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Peaceful  作者: 石丸優一
19/24

Smoke

 

 

だだっ広いホームベース内。

 

耳をつんざく大音量で流れるハードロック。

 

酒やクスリ無くして落ち着いてはいられない程うるさい。ましてやこんな中で眠るなど、普通ならばもっての他だ。

 

 

しかし、カウチに深々と座って首をもたげ、大きないびきをかいている男がいた。

室内には彼の姿以外ない。 

 

ギィィ…ガタン!

 

だがすぐに、一つの仲間の足音が入ってきた。

 

「ボス。酒も飲まずにここで寝てるなんて珍しいな」

 

「…るせーなぁ…!」

 

むにゃむにゃと口を動かし、よだれを手で拭きながら、スティーブはうっすらと目を開いた。

 

浅黒い肌。

アメリカ先住民の血を継ぐファントムズMCのディレクター、アンディの顔がすぐそこにあった。


「総大将が見張りも立てずにお留守番とは、ウチものんびりとしたもんだな」

 

隣に座って、キンキンに冷えたビールの瓶をあおる。

フロアにあるバーカウンターの冷蔵庫から引っ張り出したのだろう。

 

「あー?誰かドアマンが立ってただろうが」

 

「いないぞ。寝ぼけてんじゃねーよ」

 

空いた瓶を床に転がして、アンディが腕を組む。

 

「何だよ。マイクの野郎、勝手に帰りやがったな」

 

「さぁな。帰るって言うのに寝言で返事でもしたんじゃないか?」

 

「けっ!朝っぱらから説教かよ、タフガイ!」

 

ポケットからくしゃくしゃになったメンソールを取り出して火をつけた。

ミントの香りが眠っている脳を無理やり叩き起こす。

 

「ボス、昨日は何をこそこそやってたんだ?」

 

「どういう意味だよ」

 

ギクリとした。

アンディの勘は鋭い。

 

「何か隠し事なら、つれないと思っただけだ」

 

「どこぞの女子高生か、てめーは?ほっとけ」


「そうか。ならイイ」

 

「あ、そうだ。

ちょうど頼みたい事があったんだよ、ママ」

 

スティーブも喉の渇きを感じ、立ち上がって冷蔵庫の中を探索する。

 

「誰がお袋だ」

 

「ジャックの件だ」

 

「ほう?ご機嫌取りか?

お断りだ」

 

ハイネケンの缶が二本、目についたので一ついただいておく。

誰かの買い置きだろうが気にしない。ここに置いておく方が悪いのだ。

 

「つれねーなぁ、ママ。

まだぐずぐず泣いてんだろ、アイツ?」

 

「知らん。昨日はVロッドをいじってたぞ。

矢を飛ばしてお前の馬をパンクさせるとか」

 

「は!バットモービルでも作ろうとしてんのか?

四六時中ピストルぶら下げてるビビりのお坊ちゃんにはそんなもん必要ねーだろ」

 

本当にスティーブを困らせたければ弾けば良いだけだ。

ジャックも冗談を吐けるぐらいには元気を取り戻しているらしい。


「とやかく心配しない方がいいんじゃないか?

今は煙たがられてケンカになるだけだ。それはハッキリ分かる」

 

「ほったらかしすぎたってへそ曲げるだろ。アイツは構ってちゃんだからよ」

 

缶を握りつぶしてアンディに投げつける。

インディアンはそれをキャッチして、さらに小さくつぶした。

 

「その辺の折り合いは自分で考えるんだな。

で、昨日は何してた?」

 

「しつけーんだよ!」

 

ガチャン。

 

誰かが入ってきたようだ。

 

「ふぁぁ。

おっと…邪魔したか、お二人さん?」

 

ラファエルである。

寝ていないのか、大きな欠伸を漏らした。

 

「構わねー。休みに来たのか?」

 

「そんなところだ。おっ、これいただき」

 

当たり前のように冷蔵庫からハイネケンを取り出す。

持ち主には災難だ。


「アンディ、珍しくバイクなんだな」

 

そのままラファエルが続けた。

音楽が大音量の部屋で寝ていたスティーブには初耳だ。

 

アンディの足がエコノラインでなければ、ラルフのソフテイルに乗ってきたという事になる。

 

「たまには動かしてやらんとな」

 

「ソフテイルを出したのか?

ギアの変え方は覚えたみてーだな、ママ」

 

早速スティーブがバカにしたような冗談を吐いている。

 

「またそれか…」

 

「ははは!コラムシフトのカプリスワゴンだけがママの足じゃないってか!

ウチのママは保育園の送り迎えもスーパーマーケットの夕飯の買い物もハーレーダビッドソンで決まりだな、スティーブ!」

 

アンディはムスッとしたが、ラファエルはスティーブの冗談が気に入ったらしく、手を叩いて大笑いした。


「ラファエル。よい子向けのベッドなら二階だぞ?

さっさと行け」

 

「うえーん、ママにしかられたよー」

 

高笑いしながらラファエルが消えていく。

ドスドスと階段を上る足音は意外にも響いてきた。

 

「どうせラファエルもつるんでたんだろ。奴もいなかったからな」

 

「いい加減にしろよ、アンディ。

てめーは俺がどんな女とヤッて、いつどこでクソをしたのかまで知りてーのか?」

 

中指を立てる。

 

「そんなことは知らん。

だが、バカな真似は許さんぞ。

ディレクターってのは、ご意見番なはずだ」

 

「…夕方以降はラファエルといたが、共通の知り合いも交えてつるんでただけだ。

…てめー。ずいぶんとつっかかってくるが、何か妙な報告でもあったのかよ?」

 

「別に誰からも何もないぞ?

ラファエルと…ね」


何か感づいているのは確かだが、踏み込むきっかけはない。

そんなところだ。

 

スティーブは言葉を切ったアンディを一瞥し、カウチに深く腰掛け直す。

 

「で?それだけの為に起こされたのか、俺は」

 

「そうだな。ホームベースに二人しかいないのに、片方が寝たまんまじゃつまらないだろう」

 

アンディもそれ以上は追求せず、とりあえずはスティーブらの行動は黙認された。

しかし、アイアンローチとの約束が破られたのが知れれば、アンディはすぐさまご立腹となるだろう。

 

「話し相手を欲しがる様までママ気取りかよ。

くだらねー」

 

「誰がいつお袋を名乗ったってんだ」

 

「息子なら二階でベソかいてるぜ。あやしてくるか?」

 

ガチャン。

 

「ん?」

 

また、ドアが開いた。

次は誰だと二人が見やると、仏頂面でスティーブを睨むジャックの姿があった。


「何だよ。湿っぽい面しやがって!

ジャック、てめーいつまでそうやってるつもりだ?」

 

「…」

 

ガチャン。

 

無言のままドアが閉まってしまい、ジャックはいなくなった。

 

「チッ、やっぱりダメじゃねーか。いじけてやがる。

ママの仕事がなくならなくて残念だったな、アンディ」

 

「まったく…話を聞くだけだからな。

貸しにしといてやる」

 

「何でだよ!おい!」

 

スティーブに怒鳴られながらもアンディがジャックを追って出て行く。

 

 

およそ三分待たされ、アンディが戻ってきた。

ジャックの姿は無い。

 

「よう」

 

「クソガキは?」

 

「パンクさせて嫌がらせが完結するまではシカトするんだとよ」

 

「あぁ!?本気だったのかよ!」

 

近々、スティーブのバイクに矢が飛んでくるかもしれない。


「スティーブ、あの可愛らしいガールフレンドとは会ってるのか?」

 

「ケイティか、たまに会ってるぜ。

おめーはどうなんだよ?イイ女でも見つけたか?

あの…看護婦のばばあなんかお似合いだろ」

 

話題をがらりと変えたアンディに、含み笑いで返してやる。

 

「つまらん。女ってのは若くて胸と尻がデカい美人だと決まってる」

 

「けっ!エロオヤジが!

ホームベースに出入りしてる奴らでも食っとけよ。バカなあばずればっかりだ」

 

ホームベースにはメンバーの恋人も出入りしているのでこれは完全な失言だが、今はアンディしかいないのでノーカウントだ。

 

「腹ごしらえにピザでも取るか」

 

「あー?勝手にしろよ」

 

「…もしもし。ペパロニピザを一枚持ってきてくれ」

 

言われた通り、アンディが勝手にピザを注文し始めた。


 

 

三十分ほどでピザが到着し、アンディが箱を開けて美味そうなにおいがしてきた。

スティーブは特に空腹感は無かったので、隣でビールをあおる。

 

 

メンバー達がだんだんとホームベースに出入りし始めた。

 

カードやダーツで遊んだり、表でバイクをいじる者、フロアで雑談する者。

 

 

「ボス、ちょっといいかい?」

 

女。

 

一人の女がスティーブとアンディがいる場所にやってきた。

 

しかし、彼女は他とは違う。

 

頭には黒いバンダナ。

腰のベルト穴から尻の財布にかけて繋がったチェーン。タイトな黒革のパンツにブーツ。

 

そして…ファントムズMCのライダースジャケット。

 

「よう、ジェシカ。調子はどうだ」

 

スティーブと拳をぶつける彼女は、新たに加わった初の女性メンバーの一人。

名前をジェシカと言った。


年齢は三十代半ばで、黒髪の色気がある美女である。右手首に鷲のタトゥーが入っているのが印象的だ。

スティーブの姉であるレベッカと比べても負けない程の男勝りな性格で、力こそ男性陣に及ばずとも豪快な物言いや行動が目立つ。

ファントムズのメンバーに揉まれてもびくともしない、まさにじゃじゃ馬である。

 

「聞いてくれよ!あたしのバイクのフェンダーを近所のガキが蹴飛ばしてさ!

