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Peaceful  作者: 石丸優一
17/24

Quest

 

数ヶ月後。

 

 

 

「スティーブ!」

 

バタバタバタ…!

 

ガチャン!

 

「スティーブってば!

はぁ…?まぁた、寝てんのかい!アンタは!

夕方の六時だよ!」

 

レベッカの金切り声が、スティーブの浅い睡眠を容赦なく終了させる。

 

「るせーぞ…クソアマ」

 

バシン!

 

頭に平手打ちを食らう。

 

「自分で起こしてくれって頼んでおいて、礼の一つも言えやしないの!

ほら、さっさと起きろ!いつまでもアンタんとこのチンピラ達に家の前でたむろされちゃ、ご近所様に迷惑だろ!」

 

「たむろす…?」

 

ドルン!ドルン!

 

ドドド…ドドド…

 

言われてみれば、バイクのエンジンのアイドリングや空ぶかしの音が聞こえてくる。

 

スティーブはガバッと飛び起きた。

 

「あぁぁぁ!?ざけんな、こらぁ!

みんな来てるじゃねーか!ちゃんと起こせよ!」

 

「死ね!」


浴びせられる罵声と食器類をかいくぐり、スティーブは鏡も見ずに家から飛び出した。

 

「ふー、あぶねぇあぶねぇ。

生理中かよ、イライラしやがってあの年増女」

 

「おせーぞ、ボス!

プータローがイイ御身分だな、あぁ!?」

 

玄関先。

紙巻きの大麻をくゆらせながら、腕組みをしたジャックが怒鳴る。

 

後ろにはファントムズMCの面々。

 

「うるせー!グズグズすんな、行くぞ!」

 

「誰のせいだよ、バカ野郎が!」

 

ドルン!

 

スティーブがショベルを起こす。素早く全員がバイクに跨がり、隊列を組んで発進した。

 

 

「スティーブ。場所は?」

 

先頭。

スティーブとジャックのツートップが会話する。

 

「さぁな。とりあえず、マーカス達に合流だ。

そのうち主催の虫共から連絡がくるだろ」

 

スリーキングスの定例召集。

毎回主催者をローテーションしており、今回はアイアンローチの番である。


この時、すでにスティーブは仕事の契約であった一年間勤務を終了させていた。

もちろんリー社長を始めとして、従業員達から辞めることを止められたが、ファントムズの行く末を考えて退社したわけだ。リーダーがチームに常駐しているのと兼業とでは全体のまとまりが違う。

マーカスだけは「うるせー奴が消えるならせいせいするぜ!」と喜んではいたが、スリーキングスの件でどちらにせよ顔は合わせる。

 

ジャックは未だ大学に通っているが、チームに入り浸っているせいできちんと講義を受けているようには見えない。

 

大きな変化といえば、初の女性メンバーが入ってきたことだろう。それも二人。

粗暴なファントムズの中に咲いた二輪の花。だが、彼女らが一筋縄ではいかないじゃじゃ馬であるのは容易に想像できる。


 

ドルン!ドルン!

 

「ゴリ」

 

「クズ野郎のお出ましか」

 

ファントムズの到着に、マーカスが中指を立てて歓迎してくれた。

クラッチロケッツは相変わらず海沿いの空き地を溜まり場にしている。

 

「スティーブ」

 

「ビッグ・ペイン」

 

青いバンダナを頭に巻いた巨漢の黒人が、スティーブと拳をぶつける。

 

しばらく前に捕まってしまったクラッチロケッツのメンバーらもすでに戻ってきていた。

殺されてしまった人間については、その後にすべての経緯をスティーブの口からビッグ・ペインに告げてある。

彼が誰かにそのことを漏らしたのかは定かではないが、メンバーの遺体はきちんと弔われたという話だけはスティーブにも人づたいに伝わってきていた。

 

無論、スリーキングスにおいて、すでにクラッチロケッツとアイアンローチの因縁は終結している。


「リチャードからは?」

 

「何も」

 

決まった拠点地を持たないアイアンローチが召集を仕切る場合、毎回様々な場所を指定してきた。

大抵は大きなマーケットの駐車場だが、ごくまれにファントムズやクラッチロケッツに場所を使わせてくれと言ってくることもある。

 

ピリリ…ピリリ…

 

「お呼びのようだな」

 

スティーブの携帯が鳴り、ビッグ・ペインが出るように促す。

画面にはアイアンローチの頭、リチャードの表示。

 

「もしもし、リチャードだが」

 

「あー?今どこだよ。

俺は姉貴に叩き起こされて不機嫌だ。さっさと始めるぞ」

 

眠い目をこする。

 

「一人、連絡がつかないメンバーがいてな。

ペインと一緒か?」

 

「おう。奴らの溜まり場だ」

 

「すぐ向かう」


およそ十五分程度で彼らはやってきた。

 

相変わらずスカルマスクを被っていて、未だにリチャードの素顔も知らない。

 

バルン!バルン!

