表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Peaceful  作者: 石丸優一
20/24

Truth

「回復が早かったな、リチャード」

 

「元気そうで何よりだ、リチャード」

 

「心配をかけてすまない」

 

マンハッタン。

洒落たカフェの表には、アメリカンバイク、スポーツバイク、オフロードバイクの三台が停車していた。

 

そこのテラスに集まってコーヒーを飲んでいるのは、ファントムズのスティーブ、クラッチロケッツのビッグ・ペイン。

今し方合流したのはアイアンローチのリチャードである。

 

スリーキングスのトップ達が護衛も引き連れずに会合しているのは初めての事だ。

 

「座れよ。ウェイター!コーヒーをもう一つ!」

 

スティーブが席をすすめ、リチャードが座った。

すぐに熱々のホットコーヒーが運ばれてくる。

 

「スティーブ、ペイン。

まずは礼を言わせてくれ。結局、迷惑をかけることになってしまったからな」


「おう、くたばれ」

 

「大丈夫さ」

 

二人から正反対の反応が返ってきたが、内心は二人とも気にはしていない。

スティーブの攻撃的な意見も、険しい顔ではない事から冗談だと分かった。

 

「ありがとう。それで、事後はどうなってる」

 

「ちゃんとケツは拭いてある。

ステファンはなかなか面白い奴だったんだがな、残念だぜ」

 

「仇は?」

 

「余裕だよ。だが、なんとか聞き出しただけだ。

てめーはどうする?」

 

スティーブは、すぐに事件の犯人を聞き出していた。

決め手となった口説き文句までは添えなかったが、脱出までの限られた時間であれやこれやと手を尽くしたのは間違いない。

 

「殺す」

 

「ほう」

 

「…だが、ウチのステファンが羽目を外した件もある。

今度こそ、ソイツを極秘裏に消す。誰の仕業か分からんようにな。

ステファンは出頭させる。それでどうだろうか」

 

念のため、確認してきた。


「お前が決めたのなら俺はそれでいいと思うが。スティーブ、どうだ」

 

「そうだな、それで終いだ。

リチャード。一つ、頼まれてくれないか」

 

この件については合意され、ひと段落となりそうだ。

 

「頼み?なんだ」

 

「その、仇討ちをしようってんなら、俺から提案がある。

いくら誰の仕業か分からねーようにしたところで、ブギダウン・ソックスとの小競り合いは止まないと見てるもんでよ」

 

「だからなんだと訊いている」

 

若干、リチャードの声に苛立ちがみえる。

 

「はは!根に持つ男は嫌われるってな。

てめーにこう言ったところで逆効果か?」

 

「ふん…」

 

「始末するのはブギダウン・ソックスの目の前で、堂々とお前がやれ。俺もついて行く」

 

「バカな!それこそ火に油を注ぐようなものだぞ!

わざわざ恨みを増幅させる気か!」

 

リチャードが強くテーブルを叩いて鳴らす。


平日の朝方のテラスは幸運なことに空席だらけで、特にそれが目立つことはない。

 

「…で?」

 

「何度言わすつもりだ!我々が秘密裏に…!」

 

「リチャード、騒ぐのはやめないか。スティーブ、理由を話さんと俺も納得は出来んぞ」

 

ビッグ・ペインが場を収め、スティーブの意見の真意を求める。

 

「簡単だ。仇討ちと同時に、そこでステファンを殺す」

 

「ふ、ふざけるな!」

 

「ふざけてんのはてめーだろうがぁ!」

 

ついに立ち上がってスティーブのジャケットをつかんだリチャードに、負けじとスティーブも言い返す。

 

「仇討ちだけやっときゃイイ話だった!それがどうだ!

ステファンは意味のねぇ殺しをやった!

カッとなってやっちまったり、事故が起きたんなら分かるが、そうじゃねー!

終わった状況で、カッコつけてソックスの頭を弾いたんだぞ!甘ったれんな、リチャード!」


「理由がどうこうではない!

仲間を殺すと宣言され、はい分かりましたと言うと思ったのか!出頭させると判断しただけでも譲歩したつもりだぞ!」

 

さすがに目立ちすぎたようで、男性の店員が引きつった笑顔で止めに入ってきた。

 

「お客様、お静かに願います」

 

「チッ…」

 

スティーブがリチャードの手を払って先に座る。

 

「ふん」

 

リチャードもそれに習った。

 

「つまり、スティーブはステファンのせいで余計に話がこじれたから、ブギダウン・ソックスからさらに一人殺すなら責任を取らせようって事なんだな?」

 

「おう」

 

「それでリチャードはもちろん反対…と。そりゃあ元々はローチから先に犠牲者が出てるわけだし、仲間が殺されて平気なわけもない。

俺からはお前たちの言い分がどちらか一方が間違いだとも言えない。コイツは少々面倒な話だぞ…」


スティーブにもリチャードにも味方する事が出来ず、ビッグ・ペインは頭をかかえてしまった。

 

「何言ってんだ、てめー?リチャードのやり方なら、最終的にブギダウン・ソックスを根絶やしにしねー限り終わりは無いぜ」

 

「では、お前が言うように仇討ちと同時にウチのステファンを殺したとしよう。

それでなぜ終わると言える?何か確証でもあるのか」

 

リチャードの息は荒い。

単にスカルマスクが息苦しいというわけではなさそうだ。

 

「そう、話したからだ」

 

これにはビッグ・ペインも驚きを隠せない。

 

「スティーブ!勝手にそんな取り引きをしたのか!?」

 

「勘違いすんな。俺は訊いただけだ。

『きっとアイアンローチは犯人を差し出すまで来る。てめーらはどうすれば鞘を収める?』ってな。

すると奴らはこう答えた。『リーダーを撃った男を出せ。それで終わりだ』」

 

「それを…鵜呑みにしたのか!」

 

「別に約束なんかしてねーよ。訊いただけだっての」


メンソールを取り出して、ぷかりと煙を吐く。

 

「だが、どうあろうともステファンを殺すわけにはいかん!大事な同志だぞ!」

 

「同志ねぇ…お、そうだ!一つ面白い案が浮かんだ」

 

急にスティーブが何かをひらめく。

説明すると、あまり乗り気にはなれないがそれならば問題ない、と渋々ビッグ・ペインとリチャードも納得してくれたのだった。

 

 

 

後日。

 

再びブロンクスへと向かう隊列。

アイアンローチが五台程度のバイク、クラッチロケッツからはビッグ・ペインとマーカスが走る。

そして、その後ろにファントムズからはスティーブとアンディ、二人はエコノラインに乗っている。

 

彼らだけがバイクではなく車を利用しているのが、今回のスティーブの案のミソである。

 

「くだらねーお遊びさ」

 

「自分で言い出したんだろ、ボス」

 

誰に言うでもなくつぶやいた独り言に、アンディが真面目に返してくる。


「んんん…!んん!」

 

後部のスペースから、もごもごと口ごもった声と、ドタバタと暴れる音。

 

「うるせーぞ!」

 

スティーブの一括ですぐにそれは止む。

 

バルル…!

 

ウォン!ウォン!

 

到着を示して、前方の仲間達がエンジンをふかしながら停車した。

 

場所は少し前に偽警官としてタカヒロと二人で来たホームレス達の溜まり場。結局、あれから彼らと関わる事なく終わっていたが、ブギダウン・ソックスとの会合の場所を提供してもらえるように頼んだのだ。

 

エコノラインからスティーブが出て行くと、ビッグベアが両手を広げてそれを迎え入れた。

 

「これはこれは、いつぞやのおまわりさん!まさか悪名高きファントムズ様だとはな!」

 

「なんだ、嬉しそうじゃねーか」

 

「へっへっへ」

 

「アンディ!」

 

「おう」

 

車から大量の食料と酒が出てくる。

ビッグベアの狙いはもちろんこれで、彼の笑いはさらに大きくなった。


ブロロ…

 

数分後。

ブギダウン・ソックスのピックアップトラックが数台、スティーブらが待つ場所に現れた。

 

ホームレス達は食べ物や酒を手にドンチャン騒ぎで、まったく気にもとめていない。

 

「逃げずに来たか」

 

リチャードが言う。

 

「あっちも同じことを考えてるだろうよ」

 

数人の男達が車から降り、暴れる一人の男を連れてくる。

おそらく彼がアイアンローチの仇となる人物である。

 

「離せったら!俺は殺しなんかしちゃいない!」

 

「往生際が悪いぞ!何人も現場を見てるんだ!仕方ねーだろ!」

 

仲間を差し出す行為。

決して気持ちの良いものではないが、全てを終わらせる為の苦渋の決断といえる。

 

「それじゃ、コイツは引き取っていくぜ」

 

スティーブとリチャードが前に出て、その男の両腕を取る。

 

「嫌だ!俺は犯人じゃねー!」

 

「黙らせろ」

 

リチャードが言うと、アイアンローチのメンバーの一人が男の鳩尾に拳を叩き込む。


苦い顔でそれを黙認すると、ブギダウン・ソックス側からステファンを渡すように要求があった。

 

「次はそっちの番だ。ウチのリーダーを殺したあの男を渡せ」

 

「アンディ」

 

「やれやれ、また俺か」

 

エコノラインの後部ハッチを開き、肩に『それ』を担いで持ってくる。

 

「んんん!」

 

先ほど、後ろでもごもごと声を発していた人物。

つまり、ステファンを縛って連れてきたのだった。

 

スカルマスクの上から口や目にも布が巻かれていて、人質だというのは誰にでも分かる。

代わりに空いたスペースへとブギダウン・ソックスの男を放り込み、扉を閉めてしまう。

 

「おら、好きにしな」

 

「これでお互いに手打ちだ。無益な諍いは終わりにしよう」

 

スティーブ、リチャードの順でそう言った。

 

「了解だ。みんな、引きあげるぞ!」

 

ステファンをさっさとトラックに積み込み、ブギダウン・ソックスが去っていく。


「リチャード」

 

「あぁ、場所を変える。ホームベースを使わせてもらえないか?」

 

「いいだろう。

よう!ビッグ・ベア!世話かけたな!」

 

スティーブの声掛けにビッグ・ベアは大きく手を振り、すぐに仲間達との騒ぎに戻った。

 

 

ホームベース。

 

エコノラインから先ほど連れ出した男を引きずり下ろす。

 

「クソ!なんでこんな事に!