頭にきてソイツの尻に突っ込んでやったのさ!」

 

深刻な話かと思いきや、世間話でもするかのように武勇伝を語り出した。

 

「なんだ?突っ込んだ?」

 

「バイクをさ!」

 

「ははは!はねたのか!

なんて野郎だ!」

 

「誰が野郎だって!これでも食らいな!」

 

なんとジェシカはジャケット越しに大きな両胸でスティーブの顔を挟んでしまった。

 

「おうおう。相変わらずスティーブにはサービス満点だな」

 

アンディが横から羨ましそうに漏らす。

 

「イイ男だからね!あたしのお気に入りさ!」


グリグリと胸を押し当てる。

スティーブはジッとしているので嬉しがっているのかと思いきや、ジェシカの踝辺りを蹴って容赦なく転ばせた。

 

「ぎゃっ!何すんのさ!

気持ちよかっただろう、あたしの愛撫はさ!」

 

「勝ち気な女は嫌いじゃねーが、脈絡もなく胸を押しつけられちゃぁ、色気もクソもねーよ。

見境なくその垂れた乳を吸わせてまわってんだろ、てめー」

 

「何をぅ!股間おっ起てて喜んでるくせにさ!」

 

ジェシカが床に転んだ状態から一度立ち上がり、スティーブとアンディの間に座った。

大きめのカウチだが、三人が一列に座っては窮屈だ。

 

「そうだ、ジェシカ。

うちのご意見番がガールフレンドを所望だとよ。誰か引っ張って来いよ」

 

「はぁ?

アンディ。アンタ…たまってんのかい?

あっはっは!情けないねぇ!」

 

ジェシカがデリカシーの欠片もない言葉でゲラゲラと笑う。


「ふん!お前なんかに紹介されるのは病気持ちしかいないだろうな!」

 

「お?今のはおもしれーぞ、アンディ。

ジェシカ、ビールを取って来い」

 

きっかけはスティーブだが、押し問答が続くだけなので、ジェシカをひとまず席から外させる。

 

「あたしを使えるのはアンタだけだよ、ハニー」

 

形のイイ尻がくねくねと目の前で動きながら去っていく。

 

「アンディ。たまにはクラブやライブハウスに顔出してこい。

そのジャケットが飾りじゃねーってのがよく分かるぜ」

 

「ほう?そりゃ初耳だな。

ジャックみたいな若い連中の戦果か?」

 

「そういうこった。夜が更けるのが待ち遠しくなっただろ?」

 

ブルックリンの中であれば、ファントムズメンバーの特権は意外なところでも発揮されるようだ。

ジェシカが戻る頃には、アンディの機嫌も多少は良くなっていた。


「スティーブ、行くならお前も来いよ」

 

「行かねーよ」

 

アンディが夜の街へとスティーブを誘うが、彼はしばらく偽警察官としてブロンクスに出張る約束がある。

毎晩バリーから連絡があるとは限らないが、あの警察マニアの事だ。毎晩でも捜査に出たいはずである。

 

「なになに、何の話だい?」

 

「飲みに行く約束だ」

 

この会話には途中参加のジェシカに対してアンディが説明する。

 

「あたしも行く!どこだい!連れてけよ!」

 

「なぜそうなる。お前は留守番でもしておけ」

 

彼女はなぜか乗り気だ。

 

「ふざけんな!!あたしは楽しいにおいがするもんにゃ駆けつけるのさ!」

 

「仕方のない奴だな…奢らないからな」

 

「上等だよ!スティーブ、あんたも来なよ!」

 

「行かねーっての!」


皆で騒いでいると、昼過ぎ頃にラファエルが二階から下りてきた。

 

「ふぁぁ…よく寝たぜ」

 

向かいの椅子に座る。

 

「よう、スラッガー」

 

「おはよう、ラファエル。あんたも女が恋しいかい?」

 

「…はぁ?」

 

ジェシカの意味不明な問いかけにラファエルが目をぱちくりさせた。

 

「アンディが誰かに女を紹介して欲しいらしいんだけどさ、アテが無いんで今晩飲みに出るんだとさ」

 

「ジェシカ!勝手な話を広めるな!」

 

「なーにが勝手なもんかい!

事実だろ、ジ・ジ・ツ!」

 

またアンディとジェシカが騒ぎ立てるが、ラファエルもスティーブ同様に夜は動けない。

 

「いいんじゃねーか?楽しんで来いよ」

 

「あんたも来るんだよ、ラファエル!」

 

「行かねーよ!」

 

デジャヴだ。


 

 

夕刻。

 

ホームベース前。

 

仲良く二台の鉄馬で走り去るアンディとジェシカを見送る。

 

「ありゃあ仲むつまじいカップルにしか見えねーが」

 

「違いねーな。勝手にあのままくっついてくれりゃ万々歳だぜ」

 

言いながらiPhoneを見る。

バリーからの着信はまだない。

 

「タカか?」

 

「いや、バリーのおっさんからの連絡が来てないかと思ってよ。

今のところ何もないから、まだ仕事してんだろ」

 

「今日はどうなるだろうな。

あんまり遅いと酒を浴びちまうぜ」

 

ラファエルが停めてあるバイクに腰掛けた。

 

ドルン!

 

ドドドド…!

 

タカヒロのパンヘッドがやってくるのが見えた。

ブルックリン・チョッパーズの仕事が終わったのだ。


「おう、今夜のドアマンは大物揃いじゃねーか」

 

タカヒロが軽口を叩きながら寄ってくる。

 

ラファエルと右手の平で軽くハイタッチし、スティーブに笑みを向けると玄関前の階段に座った。

 

「またバリーのおっさん待ちか」

 

「おうよ。何度か電話かけてるが繋がらねーからな。

仕事だろ」

 

「さっきアンディとジェシカがランデブーしてるのとすれ違ったぜ」

 

確かにタカヒロが二人を見かけていてもおかしくはない。

 

「飲みに行くって話だ」

 

「平和で何よりじゃねーか。リチャードやペインからは?」

 

「何も。ペインはともかく、リチャードから着信が入るとヒヤヒヤするんだろうぜ」

 

「違いねー。中に入るぞ。ハイネケンが待ってるからな」

 

しまった、タカヒロのビールだったか!と、スティーブとラファエルが目を見合わせたのは言うまでもない。


 

 

一時間後。

偽ポリスカー車内。

 

「…ったくよう!ウチの連中ときたら!

勝手に仲間のビール飲むんじゃねーってんだよ!」

 

後部座席のタカヒロは不機嫌に鼻を鳴らした。

 

バリーからの連絡が入り、今夜もブロンクスへ出張だ。

 

「何をプリプリしてるんだ?

お前だけは温和な人間だと思っていたが」

 

事情をよく知らないバリーが尋ねるが、タカヒロは返事の代わりに肘打ちを彼の腹に食らわせた。

 

「スティーブ」

 

「あー?」

 

「サツだ。ミラーにちらちら映ってる。

一般車を数台挟んで後ろだな」

 

ラファエルの言葉に、全員が身体を強張らせた。

昨夜は奇跡的に警察を見かけなかったが、もちろん本物も街中をパトロールしているのだ。

 

「バレたか?」

 

「さぁな」


サイレンも鳴っていないし、パトランプも回ってはいない。

 

「どうする」

 

珍しく、スティーブはバリーに質問を振った。

 

「怪しまれなければ気にもとめないはずだよ。

真後ろに来てナンバー照会されるまでは安心さ。

適当にルートから外れよう」

 

パトロールのルートは厳しく決められているわけではなく、その時にハンドルを握る警察官の気分次第というわけだ。

 

 

運良く、赤信号で後続車との距離が開いた。

 

わき道へと入り、裏路地を進む。

暗くて狭いが、車一台が通るのには問題ない。

 

「おっ、ケンカしてるぜ」

 

ラファエルが指さす。

暗がりの中、若い男が二人、取っ組み合いになっている。

 

「止めよう!」

 

「知るか、ほっとけよ」

 

バリーとスティーブが別々の意見を出した。


ラファエルが屋根のランプを回す。

 

ハッとした男達が、ケンカをやめて逃げていった。

妙に足並みが揃って、同じ方向に走るのが滑稽だ。

 

「どうよ。ピカピカしときゃ、止めさせるには充分な効果だったろ」

 

ラファエルが回転灯のスイッチを切り、自慢げに胸を張る。

 

「ううむ。最善の策かな」

 

しぶしぶバリーが頷いた。

サイレンを唸らせて目立つわけにも、逮捕するわけにもいかない。

 

「けっ!どうせ手出し出来ねーんだからほっとけって言ったのによ!

