤くするのは酒のせいではなさそうである。

 

「もちろんだ。街で声かけられないか?ナンパみたいによ」

 

「街で?んん…若い男性に道はよく訪ねられます。

きちんと場所を教えて送ってあげようとするんですけど、途中で食事や遊びに話がすり替わるんですよね。みなさん気が変わりやすいのかしら」

 

「なんか…すげーな、おめー」

 

鈍感というレベルではないだろう。騙されていないか心配になってしまう。


「スティーブは?街で声かけられます?」

 

「どういう意味だよ?警官にならよく職務質問されるかな」

 

「いや、女性に…え!?お巡りさん!?

あなた強そうだからスカウトですよ、それ!」

 

「えーと、ニューヨーク市警はモデル事務所みたいな雇用制なのか?」

 

料理を食べ終わる。

皿を下げてもらい、スティーブはさらに追加のワインを注文した。

 

「私も、もう少し飲みたい気分だったの!ありがとうございます!」

 

ケイティは意外と平気そうだ。

酒で豹変する女ではなかった事に感謝する。

 

「彼氏は?いないのか?」

 

「いないんですよねー。かれこれ二年です。

これじゃ仕事と図書館通いの人生になっちゃう」

 

ケイティは通りの車の流れを見ながら、大きなため息を一つ。

 

「仕事は何を?」

 

「司書です」

 

「ははは!つまり、図書館通いだけじゃねーか!」


「もう!痛切なんですよ!

笑ってられません!」

 

「そうかそうか」

 

スティーブはニヤニヤしながらメンソールに火をつける。

 

「スティーブは決まったガールフレンドいますか?…っていうかすごいタトゥーですね!」

 

メインの質問と一緒に今更な意見もくっついてきた。

天然な件ではミリアも強敵だが、今のところケイティの方が一枚うわてだ。

 

「いや、いないぜ。立候補してくれよ、ケイティ」

 

「ふふ!アタシでよければいつでもお付き合いしますよ」

 

「そいつは嬉しいな」

 

 

「あぁぁー!!」

 

良い雰囲気の二人の仲を切り裂く大声。

目の前の通りからだ。

 

「スティーブじゃねーか!」

 

「あ?げっ、マーカス!」

 

テラス席から見えた知人に、スティーブも素っ頓狂な声を出す。


「えっ?スティーブ?あら、本当だ」

 

そして彼の横には意中のミリアお嬢様だ。

彼らも二人で飲み歩いていたらしい。

 

「あら、ミリア!」

 

それに気づいたケイティがミリアに手を振る。

これはスティーブには災難だ。

 

「ケイティ!?スティーブとデートしてたの!」

 

「そうだよー。あなた達も一緒にどう?」

 

「おー!噂のケイティか!

いいね、行こうぜ!」

 

マーカスが話に乗り、二人はスティーブ達のテーブルにやってきた。

 

「あらあら、スティーブ。

これはどういう事かしら」

 

席についたミリアは笑顔だが、スティーブは虎に睨まれたかのように固まる。

 

「へ、変な事してるわけじゃねーだろ!」

 

「そうそう、食事とお酒を楽しんでるんだよ!」

 

絶対に余計な事を言うなよ!と、スティーブはケイティに視線を送る。


「てめーも手が早いな、スティーブ?

よう、プレイボーイさんよ」

 

「メシ食ってるだけだろ!」

 

マーカスは誰よりも楽しそうだ。

スティーブをいじれるのがこれ以上ない快感なのだろう。

 

「ま、確かに何もなさそうだし。

こそこそ隠さなくても良かったのに」

 

彼女の言うとおり、やましいことはない。ミリアは本当に何も気にしていない様子だ。

 

とりあえずスティーブはその言葉で安堵した。

 

「こそこそ?」

 

これはケイティだ。

 

「コイツは俺様の誘いを理由も言わずに断ってよ。

それでミリアと二人で遊んでたんだが、こういう事だったんだな」

 

マーカスがうんうん、と大きく頷いている。

 

「てめーがいたらケイティに変な事すると思ったからな。

ミリアだけだったら問題なかったんだぜ?」

 

「なんだと、てめー!」


「はいはい、お店で騒がないよぅ」

 

ミリアが二人を落ち着かせる。

 

「ん?」

 

スティーブの横にいるケイティがいつの間にか彼のシャツの袖を掴んでいる。

怖がっているようだ。

 

「よう、マーカス!てめーが乱暴だからケイティが怖がってるじゃねーか」

 

うるうるとした瞳で彼女はマーカスを見ていた。

 

「何っ!?すまねー、ケイティ…

今のはコイツとじゃれあってただけだからよ?な?」

 

「あーあ。マーカスの奢り決定な」

 

「あぁ!?なんでだよ、こらぁ!」

 

ギュッ。

 

今度はケイティが両手でスティーブにしがみついた。プルプルと身体が震えているのが分かる。

ミリアも「やれやれ」と首を振った。

 

「あぁ、違うんだって!ケイティちゃーん!」

 

「バーカ」と舌を出すスティーブ。彼の作戦勝ちだ。


 

ワインを追加で二つ頼み、支払いはマーカスに押しつけた。

 

「くそぅ…何で俺が…うぅ」

 

「あー楽しかった!ご馳走さま、マーカス!」

 

怖がっていたケイティも楽しそうにマーカスの背中を叩いた。

もしや演技だったのでは、と疑いたくなるような変わりようである。

 

「さて、俺達は帰るとするか。またなミリア、マーカス」

 

「帰り道もしっかりとケイティを頼むねぇ、スティーブ!」

 

「ちくしょー!飲み直すぞ、ミリア!」

 

「はいはい」

 

別の店に繰り出そうとするマーカスとミリアに別れを告げて、スティーブ達はタクシーを捕まえた。

 

「ブルックリンまで」

 

「はい、どうぞ」

 

女性ドライバーの運転で、ハワードビーチに向かっていく。


「楽しめたか?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

色々あったが、最終的にはケイティに喜んでもらえた。

ミリアの方も心配ないだろう。

 

マーカスには気の毒だったが、それはスティーブにはどうでも良かった。

 

「また遊ぼーぜ」

 

「もちろん!私はあなたのガールフレンドですよ?