頼む、助けてくれ!俺は無理やり罪をなすりつけられてるだけなんだ!」

 

必死で命乞いをするが、アイアンローチの面々がそれを認めるわけもない。

リチャードがサブマシンガンを構え、男に歩み寄った。

 

「回答がどうであろうと、貴様の死は回避出来ない。

だが、一つ教えろ。我々の同志を撃ったのは、貴様か…?」

 

「違う!」

 

パパパン!

 

宣言通り、リチャードの銃が火を吹いた。


「あーあ。本当にやっちまうか」

 

「無論だ。コイツが仇であると信じるしかあるまい。

とにかく、事は済んだ。手をやかせてすまなかったな」

 

落ち着いた様子で、ゆっくりと銃をしまう。

 

「向こうだって、そういう考え方で無理やり納得してるんだろうさ。

…なぁ、ステファン?」

 

皆の視線が一人のスカルマスクに向けられる。

彼は、リチャードの隣で腕を組んで死体を見下ろしていた。

 

「あぁ、反省はしている」

 

なんとステファンは生きていた。

これがスティーブの思い描いた手である。

 

実は先ほどブギダウン・ソックスに引き渡したのは、路上で拾った酔っ払いにスカルマスクを被せただけの、いわゆる影武者だったのだ。

 

もちろん、ブギダウン・ソックスが同じ手を使っているとも考えられるが、お互いに真相を知ることはもう無い。リチャードが言うように、これで良しとするしかないのだ。


「さて、やっこさんはどうする」

 

あまり乗り気では無いビッグ・ペインが訊く。

しかし、答えはわかりきっていた。

 

「アンディ!」

 

「誰か他にも車を買っちゃどうだ…」

 

ハッチを開けながらぶつくさと文句を垂れる。

 

「タカ、袋を用意してやれ。牛が血みどろになる」

 

「ちょっと待ってろ」

 

指示を受けたタカヒロが、ホームベースの中に入っていった。

 

「運びはするが、後は知らねーぞ。どこまでデリバリーするつもりだ、リチャード」

 

「魚のエサにでもしてやろう。だが、あえて俺は行かない。

ステファンに任せようと思う」

 

ポンと背中を押し、今回の主役に最後の仕事を譲った。

 

「…謹んで引き受けよう」

 

「それじゃ、残りの連中は解散だ」

 

クラッチ・ロケッツ、アイアンローチはその場を去り、ファントムズもほとんどが建物の中に引っ込んでいった。


 

 

サブン!と重量物が海に投げ込まれる。

エコノラインの中からアンディとタカヒロがそれを見つめ、スティーブはステファンの真後ろでメンソールをふかしていた。

 

「終わったぞ」

 

「そうだな」

 

男の死体はすでに見えない。

沈んでしまったか、流れてしまったかだ。

 

「俺のバイクを下ろしてくれ」

 

ステファンがアイアンローチの元へ帰る為にそう要求する。

四人が車に乗り、死体とバイクも積んできたのだ。

 

「帰る前に、いっちょ遊んでいかねーか?」

 

「どういう意味だ?…!」

 

返事の代わりにスティーブの右ストレートが飛んでくる。

まともに顔面に入り、ステファンは吹き飛んだ。

 

「…」

 

「なんだよ、やらねーのか」

 

反撃はなく、ステファンは倒れたまま起きあがろうとしない。


「どういうつもりだ…」

 

か細い声で、ようやく返事がある。

 

「リチャードから何か聞いてるか?」

 

「いや」

 

「奴は始め、お前を出頭させると言ってた。

だが、こうやって代わりの人間を殺した事で、もはやお前には何のお咎めも無しだ」

 

スティーブはその矛盾が気にくわないのだ。

ステファンの襟を掴んで無理やり立たせる。

 

「だから俺を殴って、それで憂さ晴らしか?

好きにしろ」

 

「じゃあ死ね」

 

スティーブが拳銃を取り出す。ブギダウン・ソックスから頂戴した代物だ。

 

「何だと…!」

 

「俺は…取引には、きちんとお前を渡すべきだと思ってたんでな。だから死ね」

 

「やめろ!撃つな!」

 

パァン!

 

 

銃弾はステファンの足元。

コンクリートをえぐっていた。

 

「はぁ…はぁ…外した?」

 

「反省はしている、って言葉は飾りか?

ふてくされんな!せっかくみんなから助けてもらった命だ。これ以上は言わなくても分かるな」

 

ステファンのこれからを見ている。そして次は無い、だ。

 

「ありがとう…」

 

「気にすんな。デカい男になれ。

俺はてめーを気に入ってる」


ニカッとスティーブが笑った。

 

ステファンの顔はスカルマスクで見えないが、きっと穏やかな表情をしているだろう。

 

ゴツッ!

 

油断していたスティーブの頭に、ステファンがいきなり拳骨を食らわせてきた。

 

「殴られて、撃ち殺されかけたお返しだ。これくらい軽いものだろう?」

 

「…けっ!ありがたく受けといてやるよ!

タカ、アンディ!こいつのハエの羽音みたいな声を出すバイクを下ろしてやれ!」

 

車内まで届くように声を張ると、気だるそうに彼らがバイクを引っ張り出してくる。

 

すぐにステファンはキックペダルを踏み、エンジンを起こした。

 

バルン!バルン!

 

「スティーブ」

 

「あー?」

 

「ファントムズのメンバー達を、少しだけ羨ましく思うよ」

 

「頼まれてもてめーは入れねーけどな」

 

互いに中指を立てて挨拶を交わし、ステファンは走り去っていった。


 

「本当に撃ち殺しちまうかとヒヤヒヤしたぞ」

 

「そん時はそん時だ」

 

スティーブらが車に乗り込む。

 

「次はいよいよペインが言ってた話だな」

 

タカヒロが言った。

ニューヨーク中の若い不良連中、ギャングやバイカー達からアガリを支払わせ、一大国家を作り上げてしまおうという大きな話である。

 

「どう動くか。手はずは考えてあるのか、スティーブ?」

 

「いずれペインが何か言ってくるだろうが、待つ必要はねーな。

ジャックにさっさと大まかなリストを洗わせないと」

 

「ジャックか…へそ曲がりは治ってんのかよ」

 

「知るか」

 

素直に仕事をこなしてくれるかは難しいところである。

 

「バリーやホームレスのビッグ・ベアに力を貸してもらってもイイんじゃないか?」

 

「そりゃ悪くねーな、タカ。

ブロンクスとクイーンズ方面の切り札として考えておこう」


 

 

次の日、ホームベースのリーダー用カウチでゴロゴロしていたジャックに、早速話を持って行く。

 

「よう、ちょっといいか」

 

「話しかけんな」

 

「ソイツは俺の椅子だからな」

 

チッ、と舌打ちをしてジャックが隣に移る。

腰を下ろすと、ジャックの体温で生ぬるくなっている感触が尻に広がって、少し気持ちが悪かった。

 

「ジャック。ペインの話を覚えてるだろ」

 

「あぁ。少しずつだが、リストは作ってある」

 

思わずスティーブは「ほぅ…」と感嘆にも似た気分で声を漏らした。

 

「見れるか?」

 

「それは無理だ。頭の中だからな」

 

「容量が少なそうだな。ウィンドウズ95くらいなもんだろ」

 

「なんだよそりゃ!ファミコン以下の脳みそのくせによ!

誉められてもイイくらいの仕事ぶりだろ!」

 

ジャックが金切り声で荒ぶっている。


「紙か、携帯電話にでも出しとけ。いいな」

 

いちいち取り合わず、それだけ言うと、スティーブはさっさとホームベースから出て行ってしまった。

 

 

ドルン!ドルン!