おい、そこでゴミ漁ってるホームレスに聴取だ」

 

スティーブは気に食わないが、ちょうど話を訊けそうな男を発見したので、怒りを抑えることが出来た。

 

ブロロ…

 

「よう、今夜は何か見つかったか」

 

「…あー?なんだ、お巡りさんか。

何もありゃしねーよ。食いもん恵んでくれ」

 

伸ばしっぱなしで毛むくじゃらの頭を掻きながら、黒人のホームレスが返す。


「あー?なめた事言ってねーでしっかり働け!」

 

スティーブがそう言うが、自分の事はどこ吹く風である。

いくらファントムズのリーダーと言えども、無職であるのはこのホームレスと変わらない。

 

「ちょっと待て、兄弟」

 

「あぁ?」

 

タカヒロがポケットからスニッカーズを取り出した。

 

「これをソイツに」

 

「何でだよ!」

 

「イイから渡せ!」

 

タカヒロには何か考えが浮かんだらしい。

 

「チィ…ッ!ほら、おっさん!これでも食え!」

 

「おおっ!?ありがてぇ!」

 

ホームレスの男はその場で袋を破り、貪るように菓子を頬張る。

よほど空腹だったのだろう。

 

「ホームレスってのは案外、地場の情報網が広い。

金は無くとも、時間はありふれてるからな」

 

「恩を売るってか。悪くねー。

…おい、おっさん!腹は膨れたろ!ちょっと訊きてー事があんだがよ!」


袋をポイ捨てし、ホームレスの男が笑顔でスティーブに視線を戻す。

警察官を目の前にして大した度胸だ。…というより、少しばかり脳みそが足りないのかもしれない。

もちろん、この場にいる誰も彼を咎めはしないが。

 

「訊きたいって何を?」

 

「俺たちは警官だぜ?つまらねー事件についてだ」

 

「ほーう、どんな事件だ。

盗みか?レイプか?」

 

「殺しだ」

 

にやついていた男の顔が引き締まる。

 

「殺し…あー、若い男がやられたって話だよな」

 

「知ってるのか」

 

「俺は知らねーよ。だが、仲間なら分かるかもしれん」

 

ホームレス仲間に違いない。

 

「その仲間ってのに会わせろ」

 

「腹が減って力が出ねー」

 

「今食わせただろうが!腹に弾撃ち込んで中身確かめたいのか、こら!」


男の襟首を掴んでガタガタと前後に揺らす。

 

「くっ…くるしぃ…!」

 

「あー!?久方ぶりに満腹だからだろ!」

 

「ちっ…ちがっ…!息が!」

 

みるみるうちに男の顔が青ざめていく。

 

「スティーブ!何やってんだ!?放してやれ!」

 

「けっ!」

 

タカヒロに言われ、スティーブが男から手を離した。

痰を喉に絡ませて激しく咳き込みながらその場に崩れ落ちる。

 

「ごほっ!ごほっ!おぇっ!…ごほっ!ごほっ!

…お前、本当にお巡りさんかよ!?この、人でなしめ!」

 

男はよろよろと助手席の窓枠に手をかけて立ち上がった。

 

「アメとムチだよ、バカやろー。

せっかくの食い物を全部地面にリバースしたくなかったら、さっさと仲間のところに案内しろ」

 

「あぅぅ…こりゃなんて警官だ…

そこらのチンピラと変わりねぇぞ…」


 

 

古いビルに囲まれ、光は差し込まない。

そこら中で風に舞い上がるチラシや新聞紙。異臭を放つゴミ箱や、轟々とうなるエアコンの室外機。

 

ほとんどは車一台が通れる程度の狭い路地だが、ぽっかりと正方形に広まっているエリアがあった。

中心にドラム缶の焚き火があり、数人のホームレス達が暖をとっている。

 

「ここだよ」

 

「おう、助かったぜ。また見かけたら食い物をやるよ」

 

「そりゃありがてぇ。しかし、乱暴はごめんだぜ」

 

「てめー次第だ」

 

スティーブがホームレス達の顔をじろりと睨んだ。

彼らからも視線が注がれているからだ。

 

すぐ後ろにはタカヒロ。

離れた場所に停車させているポリスカー車内にはラファエルとバリーが残っている。


「誰だ…あの警官?」

 

「バンズの奴、妙な客を連れてきやがった」

 

「まさか…俺たちの居場所が取り上げられちまうんじゃ」

 

様々な声がホームレス達から上がる。

確かに突如として自分たちの居場所に制服を着た警察官が立ち入ってきたら、誰だって不安になるだろう。

 

「この空気…何か握ってても協力してくれそうにねーな」

 

「同感だ」

 

タカヒロとスティーブが耳打ちをしている間に、道案内をしてくれた男が仲間達に囲まれてしまっていた。

 

「どういうつもりだ…バンズ!」

 

「勝手に住むな、なんて摘発されちまったら、また次の住処を探さなきゃなんねーんだぞ…!」

 

「ま、待ってくれ!このお巡りさんは、俺達に訊きたい事があるだけだって…!」

 

必死で仲間達の感情を抑える男。

 

「そんなの嘘だろうよ!」

 

「まんまと騙されたんだよ、お前は!」


不信感が消えない仲間からは散々な言われようだ。

しかし、それを聞いていたスティーブがとんでもない事を言い出した。

 

「さーて。んじゃ、街のゴミ掃除といきますか」

 

「…!?お巡りさん!」

 

バンズと呼ばれていた男が血相を変える。

タカヒロも「どういうつもりだ」とスティーブを睨んだ。

 

「あー?何か不満があんのか?」

 

これはもはやその場にいる全員に向けられた質問である。

 

「当たり前だ!追い出されてたまるか!」

 

「そうだそうだ!何の権限があってそんな戯れ言を!天罰が下ればイイんだ!」

 

始めは半ばあきらめ気味で意気消沈していただけのホームレス達にも、強い反撃の意志を表す者が増えてきた。

さらにスティーブは続ける。

 

「警察の権限だよ、バカやろう。

銃弾と警棒は十字架や聖書よりよっぽど強いからな!」


警棒を振り抜き、びゅんびゅんと空を斬った。

 

「く、くそっ!」

 

「そんな!話がめちゃくちゃだ!」

 

「その通りだ!俺の話はめちゃくちゃだぜ!

…だが、見逃してやらんこともない!」

 

高笑いをしながらスティーブがホームレス達へにじり寄る。

 

「…」

 

タカヒロは黙って彼を睨んだままだ。

用意していた手とは変わってしまったが、スティーブがホームレス達から聞き込みをしようとしている事に気付いたからだ。

 

「見逃すだぁ?まさか、俺達に妙な仕事でも押しつける気か!?

バンズ、てめーのせいだぞ!」

 

一人が叫ぶ。

 

「話くらい聞くだろ、宿無し共」

 

 

その時。

 

「うるせえ、うるせえ、うるせえ…うるせえぇ!!!」

 

壁際に固まるホームレスの集団の中から、一際大きな身体を持った黒人の男が雄叫びを上げながらスティーブに突進してきた。


ゴッ!

 

「あ」

 

スティーブがまだ振り回していた警棒が、その男の脳天に直撃した。

 

「う…うごぁぁぁ!?」

 

砂埃を上げてその場に崩れ落ちる大男。勢いを殺すことなく突っ込んでくるかと思われたが、案外貧弱だった。

 

「なんだ…いきなり」

 

「ひぃ!やりやがった!」

 

「ウチのボスが!ビッグベアが!」

 

スティーブはポリポリと鼻をかいているが、ホームレス達は慌てふためいている。

どうやらこの男はビッグベアと言う名で、ここらのホームレス達のリーダー格であるらしい。

 

そして…見たところ、頭は良くない。

 

「何言ってるんだ、てめーらは!条件を話そうとしたら勝手に襲いかかってきたんだろうが!

とりあえずコイツと話せばいいんだな!?

…おい、起きろ!」

 

ツンツンと警棒で男の頭をつつく。


「ううん…やめろよジェニー…」

 

「何を寝ぼけてんだ、てめー」

 

「やめろってば…欲しがり屋さんだなぁ…」

 

ビッグベアは夢の中で女と戯れているようである。

 

「面倒な事になったが…なんかおもしれーな、そいつ」

 

タカヒロが寄ってきてビッグベアの目の前に屈んだ。

 

幸せそうによだれを垂らして眠っている。

その間抜けな顔を見てタカヒロがため息をつく。

 

「なんだ、寝込みを犯すってか?

ゲロが出そうだぜ、タカ」

 

「バカか、お前。

早く終わらせるぞ。警察も暇じゃねーんだよ」

 

「そうだな。逆にラファエルは暇でげんなりしてるだろうさ。

…おら、いつまでも寝てんじゃねーぞ!」

 

ゴッ!

 

警棒がビッグベアの股間を捉えた。

 

「…はぅっ!?」

 

これで起きない男など、死人くらいなものだろう。


遠巻きに見ているホームレス仲間も、目を覆いたくなるような光景に戦慄している。

バンズなど「ひっ!」と短く悲鳴を上げて、なぜか自分の股間をさすって無事を確かめていた。

 

「…目ぇ覚めたか。

ビッグベアとやら」

 

「あぁん!?ポリ公め!

あぐぅ…お、俺のジョニーがぁ…」

 

立ち上がろうとして激痛に這いつくばってしまう。

 

「ジェニーにジョニーに大忙しだな、色男?

しかし…お巡り相手にいきなりタックルぶちかましてくるとは、気でも狂ったか」

 

「それはこっちのセリフだ!

こちとら世間様から追い詰められて、肩寄せ合ってやっとこさ暮らしてんだぞ!

それが急に日常をぶち壊しに来やがって!俺達のこたぁ放っておいてくれ!…あぅ…ぅ…ジョニー…」

 

再び情けない声でビッグベアが言葉を切る。


「心配すんな。俺達はてめーらの生活なんかにゃ興味ねー」

 

「スティーブ…さりげに爆弾発言だぞ。

俺達はお巡りなんだからな」

 

「うっせー!