いつでも誘って下さいって言ったじゃないですか」

 

「そうだったな」

 

スティーブにも笑みがこぼれる。

 

 

「そうだ。ミリア達はもう一軒飲み直しに行ったみたいですし、私達もどうでしょう?」

 

「おー。なかなかイケるじゃねーか、ケイティ」

 

しかしタクシーはすでにハワードビーチだ。

 

「今から店を探すのもなんですし、私の家でイイですか?

ウィスキーくらいしかありませんけど…」

 

「マジかよ?大丈夫だぜ。そんじゃあ、お邪魔させてもらうか」

 

スティーブは心の中で勝利宣言を声高らかに発した。


 

「どうぞー」

 

ケイティの家は一軒家で、借家として彼女が借りているらしい。

 

そんなに大きな家ではないが、一人で住むには充分すぎるくらいだ。

 

「本が多いな」

 

スティーブが通されたのは寝室ではなくダイニングだが、そこにも本棚がある。

 

「好きなので。はい、お待たせ」

 

ワイルドターキーがロックで出された。

 

「なかなか渋い酒だな」

 

スティーブの口にバーボンウィスキーの味が広がっていく。

 

「おいしいですか?」

 

「あぁ。アメリカって感じだな」

 

ケイティは自分の飲み物は用意せず、両手でテーブルに頬杖をついてスティーブを見つめている。

 

「おめーも何か飲んだらどうだよ?ただ観察されても飲み辛いぜ」

 

「えっ!?

あぁ!そうですね!いただきます!」

 

スティーブに促されると、ケイティは氷を多くいれたグラスを準備し、酒を限りなく少なめに注いだ。


「それじゃ、可愛い彼女に」

 

「ワイルドで素敵なダーリンに」

 

「「乾杯!」」

 

口をつけたはイイものの、強すぎる酒にケイティは顔をしかめた。

 

「ははは!水でも足すか?

日本や韓国みたいな国じゃ、ウィスキーやらブランデーを水で割るらしいぜ」

 

「え?そうなんですか?」

 

言われた通り、水をグラスに足すケイティ。

物怖じせずにもう一度口をつけた。

 

「すごい!これなら大丈夫そうです」

 

「良かったな」

 

「私もまだまだ知らない事があるんだなー。

もっと読む本を増やさないと」

 

「間違いなく誰よりも知らない事が多いぞ…」

 

「え?」

 

世間知らずだという言葉はターキーと一緒に飲み込んでおく。

 

「そうだ、ケイティ。家族は?」

 

「両親と祖父母なら近くに住んでます。

歩いて行ける距離なので、一人暮らしなのにそうじゃないみたいですよね」


「何か大きな意味があるのか?」

 

「いえ、自立心を鍛える練習です。

でも何かあるとすぐに帰っちゃうんですよぅ」

 

確かに親が近くにいれば、誰だって甘えてしまうだろう。

 

「俺も変わらねーよ。家族には頼りっぱなしだ」

 

「そうなの?スティーブは家族にもつんけんしてそうです」

 

「あー…してるかもな」

 

日々のレベッカとのやり取りが頭をよぎる。

 

「ふふ、でも優しさはちゃんとあります。

お仕事中の無線を聞いてて思ったんですけど、みんなあなたが好きなんですよ」

 

「なんだそりゃ?」

 

「みんな『スティーブ』『スティーブ』って話しかけてくるし、人気者なんだろうなって」

 

「知らねーよ。アイツら揃いも揃って俺をからかってんだろ」

 

「いーえ!みんなあなたが好きなの!

その証拠に、私もあなたが大好きになってしまいましたから!」

 

ケイティはそう言って、スティーブに口づけした。


ケイティが大胆な行動を取るとは予想していなかったので、これは完全に不意打ちだった。

 

唇を離し、ケイティがはにかむ。

 

「…ご馳走さん」

 

「え!?ヒドい!」

 

「バカか!酒の話だよ!

もう充分飲んだからな!」

 

「あ!え!ごめんなさい!」

 

自分で仕掛けておきながら、ケイティはあたふたと焦っている。

かわいらしいその娘の身体を引き寄せ、スティーブは軽々と彼女を持ち上げた。

 

「あら…?」

 

「さーて、まだご馳走が残ってるんじゃねーか?」

 

そのまま、扉が開いている寝室へ。

ベッドに寝せ、スティーブは雑にケイティの衣服を剥ぎ取っていく。

 

「ちょっと…スティーブ」

 

一糸纏わぬ姿になったケイティに口づけして黙らせると、スティーブは彼女の全てを奪った。


 

 

翌日。午前七時。

 

裸のままスヤスヤと眠っているケイティをその場に残し、スティーブは服を着て彼女の家を出た。

昨晩寝る前にケイティが今日は休みだと言っていたので、特に起こす必要もないだろう。

 

「んぁぁ、俺も休みで良かったぜ」

 

玄関先で大きく伸びをして、両手をパキパキと鳴らす。

 

「さて、どうやって帰るか。走るにはちっと遠いな」

 

タクシーを呼ぼうかとも考えたが、スティーブは携帯電話で遠慮なくメンバーに連絡を取った。

 

「…なんだよ…まだ寝てたぞ」

 

「アンディ。拾ってくれ。

ハワードビーチだ」

 

突然起こされたアンディは不機嫌だったが「二十分待て」と言って通話を終わらせた。

 

 

「スティーブ…帰るの?」

 

「うおっ!?起きちまったか!」

 