 

ショベルヘッドのエンジンを起こしたところで、ちょうどラファエルがやってきた。

顔がボコボコに腫れ上がっている。おそらく仕事を終えての朝帰りだろう。

 

「よう。どこに行くんだ、スティーブ」

 

「イイ面だな」

 

「へっ!派手に負けたぜ!」

 

上には上がいるという事か。

喧嘩商売も楽ではない。

 

「そうか。今からビッグ・ベアのところだ。

ブロンクスの情報でも聞きに行こうかと思ってな」

 

「付き添うか?」

 

「財布に金が入ってるならな」

 

もちろん彼らへの『貢ぎ物』の為である。


黒皮にチェーンがついた財布を取り出し、中身を確認するラファエル。

渋い顔で「パスだな」と返した。

 

 

 

「また来たのか」

 

やることもなく、地面に座り込み仲間内でドミノをプレイしていたビッグ・ベアが顔を上げた。

伸ばしっぱなしのヒゲが汚らしい面構えである。

 

「そう言うなよ。嬉しいくせによ」

 

菓子類が詰まった紙袋を放り投げてスティーブも腰を下ろす。荷物を小脇に抱えたままバイクを運転してきたのだから、器用なものである。

 

「おっ、嬉しいねぇ。お次は何事だ、お巡りさん?」

 

「けっ、いつの話だよ」

 

顔をしかめてメンソールに火をつける。

 

「…ブロンクス内にある、ブギダウン・ソックスみたいなチーム。

そいつを残らず洗い出して欲しい」

 

「二、三人でつるんでる奴らまで入れたら、ごまんといるぜ」

 

早速、周りのホームレス達はスナックの袋を開封している。

 

「線引きは任せる。ヒーローらしく治安維持といこうじゃねーか」

 

「死神にはブルックリンだけじゃ狭すぎたか」


「へっへ」と品のない笑い声を出しながら、ビッグ・ベアは菓子袋を一つ取り上げた。

チーズクラッカーの強いにおいが鼻をつく。

 

「どのくらいかかる?」

 

「ま、一週間ってところか。

急ぐのか」

 

「いや。それで構わねーよ」

 

メンソールを地面にこすりつけて火を消した。

ゴミが所々に落ちているので、簡単に火事にでもなってしまいそうな場所である。もっとも、ホームベース内も決して綺麗だとは言えないのだが。

 

「ブギダウン・ソックスはどうしてる?」

 

「昨日の今日だぜ。大人しくしてるだろう。

間違ってもお前達とは関わろうとしないはずだ…うまいな、これ」

 

食べかすを派手にこぼすビッグ・ベア。

仕事は請け負ってくれたので、いよいよブロンクスへと手を出す頃には力になってくれるだろう。

 

順番で言えば、ブルックリン、マンハッタン、クイーンズ、ブロンクスと、スリーキングスの足は伸びていくはずだ。


「俺の携帯電話の番号を教えておく。

何かあったらかけてくれ」

 

逆に、こちらから用がある時には、わざわざ出向いてやる必要がある。

もちろん、ホームレスであるビッグ・ベアは携帯電話など持ち歩いていないからだ。

 

「リストができたらな。

チラシの裏に書かれてるからって、クレーム入れてくんなよ!」

 

「字が書ける事に感動してるぜ。せいぜい読めるような、まともな字にしろよ」

 

「へっへっへ!バカにしすぎだぜ!」

 

喉を鳴らして、タンを地面に吐く。

空き地を囲むビルの上から、菓子を狙っているのか数羽のカラスがこちらを睨んでいた。

 

「んじゃ行くぜ」

 

「なんだ、ドミノくらい混ざっていかねーか」

 

「勝ったってその菓子が戻ってくるだけだろーが!」

 

「へいへい」

 

ショベルヘッドを起こすと、排気音に驚いたカラス達が一斉に飛び立っていった。


 

そのまま家やホームベースには戻らず、スティーブは再びタトゥーパーラーに顔を出した。

 

ガン!ガン!

 

ドクロのステッカーがあちこちにベタベタと貼られた木製の扉を叩くと、デッドマンズ・タトゥーの彫り師、トミーがぶっきらぼうに出迎える。

 

「なんだ、てめーか」

 

「おう。邪魔するぜ」

 

「入れ」

 

施術室に通されると、やはり煙が充満していてスティーブの目はチカチカと不快感を訴えてくる。

ぬるいビールが出され、一口あおった。

 

「相変わらず暇なのかよ」

 

「んにゃ、一件彫り終えたところだ。

お前は色付けだったな。どら、見せてみろ」

 

トミーがスティーブの脚をひっつかむ。

当然まだ腫れがひいておらず、皮も剥けている途中であった。

色を入れる前に、再生を待つのが適切である。


「ダメだこりゃ。完全に治るまでおあずけだな」

 

「あー?細かい事気にしてんじゃねーよ」

 

「傷の上から彫っても色が飛んじまうんだよ!人の作品を粗末に扱うんじゃねー!」

 

「俺の身体だろうが、ボケ!」

 

いくら張りあったところで、トミーが手を動かしてくれなければ意味はない。

仕方がないのでビールだけを空にした。

 

「やってるかい」

 

女の声。

珍しい事もあるもんだ、とスティーブが来客の顔を見やる。

 

「ジェシカ?」

 

「あら、スティーブじゃないか?奇遇だねぇ」

 

黒髪の破天荒娘、ファントムズのジェシカである。

スティーブは知らなかったが、彼女もまた、デッドマンズ・タトゥーの顧客だった。もちろん、他のメンバーの中にもトミーから彫ってもらっている連中がいるはずだ。


「なーにが奇遇だ。店の前に俺のショベルがあっただろ」

 

「あはは!ばれたか!」

 

いじらしく舌を出してジェシカが笑った。

 

「今日はどうした?新しい絵柄でも入れるか」

 

これはトミーである。

 

「いんや、愛しのスティーブがいるのかと思ってさ。

タトゥー彫ってる途中なら、セクシーな裸が見れるだろう?」

 

「なに盛りついてやがんだ、クソアマ!」

 

「はっはっは!ファントムズの連中は仲がいいな!

どいつもこいつも笑わせてくれやがる!」

 

トミーとジェシカは大笑いしているが、スティーブだけはムスッとした表情で空になったビール瓶を床に転がした。

 

「また来る」

 

「あぁ、治れば彫ってやる」

 

「なんだい!暇ならあたしの相手でもしておくれよ!」

 

店を出ようとしたスティーブの左腕に、ジェシカが両腕を絡めてついてくる。


「何だよ!離れねーか!」

 

バイクにも跨がれず、スティーブはしどろもどろしている。

ぐいぐいと押し当てられる豊かなジェシカの胸が、怒りをいくらか緩和してくれているのは間違いない。

 

「せっかく二人きりなんだし、デートと洒落込もうじゃないか!ねぇ、スティーブ?」

 

「てめーのデート相手はアンディだろ」

 

「なーに言ってんだか。予定でもあんのかい?」

 

「いや…」

 

この返答をした瞬間、スティーブの今日の予定は確定してしまった。

 

 

 

ハンバーガーを片手にジェシカが笑っている。

彼女がデートに選んだのは手軽なファーストフード店である。

 

「…ったく、結局こうなるか」

 

「美人と一緒で嬉しいって顔に書いてあるよ」

 

「へっ!バカ言え!

ところでジェシカ、おめーは何のためにウチにいるんだ?」

 

スティーブは食事に手をつけるわけでもなく、メンソールをふかす。

 

「は?なんだ、やぶからぼうに。

好き勝手やりたいからに決まってるだろ」


「好き勝手ねぇ…ま、たしかにウチは気楽なもんだよな」

 

「どういう風の吹き回しさ?あたしに真面目な話をふるなんて」

 

ズズッ、とジェシカのコーラが空になったのを主張している。

紙カップの蓋を開き、氷を口に流し込む。

 

「ファントムズ、いやスリーキングスはニューヨークの頂点に立とうとしてる。もちろん金の為だ。おめーが言う自由にもつながるだろう」

 

「…」

 

「ただ、俺以外の連中はどう思ってんのかとな。

ただ馬鹿騒ぎやってれば満足な奴にとっちゃ、余計な仕事も増えてくるだろうしよ」

 

今のところ決まった仕事を与えているのはサブリーダーのジャックに対してだけだ。

しかし、しばらくはつるんで走るというより、それぞれが傘下を増やす為の仕事を割り当てられるのは間違いない。今までのファントムズとは大きく変わる。


「ふぅん」

 

ぬっ、と身を乗り出し、円テーブルの向かい側からジェシカが顔を寄せてくる。

 

「あ?」

 

「そりゃっ!」

 

キスでもされるのかと身構えたが、スティーブに送られたのは氷の弾丸だった。

 

「うおっ!何しやがる、てめー!」

 

まともに氷の粒を顔に当てられ、ゴシゴシと顔をジャケットの袖で拭うスティーブ。

 

ジェシカはけらけらと笑っている。

 

「あはは!だらしないねぇ!」

 

「あぁ!?」

 

「仲間がどう思うかなんて、やってみなきゃ分かんないだろ?バカな頭で何を悩んでも一緒!

だいたい、我らがリーダーが何かを起こそうってんだ。心配しなくてもみんなついてきてくれるさ。

あたしはまだファントムズに入って日は浅いけどさ、ここにいる奴らはそういう人間だよ。だから惹かれたのさ」

 

嬉しい意見である。スティーブの心配は取り越し苦労で済みそうだ。


ドルン!ドルン!

 

さすがにブルックリン内でホームベースから近い場所で食事していれば、仲間もそばを通る。

 

窓ガラスの外で、何やらこっちを指差しているのが見えた。

 

「あん?」

 

「あーあ、デートに水をさすなんて」

 

やはりスティーブとジェシカに気づいた数人のメンバー達が、バイクの爆音を響かせながら店に近寄ってきた。

 

ドドドド…!

 

ドルン!