おい、ビッグベア!てめーも頭張ってる身なら、ちったぁ考えろ!

俺達はケンカなんかやりに来たわけじゃねーぞ!」

 

そう言うとスティーブはどかりと地面にあぐらをかき、警棒を腰にしまった。

 

「何だ…ポリ公…はぅぅ…」

 

「まだ喘いでんのかよ。

いいか、俺達は一つの事件を追ってる。最近この辺りで起きた殺しだ。その話を聞かせて欲しい。それ以上は用なんかねーんだよ」

 

「事件?つまらねー聞き込みかよ。

…五分だけ待て。ジョニーが落ち着かねーと。

へへっ、コイツぁじゃじゃ馬だぜ…あぅ…」

 

「カッコいい言い回ししてるつもりなら、だせーとだけ返しといてやる」


 

 

数分後。

 

ドラム缶の篝火を囲んで、二人の偽警察官とホームレスの集団が輪になっている状況。

 

「だっはっは!バンズに食い物恵んでくれたってか!

先にそれを言えよ、ジャパニーズ!」

 

バシバシとタカヒロの背中を叩くビッグベア。

こうなった経緯は単純なもので、仲間を助けてくれたのならば手を貸してやる、と彼は言うのだ。

 

つまり、タカヒロがバンズに対してやった当初の作戦が正しかったのである。

 

「おい!痛ぇんだよ、キングコング!

しょっぴくぞ!」

 

「ひゃ!?なんでだ!

つーか、俺はビッグベアだ!おい、これからは俺達全員にも何か貢げよ!」

 

「バカか!さっさと事件の事を話せ!

そしたら何か持ってきてやるよ!」

 

「ひゃっほう!使えるな、お前!」

 

ビッグベアは手のひらを返したかのような上機嫌だ。


「で、知ってるのか?」

 

メンソールにドラム缶の火をつけて大きく煙を吐くスティーブ。

何人かのホームレスがうらやましそうに見ているがお構いなしだ。

彼らにとって酒やタバコなどの嗜好品は、貴重品であると同時に生きていく上での娯楽の大半を占めている。

 

「知ってる」

 

ビッグベアは勿体ぶらず簡単に返した。

 

「何を知っている?新聞や噂レベルじゃお話になんねーぞ」

 

「殺されたのはマンハッタン辺りで活動してるオフロードバイク乗りだ。

アイアンローチとか言ったか。最近じゃあ、ブルックリンのファントムズっていうデカいギャングを含めた他のチームとつるんで幅利かせてるっていう悪党共よ」

 

ブロンクスだけに留まらないビッグベアの情報量。スティーブとタカヒロは素直に驚かされた。


「死んだ奴の個人名は?」

 

「さぁな。調べりゃすぐに分かるが、そのくらいならポリ公やマスコミには分かってんだろ」

 

確かに被害者の名前を警察官が知らないはずもない。

リチャードに聞けば教えてくれるだろうが、犯人探しには関係ない上、企みがバレてしまう危険性がある。

 

「チッ、どのくらいの情報があるのかカマかけてんだよ。

…その、アイアンローチってのは?

悪党共なら、仲間割れで殺されたかもしれねーな」

 

スティーブにしてはうまく切り返す。

 

「どうだろうな。胸を撃たれてたみたいだが、奴は裏通りで何やら怪しげな事をやってたって話もあった」

 

「ヤクでも買ってたか」

 

「知らねーよ。殺しなんか大抵くだらねー諍いの末路だ。

とびきりの計画的な殺人事件が見たきゃドラマの撮影現場にでも行け」

 

「うるせー。迷宮入りしちまってるから探ってんだろうが」


ピッとメンソールをはじいてドラム缶の中に捨てる。

 

「…すぐにわかるのはこんなところだ。

まだ何か訊きたけりゃ日をあらためるんだな、クソポリ公」

 

「わかったよ。

専売特許だ。他の奴に情報渡すんじゃねーぞ、ゴミ野郎」

 

「できねー約束だな。

ここじゃ地獄の沙汰も金次第でよ」

 

ビッグベアがニヤリと笑い、白い歯が顔をのぞかせる。

 

「ドーナツにしとけ。

お前ら宿無しの原始人には金なんて使えねー代物だ」

 

「蜂蜜たっぷりのやつだろうな!?」

 

「知らねーよ!くまのプーが!

いくぞ、タカ!」

 

スティーブが立ち上がり、タカヒロがそれに続く。

 

「ドーナツ期待してるからなぁぁぁ!」

 

「働いたら食わせてやる!裏切んなよ!」

 

「へっへっへ…!」

 

二人の背中に、ビッグベアはずっと手を振っていた。


 

 

「日をあらためる。奴ら、そこそこのネタを持ってたからな」

 

「おい、おっさんと長時間待たされる気分はどうなのか分かるか」

 

予想通り、ラファエルがスティーブとタカヒロに嫌みを言ってきた。

怒り狂っていないだけまだマシだと言えるが。

 

「さぞや警察について詳しくなったんだろうな」

 

「ざけんな、スティーブ!次は俺も降りるからな!」

 

「馬鹿言うなよ。誰が車を見張るんだ?」

 

バリーを一人で残すのは論外だ。

信頼関係は薄いので、万が一勝手に帰られては困る。

 

「だったらてめーが残れ!」

 

「ガタガタうるせーんだよ、さっさと出せ。

クイーンズに戻るぞ」

 

「あぁ?話は終わってねーぞ!」

 

「バドワイザー片手に聞いてやるからよ」

 

「ちっ!調子狂うぜ!」


ポリスカーのエンジンがラファエルの不機嫌さを表すように唸り、高い回転数を維持したまま発車した。

 

 

来たとおりの道をクイーンズへ向けて走る。

ブロンクスを出ようかというところで、オフロードバイクの集団が対向車線から走ってくるのが見えた。

 

「げっ!ローチだ!」

 

「あー?マジかよ?ただのオフ車だろ」

 

ラファエルが言うが、スティーブにはまだ距離がありすぎて確認できない。

しかし、ストリートファイトで鍛えたラファエルの動体視力はかなりのものである。

 

「間違いねーって!ヘルメットの下にスカルマスクが見えるからよ!

スティーブ、てめーは特に面が割れてるだろ!すれ違う前に低く屈んどけ!」

 

言いながらラファエルは自身も帽子を目深に被った。


バルル!

 

バルン!バルン!

 

視界には入らないが、通過していったのが分かる。

 

「行ったぞ」

 

「おう」

 

ふぅ、とラファエルが胸をなで下ろした。

 

「しかし何やってんだろうな?

堂々と群れてブロンクス入りとは、らしくねーだろ」

 

後ろからタカヒロの声が飛んできた。

確かに妙だ。隠密行動が十八番だと言っていた連中の取る行動とは思えない。

 

「知らねーよ。

途中で分散するなりして、こそこそと動き回るんだろ。ゴキブリみたいによ」

 

「リチャードはいたか?」

 

これはラファエルへの質問だ。

 

「いてもいなくても見分けはつかねーだろうが。

マスクの下を拝める日が楽しみだな」

 

「目も当てらんねーブサイク面に五ドルだ」

 

「バーカ、ファントムズメンバーは全員そっちにしか賭けねーよ、スティーブ!」


 

バリーの家に到着し、制服や装備を車内に放り込んだポリスカーをガレージに戻す。

 

キーを返し、また明日と約束を交わした。

 

「俺は家に帰るが、てめーらは?」

 

バイクに跨がりながらスティーブが二人に尋ねた。

 

「明日も仕事なのでゆっくりするよ」

 

なぜかバリーから返答があり、スティーブはそれを睨みつけた。

肩をすくめ、そそくさと母屋に退散していく。

 

「俺は女と約束がある」

 

まずタカヒロがそう言った。

ガールフレンドとは初耳だが、特に追求はしない。

 

「お楽しみかよ。ラファエル、てめーは?」

 

「バドワイザー片手に俺の話を聞くってのは戯れ言かよ、リーダー?」

 

「んだよ、別の日にしろよ!それかホームベースのお袋にでも聞いてもらえ!」

 

「くたばれ!」


 

ドルン!ドルン!

 

キックペダルを一回蹴り下ろし、エンジンを始動させる。

七十年代式の老馬だが絶好調だ。

 

ラファエルとタカヒロを残し、スティーブが最初に発車した。

 

 

自宅に戻り、家族も寝静まって暗いダイニングの冷蔵庫からビールを取り出す。

 

栓をテーブルの角で空け、瓶をあおりながら自室のベッドに座った。

 

iPhoneを取り出してケイティに電話を入れる。

これは半ば習慣化しており、夜は必ずメールなどで連絡を入れて眠りにつくのだ。

 

「よう」

 

「スティーブ!こんばんは!」

 

「本でも読んでたか」

 

「当たり!バイク雑誌を買ってみたんです」

 

ぶっ!とビールを吐き出してしまった。

 

「はぁ!?なんでだよ!?」

 

「え?なんとなく…ですけど、何か?」

 

特に購入を考えているわけではなさそうだが、やはり彼女の思考回路はよくわからない。


「いや…見てただけなら良いがよ。

お前みたいな華奢な女が乗るもんじゃねーからな」

 

「あはは!今の時代は女の子だってたくましいんですから!」

 

スティーブの時代錯誤な差別視もケラケラと笑って済まされる。

 

「免許も持たない奴がよく言うぜ」

 

「あ!そういえば最近、女の子のライダーがいましたよ!