携帯をポケットに突っ込んだところで、背中にケイティの身体が触れる。


スティーブが振り返って彼女と向き合い、軽く抱きしめた。

 

「今日は休みなんじゃねーのか?寝てろよ」

 

「ううん、ちゃんと見送ります」

 

Tシャツに短パン、ノーメイク姿の彼女はとても幼く見えた。

女は男に比べると、見かけで大きく変わるものだ。

 

「そうか。今ダチを呼んだからよ、紹介するぜ」

 

「え?ちょ、ちょっとお化粧してきます」

 

ドタバタと家に駆け込むケイティ。

 

十分後にはスティーブのところに戻ってきた。

 

ブロロ…

 

「お、来たな」

 

アンディのエコノラインが見える。

 

 

「ボス、人使いが荒いぜ」

 

「よう、兄弟。起こしてすまねーな」

 

拳をぶつけて挨拶を交わす。

 

「おはようございます。お迎えご苦労様です」

 

次にアンディがケイティを見ると、彼女は丁寧に言葉を発した。


「スティーブの女か?

初見だな。俺はアンディだ」

 

「ケイティです」

 

「アンディは昔から俺を知ってる。今もこうして仲良くやっててな。腐れ縁ってやつだ。

…ケイティは最近知り合ったばかりだが、俺の大事な女だ。箱入りだから荒いのは勘弁だぜ、アンディ」

 

スティーブが軽くお互いを紹介してやった。

 

「ケイティ。スティーブはイイ奴だ。

強い男を選んで正解だな。お前らの幸せを願ってる」

 

「はい!」

 

ケイティは素直に嬉しそうだ。

 

「よし、アンディ。ウチまでいいか?」

 

「任せとけ。じゃあまたな、ケイティ」

 

「はい、ごきげんよう」

 

スティーブがケイティにキスをしてエコノラインに乗り込む。

車が曲がり角で見えなくなるまで彼女は見送ってくれた。


「イイ女じゃないか。

だが、お前も好みが変わったな?」

 

「俺も自分で驚いてるよ。

嫁さんは元気か、アンディ」

 

「さあな。息子共々元気でやってるだろう」

 

アンディは既婚者だった。

しかし離婚しており、息子と元妻とは離れて暮らしている。

 

「あー?まさか別れたのか?」

 

「お前が塀の中にいる時の事だ」

 

スティーブはそれを知らなかったので、アンディも彼が話題をふった事を咎めたりはしない。

 

「そうだったのか」

 

「出てきてからは、昔の女達には会ったか?」

 

「会うわけねーだろ。とにかく今はケイティに夢中だぜ」

 

「彼女もいつでもホームベースに連れてこい。

ほとんどの奴のガールフレンドは入り浸ってる」

 

「ありがたく遠慮しとくぜ。ケイティはそんなガラじゃねーからな」


車がスティーブの家に到着した。

 

「ありがとよ」

 

「今日は出てくるのか、スティーブ?

俺はもう一度寝てから昼頃には仕事に行くが」

 

「そうだな。これから行ってみようと思う。

誰かいたか?」

 

「分からん。誰もいないって事はないとは思うぞ」

 

もちろんアンディが知るわけないな、とスティーブも納得する。

 

「わかった。それじゃあな、兄弟」

 

「また会おう」

 

握手をして、彼らは別れた。

 

 

部屋に入る。

レベッカは朝から仕事でおらず、母親が掃除機をかけていた。

 

「お袋」

 

「おや?スティーブかい」

 

母親が振り返る。

 

「帰って早々だが、出かけるよ」

 

「何か食べていくかい」

 

「あー、そうだな」

 

「ちょっとお待ち」

 

掃除機を片付け、彼女はキッチンに立った。

何か作ってくれるようだ。


ジュウ…!

 

フライパンが音を立てる。

 

挽き肉とタマネギを炒めているようだ。

朝からスタミナがつきそうである。

 

皿の上に置いた円くて薄い生地に今炒めたものを乗せ、刻んだトマトとレタスも加える。たっぷりとチリソースをかけて生地ごと折りたためば、ママ特製タコスの出来上がりだ。

 

「はい、おあがり」

 

「ありがとう」

 

アツアツのタコスを豪快にほおばるスティーブ。

レタスのシャキシャキとした食感がたまらない。

 

「うまいよ」

 

「出かけるのもイイけど、自分の部屋くらいたまには片付けなさい」

 

「あー?わかったよ…今度な」

 

料理の感想には聞く耳を持たず、母親はキッチンから洗面所に向かった。

次は洗濯をするようだ。午前中の主婦は世界一忙しい。


 

 

ドドド…ドドド…

 

スティーブがホームベースに着く。

廃ビルの扉の前には一人の若者が見張りとして立っていた。

 

「よう、ご苦労さん」

 

「お!リーダー!」

 

「中には誰かいるか?

バイクは何台か停まってるみたいだが」

 

退屈そうだった彼の顔が明るくなる。

 

「あぁ!ジャックとスコットが寝てるぜ」

 

「寝てんのかよ」

 

スティーブは扉の前の階段に腰を下ろした。

せっかくクラブハウスに来て、寝ている人間と一緒にいたところでどうしようもない。

 

 

「ラファエル」

 

「あー?」

 

そう。見張りの彼の名はラファエル。

アルの弟である。

 

ガリガリの兄とは対照的な筋肉質な男だ。

 

「眠いなら俺が見張りを代わってやるぜ」

 

「リーダーにそんな事させるわけねーだろ!」

 

「ま、おめーが代わるなんて応えたらぶっ飛ばしてたけどな」

 

「チッ!なんだよ、それ!」

 

ラファエルが地面に唾を吐く。


スティーブは今のところ、アルとの関係をラファエルには明かしていない。

 

というよりも、タクシー会社で仕事をしていることすらメンバー達には誰一人として話していなかった。

単に『一年間はやらなくちゃいけない大事な仕事がある』と言っているだけにすぎない。

 

大半のメンバーは日雇いなどの仕事をしているが、チームのことになれば飛んでくる。

そんな中、リーダーが定職につき、なおかつ毎日仕事に行くというのは異例であった。

 

「ラファエル、ウチに来る前は何をしてたんだ?」

 

「プエルトリコにいたぜ」

 

「こっちに来てからは?」

 

「なんだよ急に?」

 

ラファエルもスティーブの横に座る。

 

「おめーとは知り合って間もないからな。

言いたくねーならそれでイイ」

 

「…レストランで調理の見習いをしてた」


別に隠したいわけでも無いようだ。

 

「コックか!次にバーベキューをやる時はおめーが調理担当決定だな!」

 

「うぜーよ!