 

到着と同時にエンジン数回ふかして停止する。

 

「遅刻だ。次に面拝む時にはビールでも期待してるぜ」

 

「遅刻なものか。我々の到着時刻が定時だ」

 

スリーキングスが集まった。

どこからともなく古びた木箱が三つ運ばれてくる。

 

それぞれに大鎌、ロケット、ゴキブリのポップなデザインのステッカーが貼ってある。

もちろんこれはスティーブ、ビッグ・ペイン、リチャードが座る為の玉座だ。

 

「連絡がつかねーってのは?」


 三人が腰を下ろしたところでスティーブが言った。

 

「何?トラブルか、虫。

ソイツの手違いならボコボコにされちまうぞ、スティーブにな」

 

ギシッ、とビッグ・ペインの椅子が悲鳴を上げる。 


「まだ分からん。だが、寝過ごしたり携帯を落としたり、そんなマヌケはウチにはいない」

 

腕を組むリチャード。

好戦的な態度と言動だが、いつもの事である。

 

「あー?じゃあとりあえず置いとけよ、リチャード。

他に何か報告があれば、だけどな」

 

「ウチは変わりないぜ。

ファントムズはいつの間にかマブい助を連れてるじゃないか?」

 

ビッグ・ペインがニヤニヤとスティーブの顔をうかがう。

 

「は!アイツらを女狐だと思ってると、てめーみたいな豚は喰われちまうぞ」

 

「はは!そりゃ大歓迎だな!」

 

「おい、盛り上がってるところ悪いが。

一つ。議題がある」

 

リチャードは普段からスティーブとペインのふざけた話題には入ってこない。

悪く言えばノリが悪い。良く言えば感情に振り回されない。


「骸骨みたいに深刻な顔しやがって!なんだよ、虫」

 

「ははは!いつも骸骨みたいに深刻な顔しかしてねーだろ!マスクなんだからよ!

バカかよ、スティーブ!」

 

リチャードとビッグ・ペインは反応しないが、スティーブの後ろに控えているサブリーダーのジャックだけが大笑いした。

 

「なに、トライアドの話だ」

 

「あ?」

 

「どういう事だ、リチャード。

奴らには退場いただいたはずだぜ」

 

スティーブとペインが椅子から身を乗り出す。

 

「それは甘いぞ。奴らは世界規模のマフィアだ。

ニューヨークを根城にしてる組が倒れれば、似たような阿呆がハイエナみたいに入ってくるだけだ。しめしめ、って面をぶら下げてな。

だが問題はそこではない。俺たちと敵対するか否か、その一点だ」


「その口振りじゃあ、すでに新しい連中がマンハッタンに入って…?」

 

「そういう動きは見える」

 

ビッグ・ペインの質問に、リチャードは大きく頷いた。

 

「だが、そんなときこそスリーキングスの同盟の力を試す時だろ!奴らが力を蓄えて同じ事を繰り返す前に、さっさと潰してやろうじゃねーか!」

 

スティーブがいきり立つが、二人は首を横に振る。

 

「いたちごっこになる。

今度の奴らがまたこちらと一戦交えるつもりならそうするが、現時点では判断できない」

 

「リチャード、一度話し合ってみたらどうだ。奴らがバカじゃないのを願うよ」

 

ペインが提案する。

スティーブの意見はひとまず却下された形だ。

 

「ソイツはつまんねー仕事だ。俺はパスするぜ」

 

我先にスティーブが降りた。


「では、俺が行こう。新しい事務所が入ってる建物も見当はついている」

 

リチャードが手を挙げる。

もちろん、誰も異存はない。

 

「決まりだ。てめーのところは一番重装備だしな」

 

アイアンローチには、以前のトライアドからもらい受けたサブマシンガンがある。

そこらのバイカーギャングが持っているにしては出来過ぎた代物である。

 

「ファントムズは相変わらずの羽振りだが、何か面白いしのぎでも見つけたか」

 

「バカ言え!あのホームベースがバッキンガム宮殿にでも見えたか?

ダンボールでばっかり生活してるからそんな事言えるんだぞ、リチャードよぅ?」

 

「我々を何だと思っているんだ…」

 

やれやれ、とリチャードが頭を振った。

 

「仕事の話なら、ウチの出番だな」

 

ビッグ・ペインが言った。

クラッチロケッツはスリーキングス内で最も大所帯である。


「仕事なんて大それた事言いやがってよ。

こないだウチの誰かに回した話、なんだよありゃ!?

駅の清掃だぁ!?ファントムズに就職先を斡旋してどうすんだよ、てめー!」

 

スティーブが毒をはく。

以前もファントムズのメンバーがビッグ・ペインの紹介に世話になったのであろう。

 

「へへ、だが給料は良かったぜ。

ごちそーさん」

 

真後ろからジャックの声が聞こえた。

 

「てめーかよ、大学生!

むしろてめーはそのまま就職してこい、クソガキが!」

 

「ぎゃあぎゃあわめいてんのはボスだけのようだな、あー?」

 

ビッグ・ペインがしたり顔でスティーブを見返してくる。

 

「なんだと、こらぁ!」

 

ペインのシャツの襟首に掴みかかるスティーブ。

 

「カッカするな!