ほら、スティーブのチームメイトです!」

 

「あー…ありゃ女の子なんて可愛げのあるもんじゃねーよ。

猛獣だ」

 

本人達に聞かれたらタダでは済まない言い草である。

 

「えぇ!?キレイな人たちだったけどなぁ」

 

「色香に騙されちゃいけねーぞ。

ほら、俺達みたいな野郎に囲まれてるんだ。ケンカだってそこいらの男共が顔負けするくらいの強さだぜ」

 

「か…か…

かっこいいです!!」

 

「なんだそりゃ…」

 

彼女にはまるで効果がない。

スティーブはうなだれてしまった。


「スティーブ」

 

「あー?」

 

「一度、他の皆さんとも会ってみたいのだけれど…ダメですか?」

 

意識的にファントムズのメンバーからはケイティを遠ざけていたが、まさか興味を持ってしまうとは思わなかった。

 

「…どうしたんだ?」

 

愛する女の頼みだ。

引き合わせる気はさらさら無いが、頭ごなしに拒否も出来ずやんわりと探りを入れる。

 

「その、もっとあなたの事が知りたいと思って。

どんな性格で、何を考えているのかは少しずつ分かってきました。

そしたら、お友達とも会ってみたいと思うのは自然だと思うわ。ほら、私は図書館通いが日課だから、あまり知り合いも多くなくて」

 

「…チッ、分かったよ。そこまで言うならな。

うちのメンバーにタカヒロって日本人がいる。

今度そいつの女と四人で飲みにでも行くか?」

 

安全牌。

騒がしいばかりのファントムズメンバーの中で、タカヒロはスティーブにそう見なされた。


「えっ?あ、はい!是非!」

 

ケイティ自身が一番、スティーブに許可されるとは思っていなかったのだ。

すんなりと提示してきた案に大声で返す。

 

「そんなにはしゃぐ事じゃねーだろうよ」

 

「私がバイク乗りのお友達と会うのを、嫌っているように感じていたから」

 

「あぁ、やだね」

 

「えっ!?」

 

今度は声が裏がえってしまっている。

 

「言わなくても分かってんだろ?のらりくらりたむろしてる連中がまともなわけねー。

そんなところにお前が飛び込んできてみろ。狼の群れに放り出されたウサギみてーなもんだ」

 

「そうは思わないです。だってあなたは誰よりも素敵な人だわ、スティーブ」

 

「なーに言ってんだ。俺はあのバカ共とは違って、人間出来てるんだよ」

 

スティーブは照れ隠しに鼻を鳴らした。


「その人に会ってみれば分かる事だわ。あなたが普段どんな人なのか訊くチャンスです!」

 

「タカヒロはバカだがイイ奴だ。俺の事をそう悪くは言わないと思うぜ…って、そんな事訊くつもりかよ!」

 

「楽しみですね!それに、お友達はどんな人かしら!」

 

「タカか?奴は他の連中と比べると、ちぃと大人しい気もするが、周りから見れば充分粗暴だろうぜ」

 

「でも、なぜその人となら会わせてくれるのかしら?

私は違うと思っても、スティーブの言い分ではその人も狼です!」

 

当然の質問だ。

文学少女の探求心は尽きない。

 

「さぁなぁ。さっきまで一緒にいたんだが、ちょうどアイツが女と会うって話をしてたからだろうよ」

 

「きっとラブラブなんですね!」

 

「知るか」

 

それから数分間話を続け、電話を切るとそのまま眠りに落ちた。


 

 

翌朝。

目覚めたのは午前十一時。

 

朝というよりはもはや昼である。

 

夕方のブロンクス入りまでは予定もないのでスティーブはホームベースに向かおうとバイクのキーを手に取った。

しかし、何気なく視線を落とした携帯電話が点滅している。どうやら寝ている間に着信が入っていたらしい。

 

画面を起こし、リダイヤルする。

 

「久しぶりだな、スティーブ」

 

男の声が入ってくる。

背後にはかすかにラテン系の音楽も聞こえる。

 

「今電話に気づいた。どうしたんだ、トミー?」

 

「たまにはパーラーに来いよ。暇でよ」

 

「行っても構わねーが、今は何も彫らねーぞ」

 

トミーは彫り師だった。スティーブのタトゥーを仕上げたのは彼である。

ちなみにパーラーとはタトゥースタジオの事を指す。


 

 

『デッドマンズ・タトゥー』

 

スティーブの家からほど近い一軒家に、くたびれた木製の看板が貼り出されている。

 

ドドド…ドドド…

 

ショベルヘッドを停車させ、扉を叩いた。

 

「トミー!来てやったぞ!」

 

反応がない。

さらに何度か扉を叩いていると、ようやく扉が開いた。

 

「うるせーぞ!」

 

「てめーが呼んだんだろうが!豚!」

 

トミーはスティーブと同じく白人だった。

今は亡きリル・トムもトミーの愛称で親しまれていたが、彫り師のトミーは本名である。

 

背はさほど高くないが、横幅がかなり太い。

ラルフやビッグペインも巨漢だが、トミーは背が低いせいで単に太っているだけの子供のようだ。

しかし、口髭はこれでもかとたっぷり蓄えており、四肢はもちろんのことツルツルに剃り上げた頭部まで見事にタトゥーで埋め尽くされていた。


「ま、入れや。バドでいいか?」

 

「おう。さっさと出せ」

 

リビングに通される。

壁には人物画や風景画が飾ってあり、様々な特殊機材が部屋に鎮座していた。

トミーがタトゥーやピアスを客に施術する際も、この部屋を作業場所として使っているのだ。

 

「ほら」

 

バドワイザーの瓶が手渡された。

冷蔵庫がないのか、ひどくぬるい。

 

甘いにおいのするお香が焚かれているせいで、瓶をあおってもビールの味はイマイチだった。

 

「しっかり相変わらず煙たい部屋だな。

ビールも不味いしよ」

 

スティーブが目を細める。

カーテンは閉めきられており、室内はぼんやりと照明が灯っているだけだが、それでも煙で空間が真っ白なのが分かる。

 

「相変わらずなのはお互い様だぜ、スティーブ。

ちったぁ減らず口を叩くのをやめちゃどうだ、おー?」


「けっ!客商売のくせにそんな口きいてるから暇なんだよ!

客はおだてるもんだろーが!」

 

「ははは!知った風な事言いやがるぜ」

 

久々に見る顔に上機嫌なトミーが紙巻きの大麻を取り出し、煙をくゆらせる。

 

「ただでさえ空気が悪いってのに、さらに悪化させやがって!」

 

「カリカリすんなよ!

しかし、しばらく見なかったが…まだあのポンコツなハーレーに乗って遊んでんのか、坊や?」

 

「ポンコツは余計だ、豚。

しばらくムショにいたからな」

 

「ほう?」

 

トニーが細い目でスティーブをじっと見つめる。

スティーブは顔をしかめた。

 

「あぁ?なんだよ?」

 

「ははは!ちったぁ箔がついて出てきたか!

どら、出所祝いにいっちょ彫ってやる!俺の奢りだ!」

 

「何も彫らねーっての!」


そう言われているのにも関わらず、トミーはテキパキとタトゥーを彫る準備を始めてしまう。

 

ビィィ!とタトゥーマシンの針を打ち込むコイルの作動音が響き渡る。

 

「手ぇ出せ」

 

「あいにく満席だ」

 

すでにスティーブの両腕は賑やかな状態だ。

 

「あー?そうだったか?なら脚だ」

 

「チッ…何を彫ろうってんだよ」

 

悪態をつきながらスティーブがデニムの裾をすね辺りまでまくった。

 

「そうだな、蜘蛛なんかどうだ」

 

「ガラじゃねー」

 

「てめー!文句ばっかりじゃねぇか!

だったらナニの皮にピアスでも空けるか、あぁ!?」

 

トミーの好意はありがたいが、もともとスティーブは乗り気ではないのだ。

 

「あんなチャラチャラしたもんつけるか!」

 

理由は様々だろうが、ファントムズメンバー内でピアスをつけている者は案外少ない。


オールドなスタイルを貫く古参達はスティーブの言うように「チャラチャラしたもん」と鼻で笑うかもしれない。

割と新参者ではあるがラファエルの理由などユニークで、ケンカの時に弱点になるから付けない、との事だ。

 

しかしながら対象的にアクセサリーを好むメンバーもおり、リル・トムは無数のピアスをつけていたり、タカヒロはブレスレットやリングを愛用している。

 

「じゃあ何がイイ!特別に選ばせてやる!」

 

「脚なら蛇はどうだ。巻きついてるように彫ってくれ」

 

蜘蛛よりもかなり大きめのデザインになる。

 

「ぬかしやがる!ぶっ通しでいくぞ!

三、四時間はみとけ!」

 

「上等だよ。疲れたとか言って、へばるんじゃねーぞ」

 

ビィィ!

 

針が皮膚に刺さり、短いようで長い戦いが始まった。


 

ピリリ…ピリリ…

 

「電話鳴ってんぞ」

 

施術中に着信が入る。

イーストコースト・クラッチロケッツのビッグ・ペインからだ。

 

「なんだよ…寝てただろうが」

 

長時間痛みを感じていると慣れてくる。

彫り始めてすぐは目も覚めてトミーと会話していたのだが、いつの間にかスティーブはうたた寝をしていたらしい。

 

「出ねーなら切っとけ。うるせーんだよ」

 

「けっ!今から出るんだろうが!