それより、スティーブ。

今夜はアンタのドッグファイトだろ。捕まらないようにしっかりやれよ」

 

「あー?そうだっけか?クソだりー」

 

「けっ!余裕ぶっこいてんじゃねーよ!」

 

ガチャ。

 

二人の後方で廃ビルのドアが開いた。

 

「んー…よく寝た。

あぁ?なんだ?」

 

階段に座り込んでいるスティーブとラファエルに気づいてそう言ったのはジャックだ。

寝癖でボサボサになった頭を掻いている。

 

「よう」

 

「お、スティーブか。

ラファエル、何座り込んでんだよ」

 

二人の肩を飛び越え、ジャックは彼らと向き合った。

 

「立ってようが座ってようが、起きてりゃ見張り番は成立すんだろ」

 

「気楽なもんだな。

さて、俺はブツでもさばいてくるからよ。じゃーな、おめーら」


ジャックが愛馬のVロッドに跨がって走り去っていく。

『ブツ』と言ったが、彼は何かを捌いて生計を立てているようだ。

 

個人的な事にまでスティーブは首を突っ込んだりはしない。もちろん、ラルフの代でもそうであった。

 

仕事は自由。ドラッグをやろうがケンカをしようがお咎め無し。但し、チームに迷惑をかければ容赦はしない。

 

「コークだ」

 

聞いてもいないのに、ラファエルがスティーブに言った。

 

「興味ねーよ」

 

「寝る前にスコットと二人で一発キメてたからな。

試食だ、とかほざいてたよ」

 

コークとはコカインの略称である。

ジャックはそれを売りに行った、という事だ。

 

「バカが。やりすぎてイカレてきたら頭を弾いてドブに捨ててやるよ」

 

黙認だが、スティーブは感心しない。


「お優しいことで」

 

ラファエルが茶化す。

 

「おめーはどうしてんだ?同じようにヤクを捌いたり?」

 

「手には入ればたまにはやるが、めったにやらねー。

だいたいあんなもんは毛も生えてねークソガキが買うか、クラブで女に股広げさせる為にボンボン共が使うくらいなもんだ」

 

「言うじゃねーか。

じゃあ何がおめーのお気に召すんだよ?」

 

「この拳よ」

 

ラファエルが右手を握りしめてスティーブに見せた。

拳だこが出来ている。常に人を殴りつけている証拠だ。

 

「おいおい、波動拳でも出るんじゃねーのか。

オヤジ狩りでもやってんのか?料理人が聞いて呆れるぜ」

 

「バカやろう!試合だ、試合!

ファイトマネーで稼いでんだよ!」

 

「ファイトマネー?どこぞの地下闘技場でか?」

 

「そういうこった。イカレたスポンサー共に感謝だぜ」


いろんな稼ぎ口があるものだな、とスティーブが苦笑いする。

 

「ボクシングか?」

 

「公式に試合出来る代物が地下に潜るわけねーだろ。武器使用以外はルール無用のストリートファイトだ」

 

「スポンサーってのは?」

 

「マフィアの連中にヤク売買の頭取、政治家、果ては病院の院長先生や映画俳優まで。

とにかく血を見るのが好きな狂った奴らさ。メインはそいつらの賭博目的ってわけ。

終わってんだろ」

 

ラファエルは楽しそうだ。

偽善者への悪口が面白いのだろう。

 

「くだらねー。表で病人を治したり国を正しといて、裏では怪我人を出すサポートかよ?

テレビに映る奴らの笑顔は、にやけ面したポスターをホッチキスで止めてあるだけに違いねーな」

 

「同感だ。この世に聖人がいるのなら連れて来て欲しいぜ。

目の前でソイツのお袋を犯してやるよ」

 

「クソおもしれーな、それ」


スティーブがくしゃくしゃのメンソールを一本取り出して火をつける。

 

「アンタは?大事な仕事ってのは何なんだよ」

 

「…吸うか?」

 

「いらねー。タバコ吸わねーんだよ、俺は」

 

「…何てことはない、普通の会社勤めだ。

だが、最低でも一年間はやり遂げるって約束したからな」

 

ほう、とラファエルが声を上げる。

 

「捕まってた間には家族にも迷惑かけたからな。そのくらいの約束は守って、少しは恩返ししてやりてーのさ。

おめーにも大事な家族がいるだろ、ラファエル?」

 

意地悪な事を言ってみる。

 

「…俺の家族はファントムズMCだ」

 

「そうだな。ファントムズは兄弟であり、家族だ。

生死を分かち合える強い絆でつながってるからよ」

 

「…」

 

「だが血のつながりもまた、家族だ。

冷めてようが腐ってようが、必ず自分が生まれ育つ切っ掛けになる」


別に何か答えを出させようとはせず、スティーブは立ち上がった。

 

「あぁー!自分で言ってて何だか難しくなっちまったぜ!

俺が思うに、周りの奴らはみんな大事だぜ、って話だな!」

 

「なんだよそれ!カッコつけんじゃねーよ、スティーブ!」

 

「うるせー!じゃあちょっと出るからよ。

スコットが起きたらシャブ中は死ね、って言っとけ!」

 

「アンタが死ね!」

 

ショベルヘッドを起こす。

 

ドルン!