礼の一つも言えやしねーのか、お前は!」

 

互いに襟首を掴み合って立ち上がった。


「ボス。そのくらいにしておけ」

 

遠目に見ていたアンディが割って入った。

ジャックやラファエルなど、他のファントムズメンバーは逆に「やっちまえ!」とはやし立てているのは言うまでもない。

 

「スティーブ。どういった仕事が好みだ?」

 

リチャードが問う。

 

「一発で儲かる仕事だよ」

 

ペインから手を放し、舌打ちをしながら椅子に座り直すスティーブ。

 

「だったら自分で考えてみろ」

 

ふん、と鼻を鳴らしてビッグ・ペインも席に戻った。

 

「あぁ?昔から金になるのは、武器、薬、女だろ。

あとは…あれだ。バスケと野球」

 

「バカか。危ない橋ならファントムズだけで渡れ。

回してやれんこともないぞ?」

 

「まぁ待てよ、ペイン。

ローチはどうしてるんだ、リチャード?」


基本的にリチャードは、アイアンローチ内部の話をする事が少ない。

未だに仲間に対しても顔を隠しているくらいだ。自らの手の内をさらすのを嫌っているのは分かる。

 

「決定的なものはこれといってないな。

時折、一般車両を襲って小遣い稼ぎはしているが」

 

「ははは!なんだよ、盗賊じゃねーか!

ゴキブリは雑食だもんな!」

 

「感心しないな…」

 

スティーブは笑い、ペインは肩をすくめた。

 

「小銃構えたバイク乗りに囲まれちゃ、そりゃ身ぐるみはがされちまうだろうな!」

 

「嬉々としてやっているのではないのだぞ。

我々が協力して成し遂げられるヤマがあれば、それに越した事はない」

 

「…だそうだが?なんかねーのかよ、ペイン。

リチャードがご所望のものがよ」


彼らの真意は冗談か本気か。

ビッグ・ペインも多くのネタがあるのだろうが、その中から頭で物件を一つ一つ処理していく。

 

「つまり、一攫千金。尚且つ、スリーキングスが協力し合って平等に取り分をいただく仕事。

そうだな?」

 

「あるのかよ?」

 

「無いことは無い」

 

意外な言葉に、リーダー以外からも「おおっ」とどよめきが起こる。

 

「聞かせろよ」

 

「ニューヨークの裏の顔として、スリーキングスの政権を打ち立てる。

今俺らが活動しているブルックリンやマンハッタンの一部はもちろんとして、その外にもな」

 

「…?いまいち話が見えんな」

 

リチャードがペインに説明を求めた。

 

「単純に言えばニューヨーク全体のギャングや不良共を俺達で束ねて、下々からの上がりをいただこうって話だ。

少しばかりぶっ飛んでると感じるかもしれんが、海外マフィアのやり口を独自の別ルートから攻めていく。

もちろん給与を保証するスポンサーなんかいないぞ。自分たちで切り開いていく必要がある」


「ふむ」

 

リチャードはなんとなく話が掴めたようで、それ以上の質問はしなかった。

 

「てめーにしては面白い話じゃねーか。

トライアドの件が片付いたら動けるな、虫?」

 

スティーブは嬉しそうだ。

前回、トライアドとの争いは防戦に近いものだったといえる。それも命がけの。

しかし、このビッグ・ペインの案は攻戦。手に入れる為の仕事ならば、俄然やる気が出るわけだ。

 

「そうだな。三合会の邪魔立てなく事が進めば、いずれ」

 

「ジャック。ニューヨーク全域のギャング達のリストアップをやっとけ」

 

「はぁ!?なんで俺だよ!」

 

突然面倒を押しつけられ、ジャックの声が裏返る。

 

「暇だろ」

 

「暇じゃねーよ!」

 

「嘘つけ!やらねーならてめーだけ仕事の分け前は抜きだ!」

 

「ざけんな、こらぁ!」


いつもの事だと、これにはアンディも止めに入らない。

スティーブがジャックを蹴り飛ばしたところで、ひとまずは落ち着いた。

 

「お察しの通り、リストアップはそこでのびてるクソガキにやらせとくからよ。

動き出す時が楽しみだな」

 

「助かる」

 

「おいおい、ジャックは大丈夫なのか?

お前のところの二番手だろうが」

 

リチャードが礼を述べ、ビッグ・ペインは倒れて動かないジャックを指差して苦笑いを浮かべた。

 

「アンディ」

 

「了解だ、ボス。

まったく、霊柩車の次は救急車か?おい、ラファエル。手を貸してくれ」

 

呼ばれたアンディとラファエルが、だるそうにジャックの身体を運んでいく。

目を覚ますまではバイクと一緒にエコノラインへ放り込んでおくのだ。


「リチャード。結局、連絡がつかない阿呆はどうするつもりだ」

 

ペインが話題を変える。

 

「気がかりではあるが、連絡を待つ他なかろう。

詳細がわかり次第、貴様ら二人には追って連絡する。それでイイか」

 

「俺はハナッから興味ねーよ。殺されたりしてねー限りはな」

 

これはスティーブだ。

 

「じゃあ、解散にしようか。いつまでもここにいられちゃ迷惑でよ」

 

「承知した。では、またな」

 

アイアンローチがまず最初に発った。

 

 

「よーし、てめーら。

ホームベースに戻るぞ!」

 

ドルン!ドルン!

 

「ジャックはまだ寝てんのか!?

ラファエル、俺の横につけ!」

 

「てめーが催眠術をかけたんだろーがよ」

 

二列縦隊の先頭を、スティーブとラファエルが率いていく。


道中。アンディのエコノラインが先頭まで出てきた。

どうしたのかと訊こうとしてやめる。

 

目を覚ましたらしいジャックが、助手席から身を乗り出して中指を立てているのが見えたからだ。

 

すぐさまアンディに対して隊列の先頭につけるように指示したのだろう。その顔は怒り心頭である。

 

「覚えてろよ、クソ野郎が!」

 

「忘れてやるよ!ありがたく思えよ!」

 

ドドドド…!