 

三台。

 

タカヒロ、マイク、それにイザベラである。

 

エンジンを切り、店内に入ってくる。

 

「よう、珍しいな。ジェシカとデートか」

 

右手をあげてタカヒロがそう言い、スティーブ達の席に座る。

 

「分かってるなら遠慮しなよ!」

 

邪魔が入ったせいでやや不機嫌になったジェシカが言う。

スティーブは涼しい顔だ。

 

「腹減ってんだよ。たまたまこの店に来た。以上」

 

「キンタマひねりつぶしてやろうか、タカ!」

 

「遠慮しとくよ」

 

マイクとイザベラも座り、五人での昼食となった。


「品が無いねー。何をひねりつぶすって?」

 

イザベラが親友であるジェシカにニヤニヤしながら問いかけた。

そういう彼女もファントムズに籍を置いている身である。本人曰わく、自分は『少しばかり』おてんばらしいが、周りから見ればイザベラもジェシカも変わらないくらいのじゃじゃ馬である。

彼女は耳がギリギリ隠れる程度の長さのボブカットで、それを真っ赤に染め上げている。

顔立ちは一重まぶたに低い鼻と地味ではあるが、それを隠すかのようにまぶたにも鼻にもシルバーのピアスが刺さっていた。

 

「お嬢さんには少し早い話題さね」

 

「おっ!いいわね、それ!

これからはみんなにお嬢さん、て呼んでもらうことにしよう!」

 

ジェシカにイザベラが明るい声で返した。

 

「あらら、喜んじまったよ。

どうしようも無いね」


「スティーブ、食わねーのか」

 

マイクがスティーブの目の前にある手つかずのハンバーガーセットを指差して尋ねた。

真面目な話をしていて触っていなかっただけだが、対面のジェシカのトレーが空なので、ある程度の時間ここに座っていたのは誰にでも分かる。

 

「んや、食うけどよ」

 

パクリとフレンチフライをひとつまみした。

冷めてしなびてしまっているそれは、パサパサとした食感で非常にまずかった。

 

 

 

ホームベース内。

 

リーダー用のカウチで転がっていたはずのジャックの姿は無い。

彼のVロッドは停まっていなかったので、早速仕事に取りかかってくれたのか、何か他の事をして遊んでいるだけなのかは不明だ。

 

タカヒロ達とは店先で別れ、ジェシカだけがスティーブについてきている。


外に立つドアマン以外は出払っているようで、だだっ広いフロアには彼らが二人きりである。

 

「二階の個室行きをご所望だろ?」

 

「デートは終いだっての。

ジェシカ、こないだ近所のガキ共と揉めたって話をしてたよな?」

 

すり寄ってくるジェシカの顔を右手で押し返しながら、スティーブが訊いた。

 

「ケツに突っ込んでやったよ」

 

「それだ。ソイツらはチームか何かを組んでたりするか?」

 

把握しておいて損は無い情報だ。

 

「さあ?ファントムズの車両だって気づかずにバカやるくらいだよ。

右も左も分かって無いような中坊だったんじゃないかねぇ」

 

「若かったんならそうかもしれねーな。

じゃあ、他に徒党を組んでる奴らを知ってたら教えてくれ。この際、ファントムズの障害になるかどうかは考えなくてイイ」

 

「いくつかなら」


その後ジェシカからの情報を得たが、同じくブルックリン内で暮らしているスティーブにとって真新しい話では無かった。

誰しもファントムズのメンバーとして活動していれば、近くにあるカークラブやモーターサイクルクラブ、ギャングも見聞きした事くらいはある。

 

その中に、武闘派で名を馳せるファントムズに好んでケンカを売ろうという攻撃的な組織が無いのも分かっていた。もしそんな連中がブルックリン界隈に存在していれば、間違いなくファントムズのメンバーと衝突し、駆除されているはずだからだ。

 

ブルックリンで細々と旗揚げしている者達は『ファントムズとの揉め事は御法度だ』と口を揃えて言っている、という噂まで立つほどであった。

 

 

となるとジャックからの詳細を待つばかりだが、スティーブは一足先にドッグファイトの聖地であるマンハッタンの情報収集へとシフトした。


マンハッタンといえば、アイアンローチの根城でもある。

もっとも、彼らには決まったアジトなど存在していないのだが。

 

メンバーにブルックリンの事を任せている間に、自らの足でマンハッタンへと向かう事も考えたが、まずはリチャードに連絡を入れてみる。

 

「おう、スティーブか。俺だ」

 

珍しく、明るい声色が返ってきた。

 

「…?なんだ?」

 

「なんだとは何だ。お前が電話してきたんだろう」

 

「やけに機嫌がイイじゃねーか。

いつもの葬式ムードはどうしたんだと思ってよ」

 

「ふん、ステファンがイイ面構えになって帰ってきたからな。

お前には感謝しているんだ」

 

なるほど。早速、スティーブからの『しつけ』の効果が表れているようだ。

 

「んなこた知らねーよ」

 

「まあいい。用件は?」


リチャードが雑談を締結させた。すでにいつものボソボソと喋る口調に戻っている。

どことなく先日のステファンとのやりとりに似ていてスティーブは一人微笑んだ。

 

「ふ…じゃあ本題だ。ビッグ・ペインが描いた仕事の下調べをやろうじゃねーか。

マンハッタンの敵を知っておきたくてな」

 

「お安いご用だ。ブルックリンはあらかた片付いたか?

まあ、ファントムズもクラッチロケッツもそっちにいるわけだから当然か」

 

「こっちも調べてる途中だぜ。だが、みんなに任せちまったせいで俺は暇でよ」

 

冗談まじりにそうは言うが、確実にスティーブが一番動いているだろう。

 

「トライアドみたいなマフィアは含むか?」

 

「活気費用としてアガリを払わせるんだぜ?アイツらみたいなビジネスマンとは土俵が違う。

邪魔になりゃ潰すがよ」


「そうか。ならば早めにリストを作成しよう。

ペインは?」

 

「知らねー」

 

見切り発車である事を伝える。

 

「独断というわけか。理由が無ければ奴らも動かしてはどうだ」

 

「チッ…勝手にしろ」

 

「ふ、勝手なのは誰だろうな。

ブルックリンとマンハッタンを同時に進めよう」

 

これでリチャードからビッグ・ペインにも連絡が回るはず。

好きにやってしまおうと動いていたが、予定よりも早く全てのチームが仕事に取りかかる事になってしまった。

 

「リチャード、今どこだ。リストを取りに行く」

 

「ブロードウェイだが、今すぐには無理だぞ?」

 

「はっ!デートかよ!」

 

「中国人から弾薬の補充をするのがデートだと思うならば、そうなんだろうな」

 

「…」


嫌みったらしく返され、押し黙るスティーブ。

リチャードは真面目に働いている最中なのだ。

 

「終わり次第連絡を入れる。こちらまで来れるな」

 

「頼む」

 

すぐに電話は切られた。

 

 

 

それからおよそ一時間後。

リチャードから呼び出されたスティーブは、待ち合わせ場所の駐車場にいた。

 

カー用品店の敷地で、家族連れやカップルの客が多い。

バイクを停車させて待機しているので、「なぜここにバイカーが?」という好奇の視線が時折寄せられるが、スティーブが一瞥くれてやるとそれもすぐにおさまった。

 

ブロロ…

 

旧式の青いビュイックが一台。

彼のもとにやってくる。

 

中にはスカルマスクを被った男が二人。銀行強盗でも見ているような気分だ。

 

「車かよ、リチャード」

 

「弾薬を積むのだから当たり前だろう。コイツは借り物だがな」

 

リチャードがビュイックから出てきてスティーブと拳をぶつける。


「よく停められないもんだぜ」

 

「マスクをかぶって運転してはいけないという法はなかろう」

 

リチャードが赤いファイルをスティーブに手渡した。マンハッタンのチームやギャングのリストをファイリングしたものだ。

 

「ハロウィンなら終わったはずだが、って感じか?おめでたい奴らだ。

…仕事が早くて助かるぜ」

 

「取引相手を売っているような気分だな」

 

「中国人の事か?嫌いじゃねーだろ」

 

「バカ言え。これからどうする?

お前一人の仕事でもないはずだ」

 

もちろんリチャードが訊いているのはスティーブの今日これからの予定ではない。

スリーキングスがどう動いていくのか、という事である。

 

「俺たちの仲間と少しでも付き合いがあって、話せる奴がいれば優先的に会おう」

 

リストは集まっても、敵と味方の判別は出来ていない。


「会ってどうする」

 

「決まってるだろ、俺たちの下につけるんだよ!」

 

「違う。話し合うのか、脅すのか、力づくで従わせるのか。どうするんだと訊いている」

 

「そんなもん相手の出方次第だろうが。派手にケンカとなりゃあ、フロントマンはウチが引き受ける。交渉や脅しだけで済みそうならウスノロのペインに任せちまえばいい。

どうしても言うことをきかねー悪い子はお前らが始末する、ってのはどうだ」

 

それぞれのチームに役割を分担していく。

 

「汚れ仕事はウチ任せか。まぁ、悪くはない。

しかし、この取り決めはクラッチ・ロケッツを交えてがよかろう」

 

「そうか?だったら帰りに俺がアイツと会っておく。それでいいな」

 

「了解だ」

 

「それじゃあな」

 

ドルン!ドルン!


 

 

「で…何でお前と二人っきりなんだよ、ゴリ」

 

「あぁ!?俺じゃ不服か!」

 

ブルックリン南西部。海を臨む空き地。

クラッチ・ロケッツの溜まり場。

 

いつもの喧騒は無く、この場にいるのはマーカスとスティーブの二人だけである。

 

「俺ぁペインに連絡入れたんだぜ?来てみりゃ代理だぁ!?しかも何でよりによっててめーなんだよ!