 

「夜までには戻る。愛してるぜ、カス野郎」

 

「帰ってくんな!」

 

ドドドドド!!

 

 

 

急にスティーブが動いたのは、今夜のドッグファイトをすっかり忘れていたのが理由である。

 

レベッカのガソリンスタンドで給油し、新品のタイヤを見てみようと馴染みのバイクショップに立ち寄った。


『ブルックリン・チョッパーズ』

 

店に掲げられた看板にはそう記してある。

 

店舗とはいえ、大型のガレージがあるのみで、その中に様々なバイクや工具が置いてあった。

まさに町の修理工場といった雰囲気だ。

 

作業場で数人の男達がバイクをいじっていたが、そこにスティーブが入っていく。

 

「うぃーす」

 

「お、スティーブか!久しぶりじゃないか!」

 

一人の男がオイルまみれの顔を上げた。

 

「二年ばっかし、別荘に行ってたからよ。

元気そうでよかったよ、クラーク」

 

「だはは!ファントムズは相変わらずクズの集まりだな!」

 

クラークは以前からスティーブのバイクの修理や改造に手を貸してくれているブルックリン・チョッパーズの社長だ。

スティーブが言う『別荘』が刑務所だという事はクラークにはわかっている。


「で、今日はどうした?ショベルの調子が悪いのか?

どら、見てやるからこっちに入れろ!」

 

「いや、絶好調だぜ。しっかりオイルもにじみ出てる」

 

「だはは!当たり前だ!オイル漏れしないバイクなんざ、心配でたまらんわい!」

 

面白い事を言うものだが、これは旧式のハーレー乗りの間では半ば常識となっている。

 

一般的な人間ならば、オイル漏れをしていたら心配である。

しかしオイル漏れを起こして当たり前の骨董品の場合、オイルが漏れていない方が心配なのだ。

 

その理由は『オイルが漏れている間はオイルが入っている』逆に『オイル漏れをしなくなったら油が入っていないから危険だ』というトンチのきいたものである。

 

細かい事を気にするくらいなら新型のスクーターにでも乗ればイイ。それが彼らの教えだ。


「中古で構わないからタイヤを譲ってくれねーかと思ってな」

 

「おぉ、タイヤか。なんでも構わんならインドネシア製のクソみたいなタイヤがあるぞ。

前後で40ドルにしといてやる」

 

タイヤの質で言えば、ブリヂストンを筆頭とする日本製が段違いで高性能である。

他にはグッドイヤーなどのアメリカ製、ハンコックなどの韓国製、イタリアのピレリ、フランスのミシュランあたりが有名だ。

 

「あぁ、タイヤ溝さえ残ってれば何でも構わねー」

 

「ゴムがガチガチすぎてトロッコみてぇな乗り心地だ。膀胱炎になったって知らねーぞ。

わかったらさっさとバイクを入れろ!」

 

「うっせーな!今押してるだろうがヒゲダルマめ!」

 

クラークは恰幅のいいオヤジで、確かにヒゲで覆われた顔構えはヒゲダルマと呼ぶに相応しい。


 

「ぎゃあぁ!スティーブ!てめー何て乗り方してんだ!」

 

スティーブのショベルヘッドを見るなり、ヒゲダルマが悲鳴を上げた。

 

「だからタイヤを替えにきたんじゃねーか!」

 

「遅いんじゃ、ボケナスが!

俺はMotoGPマシンでも見てる気分だぞ!」

 

客相手とは思えない言い草だが、古い付き合いの二人は昔からこんな調子だったのであろう。

 

「御託はイイからさっさとタイヤ交換しろよ、クラーク!」

 

「やれやれ…メカニック泣かせなオーナーだ。

ファントムズの連中ときたらどいつもこいつも!」

 

くわえタバコをイライラと噛みながらクラークがショベルヘッドをいじる。

 

「タカのマシンもそうかよ?

そういえばアイツは休みか?」

 

「あー?タカヒロか?そのへんにおるだろ。

おーい!タカ!お前のところの小僧が来とるぞ!」


クラークが大声を上げると、工場の奥からアジア系の青年が現れた。

ディッキーズ製の赤いツナギを着て、頭にタオルを巻いている。

 

「なんだよ、ヒゲ?」

 

「社長と呼ばんか、バカもん!

ほれ、スティーブが来とる」

 

「お?よう、スティーブ!タイヤ交換か?」

 

「おう、今夜の為にな」

 

「そうか、ドッグファイトだったな」

 

ここで整備士をしている日本人、タカヒロは、なんとファントムズの一員でもあるのだ。

彼がいる事で、メンバー達はこの店にバイクを預ける事も少なくない。

 

「タカ、お前からもスティーブに言っとけ!

こんな走り方してたら身が持たん!」

 

ヒゲダルマが悪態をつきながら作業を進める。

 

「ウチの大将馬だからな。スカーフェイスがお似合いだろ」

 

「なにっ!?スティーブがリーダーなのか!?」

 

タカの返答に、クラークが驚いている。


「何か文句でもあんのかよ?」

 

スティーブが屈んでクラークに顔を寄せる。

 

「じゃあ、ラルフは?」

 

「辞めたよ」

 

「むむむ…引退するなら一言くらい寄越してもよかろうに!」

 

クラークはスティーブがリーダーだというのが気に食わないというより、ラルフが自分に黙って引退したのが気に食わないのだ。

 

 

「そら!出来たぞ!」

 

タカが途中から作業を手伝ってくれたので、タイヤ交換は少し早めに終了した。

 

「おう、サンキューな」

 

「礼より先にさっさと金を出さんか!」

 

「このクソヒゲダルマが…」

 

スティーブがポケットから10ドル札を四枚、クラークに投げつける。

 

「なんだ、少しは感謝せんか!」

 

「礼なら今言っただろうが!ボケてんのかよ、ジジイ!」

 

「だはは!まいどあり!」

 

「血管詰まらせて死ね!」


クラークに中指を立て、タカヒロと拳を合わせる。

 

「世話かけたな、兄弟」

 

「今夜は何時からだ?もちろん俺も見に行くぜ」

 

「決まってねーが、九時くらいだろうな」

 

「タカ!お前は残業があるぞ!