 

バイクを加速させ、わめき散らすジャックをはるか後ろに追いやる。

 

 

ホームベースに到着し、それぞれがバイクを停車した。

最後にアンディとジャックがやってくる。

 

途中でアンディに慰められでもしたのか、ジャックはスティーブに向けて舌打ちを一つしただけで、すぐに建物の中に消えていった。


「ありゃ、しばらくクチきいてくれねーパターンだな。

ガキはこれだから困る」

 

「お前に言われちゃお終いだな、スティーブ」

 

アンディがそう言いながら歩いていった。

他のメンバー達もぞろぞろと室内に戻ったので、スティーブも中に入る。

 

相変わらず大音量で音楽が鳴っており、それぞれがくつろいでいるが、ジャックの姿は無かった。

おそらく二階の個室でいじけているのだろう。

 

「スティーブ」

 

いつもどおりカウチに身を沈めたところで、ビールを二本手に持ったラファエルが横に座った。

 

差し出された一本を黙って受け取り、封を開ける。

 

「トライアドの話には参ったな」

 

「何がだよ。リチャードに任せときゃイイだけだろうが」

 

メンソールをくわえ、火をつける。


「ほー。意外な事言うもんだぜ。

ボロボロ涙流してよ、身も心もボロボロで辛い戦いだったんじゃねーのかよ」

 

「てめー、ラファエル!」

 

ビール瓶を壁に投げつけて破壊し、怒りを露わにするスティーブ。

 

「バカにしてるわけじゃねーぞ。

だからよ。それを繰り返す事になるかもしれねーんだ。

その可能性があるだけでも、もう少しブルー入ってると思ったんだけどな」

 

「あ?お前はそれを望んでるのか?

スラッガーさんよ」

 

「まさか」

 

ピリリ…ピリリ…

 

「…リチャードからだ」

 

「そらきた」

 

出ろ、とラファエルが示唆する。

 

「別件だろ。

…もしもし、俺だ」

 

「リチャードだ。

スティーブ、連絡がつかなかったウチのメンバーだが」

 

抑揚のない声が入ってくる。

 

「おう、つながったか」

 

「ブロンクスで見つかった。殺されてな」


「…誰がやった」

 

怒鳴り散らして瓶を投げていたのが嘘のように、静かにスティーブが言葉を返す。

 

「わからん。警察もまだ何も知らないようだ。

しばらく三合会との対話と、ビッグ・ペインの案は先送りにしてほしい。

犯人探しと処刑を最優先で処理する」

 

「当然だ。俺達もすぐ動く」

 

ラファエルが、内容を聞きたそうに組んだ足を揺らしている。

 

「助かる。だが、少しウチだけで動きたい。

ファントムズやクラッチロケッツが動くと目立ちすぎる。ビビって他の街にでも高飛びされたらお手上げだ」

 

確かにリチャードの意見は正しい。

 

「単独で人手が足りるのか?

目立ちはするが、範囲も広がるぞ」

 

「なに、物陰で動くのは十八番だ。

虫は常時、獲物を暗闇から見ている」


「ビッグ・ペインは?」

 

「今から連絡する。ではまたな」

 

リチャードとの通話が切れた。

 

「どうした」

 

電話をしまったスティーブに、早速ラファエルが問いかける。

 

「今日の寄り合いの時、連絡がつかなかったアイアンローチのメンバーが殺されてたらしい」

 

「はぁ?見逃しちゃおけない理由だな。

で、俺は誰を殺ればイイんだ?」

 

話の段階を一段も二段も急に飛ばしてくる。彼にとって報復は議論の余地もなく当然なのだ。

 

「それが、的を絞れてないらしくてな。

あえてアイアンローチだけで動きたいんだとよ。目立っちまわないようにな。

クラッチロケッツとファントムズが加勢すると、かなり大がかりになる」

 

「知らねーよ、そんなもん。

そうだろ?」


「はっ!このくらいじゃ騙されやしねーか!?」

 

スティーブがニヤリと笑う。

 

「…そうだ、今やアイアンローチはダチだ。

奴らがそういう目にあったとなれば、俺達スリーキングス全員に喧嘩を売った事になる」

 

リチャードとの電話でのやり取りでは、スティーブはアイアンローチの判断に従うかに見えた。

だが、そこはファントムズを統べる男である。ラファエルの言うとおり、黙っているつもりは無かったのだ。

 

「だがよ、リチャードの面に泥を塗るわけにもいかねー。

ファントムズが動いてるってのを、敵にも味方にもバレちゃいけねーんだ。分かるか?」

 

「おう。バカにしてんのかよ」

 

「コソコソと俺一人で動く気だったが仕方ねー。

ラファエル、てめーも混ぜてやる。二人でやるぞ」

 

幸い、室内は大爆音。彼らの会話は盗み聞きされない。


「よしきた!こりゃ面白くなってきたな!