…よう、俺だ」

 

トミーに向けて舌を出し、電話に出る。

 

「スティーブ!今どこだ!大変な事になったぞ!」

 

よほどの事らしく、ビッグ・ペインは挨拶も無しにまくし立ててきた。

 

「今はツレのとこでタトゥーを彫ってる最中だ。

なんだ、大変な事ってのは?

ウチのアンディが知らねー女とホテルから出てきたか?」


「バカやろう!冗談吐いてる場合じゃねーんだぞ!

ローチだ!アイアンローチが昨日派手にやり合ったらしい!

何が隠密行動は十八番だっつーの!」

 

スティーブがピクリと眉を動かす。

昨夜、彼は確かにアイアンローチの集団がブロンクスに渡っていくのを目撃している。デマではなさそうだ。

 

「やり合ったってのは?誰と?」

 

「ブロンクスのカークラブだ!ついに尻尾を掴んだんだろうな…互いにケガ人と逮捕者が出てる!リチャードも病院送りだとよ!」

 

「ほう?おもしれーな。

よし決めた、ウチは動くぞ。てめーのとこはどうする?」

 

怒りより、喜び。

敵が分かって、その上アイアンローチが単独での解決が不可能とくれば、こそこそしている理由は無くなる。

 

「ファントムズなら…いや、お前ならそうするだろうと思ったぜ。

ウチはてめーらが暴れても目立たないよう、ブロンクス内で警察を引きつけてやる」

 

なるほど。

わざと目の前で交通違反などを犯し、ブロンクスでパトロール中の警察車両をかたっぱしから鬼ごっこに招待するようだ。クラッチロケッツのメンバーなら簡単には捕まらないだろう。

やることは違えど、共に戦ってくれる。


「俺たちがふぬけた奴らを叩きのめすとこを見せられねーのは残念だな」

 

「構うもんか。ウチはスマートだからケンカ慣れなんて興味無いのさ。

むしろ俺たちが警察を翻弄する様が見れなくて残念だろう?

あー…ドッグファイトだったか、お前のところのしきたりは。逃げ方の参考になるだろうに」

 

「宇宙船みてーなマシンで走ってる連中がポリスカーをぶっちぎる様子が、どう手本になるって?

ドッグファイトはそんなに甘くはねーぞ、バカやろう」

 

スポーツバイクに劣るアメリカンバイクの走行性能で、ライダーのテクニックによってどう切り抜けるかがドッグファイトの醍醐味である。

サブリーダーのジャックはハイテクなカスタマイズに頼っているが、決してライディングセンスが悪いわけではない。ファントムズの次世代のカリスマとして、実力は誰もが認めている。


「よう、スティーブ。水注すようで悪いが、終わったぜ。

ひとまずラインだけは完成だ」

 

彫り師のトミーが声をかけてきた。

スティーブの電話での会話内容から、キリの良いところで作業を終わらせてくれたらしい。

 

「おう。色付けはまた今度にしてくれ。

気が向いたら来てやる」

 

「ふん!好きにしろ!」

 

手早く道具を片付けていく。

 

「ペイン、ちょうど彫り終わった。

野郎共集めてから、てめーらの溜まり場に向かう」

 

「了解だ。

今、ウチに事を伝えてくれたローチの人間が何人か一緒にいる。

連れて行くか?」

 

「そりゃイイ。リチャードには悪いが、思いきり遊ばせてもらうとしようぜ!

スリーキングスにはファントムズがいるって事を思い知らせてやる!」

 

「調子に乗りすぎるなよ」

 

まずはホームベースへと、デッドマンズ・タトゥーを後にする。


 

 

「おらおら!どうした、小僧!そんなもんかぁ!?」

 

「黙ってろ!今ブチ殺して…だぁぁぁ!」

 

ホームベースの扉を開けると、なぜか数人のメンバー達の間で腕相撲大会が執り行われていた。

 

「おっ!ボスのお出ましだ!」

 

「よう、スティーブ。調子はどうだ」

 

皆が声をかける中、その場にいたアンディが近寄ってくる。

 

「何かあったか」

 

スティーブがにこりともしないからだろうか。

そう訊いてくる。

 

「おう。ケンカの準備だ」

 

「ほう?誰と?」

 

「ブロンクスのカークラブだ。名前は…訊くのを忘れたな。

とにかくペイン達と合流する。ウチの兵隊集めてくれ」

 

カウチに腰を下ろす。

 

「ブロンクス?まさかローチの仇か!

ペインより、リチャードだろう」

 

「そのリチャードがやられたから言ってんだろうが!!」

 

ガシャン!!

 

グズグズと小言を言うアンディに苛立ったスティーブが、足でテーブルを蹴飛ばした。

派手にビール瓶が割れる。


「…ふん。当たり散らしてんじゃねーぞ」

 

アンディはそう言って軽く鼻を鳴らしただけだったが、周りの連中は面白がって騒ぎ始める。

 

「おっ!スティーブ!反抗期か!」

 

「どうした、アンディ!やり返してやれよ!」

 

「…チッ。

おい!てめーらも聞け!

昨日、アイアンローチがブロンクスで派手に暴れやがった!相手はどこぞのカークラブだそうだ!

結果は五分五分で、リチャードは病院送りだ!

数を集めて俺達も殴り込むぞ!」

 

その場にいた数人のメンバー達すべてが、歓喜とも狂気とも呼べる叫びを上げる。

 

「ケンカか!それならそうと早く言え!」

 

「よし!俺はタカヒロに連絡してやる!」

 

「近くのファミレスに何台かウチの車両が停まってたぞ!呼んできてやるよ!」

 

すぐに彼らは動き出した。

アンディも電話連絡を回してくれている。

 

十五分と経たずに、ほとんどのメンバーが集結することが出来た。


 

「聞いたぜ。もうイイんだよな?」

 

そう意気込んでいるのはラファエルだ。

バキバキと指を鳴らし、さらに首を左右に傾けてその関節までも鳴らしている。

 

「あぁ。だがいちいち説明してやる事もねーだろう」

 

ブロンクスへ偽警官として出動していたことは大っぴらにする必要はないとの判断だ。

 

「そりゃ賢明だな」

 

いつの間にか横にいたタカヒロがにやけてそう言った。

アンディにも聞こえてはいるが、どうせ問いただしても回答は無かろうと突っ込んではこない。

 

「ジャックは?」

 

「真後ろにいるだろうが、クソ野郎」

 

「おう?あまりのオーラの無さに気づかなかったぜ」

 

「てめーが鈍感なだけだろ」

 

集合命令に応じるかどうか、最も心配されていたジャックの姿もある。

決して機嫌は良くないが、いるのといないのとでは大違いだ。


 

ドルン!ドルン!

 

ドドド…ドドド…

 

「よーし、全員揃ったか?」

 

建物の外、バイクにまたがっているメンバー達を確認するスティーブ。

 

「ボス、ジェシカがいねーぞ!イザベラも!」

 

古参のマイクが叫んでいる。

彼がトライアドの事務所に火炎瓶を投げ込んだ武勇伝は記憶に新しい。

 

ちなみにイザベラとは新メンバーである女性だ。もともとジェシカの親友で、二人は同時にファントムズに入ってきた。

 

「ああん?ウチのビューティーモンスターズ…いや、シスターズが不在だと?」

 

「わざと言ってんだろ」

 

ジャックがいちいちツッコんできてくれる。

そしてシスターズとは喩えであり、別に彼女らは姉妹ではない。

 

「アンディ、てめーまさか。

あの後ジェシカを連れ込んで…!?」

 

「どういう解釈だ」

 

「まあイイ!出発するぞ!

ジャック!俺の横につけ!

ラファエル!ケツを持て!」

 

死神の群れが動き出す。


 

「ん?」

 

その隊列がビッグ・ペインの待つ場所に到着する直前。

 

二台のハーレーダビッドソンが道を遮ってきた。

 

「なんだ、どけコラ!」

 

ジャックが唾を飛ばしている。

 

ドルン!ドルン!

 

「あたしらを置いてきぼりにするなんて、つれないじゃないのさ!」

 

「あー?んだよ、ジェシカとイザベラか」

 

件のビューティーシスターズである。

何かの理由があって連絡は受けれなかったのだろうが、さすがにファントムズが移動していると目立つ。それを嗅ぎつけてきたわけだ。

 

「何が置いてきぼりだ!さっさと後ろにつけ!

女だからってバカにされたくなけりゃグズグズしてんじゃねーぞ!」

 

「スティーブ…やっぱり怒鳴り散らしてるアンタを見るとゾクゾクするねぇ」

 

謝る素振りも見せず、彼女らがそのまま合流する。これで間違いなく全員集合だ。


しばらく進むと、すでに準備万端のクラッチロケッツが迎え入れてくれた。

 

ビッグ・ペインが言っていたとおり、アイアンローチの人間も数人見える。

 

「野郎共、停車!」

 

スティーブが左手を挙げて隊列を止める。

サイドスタンドを蹴り、ビッグ・ペインのもとへ歩み寄った。

 

「よう」

 

「待ちわびたぜ」

 

リーダー同士が拳をぶつける。

 

「ゴキブリ、リチャードがやられたってな?

だらしねーから仇は俺達が取ってやるよ」

 

スカルマスク達に軽口を叩いてみる。

表情の変化は当然分からないが、誰かが舌打ちしたのは聞こえた。

 

「…アイアンローチのステファンだ。

俺達も同行させてもらう」

 

「マシンガンぶら下げてる連中がカークラブ相手に痛手を被るとは驚いたがよ」

 

「銃撃戦にはならなかった。

それだけの事だ」


単純に殴り合ったということだろう。

 

「へっ!バイクの機動力や銃が使えなきゃ、ただの雑魚の寄せ集めかよ!