ファントムズの予定はキャンセルだな!」

 

「ねーよ!ヒゲ!」

 

クラークがタカヒロを行かせまいとふざけている。

 

「じゃあまた今夜な。ホームベースで待ってるぜ」

 

「PMCのリーダーは何代目でも無敵だ。楽しみにしてるよ、スティーブ」

 

ニヤリと笑い、スティーブがキックスタートする。

 

ドルン!ドルン!

 

 

 

腹が減ったスティーブは何か食べようと考えたが、一人では退屈な為、路肩で携帯電話を取り出した。

 

「…ジャックでも誘ってみるか」

 

画面にサブリーダーを呼び出す。


コールが三回鳴ったところで、ジャックの声が入ってきた。

しかし、生の声ではなく、録音されたメッセージである。

 

『ジャックだ!お前が何か俺に用事があるのはわかってる。

もし用件を今すぐ聞いて欲しければ、発信音の後に声を残しておけよ!いつの日か折り返してやるぜ!』

 

プーッ。

 

「えーと…くたばれ」

 

ツーツー…

 

取り込み中ならば仕方ない。

適当にメッセージを残して、次なる候補を探す。

 

「アンディは…仕事か。

クソマーカスも仕事。ラファエルとスコットもダメ。

おぉ、そうだ。ラルフがイイな」

 

タッチパネルをスライドさせ、Rの欄を見る。

 

「よう、スティーブか」

 

「兄弟、暇してないか?メシにしよう」

 

「そうだな。わかった」

 

「じゃあ今から…ん?」

 

ドドドドドド…!!

 

目の前を、見覚えのあるVロッドが走っていった。


ウーウー!!

 

「そこのバイク!止まれ!」

 

サイレンを回して、その真後ろから追いかけていくポリスカー。

 

スティーブはしばし無言でそれを見つめる。

 

 

「どうした?」

 

「あ、いや。ジャックが警察に追われてる。今、目の前を通ったぜ」

 

「ほっとけ、あんなバカ。じゃあ、ウチで待ってるぞ」

 

「おう」

 

ラルフもスティーブも、ジャックのピンチを完全に無視した。

 

 

 

「兄弟!」

 

ドルン!ドルン!

 

ラルフは立ったまま、ソフテイルのアクセルをひねって調子を見ていた。

 

「おー来たか。どこに行く?」

 

「適当なファミレスでイイだろ。もう出れるか?」

 

「オーケー」

 

ラルフがバイクに跨がってサイドスタンドを蹴った。

 

新旧のファントムズリーダーである二人が鉄馬を発進させる。


 

十分程度街を流し、大衆レストランに入る。

 

「リブステーキとポテトをくれ。ラルフ、おめーは?」

 

「俺はシーザーサラダとペパロニピザだ」

 

注文を済ませ、二人でタバコをふかす。

 

「スティーブ。どうだ、リーダーは」

 

「とりあえずあのケンカの後、クラッチ・ロケッツとは同盟を結んだぜ」

 

「ほー。そりゃ孤立無援だったPMCには新しい風だな。てめー色のチームになる第一歩だ。

他には?新生ファントムズは何を目指す」

 

ピッ、とタバコの先をスティーブに向けるラルフ。

 

「さーな。俺はまず、今のチームを把握するべきだろうな」

 

「はっ!ケツの穴が小せーんだよ。

おめーがメンバーに合わせるんじゃねー。メンバーにリーダーのやり方を叩き込むんだ。

仲間になめられんじゃねーぞ」


「そういうおめーは何を叩き込んだんだよ?」

 

ラルフのにやけ顔をスティーブが睨んだ。

 

「登竜門にすぎなかったドッグファイトを、ローテーション制にした。

古株がぬるま湯に浸からねーようにな」

 

「何!?昔はチームに入る時だけの儀式だったのか!?」

 

これはスティーブが知らなかった事だ。

 

「そうだ。基本的な規律は緩めだからな、ウチは。

だが緊張感がねーと、ファントムズはどこぞのチンピラにやられましたって話になる。

…あとは、メンバー間のケンカもどんどんやらせた。仲違いさせるって意味じゃねーぞ?

以前は小競り合いにも仲裁や処罰があってたが、俺は逆にメンバー達の血の気を増やしてやったのさ。

ケンカ慣れしてる男達はべらぼうに強い。

それは体型や筋トレだけじゃ養えない代物だ」

 

なるほど。スティーブにも、ラルフの自由主義に隠されていた裏が見えてくる。


ここで料理が運ばれてきたので、二人はしばらく会話を中断する。

 

大柄なラルフはスティーブよりも先に軽く料理を平らげた。

 

ピピピ!ピピピ!

 

「ん?」

 

ポテトをつまんでいる途中で、スティーブが携帯を取り出す。

 

「よう、逃げきったか」

 

「逃げきったか、じゃねーよ!何シカトしてんだよ、スティーブ!

てめーマジでぶち殺すぞ、こらぁ!」

 

ジャックである。

警察を撒いた後で興奮気味な彼の声は、向かいに座るラルフにまでもスピーカーから届いた。

 

「小僧か?文句があるなら呼んだらイイさ」

 

そう言ってくる。

 

「ジャック。ごちゃごちゃ言ってねーで、今からちょっとこっちに来いよ。

ラルフとメシを食ってたんだ。その約束のおかげでおめーの相手は出来なかったんだよ」

 

「今すぐ二人ともぶっ飛ばしに行くから待ってろ!」

 

 

五分と経たずに、店内にズカズカと入ってくるジャックの姿が見えた。


「よう、副大統領」

 

「スティーブ…!」

 

ガシッ!