同じ霊長類だからって人間様と話せるわけねーだろうが!」

 

「なんだとコラ!

お前の方こそ人をバカに出来る程の脳みそなんて持ってねーだろ、スティーブ!

ウチのボスは今忙しいんだよ!てめーの暇な話なんか付き合ってられるか!」

 

いつもの調子で口喧嘩が繰り広げられる。

止める者もいないので、互いに大声で怒鳴り散らす始末だ。


「おい、用がねーなら帰るぞ!言伝があったんじゃなかったのかよ?

俺も暇じゃねーぞ!」

 

「けっ!役不足なんだよ!さっさとペインを連れてこい!」

 

「できねーっての!どこかのバイクのチームと会合中なんだよ!」

 

「…あ?」

 

スティーブが固まった。

くだらない用事かと思っていたが、ペインがここにいない理由は何やら穏やかではなさそうである。

 

その上、彼もまたすでに計画へと動き出していたのだ。

これを無視するわけにはいかない。

 

「なんだよそれ。奴はどこにいる?」

 

「知らねーよ。ブルックリンにはいるんじゃねーか」

 

「仲が良い連中なのか?」

 

「だから知らねーって!一人でいるはずだから、そうだろうよ!」

 

本当にマーカスは何も分からないようだ。

ビッグ・ペインが戻り次第、詳しく訊く必要がある。


「…クソ、電話も繋がらなくなってやがる」

 

「そりゃそうだ。

…っつうか、なに勝手にかけてんだよ!」

 

「マーカス。実は、今日寄ったのはペインが今やってる事についてだ」

 

「…?」

 

ようやく本題に入ったスティーブの声は、今まで言い争いをしていたとは思えない程小さい。

 

「ペインにはちょうど、交渉の仕事を頼もうと思ってたんだよ。

ほら、ニューヨーク全体をスリーキングスの支配下に置いちまおうって話だ。覚えてるだろ、マーカス」

 

「もちろんだ。じゃあ、ビッグ・ペインはその為に動いてるって事か。

本当に何も教えてくれなかったからな。水くさいぜ」

 

「だがそれじゃ話にならねー事もあるだろう。

戦争になりゃ俺達ファントムズが引き受け、どうにも下らねー奴はローチが消す。それを伝えるつもりだった」


マーカスが紺色のニューヨークヤンキースのベースボールキャップを軽く持ち上げて頭を掻いた。

髪を切ったばかりなのか、ツルツルのスキンヘッドである。

 

「そうか。確かに俺からは何も言うことはねーな」

 

「一応、まだ誰にも言うんじゃねーぞ。

ビッグ・ペインに話を通して初めて決定事項になるらしいんでよ。

奴が戻ってきたらホームベースに呼んでもらえるか」

 

リチャードはペインの了承を得るのが必要だと言っていた。

そこはきちんと守る。

 

「わかった。そんときゃ俺も付き添うぜ」

 

「ガンガン稼がせてやるよ、タクシードライバー」

 

「ふん!無職に言われてもピンとこねーよ!」

 

「少なくとも、てめーの場合は動物園で見せ物にされるよりは稼げるはずだぜ」

 

「てめぇ!!」


つかみかかってくるマーカスをひらりとかわし、右足をひっかけて転ばせる。

 

「いでっ!クソッ!」

 

「用は済んだから帰るぞ」

 

「待てコラ!スティーブ!

俺はてめーに用事が出来たぞ!」

 

「また今度遊んでやるよ」

 

ひらひらと手を振り、スティーブはさっさとショベルヘッドに跨がった。

 

 

 

その日の夜。

 

ホームベースにはいつものようにファントムズメンバーが集まって大賑わいだ。

 

タカヒロから金を賭けてナインボールをやらないかという誘いがあったが、スティーブはそれを断ってバーカウンターでマッカランの入ったグラスをなめていた。

 

 

ガタンと入り口の扉が開き、ドアマンが室内を見渡す。

 

「スティーブ、いるか?

クラッチ・ロケッツが外に」

 

「いるぜ。やっと来たか」

 

腰を上げて外へ出る。


ドアマンのメンバーが「中で飲んでいいか」と訊いてきたので、「代わってやる」と返す。

外にリーダーであるスティーブが立つ事など滅多に無いのだが、来客との話に自分がいては邪魔だろうと気遣ってくれたのだ。

 

 

「よう」

 

「あん?一人か?」

 

外で待っていたのはマーカスだけだった。

連れてくるはずのビッグ・ペインがいないのでは話にならない。

 

「それが、ボスと連絡がつかなくてな。あまりにも遅いんで来てみたが、ここにも寄ってないか」

 

「知らねーぞ。今の今まで待たされてたんだからな。

連絡がつかねーって?電話が切れてんのか」

 

「そうなんだ。もうひとっ走り探してくるぜ」

 

マーカスはホームベースに来る前に、ビッグ・ペインがいそうな場所をまわってきたようだ。


「他のメンバーは知らねーのか」

 

「誰も」

 

「だったらソイツらも使えばイイじゃねーか。

ウチの連中は無理だが、俺だけなら手ぇ貸してやる」

 

ペインと会えないことには何も進まないので、スティーブは助力を申し出た。

もちろん、クラッチ・ロケッツが動くのを前提としてである。

 

「そうだな。まだ、みんなは大事だと考えていないようだが、こうも遅いと心配だ」

 

マーカスが携帯電話を取り出して、その場で仲間に連絡を取り始めた。

 

「俺だ。ペインと連絡は取れたか?」

 

「…」

 

スティーブはメンソールに火をつけて、それを黙って待つ。

 

 

数人と電話でやり取りをした後、ようやくマーカスがバイクのエンジンを起こした。

 

キュキュ…ウォン!ウォン!

 

「終わりか?」

 

「あぁ。俺も出るぜ」

 

「分かった」


ドルン!ドルン!

 

スティーブもショベルヘッドでマーカスを追った。

 

ブォォ…

 

しばらく併走していると、フルフェイスのヘルメットのシールドを開けてマーカスがバイクを寄せてきた。

 

「どこを探そうか?」

 

「知るわけねーだろ。寝ぼけてんのか、てめー」

 

「いちいちムカつく野郎だな!」

 

ピッ!ピッ!

 

その時、対向車のタクシーからクラクションが彼らに向けて鳴らされた。

黄色のクラウン・ビクトリア。運転席の窓から太い腕が伸びて、左手を振っている。

 

「ロッソだ」

 

マーカスがバイクを停めた。

 

「よう、マーカス!それにスティーブ!休みだからツーリングか?

仲良しじゃないか!」

 

ホットドッグを頬張りながら、その巨漢が話しかけてくる。


「仲良くしてるように見えるか?

ちょうどつまらねー口論してたとこだぜ」

 

スティーブがロッソの手からホットドッグを奪い、一口かじって投げ返す。

 

「ほーう?さては腹が減ってピリピリしてんだな?

一緒にメシでも行くか」

 

「あー?今食ってる奴が何言ってんだよ」

 

スティーブはどれだけ食うんだこの男は、と呆れ顔である。

 

「まあそう言うな。ほら、そこの店に入るぞ。

スティーブ、お前と会うのは久しぶりだからな。おごってやるぞ」

 

ステーキレストランを指差し、ロッソがタクシーを動かした。

 

「チッ…勝手に決めやがって。

ビールは出るんだろうな!」

 

「飲む気満々じゃねーか」

 

スティーブとマーカスもロッソの車に続いて店へと入っていった。


 

 

「うまい!」

 

肉汁あふれるステーキをフォークで口に運び、ロッソが叫んだ。

 

「今日は遅出か?カミさんの晩飯にはありつけねーみたいだな」

 

スティーブはジョッキのビールをグビグビとあおった。

 

時刻は夜の九時。窓際の席から見える町並みは、すでに真っ暗である。

 

「今夜は外で食べてくるように言われててな。

何やら娘達と食事の約束をしていたらしい」

 

「大黒柱がカヤの外かよ。報われねーな、おっさん」

 

「たまには女だけの時間もよかろう。

決して俺は煙たがられているわけではないぞ!」

 

「どうだか」

 

あくびを漏らしながらマーカスがそう返す。

彼は空腹でなかったらしく、シーザーサラダを少し食べただけで、それ以降は水ばかり飲んでいた。


「ビール、もう一杯な」

 

「職業柄、あまり感心できんがな」

 

やれやれ、と首を振りながらもロッソが追加のビールを注文してくれた。

一緒に働いていた頃には考えられなかった行為だ。

 

「それ飲んだら行くぞ、スティーブ。

呑気にメシ食ってる場合じゃねーんだからよ」

 

マーカスが非難する。

ペロリとステーキを平らげたロッソがフォークを皿の上に置いた。

 

「何か急用の途中だったか?」

 

「まあな」

 

「そりゃすまなんだ。

しかし、お前たち二人がこうしてつるんでるなんてどんな用事だ。どうせろくなことじゃないんだろう」

 

「なんだそりゃ…ウチのボスと連絡がつかないから探してんだ。

何も悪さなんかしねー。な、スティーブ」

 

しかしスティーブは黙って二杯目のビールをあおるばかりである。

飲酒運転は立派な犯罪なのだが。


「マーカスのチームのリーダーか。

俺は詳しくないが、レースでもやろうって集まりなのか」

 

マーカスは仕事仲間とバイクやクラッチ・ロケッツの話をする事は少ない。

スティーブは通勤にショベルヘッドを使っていたが、マーカスは自転車なのもそれが話題としてあがらない理由になっている。

 

「そんなこと知ってどうするんだよ」

 

「いや、さっき物凄いスピードで走ってるバイクが何台かいたもんでな。

同じような事やってるのかと思ったんだ。

ほら、お前の愛車もレーシングバイクだろう」

 

スティーブとマーカスが目を見合わせる。

クラッチ・ロケッツの他のメンバーが出回っているのは分かるが、ビッグ・ペインの捜索をするのにスピードを出すとは考え難い。

周囲をキョロキョロと見回しながらそんなことをしていては自殺行為である。


「まさか」

 

「一人で突っ走ってやがんのか?