で、具体的にはどうすんだよ?現場は?」

 

「ブロンクスとしか言ってなかったな。

行ってみるしかねーか。だが、堂々とうろつくわけにはいかねーぞ。何かイイ案は?」

 

「正義のヒーローに変装っつうのはどうだ、リーダー?」

 

ラファエルが人差し指を立てる。

 

「ヒーロー?」

 

「おう。ゴーストライダーだ。バイクも使えるしな」

 

「そういう事なら俺はアイアンマンがいいな。

アウディのR8を盗んでよ」

 

二人ともアメコミや映画のファンではないが、その程度の知識はあるようだ。

 

「んなもん盗めるかよ!」

 

「その前によ。ヒーローは逆に目立ってしょうがねーぞ。

却下だ」

 

「チッ…!正義のヒーローってのはイイ線いってると思ったんだがな…

そんじゃあ、警官はどうだ?リアルなヒーローだろ。目立ちもしねー」


これはなかなか面白い提案である。

スティーブも唸った。

 

「警官か…面白そうだな。だが、俺達だけじゃ無理だ。

仕方ねーが、一人増やすぞ。タカを呼んでこい」

 

「タカ?何で?」

 

スティーブは瞬時に策を思いついたようだが、理由が分からないラファエルが聞き返す。

 

「あ?ブルックリンチョッパーズに、専門外の仕事を頼もうと思ってな。

早くしやがれ」

 

「そう言うことか!」

 

嬉々とした表情になったラファエルが、遠くで談笑しているタカヒロのもとへ飛んでいった。

 

 

「いててて!引っ張るな、兄弟!

一体どうしたんだよ!」

 

すぐにラファエルとタカヒロがやってきた。

 

「座れ座れ!」

 

「あぁ!?

スティーブ、説明しろ!このバカは何を慌ててる!」


「タカ、お前の店を使わせろ」

 

「あー?」

 

顔を寄せて、密談が始まっていく。

 

「それに、少しばかりの貯えも必要じゃねーか?

それで金庫番のお出ましってのも関係あんだろ、スティーブ」

 

「あー…それは考えてなかったな」

 

「バカか!ブツを用意すんのにタダなわけあるかよ!」

 

ラファエルがスティーブを小突く。

 

「おい!だから何の話だ!」

 

タカヒロは完全に話題から置いてけぼりである。

 

「ヒゲダルマならそのくらい分かってくれると思ったんだよ!いちいち細いんだよ、クソが!

タカ、明日は出勤か?詳しい事は店で話すからよ」

 

「イマイチ分かんねーな…

明日は非番だが、付き合ってやるよ。昼にブルックリンチョッパーズ集合だ」

 

無理やり話を進ませ、今夜はこれで終わりにした。


 

 

翌日。午後三時。

 

ドルン!ドルン!

 

ドドド…ドドド…

 

ブルックリンチョッパーズ。

 

「よう」

 

ショベルヘッドを停車させ、スティーブが地に足をつけた。

 

「『よう』じゃねーだろ!おせーんだよ、ボス!

おめーの頭ん中の昼は何時だ!」

 

すでに到着していたラファエルが怒鳴り散らす。

だが、その頭を店内から現れたタカヒロがスパナで叩いた。あまりにも待たされるので、工場で作業でもしていたのだろう。

 

「お前も遅かっただろうが!二人ともバカだよ!

二時も三時も昼じゃねー!死ね!

さっさと事務所に入れよ、ヒゲに話があんだろ?」

 

「ってぇ…!」

 

後頭部を手で押さえながら、ラファエルがふらふらとタカヒロに続く。

スティーブも無言で工場内の事務所に向かった。


 

工場のすみにあるコンテナハウス。

そこが事務所である。

 

「ヒゲ。客だ」

 

「くぉらぁ!タカヒロ!

社長と呼ばんか、ボケナスが!」

 

ソファに寝転がって読んでいたポルノ雑誌をタカヒロに投げつけるクラーク。

相変わらず元気そうだ。

 

「…ふん!ファントムズのチンピラ共か!

タカが非番なのに工場で自分のバイクをいじっとったからな。何やら嫌な予感がしてたんだよ!」

 

「お客様は王様だろ、ヒゲダルマ」

 

「だったらさっさとショベルを工場に入れろ、スティーブ!」

 

よっこらせ、とクラークが立ち上がる。

 

「いや、俺のバイクじゃねー。別件だ」

 

「ああん?」

 

クラークが寝ていたソファに座るスティーブ。

 

「警察の車両。

一定期間使用された奴は民間に下ろされるよな?」

 

スティーブの言うとおり、ポリスカーや白バイは、無線機やサイレンなどの特殊な装備を外し、最終的にはオークションなどで一般向けに販売される。

 

「断る」

 

「はえーだろ!ちゃんと聞けよ、ジジイ!」


「聞かんわ!面倒なのは目に見える!」

 

警察車両の話題を出しただけで突っぱねられてしまった。

購入だけなら何ら法的な問題はないが、依頼人の人柄がこれである。よからぬ事に使う気だと思われても仕方ない。

 

そして、実際にクラークの読みは大きく外れてはいない。

 

タカヒロもようやくスティーブとラファエルの考えが分かったわけだが、そこはファントムズのメンバーである。特に非難はしない。

 

「頼むぜ、ヒゲダルマ。

別に銃撃戦に使うとかそんなんじゃねーからよー」

 

「帰れ帰れ!お前らのクソみたいな企みに手を貸したとなりゃ、店の看板が汚れるだろうが!」

 

「んじゃ、そういう車両を持ってて、貸してくれそうな奴はいねーか?