 

席につくなり、ジャックはスティーブの襟首を両手で掴んだ。

 

「なにすんだ、てめー?」

 

その手を掴むスティーブ。

 

「二人とも、座れ」

 

これはラルフだ。

仲裁してくれているのは、彼がもはやメンバーでは無いからだろう。

 

「俺は座ってたんだぜ?」

 

「そうだな。ジャック、放してやれ」

 

「ふん!アンタに指示される筋合いはねーがな!」

 

スティーブを放し、ジャックも椅子に座る。

 

「ジャック、おめーは俺に助けてもらいたかったのかよ?」

 

スティーブは含み笑いだ。

 

「別にちげーよ!ただ、知らん顔してたのが気に食わねーだけだ!」

 

「じゃあもうイイじゃねーか、めんどくせー。

ほら、なんか食えよ」

 

ラルフがメニューをジャックに渡してやる。

 

「二人の奢りにしろよ!」

 

「しねーよ、タコ!」


「何でだよ!おい、ウェイター!ビールをくれ!」

 

拒否するスティーブを睨みながら、ジャックは酒を注文した。

すぐに出てきた小ビンをぐいっとあおる。

 

「なんで追いかけられてたんだ?」

 

「は!どうせスピード違反だろ!なぁ、ジャック!」

 

「ちげーよ。客にハメられたんだよ!

クソッ、なめやがって!」

 

ビンを激しくテーブルに打ちつけてジャックが怒りをあらわにする。

 

「ハメられた?確か、ブツをさばきに行ったんだよな。

その取り引き相手か?」

 

これはスティーブだ。

 

「あぁ、そうだよ!あのアルメニア人共め!

ブツの取り引き場所をサツにタレ込んで、自分たちは来やしねー!

たちの悪いイタズラだぜ!」

 

「どういうこった」

 

「知らねーよ!おい、ウェイター!もう一本ビールを持ってこい!」

 

ジャックが苛立っている中、スティーブとラルフは何か考えている様子だ。


「ジャック。ソイツらは昔からの馴染みか?」

 

スティーブが訊く。

 

「あ?いや、今回が二度目の取り引きだった」

 

「恨みでも買ったか。サツに売られるような」

 

続いてラルフが口を開く。

 

「そんな覚えはねーぞ。前回は何の問題もなかったからな」

 

「おい、ちょっとソイツらに連絡してみろ」

 

「何でだよ、スティーブ!」

 

「いいから!」

 

ジャックがぶつぶつと文句を垂れながら携帯を取り出す。

 

「…あ。つながったぞ」

 

スティーブがジャックの携帯をもぎ取る。

 

「よう、アルメニアの友よ」

 

「ジャックか!?チィ!なんでてめーが…」

 

やや訛りのある英語だ。

英語圏の人間ではない事がわかる。

 

「いや、奴の知り合いだ。

てめーら、ウチのジャックをサツに売りやがったのか?」


「知り合い?ふざけんなよ!

ジャックはどうした!」

 

「ジャックに何か用があんのか?」

 

「奴はファントムズとかいうバイカーギャングだろ!

最近調子に乗りすぎてんだよ!こないだ買ったヤクも質が悪くて頭にきてんのさ!」

 

ベラベラとよく喋る。頭はあまり良くないらしい。

スティーブは携帯をハンズフリーモードに切り替え、受話をみんなに聞こえるようにした。

 

「それでサツを呼んで捕まえようとしたわけか」

 

「そうだよ!だが、奴がいないって事は無事に捕まったみたいだな!

アンタには気の毒だが、適当な商売やってる奴への酬いだ!」

 

「そうか。よく分かった。

兄弟、無事だって話してやれよ」

 

スティーブがジャックにふる。

状況はここにいる全員が理解できた。

 

「よう、ジャックだ。おめーら、死んだぜ」

 

プツ。

 

ツーツー…

 

「ぶっ飛ばしに行くか」

 

スティーブのかけ声で、三人が立ち上がる。


 

 

ドルン!

 

ドドドド!!

 

ドルン!

 

走る三台のハーレーダビッドソン。

 

「てめーのつまんねー商売のせいでファントムズにケンカ売られてんだぞ!

手伝ってやるからしっかりケツ拭けよ!」

 

風の音に負けないよう、スティーブは声を張り上げた。

 

「うるせー!アンタに言われなくても二度となめた真似できねーようにしてやるよ!」

 

「はははは!!スティーブ!ジャック!

俺も、もうすぐ手ぇ貸せなくなるからよ!最後に俺にも暴れさせろよ!」

 

ラルフの言葉に二人は頷いた。

 

 

一軒の民家の前に停まる三人。

荷台に魚のステッカーが貼られた小型トラックが道端に駐車してある。

 

「ここか?」

 

「間違いねー。前回、奴らはあのトラックで来たからな」

 

「行こうぜ」

 

ラルフがバキバキと指を鳴らす。


ガチャン!

 

木製の玄関扉を蹴り壊して三人は家の中へ侵入した。

 

すぐに異変を察知した男達が現れる。

 

相手は四人。

聞き覚えのある声が怒鳴った。

 

「ジャック…!?

クソッ、どうしてここが分かったんだ!」

 

「PMCをなめるとどうなるか教えてやるよ!」

 

「チィ!お前ら、やっちまえ!」

 

四人の敵が一斉に突っ込んできた。

 

「うらぁ!」

 

「ぶっ殺す!」

 

ドスッ!