速けりゃ従うなんて単細胞なレーサー共が思いつきそうなおふざけだぜ」

 

「てめーが言うなよ、スティーブ!

しかし、確かめないとな」

 

二人はビッグ・ペインが傘下を増やす為に交渉した際、レース勝負を持ちかけられた可能性を真っ先に考えたのだ。

 

そして、タイミングよくマーカスの携帯電話に着信が入る。

 

「もしもし。あー?やっぱりそうか。

わかった」

 

手短に切り、スティーブに向けて頷く。

メンバーから、ペインが走り回っている目撃情報が入ったらしい。

 

「ロッソ。お尋ね者が見つかったみたいだ。

ごちそうさん」

 

先にスティーブが立ち、ロッソの手を握った。

続けてマーカスも彼と握手をする。

 

「そうか。気ぃつけてな」


 

店を出てバイクに跨がり、マーカスが西方を指差した。

 

「あ?なんだよ」

 

スティーブが指の先を視線で追うが、一般車や建物があるだけである。

 

「マンハッタン方面だとよ。どういうつもりなんだか」

 

「相手様のご所望だろうぜ。

行ってみてペインが負けてたら傑作だな」

 

計画の言い出しっぺが出鼻をくじかれては幸先が悪すぎる。

スティーブもふざけてはいるが、それは避けたいと思っていた。

 

「笑えねーんだよ。行くぞ」

 

ウォン!ウォン!

 

「おい!待てよ、ゴリ!」

 

ドルン!ドルン!

 

 

 

クイーンズボロー橋を渡る頃には、すでに異変が感じられた。

路肩の壁や、他の車両とぶつかっている車がちらほらと見受けられたのだ。

気の狂ったレースに巻き込まれた不運な者達に違いない。


橋を渡り終えて、マンハッタンの街並みに進入すると救急車やポリスカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「予想以上の大騒ぎだな!」

 

走行中の為、風の音や喧騒に負けじと叫ぶスティーブ。

 

「あぁ!よほど派手にやってるらしい!」

 

定期的に行われるファントムズのドッグファイトはほとんどが単騎駆けなので、ここまでの騒ぎにはならない事が多い。

道中の交通事故の多さからも分かるように、このレースは荒れているようだ。

 

 

「いたぞ!」

 

ついに数台のバイク集団を見つけた。

ブロードウェイの大通りを北に向けて走っている。

その後ろには二台の警察車両。

 

果たしてビッグ・ペインがその集団の中にいるのかまでは分からないが、騒ぎの中心である連中に向かって、スティーブとマーカスはアクセルを全開に回した。


一分とかからずにポリスカーの後ろにつけた。

この時点で、先頭を行く者達のスピードがさほど出ていない事に気づく。

 

マーカスのニンジャはともかく、スティーブのショベルヘッドで難なく追いついたのだ。それに、スポーツバイク相手にポリスカーがぴたりと張り付いているのも、速度が遅いからに他ならない。

 

「ペースカーをパスすんぞ!」

 

「余裕だぜ!」

 

スティーブが左、マーカスが右から、横並びに走る二台のポリスカーを追い越した。

 

眼前に迫る集団。数は五騎。

 

先頭はやはりビッグ・ペインだった。

チラチラとサイドミラーを見ながら走行している。

 

それに追従している形の四台のライダーは、左手にバットやゴルフクラブを握っていた。

 

「そういうことか!」

 

あまりスピードが出ていない理由が明らかになる。

ペインが敵を振り切れていない点から、すでに攻撃を受けて負傷している可能性が高い。


後方のポリスカーから拡声器のがなり声が響く。

 

「二人増えた!?おい、危ないから離れなさい!」

 

そのせいで、スティーブとマーカスの到着にビッグ・ペインと謎の敵集団が気づかされる。

 

「バレたな…しかしコイツら、初期のアイアンローチみたいな真似しやがって!許さねーぞ!」

 

マーカスの言うとおり、アイアンローチからクラッチ・ロケッツが狩られていた頃が思い出される。

 

「俺がぶっ倒してやるよ!」

 

スティーブが意気込み、鉄馬を前に進める。

 

「なんだコイツ…?」

 

「ファントムズMCじゃねーか!邪魔すんな!」

 

ヘルメットの中から男達のくぐもった声。

 

ブン!ブン!

 

同時に武器を振り回し、近づいて横付けする事を許してくれない。


「チィ…ッ!」

 

一度軽くブレーキングし、四台の列の最も右側から再アタックだ。

道路脇に続く歩道に入ってしまいそうなほど、目一杯ギリギリのラインである。

 

「おらぁ!」

 

ようやく真横につけ、左足で敵車両を蹴りつけた。

 

ガコッ!

 

「うわっ!」

 

ガシャン!

 

「っしゃあ!まず一匹!」

 

一台が転倒し、それを見たポリスカーの一台が停車した。敵は残り三人と後ろの警察車両が一台。

 

バイクの構造上、アクセルを回す必要がある右手側に武器を持つ事は出来ない。もし持つのであれば、左手でクラッチを切るか、ギアをニュートラルに入れておく必要がある。

 

止まっている対象に攻撃をするならば有効だが、ビッグ・ペインを追撃しようとしているこの状況でそんなことをすれば、後方に迫る警察車両に追いつかれてしまうので、必然的に右手側は弱点と化す。

機転を利かせたスティーブの作戦勝ちだ。


「次ぃ!」

 

ガン!

 

素早く左に車体を傾け、敵を蹴り倒す。

 

派手に転倒した次の標的は、転がるヤマハの車体にライダーが巻き込まれながら地面を滑っていった。

「あぁぁぁ!!」という悲鳴が後方に消えていく。間違いなく大怪我を負わせてしまっただろう。

 

「やめなさい!」

 

拡声器。

ポリスカーの目の前での狼藉は、自然とスティーブが最重要の犯罪者である事を決定づけてしまった。

 

「クソ!死神め!」

 

左手の武器で右側にいるスティーブを攻撃してくるが、得物の長さが足りずにひらりとかわされてしまう。

 

「やめておけ!相手が悪い!離脱するぞ!」

 

片割れがそう叫んでいる。

 

「何だ!逃げんのか、てめーら!」

 

道を逸れ、敵車両が退散していく。

もちろんポリスカーはスティーブに的を絞ってへばりついたままだ。


「ペイン!大丈夫か!」

 

スティーブとマーカスがビッグ・ペインを左右から挟む形で走る。

 

「悪ぃな、出張らせちまった」

 

ペインの声は小さく、ほとんど聞き取れない。

かなり弱っている。

 

「とにかく、まずは逃げろ!

後ろのサツを俺が引きつけてやる。マーカス!てめーんとこの頭をホームベースまでエスコートしてやれ!」

 

「分かった!頼んだぜ、兄弟!」

 

スティーブのみがギアを落として速度を緩める。

 

ドルン!ドルン!

 

スティーブのバイクに追突する寸前で、ポリスカーも速度を落とした。

どうやら彼をパスして前に行くつもりは無いらしい。

 

「こっちだ!来やがれ!」

 

後方に中指を立てながら、直進するペインとマーカスを確認する。

そして、スティーブは次にさしかかった交差点を右に曲がった。


 

 

 

「うぅっ」

 

「起きたか?」

 

ホームベース二階。

ほこりっぽいベッドに寝かされていたビッグ・ペインの目が開いた。

裸電球一つが天井から照らす、薄暗い部屋である。

 

彼の周りにはマーカス、スティーブ、そしてジャックとアンディの姿もあった。

 

 

スティーブがポリスカーを振り切って戻って来た時には、ビッグ・ペインはここで寝息を立てていた。

身体中にバットなどで打たれたアザがあるようだが、その痛みで気を失っていたのではなく、激しい疲労で眠っていたらしい。

 

「あぁ。やられたぜ。

大失敗だ」

 

「どういう経緯だったんだ、ペイン」

 

「いきなりさ。傘下を増やすと伝えて、俺達の下につくように話した。

結果はご覧の通り。お前達が来なけりゃ逃げきれなかったよ」

 

「レースで勝負してたんじゃねーんだな。

鬼ごっこして遊んでただけかよ」


スティーブの言い方に、マーカスが腹を立てる。

 

「てめー!どうしてそういう物言いしか出来ねーんだよ!