いるだろ、白バイマニアみたいな頭沸いてる奴がよー」

 

なおも食い下がる。

バイク屋の社長であるクラークが、顔が広くないはずもない。

以前もリー社長に三合会の件で助けてもらったので、スティーブには確信があった。


「スティーブ。何に使う気なのか、教えてくれよ。

俺にまで隠す気か?」

 

「あ?おう」

 

とりあえずクラークとの交渉は置いておき、詳細をタカヒロが求めてきたのでそちらの説明をする。

 

「昨日のアイアンローチのメンバーの件だ」

 

「あれか。サツが関係してるのか?」

 

「いや」

 

スティーブが首を横に振った。

クラークもスティーブらの目的は気になるので、渋い顔をしたままではあるが黙って耳を傾けている。

 

「実は、ソイツは殺されてたんだよ」

 

「マジか!?黙ってんじゃねーぞ、スティーブ!」

 

タカヒロが驚く。

 

「それで、犯人は分かってねー。

リチャードは目立たねーように自分らでやるから手を出すなと言ってきた。

ファントムズやクラッチロケッツが動いて、ソイツに逃げられたら話にならねーからな」

 

「だからサツに化けるつもりなのか。なるほど」


「そういうこった。クラーク!ヒゲダルマよう!

分かっただろ、俺たちは妙な事におめーを巻き込むつもりはないってな!」

 

「十分、妙な事だ!バカたれが!」

 

正論である。

 

「あぁ!?味方が殺されてんだぞ!やり返すのがダメだってのか!?

それに、警察車両は隠れ蓑だ!奴らの居場所さえ突き止めさえすりゃイイ!

いざ喧嘩をやろうって時には使わねーよ!」

 

スティーブの必死の説得が続く。

 

「ううむ…」

 

ついにクラークがうなった。

 

「頼むぜ、ヒゲダルマ!

やられたまんまで黙ってたら、男が廃るだろ!この通りだ!」

 

スティーブがぺこりと頭を下げた。

これはなかなか珍しい光景である。

 

アメリカ人にとって、お辞儀をすることが誠意の現れではないが、間違いなく気持ちは伝わるだろう。

 

「ぐぬぬ…小僧が。ソイツはタカヒロの、日本人の真似でもしてるつもりか?

いつもお前はバカみたいに一生懸命だな!」


「けっ、お褒めいただき光栄だぜ!

それで、ニューヨークにいるのか?直接行くからよ」

 

勝手に話を進めてしまう。

だが、クラークはそれには納得しない。

 

「ちっと待たんか、鉄砲弾が!

ふん、連絡くらいはしてやる!」

 

ラファエルやタカヒロが同時に、ニヤリといたずらっぽい笑みをスティーブへ向けてきた。

 

「あー!もしもし、俺だ、クラークだが!

元気にしてたか?」

 

携帯電話で誰かと話しながら、クラークは事務所から出て行った。

工場の騒音で、相手の声が聞こえづらかったのだろう。

 

「やるじゃねーか、ボス。

クソみたいな政治家よりも、よっぽどスピーチが上手いんじゃねーか?」

 

「三合会との戦争でもそうだったが、お前は人の心を動かしちまうんだろうな」

 

ラファエルとタカヒロが手放しでスティーブをほめちぎった。

 

「あー?演説で大金が舞い込むんなら、いくらでもやるぜ」

 

「はっ!違いねー」

 

スティーブの冗談に、ラファエルが鼻で笑う。


 

「終わったぞ」

 

クラークが戻ってきた。

スティーブの横にどっかりと座り、短い脚を組んでタバコに火をつける。

 

「相手はどんな奴だ?何て言ってた?」

 

「名前はバリーって男でな。クイーンズで運送トラックの会社に勤めてる部長さんだ。

お前が言ってた通り、刑事ドラマで頭がいかれちまった筋金入の警察マニアよ。銃やら車やら制服やら、まとまった金さえ出来ればそういったもんにつぎ込んでやがる。嫁も取らずにな」

 

「ビンゴか。やっぱりドンピシャでその手の人間を知ってんじゃねーか。

ここには白バイのカスタマイズでも頼みに来たか?」

 

「あぁ。昔、仕上げてやった一台がある。ウチでいじったのは内緒だって約束でな」

 

民間に流れた警察車両を、再び本来の姿に改造するのは違法である。

もちろんオーナーと同時に、ショップも摘発の対象となってしまうわけだ。


「やってんじゃねーか!

で、肝心なとこはどうなってんだよ?」

 

「内緒でやったと言ってるだろうが!

お前らとは違ってまともな額を払う奴だからな!