ウチを見習え!一人一人がべらぼうに強ぇぞ」

 

「貴様らこそ力馬鹿の寄せ集めだろう?

バイクは地を走るだけのものではないぞ?乗り方を教えてやろう。

ついでに銃の撃ち方もな」

 

スティーブの煽りに慣れてきたのか、ついにステファンから痛烈な返しがあった。

そんなやり取りが大好きなファントムズメンバーからは早速野次が飛んでいる。

 

「あぁ!?てめー、あの根暗なリチャードのとこにいるとは思えねーくらい面白い奴じゃねーか!

揃いも揃って葬式ムードだからスカルマスクなんてかぶってるんだと思ってたぜ!」

 

「貴様らこそ、揃いも揃って背中に亡霊を背負っているように見えるが?

呪われでもしたか」

 

「ははは!

ステフ!てめーは口喧嘩チャンピオン認定だ!」

 

そう言ってはいるが、なぜかスティーブはステファンのわき腹に肘打ちを入れた。


「そのくらいにしとけ」

 

ビッグ・ペインが二人をたしなめる。

軽い冗談のつもりでも、ここで争って得られるものは何もない。

 

「楽しくいこうぜ。

そんで、敵ってのは?」

 

「ふん…ピックアップトラック乗りの集まりだ。

名前はブギダウン・ソックス」

 

ステファンが応える。

 

「だせぇ名前だ。野球チームに変更させてやろうぜ」

 

「同感だ」

 

ピックアップトラックは、トラックとは言えども貨物車より乗用車に近い。

シボレーやフォード、ダッジ製が多いが、USトヨタやニッサン、マツダなどの日本車も人気である。

 

「俺はイケてると思うけどな!」

 

いつの間にか横にいたマーカスがそう言った。

 

「ペイン、このゴリラはそこに移籍だそうだぜ」

 

「待てこらぁ!」

 

「あー?違うのかよ。残念だな」


ステファンの次はマーカスかと、ビッグ・ペインは半ば呆れ顔である。

 

「連中は野球チームよろしく、バットで武装しているぞ。

注意しろ」

 

ステファンがブギダウン・ソックスの話に戻す。

 

「いよいよ本格的にメジャーリーグを目指すってか?

上等だぜ!俺達が叩きのめしてやる!」

 

「その意気だ。お巡りの誘導は俺達に任せておけ。

派手に暴れてくれよ。そんじゃ行こうか!

しばらくしたら出てこいよ!」

 

ビッグ・ペインが出発を促す。

先頭を彼らが走り、まずは警察を散らす作戦だ。

 

リチャード達が不在とはいえ、スリーキングス全体を巻き込んでの大喧嘩だ。

 

 

「さて、俺達も出るか。

ステファン、道案内を頼む」

 

「了解した」

 

オフロードバイクが発進する。

 

「へたれバッター共をスラッガーが打ち負かしてやるよ」

 

「洒落てるじゃねーか、ラファエル。

みんな、行くぞ!」


 

先ほどまでと同じく、スティーブとジャックがメンバー達の前を走るが、さらに少し先に四騎のオフロードバイクという隊列だ。

 

「よう」

 

「あー?なんだよ?

絡んでくんな、おっさん」

 

未だにふくれ面のジャックに呼びかける。

 

「いや、いつ俺のバイクに風穴が空くのか楽しみでよ」

 

「なめやがって!

ターゲットをタイヤからガスタンクに変えてやってもイイんだぜ、スティーブ!」

 

左手の中指を立てるジャック。

 

「どうせ変えるんならドタマぐらい言え!

意気地のねぇクソガキだ!」

 

「よほど死にてーらしいな!余生も謳歌しきったか!」

 

「十年そこら経ちゃ、てめーも余生の仲間入りか!?

ケツが青いままで死ねて幸せだな、ジャック!」

 

これだけ挑発しても何をしてくるわけでもない。

おそらく彼のイタズラ計画は道半ばなのだ。


「また痴話喧嘩か。

次から次へと飽き足りない奴だな、スティーブ」

 

横にアンディがつけてくる。

今回はエコノラインではなく、ラルフのソフテイルを駆っての参戦だ。

 

「それをわざわざ諫めにくる姿はママそのものだな、インディアン!」

 

「やれやれ」

 

「スティーブ、よそ見してんな。

ゴキブリが左に折れたぞ」

 

ジャックが前方を注視するように促す。

 

「おっと!曲がるぞ!」

 

ドルルル!

 

ギャギャギャ!

 

スティーブがバイクを傾けてアイアンローチを追う。久々に見せるステップを削りながらのターンだ。

もちろん全員が続いて左折してきた。

 

「けっ!スティーブ!相変わらずイカレたターンだな!

…取り舵いっぱーい!細道に入るぞ!遅れんなよ!」

 

ジャックが後ろのメンバーに向かって叫ぶ。

 

「…泥船の舵でも切って遊んでろ、坊主」

 

「聞こえてんだよ!」

 

誉められようともスティーブの悪態は容赦無しだ。


 

 

ブロンクスに進入する一団。

 

「お、やってるな!」

 

スティーブが嬉しそうに言った。

 

…ウォン!ウォン!

 

早速、近くでスポーツバイクがエンジンをふかす轟音。

 

ビッグ・ペイン率いるクラッチ・ロケッツだ。

 

ポリスカーのサイレンも響いており、回転灯を光らせながら走っていくそれもチラリと確認出来た。

 

前を走るアイアンローチのステファンらは、その喧騒をかわすように裏道を選択しながら進む。

いくらクラッチ・ロケッツが警察を引きつけているとはいえ、これだけの集団を警察車両の目にとまらないように進めるのは困難である。しかしそれを彼らは見事にこなして見せた。

 

「さすが暗がりが大好きな連中だ。

サツが一度も目の前を通らねー」

 

「見ろ、スティーブ。止まるみたいだぜ」

 

ジャックが指差す。


アイアンローチのメンバー達がサイドスタンドを下ろしたのは二階建てのアパートメントの駐車場だった。

 

道路沿いにヤシの木が植えてあり、なんとなくハワイやカリフォルニアを連想させる。

 

住民のものらしき車両の中に、いくつかピックアップトラックが駐車されているのが分かる。

ブギダウン・ソックスの連中の愛車に違いない。全員なのかは分からないが、数人がここに居住しているのだろう。

 

「ステファン!ここか!」

 

スティーブが問う。

 

ファントムズも全車停止し、わらわらと駐車場の中に集まってきた。

 

ガタン!

 

「てめーら!また来やがったのか!」

 

ステファンからの返答よりも先に、一階のドアからバットを持った男が出てきてそう叫んだ。

他にも一階、二階の合計五つのドアから男達が飛び出してくる。


「お、面白そうな展開になってきやがった!」

 

「しかしちっとばかし少ないぜ。

さっさとたたんで終いか?下らねー」

 

スティーブとジャックがそんな会話をしていると、後方からさらにブギダウン・ソックスのメンバーがピックアップトラックで駆けつけてきた。ここの住民のメンバーの誰かが増援を要請したのだ。

 

アイアンローチとファントムズは前後を敵に挟まれてしまった形になる。

 

「ぎぁあああ!」

 


その、新たに現れた後ろの敵が悲鳴を上げている。

 

「おらぁ!何しに来やがったんだ!

さっさとそのバットで殴って来いや!」

 

ラファエルである。

不運な事に、殿(しんがり)は彼が陣取っているのだ。開戦の合図を待たずして、早々に暴れまわっている。

 

「な!?ファントムズ!?

どうして奴らが!」

 

「今頃気づいたか!」

 

初めからいた前方の敵から驚愕の声が上がり、ステファンの得意気な返答があった。


「クソ!おい、ファントムズだ!

ブルックリンのファントムズMCが加勢に出てきてやがる!」

 

「構いやしねー!まとめて潰す!」

 

「正気か!?

まぁイイ!やっちまえ!」

 

男達が勢いづいて前後から突っ込んでくる。

 

「ステフ!てめーらは俺たちの中心に立ってろ!邪魔だ!

ラファエル!後ろのはてめーのエサだ!

ファントムズ!敵をぶち殺せ!」

 

スティーブがジャケットを投げ捨てて叫ぶ。

ラファエルから「ありがとよ!」という返事。

しかし、ステファンは納得出来ない。

 

「ふざけるな!我々も戦う!…うわっ!」

 

スティーブに殴り飛ばされた敵が彼にのしかかる。

 

「ほらな。邪魔だろ?」

 

「くぅ…」

 

だが、ステファンは内心驚いていた。

数は互角程度だが、武器を持った敵を次々と素手で殴り倒すファントムズのメンバー達に。

 

 

「おらぁ!

…あはは!弱っ!アンタ、本当に男かい!?

股にナニがついてるのか確かめてやるよ!」

 

ジェシカが倒した男のズボンを下ろしてふざけている。

 

「うっわぁ…お粗末」

 

「ジェシカ、てめー何やってんだ…」

 

横にいるタカヒロは軽く引いてしまった。


「ふん!」

 

アンディが相手を投げ飛ばす。普段は余り手荒な真似をしない彼も、まだまだ現役だ。

 

「うおっと!あぶねーあぶねー!」

 

ジャックが振り下ろされたバットをかわして苦笑いしている。

次にそれを振り上げようとした相手のわき腹に蹴りを一撃。なんとか倒せたようだ。

 

そんな周りの仲間達の状況を見て、大丈夫だと判断したスティーブがステファンを引き起こした。

 

「いつまでボーっとしてんだ?