ペインは怪我負わされてんだぞ!」

 

「マーカス、よせ。一人で突っ走ったのは俺だ。

むしろスティーブには感謝しているくらいだ」

 

温厚なビッグ・ペインがそれをたしなめる。

 

「チッ…」

 

「で、やったのは何て野郎だ。

リチャードの次はてめーの尻拭いかよ。どいつもこいつも下手打ちやがってよ」

 

「いや、報復なら必要ない」

 

「あー?なに意地張ってやがる」

 

スティーブは苛立った。

 

「違う。そういう事じゃない。

もし、ここでお前達が奴らを叩き潰したとしてだ。そんな話はすぐにブルックリン内に広がる」

 

「当たり前だろ。そのくらい問題ねー」

 

「アイツらはひとまず後回しにする。

そうじゃなきゃ、無理やり潰されると身構えちまった他のチームとも手当たり次第にケンカして回ることになるぞ」

 

初めに交渉で、出来る限りの傘下を増やしていくという事らしい。

スティーブ達、ファントムズの出番はその後、アイアンローチによる『始末』はさらに後となる。


「…俺とリチャードからの用事は、話す必要もなさそうだな」

 

ビッグ・ペインの頭の中では、しっかりとファントムズの役割がケンカ屋として成り立っていた。

 

「そうだ、忘れていたな。聞かせてくれ」

 

「てめーが先走ってた件の分担だ。

交渉事やレースならお前のところに任せる。

痛い思いをさせたけりゃ俺達が出る。リチャードは…」

 

「その先だな?消去か」

 

「だとよ。出番は少ねーが、楽な仕事じゃないわな」

 

「うぅむ…そうはなってほしくないところだが」

 

ベッドで上体だけ起こしているビッグ・ペインが、腕を組んで首を横に振る。

 

「さて…お前の言い分だと、当分俺の仕事は無いわけだ。

飲みにでも行くぜ」

 

「もう少しこのベッドで休ませてもらおう」

 

「勝手にしろ」

 

バタン。

 

マーカスとビッグ・ペインだけを残し、スティーブ達は退室した。


 

「アンディ、車を頼む」

 

「だろうと思った」

 

くたびれた木製階段をギシギシと鳴らしながらスティーブが下っていく。

すぐに騒がしい一階フロアに到着だ。

 

「ジャック、おめーも来るか」

 

「あー?どういう風の吹き回しだ」

 

リーダーからの誘いに、ジャックは疑念たっぷりの意味合いを込めてキツい視線を返す。

まるで、汚いものでも見るかのようなしかめっ面だ。

 

「ジャック」

 

「んだよ」

 

「俺を殺すまでは、てめーはファントムズのサブリーダーだ。分かるな」

 

「…」

 

これは効いた。

つまりいつまでも煙たがりながら従うか、嫌なら自分を殺せと暗に伝えているのだ。

 

「どうなんだ。走行中のショベルに矢を放つ度胸があるか?

ねーんだったら飲みに行くぞ。仕事を先送りにされて苛立ってんだぜ、俺ぁよ」

 

「おごれよ」

 

「死ね」

 

三人が連れ立ってホームベースを出て行く。


 

「ビールを三杯だ」

 

着いたのはライブハウス。

スティーブはあまり顔を出さないが、ファントムズのメンバー間では第二の憩いの場として利用されている。

 

狭くない店内にはステージがあり、名前も知らないバンドマン達がハードロックを演奏していた。

音量は当然ホームベースの比ではない。ギターの高音域が耳につくというより、ベースやバスドラムが腹にズンズンと響いてくる感じだ。

 

「スティーブ」

 

「よう、リーダーにサブリーダー」

 

そう多くないが、店内にいたファントムズの仲間がスティーブやジャックに挨拶をしていく。

 

「見ろ!ファントムズのスティーブだ!

サブリーダーのジャックといるぞ!」

 

「わっ、本当だ!彼らは犬猿のはずなのに!」

 

この二人が揃って飲んでいるのを見るのが珍しいようで、内情に詳しい一般客が大層驚いている。


ボックス席などは無いので、彼らはバーカウンターに肘をついている。

それで、酒を頼みに来る連中の目にとまってしまうわけだ。

 

「チッ、ガヤがうるせーな。ぶっ飛ばしてくる」

 

「ライブハウスやクラブってのは情報の巣窟だぜ?

いちいち気にしてたらキリがねーんだよ」

 

憤るスティーブにジャックがそう言った。

彼も短気なのに変わりは無いはずだが、ここでは違うようだ。やはり遊び慣れているのが分かる。

 

その時。

 

「スティーブ…?ねぇ、あなた!スティーブでしょう!」

 

女。

二人組だが、その片割れがスティーブに話しかけてきた。

 

知り合いがいてもおかしくはないか、とスティーブが彼女を見る。

さらさらの黒髪をまっすぐに伸ばしたスレンダーな美人である。しかし、見覚えはない。

 

「…誰だ、お前?」

 

スティーブは首を傾げた。


「えっ?忘れちゃったの!?」

 

「なんだ、新手の逆ナンパか?

相手してやれよ、スティーブ」

 

横からジャックが茶々を入れてくる。

スティーブはそんな事は無視して目の前にいる女を凝視した。

 

「そんなんじゃないって!サラだよ!

ほら、ピッツバーグで会ったじゃない!」

 

「…あぁ。思い出した。

確か、大学生だったか」

 

ようやく失われていた記憶にたどり着く。

サラ。ピッツバーグでスティーブが声をかけた女だ。

デートの途中、強姦に襲われそうになったのをスティーブが助けた。

 

「そうそう!良かった!

やたら強い男だとは思ったけど、なるほどね。バイカーのリーダー様でしたか」

 

スティーブやジャック、アンディが着ているジャケットを見ながら、サラは納得だと頷いた。

 

「何しにこっちへ?」

 

「友達と二人で旅行だよ。彼女は同学部のスーザン、よろしくね」


スーザンが「よろしく」と軽く右手をあげる。

 

「旅行ねぇ。ま、楽しんで帰れよ」

 

「つれないなぁ。せっかく会えたんだし、一緒に飲もうよ!」

 

「あー?滞在中の食い扶持にしようって腹づもりなら、二人とも売り飛ばすぞ」

 

「最悪!」

 

ジャックがゲラゲラと笑い、アンディはそっぽを向いているが、サラとスーザンは顔を真っ赤にしてしまった。

平手打ちが飛んでこないのが不思議なくらいだ。

 

「そう言われても仕方ねー女じゃなかったか?」

 

「違うし!」

 

「サラ、何なのこの人。もう行こうよ」

 

スーザンがサラの手を引く。

しかし、そこに別の一般男性客が二人、割り込んできた。

ひどく酔っている様子のバンドマンだ。

 

「おうおう。ソイツに腹が立ったんなら、俺達が相手してやろうか、お嬢さん方?」

 

「四人で楽しい事しようぜ」


もちろんシラフであれば、彼らもスティーブ達が女と話しているところに近寄ったりはしないはずだ。

 

 

「いいよ。飲もう」

 

サラはそう返し、意外にもその男達と少し離れた場所で談笑し始めた。

仕方なくスーザンもそれに付き合っている。

 

「けっ。少しは変わったかと思ったんだけどな」

 

「尻軽って事か?」

 

「知らねーよ。バーテン、ビールだ」

 

二杯目の注文をしながらスティーブは顔をしかめた。

 

「誰だってあんな言い方されりゃ、頭にくるさ」

 

ぼそりとアンディが言った。

 

 

「おっ?何だか面白い事になってるぜ。女が騒いでやがる。

どこかに攫われて犯されちまうんじゃねーの?」

 

ジャックが指差すが、スティーブは視線を動かさない。

 

「ピッツバーグの時と同じだ」

 

「あっ」

 

何やら動きがあったらしいが、それでもスティーブは振り返らなかった。


ガシャァン!

 

カウンターにいるスティーブの真横、右にいるジャックとの間に男がうつぶせに倒れ込んできた。

その後頭部はむんずと何者かに掴まれている。

 

ガシャァン!

 

さらにもう一人。

今度はスティーブの左側、アンディとの間に頭が突っ込んできた。

 

バーテンはやれやれ、と呆れ顔である。

 

「うるせーぞ」

 

ようやくスティーブが反応した。

よく見ると、彼の左右に突っ伏しているのは先ほどサラに声をかけていたバンドマン達である。

 

「スティーブ。コイツらがアンタの女に手ぇ出してたようだが?」

 

二人をぼろ雑巾に変えてしまったのは、店内にいたファントムズメンバー達であった。

どうやらスティーブとサラが親しげに話していたのを見て、勘違いさせてしまったらしい。


「別に俺の女じゃねー」

 

「あ?マジかよ。

紛らわしい事してんじゃねーぞ、おらぁ!」

 

数人のファントムズメンバーに引きずられて、不運なバンドマン達がライブハウスから退場していった。

 

 

「わざとやってんだろ?」

 

ふいに、スティーブがそう口にした。

真後ろにバツが悪そうな顔をしたサラが立っているからである。

 

「また助けてもらえる。気が引ける。

そう考えてたんだろ、って訊いてんだよ」

 

「別に…」

 

「そうかよ。いっぺん死ぬほど嫌な思いでもしてみりゃ良かったんじゃねーか?

アイツらも余計な真似しやがって。ほっときゃイイのによ」

 

サラは言い返してはこなかった。

間接的にではあるが、スティーブに助けられているからだ。

プライドの高い彼女にとって、これ以上嫌味ったらしい男はいないだろう。

 

「俺にどんな気持ちを抱こうがてめーの勝手だがよ。

周りの他人を巻き込むようなやり方が抜けねーんじゃ、あっちで男をたぶらかしてた頃と何も変わってねーんだよ。

勝負するなら自分の身一つでやるんだな」


サラはしばらく落ち込んでいるのか、または何かを考えるように黙ってうつむいていた。

 

「スティーブ」

 

「おう」

 

顔を上げたサラは無表情で、泣きっ面を予想していたスティーブは驚いた。

 

「ありがとう」

 

「けっ!俺は助けちゃいねーだろうが!