あー…そこがちょっと問題だ」

 

「無理そうか?」

 

バリーという男にとって、身を粉にして集めてきたコレクションなのだ。出し渋ったのだろう。

そう思っていると、クラークからは予想外の回答が戻ってきた。

 

「いや、使い道を教えろと言って聞かん。

潜入捜査ごっこなら自分も加えろと言い始める始末だ…

もちろん、お前達の悪巧みなら伝えてねぇぞ。話すなら呼んでやるが、どうする?」

 

「は?その警察マニアの変態を連れていくって事か?」

 

「そうだ。それなら絶対に車両を貸してくれるはずだ」

 

よほどの変わり者なのが分かる。

 

「いや、まぁ…仕方ねーか…俺達から出向く。場所教えろ、ヒゲダルマ。

ラファエル、タカヒロ。変態親父の面でも拝みに行くぜ」

 

「クソつまんねー事になってきやがった!」

 

「了解」

 

三人が出発する。


 

 

クイーンズの一等地に、男の家はあった。

さすがに彼の趣味は持ち家無くして成立しない。

 

立地は近くにマーケットやコンビニエンスストア、ガソリンスタンド、駅もあり、利便性が高そうである。

家の外観はというと、母屋は何の事はない平屋だが、離れにあるガレージらしき建物が異様に大きい。

 

「ここだな」

 

ドドド…ドドド…

 

スティーブらがバイクを停車する。玄関をノックする前に、家の中からバタバタと足音が近づいてきた。

 

ガチャン!

 

「動くな!」

 

小太りな白人の中年男が飛び出す。

その手には拳銃、そして警官の制服を着ている。

残念ながら帽子を被るのだけは間に合わなかったらしく、薄い頭頂部が際立っている。

 

「あ…?」

 

「うわ…」

 

「げっ…」

 

三人がそれぞれ色んな感想を思っただろうが、強烈なバリーのキャラクターに引いてしまったのは共通している。


「はははっ!どうだ!驚いたかね!」

 

腰のホルスターに拳銃を上機嫌でしまう。

軽い冗談のつもりだろうが、初対面で銃を向けられてはたまったものではない。

 

ドスッ!

 

「ふごっ…!?」

 

デンと出たバリーの腹に、スティーブのつま先蹴りがめり込んだ。

 

「ふぉぉぅ…」

 

妙な悶絶を漏らしながらバリーが膝をつく。

 

「いきなりのご挨拶ありがとよ、おっさん」

 

スティーブが睨みつけながら言った。

 

「お…おぉ…よく来てくれたな…

中へどうぞ…」

 

そうは言うが、すぐには動けない様子だ。

ラファエルとタカヒロがバリーに肩を貸してやり、引きずるように彼の家へと入っていった。

 

 

「どうだ。

少しは落ち着いたか、おっさん?」

 

小さな応接間で、対面して座る。

 

「大丈夫だ…お前達がファントムズMC?

話くらいなら聞いた事があるよ」

 

「クイーンズは通りかかるくらいなもんだからな」


大抵はブルックリンかマンハッタンでぶらついている連中である。

クイーンズだろうと、バイク乗りやギャング共には知れ渡っているが、一般人にはそれほどまではない。

 

「警察車両を借りたいそうだな?

車か、バイクか?」

 

「三人いるんだ、ポリスカーに決まってるだろ」

 

「そうか。では、作戦を聞きたい」

 

もちろんそうなる。何に使われるのか分からずに車を貸してくれるはずがない。

 

「ブロンクス周辺で人探しだ。

俺達はブルックリンの人間なんでな。自前の車両じゃ目立つから、サツになりすまそうって腹だ」

 

「探してる人間に感づかれない為って事だね。

では、なぜ一般車ではない?適当な車でも良いはずだが」

 

「うろちょろしてても不自然じゃねーだろ。怪しい場所に踏み入っても、警官なら通行人からも文句言われねーよ。もちろん本物のサツ以外からはな。

それに、俺達は正義の味方だ。お似合いだろーが?」


スティーブが冗談半分に言いながら胸を張る。

バリーが苦笑いをし、アルバムのような物を取り出した。

黒革の表紙だが、使い込まれて色あせている。

 

「見てくれ」

 

ページを開き、三人がそれを覗き込んだ。

警察車両のコレクションの写真らしい。

車やバイクと一緒に、敬礼をしたバリーの姿がいくつも写っていた。

 

「写真じゃなくとも、ガレージの実物を見せてくれよ」

 

「いやいや、これはコレクションではなくてね。警察署を訪れた時や、催しものの際に撮らせてもらったんだ。

さすがにこんな何十台もの車両を集めるわけにはいかんさ」

 

「…で?」

 

では何故見せたのだと、きょとんとしてしまう。

 

「素晴らしいだろう!」

 

「自慢してーだけかよ。とにかく、貸してもらえるんだな?

早く車を見せろよ。レプリカでも、本物とそっくりなんだろ」

 

「もちろんだとも!」


 

 

一旦、家から出て、離れにあるガレージ内。

 

警察車両が目当てだが、キャデラック製の高級車がまず目に入った。

独り身ではあるが、優雅な生活感がうかがえる。

 

「どうだい、レプリカなどと言ってられん出来栄えだろう。

なにせ、元は現場で頑張っていた本物のポリスカーだからな!正真正銘の本物だ!」

 

セダンタイプのポリスカーが一台、白バイが二台ある。

それらは確かに、どこからどう見ても本物だった。

 

「文句なしだ。やるな、おっさん」

 

ケチをつける部分はない。パッと見だが、綺麗に手入れしてあるので整備も良好だろう。

 

「ついでに制服なんかも借りれるか?」

 

「うぅむ…人数分には足らないよ」

 

「そうか、せっかくだからな。

ガンショップでも覗いて、そっちは俺達で何とかしよう」

 

珍しく念入りな準備になってしまうが、スティーブはこの状況を楽しみ始めていた。


「よろしく頼むよ。決行はいつだね?胸が躍って眠れそうにないよ」

 

参加する気満々なのは、クラークの情報通りだ。

 

「はぁ?心配せずにぐっすり寝とけ。

おっさんはお留守番だからよ」

 

「何!?話が違うぞ!