 

ジャックがまず一人を蹴り飛ばした。コイツは簡単にのびてしまったようだ。

だが、すぐに別の一人が彼の腹を殴りつける。

 

「ぐっふ…!」

 

悶絶するジャック。

 

「ブラザー!」

 

ラルフがジャックを殴った男の首を掴み、力任せに顔を壁に叩きつけた。

なんと内装に穴が空いてしまう。

 

「…」

 

壁に顔を突っ込んだままその男はおとなしくなった。


ラルフが壁から手を抜くと、後ろから羽交い締めにされてしまった。

しかしそれをスティーブの拳が中断させる。

 

バキッ!

 

後頭部にヒットしたスティーブのパンチに、ラルフを捕まえていた男が振り返る。

 

「おら!」

 

そこに悶絶から復帰したジャックの飛び蹴りが乱入してきた。

 

「うおっ!?」

 

「とどめだ!おやすみ!」

 

ラルフが体重を乗せたラリアットをお見舞いし、ソイツを地面に寝かしつけてやる。

 

残る敵は一人。

一斉に彼らが狙いを定める。

 

しかし。

 

 

パァン!パァン!

 

 

突如鳴り響いた銃声。

 

「来るな…!」

 

取り残された最後の男が銃を持っている。

こいつは先ほど電話で話した男だ。

 

銃弾二発は天井を撃ち抜き、パラパラとほこりが落ちてきた。


仕方なく動きを止めるスティーブ達。

 

丸腰で立ち向かうわけにはいかない。

 

「クソ!厄介なおもちゃだな!」

 

ジャックが吠える。

 

「黙れ!てめーらまとめて撃ち殺す!」

 

「あー?正気かよ。一人を撃ってる間に他の二人がてめーを殺すぞ」

 

ラルフがツルツルの頭に血管を浮かばせている。

ブチキレる寸前、といった様子だ。

 

「う…うぅ」

 

小さな声。

最初にジャックが蹴り飛ばした男が目を覚ましたようだ。

 

一瞬。

 

銃を持つ男が視線を外したのをスティーブは見逃さない。

 

ガシッ!

 

銃を持つ右手をひねり、無理やり銃口を地面に向けさせた。

 

「うわっ!?クソ!やめろ!」

 

パァン!パァン!パァン!

 

いくつもの銃弾が床にめり込んでいく。


「うおらぁぁぁ!!」

 

ラルフが力一杯に右の拳でソイツの顔面に殴りつけた。

 

「かっ…は…」

 

スティーブともみ合っているせいで回避できず、まともにその一撃をもらった男は脳震盪を引き起こした。

 

スティーブが銃を奪い、完全に形勢を逆転させる。

 

「…!」

 

小さく呻いて意識を戻した男が慌てて両手を上げる。

 

「まだやるか?」

 

スティーブが威圧的なセリフを吐いた。

唯一意識がある男がぶんぶんと必死で首を横に振る。

 

「のびてる連中にも伝えとけ。

ファントムズMCとケンカする気なら、また相手になってやる。

だが、二度とごめんだって言うならさっさと荷物をまとめてこの街から消えろ!」

 

「くっ…」

 

パァン!

 

「どっちだ、おらぁ!」

 

スティーブがソイツの足元を撃ってさらに威嚇する。


「わ、分かったよ!アンタらとはもう関わらねー!

みんなにも伝えとくから、う、撃たないでくれ!」

 

「お利口さんだな」

 

ニッと笑い、スティーブがきびすを返す。

 

ラルフもそれに続き、ジャックは倒れている男の腹に一発蹴りをいれた。彼の腹にパンチを食らわせた仕返しだろう。

 

ウー…!

 

ウー…!

 

遠くでサイレンが聞こえる。

 

「近所の奴が通報したみたいだな。早くズラかろうぜ」

 

「そうだな」

 

「ひゃっほう!かっ飛ばそうぜ!」

 

ラルフの提案に二人が同意し、エンジンを回す。

 

全員がほぼ同時にスタートし、猛スピードで現場付近から脱出した。

 

 

 

先頭を走るスティーブが左手をぐるぐると回し、後ろの二人に停車を知らせる。

 

ドルン!ドルン!

 

ドドド…ドドド…

 

停まったのはラルフの家の前だ。


「ラルフ、ごたごたにまで付き合ってくれてありがとよ」

 

「イイって事よ!

スティーブ、ジャック。力を合わせて俺たちのファントムズを盛り上げていってくれ」

 

ラルフがバイクを降り、スティーブとジャックにそれぞれハグをした。

 

「ラルフ!また会おうぜ!間違ってもどこかで戦死なんてしてくんじゃねーぞ!」

 

ジャックが笑いながらそう言った。

 

「当たり前だ!テロリストのクズ共なんざ、俺様のパンチで一撃よ!」

 

「バーカ!殺し合いで拳なんか効くか!

アサルトライフルでも撃ち込んでやれ!」

 

「なんだっていいだろうが!」

 

ラルフがふん、と鼻息を荒げる。

 

「出る日はいつなんだ?見送ってやるよ」

 

「あー?辛気くせーのはごめんだ!勝手に発つ!」

 

「んだと、こらぁ!」

 

スティーブの気遣いをラルフは弾き返した。


「うるせー!てめーが見送りになんか来たら、メンバー全員が集結するに決まってんだよ!」

 

「いいじゃねーか!豚のくせにカッコつけんじゃねーよ!」

 

「あぁ!?やんのか、スティーブ!」

 

穏やかな会話のはずが、いつの間にかこの調子である。

とはいえ、怒鳴り合うくらいはファントムズの人間にとって他愛もない事ではあるが。

 

「おーい、ホームベースに戻るぞ。

スティーブ、行こうぜ。アンタのドッグファイトも今夜だろ」

 

ジャックが口論の終幕への助け舟を出してくれた。

 

「あ?おう。そろそろ行くか」

 

「ドッグファイトか。しっかり捕まって俺を笑わせてくれよ、スティーブ」

 

「殺すぞ、ラルフ!じゃあな!」

 

ニヤニヤと笑うラルフに別れを告げ、ホームベースへ向かった。


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