礼ならウチのバカ共に言うんだな!」

 

ビールをあおる。

 

「スティーブ」

 

「なんだよ!」

 

「あたし、昔っからちやほやされてきたからさ。

苦労は知らないし、本気で叱られた事も無かった」

 

「だから?」

 

バシャッ!

 

返事の代わりに、顔面に酒が飛んできた。

 

「マジでムカついた!」

 

「てめぇ…!」

 

スティーブの顔を見て、横にいるジャックがざまあみろ!と笑っている。

 

「でも、これでチャラね!

あと、スーザンとあたしに奢りなさいよ!」

 

「うるせー!」

 

「ははは、俺は気に入ったぞ。

姉ちゃん達、俺達と飲もう」

 

スティーブは拒否したが、アンディがそう言うと、彼女達も仲間の輪に入るのだった。


 

 

1カ月後。

 

ブルックリンを滞りなく着々と手中におさめていくスリーキングス。

アイアンローチのお膝元であるマンハッタンにも少しだけ傘下となるチームが出来、宿無しだった彼等もついに居を構える事になった。

 

 

「ふぁぁ…なんだこりゃあ。

アジトの存在を会社のオフィスか何かと勘違いしてんじゃねーの?」

 

ジャックが欠伸を漏らす。

 

この日。

リチャードからアジトへと招待を受けたスティーブとジャックの2トップは、マンハッタンの高層ビルが建ち並ぶオフィス街へと足を延ばしていた。

徐々にアガリが手に入り始め、アイアンローチの財布事情が潤ってきたのだ。

 

「てめーの車もだろ。洒落た買い物だな、おい」

 

「うるせーなぁ」

 

彼らはジャックのスポーツカーに乗車している。

 

シボレー・コルベット。国産では最上級にあたるスーパーカーである。

ファントムズもまた、多大なる恩恵を受けていた。

 

スティーブのもとにも少なくない金が入ってくるが、彼の生活ぶりはあまり変化がない。

自らの稼ぎもホームベースの改修や仲間達の為に使っているからだった。


路上に停車して屋根を開け、一つのビルを見上げている。

外観には大して変わったところもない、ネズミ色のビルディングだが、地上25階建てという立派なものだった。

 

ウォン!ウォン!

 

バイクの排気音。

 

「よう!ファントムズ!」

 

真っ白な新型のハヤブサで現れたのは、上機嫌なビッグ・ペインである。

ヘルメットもアライ製の白いフルフェイスを新調し、ECCRの文字が背中に刺繍されたツナギを着ていた。

 

「おう、新しい宇宙船か」

 

「初お披露目さ。お前達は二人なんだな」

 

言われてみれば、ビッグ・ペインは一人で呼ばれたらしい。

 

「別に理由なんて大した事ねーだろ。

お前のとこにサブリーダーがいないだけだからな」

 

その時、ビルの正面から人が出てくるのが見えた。


「集まってるな」

 

相変わらずのスカルマスク。

そんななりでよくもこんな大層な物件をアジトとして押さえれたな、と皆が一様に思った。

 

リチャードは近くの駐車場に車を停めてくるように促し、彼らが戻ってくると、ビルのエントランスをくぐった。


カードキーを取り出して、自動ドアを開錠する。

 

「ついて来い」

 

言われるがまま、殺風景な一階フロアに入り、エレベーターに乗る。

ジャックはそわそわと落ち着きなく、辺りを見渡している。


「23階!?リッチだな!」


リチャードが押したボタンを見て、ビッグ・ペインがそう言った。

最上階に近ければ近いだけ、家賃も跳ね上がっていくのは言うまでもない。


「ニューヨーク中の悪ガキ共の頂点を担うんだ。少しぐらい見栄を張らんとな、ペイン」


「ウチもそろそろ何か考えないといけないか…」


ビッグ・ペインが唸る。クラッチロケッツは、広い溜まり場こそ確保しているものの、ホームベースやこのビルの部屋のような建物は所有していない。


「ようこそ、我々のオフィスへ」


エレベーターを降り、すりガラスの扉からフロアの一室に通される。

だだっ広いだけの会議室のような部屋だ。

やはりマンションとは違い、居住する事を前提とした間取りではない。


室内にはやはりスカルマスクのメンバー達が数人おり、いそいそと部屋に机や椅子を配置しているところだった。


「入ったのは昨日だったか」


「あぁ、騒がしくてすまんな。とりあえずソファにでもかけろ」


コの字型の黒いソファに四人が座る。


壁にはオフロードバイクのポスターや、アイアンローチのマスコットであるゴキブリのデザインのフラッグが貼り付けてある。

その中でも、一際大きなニューヨークの地図が目立っていた。


所々に×印が書かれているのは、スリーキングスの傘下となったチームが増えたからに他ならない。


「集まってもらったのは、アジトの御披露目の為じゃないぞ、ジャック」


未だにキョロキョロして落ち着きがないファントムズのサブリーダーにリチャードが釘を刺す。


「なんだ?てっきりそうなのかと思ってたぜ。

それよりも俺の車どうよ!ハイローラーでセレブな匂いがプンプンすんだろ!」


「おいおい、ご自慢大会は今度にしておこうぜ。どうしたんだ、リチャード?」


ビッグ・ペインが話の先を促す。


「トライアドの件。ウチが接触を試みていたが、動きがあった」


「ようやくか」


前にもめた組の連中は、チャイナタウンの事務所で叩き潰した。

話は、その後に湧いてきた別の組である。


「トライアドは、スリーキングスを敵と見なし、これを抹殺する…それが答えだそうだ」


「あぁ!?どういうこった!アイツらウチとやる気かよ!」


スティーブが声を荒げた。


「頭と話せたんだが、個人的な恨みは無いそうだ。ただ…」


「同胞をやられた面子って奴か?わからねーでもねーけどよ!別の組なのにそう言ってくるとはな!」


メンソールをくわえて火をつけるスティーブ。


「同族、同郷ってのがアジア人にとってはデカいらしい。

特に朝鮮人と中国人はな。

我々にはよく分からないが、お前のとこの日本人に訊いてみたら分かるだろう」


「しかし、よくその場から帰ってこれたな」


これはジャックだ。


「そこが最大限の譲歩だそうだ。

宣戦布告を口頭で行ってくれるお上品な連中で助かった」


「けっ!前、いた奴らはオツムの弱いカス共だったからな!」


「だが、今回はこちらにも勝算が充分にある。

悪いが、プロのマフィアと言えども本国から離れた二次団体だ。帰国いただこう」


「あたりめーだ!」


もちろんリチャードによれば、彼らの根城も分かっている。

接触出来たくらいなので、当然といえば当然であろう。


「チャイナタウンか?」


「もちろんそうだ。前とは違うが、そう遠くない」


「逆に、こっちの情報も割れてしまっているんじゃないか」


ビッグ・ペインが言った。

アイアンローチだけではなくスリーキングスを名指しで抹殺すると言ってきたくらいなのだ。大抵の事は知られてしまっていると思って間違いない。


「今ある兵隊で充分やれんだよな?」


「あぁ。奴らが香港系以外のチャイニーズと連携を取っていなければな。

三十人程度だ」


「早速兵隊を集めよう。

俺達は一旦ブルックリンに戻って、あっちの人間を引き連れてくる。ほとんどのチームはあっちにいるからな」


全員が合意した。


「このビルの一室を押さえたのも、奴らに向けての牽制の意味があっての事か?」


「無いと言えば嘘になるな。目立つ場所に手を出し辛いのは事実だ」


「どう出てくるつもりなのかは知らねーが、奴らの拠点を教えてくれ」


スティーブのこの言葉で、四人は壁に貼られたニューヨーク市の地図の目の前まで移動した。


「…ここだ」


リチャードがチャイナタウンの南西部を指差す。


「ジャック」


「分かってるよ!めんどくせぇなぁ!」


スティーブから名前を呼ばれたジャックは、すでに携帯電話に地図情報を入力していた。


「かなりの数になるが、ここは人数が集められる場所じゃない。

クラッチロケッツのたまり場はどうだろうか」


「使ってくれ」


「ではそこに、一時間後だ」


ビルを出て、まずは少し離れた駐車場に停めてある車とバイクのもとへ戻るスティーブ達。


「先に連絡を入れておくか?ラファエルやらアンディを動かしといたほうがイイんじゃねーの?」


「そうだな。俺がかける」


スティーブがiPhoneを取り出した。

その瞬間だった。




ドンッ!!!




一発の爆音。尋常ではない大きさの爆発だ。

さらに、断続的に同じ音が鳴り響く。



ドンッ!ドンッ!



「なんだ!?」


音の出どころ、後ろを振り返る三人。



けたたましい音に驚いた車両は相次いで事故を引き起こし、通行人は悲鳴を上げながら逃げ回っていた。



「おい…」


ビッグ・ペインが茫然とした様子で指を向けた。


二十五階建ての高層ビル。

先ほどまで彼らがいた建物の上層部が丸ごと吹き飛び、激しい炎と煙を巻き上げていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