てめーらは邪魔にならねーように小さく固まっとけ」

 

「…本当に強いな。我々も見習わなくては」

 

その時。

 

「クソ!やられてたまるか!

撃て!撃ち殺せ!」

 

「あー?物騒になってきやがったな」

 

殺されていたアイアンローチのメンバーは確かに『打たれて』ではなく、『撃たれて』いたのだ。

ついにブギダウン・ソックスが本性を現したという事か。


二十人程度の人間の内、数人が拳銃を取り出す。

全員ではなく、ほんの一握りである。

 

しかし、だからと油断するわけにはいかない。

銃は拳より強し。それは決して覆らない。

 

「ふんっ!そんなもんで俺達が退くと思ったか!」

 

物怖じせずに堂々と構えるスティーブ。

 

「…どうやら我々の出番だな。

この時を待っていた」

 

ステファンらがスティーブの前に出た。

 

「あん?どうした?」

 

たったの四人である。だが、相手が銃を使うならばとアイアンローチのメンバー達はサブマシンガンを取り出す。

 

「あの世で後悔しろ!ブルックリンのよそ者共!」

 

「あの世で後悔するのは貴様等だ!射撃開始!」

 

軽快な拳銃とサブマシンガンの発砲音がその場を支配した。


一瞬。

勝負が決するにかかった時間は瞬く間であった。

 

拳銃を持つ数人の男達だけを狙い、次々とアイアンローチの放った銃弾が飛んでいく。

 

「ぐあ!」

 

「うっ…!」

 

それは手や腕に当たり、武装を強制的に解除させた。

もちろん外れた弾や腹部辺りに当たった弾もあるが、殺してはいないようだ。まずまずの至近距離とはいえ、神業とはこういう事を言うのだろう。

 

「やったか…」

 

ステファンが息をつく。

 

うぉぉ!とファントムズからは歓声が上がる。

銃を持っていなかったブギダウン・ソックスのメンバーは被弾していないが、完全に負けを認めて皆が地面に膝をついてしまった。

 

「やるじゃねーか」

 

ステファンの肩に手をやり、スティーブが先頭に立つ。

 

「おい!アマチュアの野球選手共!

てめーらの頭はどいつだ!?」

 

勝負はついた。ここからはリーダー同士の仕事である。


「お、俺だ…」

 

一人の小柄な男がスティーブの前に進み出る。

やはり、と言うべきか。メンバー達に向けて銃を使うように指示を出していた男である。

 

当然、アイアンローチから撃たれた右手からは、だらだらと血が流れていた。

 

「よう、まだやるか?」

 

「いや…勘弁してくれ…

俺達の負けだ」

 

「そうか。ステファン、ちょっと来い」

 

アイアンローチの代表代理として彼を呼び寄せる。

 

「なんだ」

 

「てめーのとこから死人が出たのがきっかけだったろ。

経緯を知るべきじゃねーか?」

 

「確かにな。聞かせてもらえるか?」

 

ステファンが男に問いかけた。

 

「…俺は直接見たわけじゃない。

だが、ウチの連中といさかいを起こし、先に銃を抜いたのは死んだ奴だと聞いている」

 

「それで発砲…か」

 

リーダーに上がってきたのはブギダウン・ソックスの報告なので、都合よく落ち度をねじ曲げている可能性はある。

しかし、個人的なケンカだったという情報は信じて良いだろう。


「そういうことだ。後は知っての通り、お前達が総力戦に持ち込み、一度は引き分け、今回はウチの負け。

それだけさ」

 

「弾いた奴は?まさか追い出しちゃいないだろう」

 

「それは言えねー。分かるよな?」

 

知られてしまえばどうされるのかは目に見えている。

ここで差し出せば、リーダーへの不信感もチーム内で広がってしまうだろう。

 

今すぐ殺してしまうのが最良だが、昨日の乱闘騒ぎで捕まっていたり病院送りになっているとも考えられる。

 

「ではこうしよう」

 

「…?」

 

「ソイツの居場所を吐け。さもなくば、代わりにお前を殺し、ブギダウン・ソックスは解散させる。

異論がある者はすべて射殺する。

どうだ?悪くない条件だろう」

 

「なっ…!無茶苦茶だ!」

 

「ははは!ぶっ飛んでやがる!最高だぜ、ステファン!」

 

とんでもない暴挙だ。

だが、ステファンはいたって真面目な話のつもりである。


「選べ。サツが嗅ぎつけるまでがタイムリミットだ。

一台でもこの駐車場にポリスカーが入ってきてみろ。その瞬間、貴様らは死を味わうことになる」

 

「サツ…そうだ!奴らは何をやってる!

戦争でも始まったかってほど、ドンパチやったのに…!」

 

殺されるくらいなら捕まるのを選びたいのは誰にでも理解出来る。

今となっては遅いが、途中で警察が介入してきていれば『負け』ではなかったはずだ。

 

「ここにいるだけが我々の仲間だと?

貴様らを叩きのめす為、サツを陽動している裏方も存在するというわけだ」

 

「そこまでやって…」

 

「アイアンローチ、ファントムズMC、イースト・コースト・クラッチロケッツ。

我々はブルックリンの三つの王座につく、スリーキングスだ。敵に回すなら、それなりの覚悟が必要だったな」


…パパン!

 

そこまで言うと、なんとステファンはその男の頭を撃ち抜いた。

 

一同が騒然とする。

スティーブやラファエルでさえも、何事だとステファンを睨んだ。

 

「うわ!何てことを!」

 

「約束が違うぞ!

クソ!俺達のリーダーが!」

 

ブギダウン・ソックスのメンバーが声を荒げる。

 

「約束した通りだ。

質問に応えず、関係のない事を口にしたからな」

 

「卑怯者め…!」

 

ギリギリと歯を噛みしめるが、彼らの自由は無い。

 

「ファントムズ!」

 

すかさずスティーブが仲間達に呼びかけた。

 

「地面に落ちてる敵の銃を全部回収しろ!」

 

「…?」

 

スティーブの後ろで首を傾げるサブリーダーのジャック以外、全てのファントムズメンバー達が動く。

もちろん、彼はメンバーとは一線を引く存在なので、それで良い。


ステファンもそれ以上は動きを見せない。

ファントムズがうろうろと銃を拾ってまわるからだ。

 

「文句あるか?ウチは資金難でよ」

 

ステファンに向けて軽口を叩いてやる。

実際のところ、銃は貴重なので半分は本気だが。

 

「いや、構わない」

 

「そんじゃ、ステフ。

てめーら、先に引きあげろ」

 

「…なぜだ?まだ、終わってはいない」

 

スティーブには案があるようだが、やはり食い下がってきた。

 

「そうだな。だが、終わらせられなかったのは、てめーのせいだ」

 

「なんだと?我々が発砲しなければ、こちらにも少なくない被害が出ていたはずだ」

 

「そこじゃねーよ!

とにかく帰れ!やっぱりてめーらの舵取りにはリチャードみたいな器を持った男がいなきゃダメだな。アイツならきっちり終わらせてたはずだ」

 

脅し方は良かった。条件も無茶苦茶だが関係ない。

しかし、無抵抗な相手のリーダーを不意打ちで殺しては、この争いはいずれ泥沼化するだろう。


「…」

 

「とにかく俺に任せときゃイイんだよ!

リチャードは話せる状態か?後で俺から話があると伝えておいてくれ」

 

「話すくらいならば問題ない。

そういう事ならば、承った」

 

ステファンには分からないが、リチャードを立てる為だと納得してくれた。

さすがに何もかもを自分だけが決めてしまうのも面目ない、と反省してくれたのだろう。

 

バルン!バルン!

 

バルルル…!

 

オフロードバイクが去っていく。

 

「さて…」

 

iPhoneを取り出し、ビッグ・ペインにかける。

クラッチロケッツはポリスカーと鬼ごっこの最中のはずだが、彼はなんとコールを受けた。

 

「よう」

 

「兄弟。連中は手を抜いてるのか、加減しないとミラーからすぐに消えちまうぞ」

 

「デートなんだからそんなもんにしといてやれよ」

 

走行中だが、フルフェイスのヘルメット内にイヤホンとマイクを装着しているので、ほとんど雑音がなく会話が出来る。


「で、どうした?そろそろサツとイチャイチャするのもやめとくか?」

 

「いや、もう少しだけ頼む。

ローチのクソガキがヘマしやがってよ。今から尻拭いの時間だ」

 

「そうか。あと十分程度なら引っ張れるが。

疲れてとちる奴が出てくる前に終わらせてくれ」

 

余裕とはいえ、長時間鬼ごっこをさせればミスも出てくるだろうとの判断だ。

 

「恩に着るぜ。十分以内にマンハッタンに渡っておく」

 

ビッグ・ペインに感謝の言葉をかけて電話を切った。

 

 

ブギダウン・ソックスの連中を見渡す。

もちろん、ファントムズに刃向かう様子は見せない。

 

「コイツらどうするんだ?

このまんまじゃ、俺達もまったく面白くねぇぞ」

 

「今からそれを伝えるのさ」

 

訊いてきたジャックに、ニヤリと笑って返した。


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