捜査には本官の協力が必須だ!」

 

途端に顔を赤くして、バリーが怒鳴り始める。

 

「何で俺達の問題にわざわざ首を突っ込む必要があんだよ!

車を貸してもらえるのには感謝するが、てめーの丸々した身体は足手まといになるだけだろうが!」

 

スティーブも負けじと怒鳴り散らし、容赦なくバリーを突き放す。

利用するだけ利用しておいて、都合の良い事この上ない。

 

だが、バリーをトラブルに巻き込んでしまうのも悪いので、間違いとも言い切れないが。

 

「なんだと!だったら車は貸さん!」

 

やはりそうなってくる。


「クソが。そりゃ困るぜ」

 

「そうだろう。

別に邪魔なんかしないさ。人を探すだけの簡単な任務なんだろ?」

 

それならばと、しぶしぶスティーブが首を縦に振った。

 

「…分かった。

ただし、俺達がお前と行動する間は、ちゃんと言うことをきけよ?勝手な事をされて計画が台無しになっちゃ終いだからよ。

運転はそこにいるラファエルにやらせる。いいな?」

 

「何を言う!勝手な行動をする気はないが、運転は任せられんぞ!

傷でもついたらどうするつもりだ!」

 

「敵を追尾する腕があんのか?ドライブ気分も結構だが、警察官には時に、危険な任務が待ってる事だってあるはずだぜ。

てめーの警察への憧れはそんなもんかよ、おっさん」

 

「ぐぐっ…しかし、この車は私の魂を込めた力作で…!」

 

「わざとぶつけたりはしねーよ。

だが、現場で傷ついた警察車両の方が箔がつくってもんだろ。

コイツも、ガレージでピカピカにしてある内は退屈で仕方ないだろうぜ。可哀想に」

 

ピクリとバリーの眉が動く。


「可哀想…?おい、それはどういう意味だい。大事にしているじゃないか」

 

「とんだ勘違いだ。

レプリカならそれでイイだろうが、コイツは本物のポリスカーなんだろ?

ま、お前が惚れたのはこういう風に綺麗にして飾られてるポリスカーと、デスクワークで禿散らかしてる警官だった…って言うなら話は変わってくるが」

 

「違うとも!現場で働く警察官こそ輝いて見えるものだ!」

 

スティーブがニヤリと笑った。

 

「はぁ?言ってる事とやってる事がちげーんだよ。

ダサすぎるぜ、カス野郎」

 

「…!」

 

「鍵をよこせ、負け犬。

それから、銃もだ。たくさん余ってるだろ。それも使ってやろうぜ」

 

くいくい、と手招きする。

 

「くぅ~…ファントムズ・モーターサイクル・クラブ…噂以上に外道だな!イイだろう!騙されてやるよ!」

 

「俺様がリーダーのスティーブだ」

 

交渉成立。夢見る中年オヤジの心を掌握した瞬間であった。


 

そうと決まれば、段取りを組んでいく。制服の件もあり、捜索の開始は後日からとなった。

もちろん一日や二日で終わるものではないだろう。

 

「おっさん、仕事ほったらかして、ずっと俺達と一緒にいる気か?」

 

「可能な限りはな。だが、本官がいない時はどちらにせよ動けないぞ?

運転は任せると言ったが、鍵を持たせるとは言ってないからな」

 

「畜生め…

仕事上がりだろうがお構いなしにこき使ってやるから覚悟しとけよ!」

 

「ふふふ、望むところだとも!」

 

好きな事に打ち込めるとあらば、仕事の疲れなど吹き飛んでしまうに違いない。

 

「して、どうやって探すつもりかね?

人相や居住地が割れているのか?」

 

「さっぱりだ。ブロンクスで仲間がやられてな。

本物のサツも捜査中なんだとよ」

 

「何っ!それは凶悪犯ではないか!許してはおけんな!」

 

尻込みするかと思いきや、闘志を燃やすバリー。


「おっ?この車に乗ったまま、ドンパチ始まっても構わねーってか?」

 

「むっ!それは…」

 

「冗談だよ!安心しろ!

相手をどうしてやるかは未定だ。まだ見つけてもいねーのによ。

居場所さえ分かりゃイイのさ。後は俺達が勝手にやる」

 

命が惜しくない者などそうそういない。

誰もバリーに対して嘲笑などしない。

 

「ただし、俺達がやろうとする事には口出しするんじゃねーぞ。

たとえ俺達が殺しをすると決断してもだ」

 

「それは…」

 

警察官として、容認は出来ない、とでも言いたそうな顔である。

断じて彼は警察官ではない。

 

「ま、その時におっさんが立ち合う可能性はほとんど無いんだけどよ。

おそらく多少の抵抗もあるだろうしな。

第一、殺されたって、俺達に喧嘩を売った奴が悪いのさ。自業自得ってもんだ」


「やれやれ…報復とはいえ、誉められたものではないのだがな。

本来ならば、その凶悪犯を見つけた時点で、通報して逮捕してもらうべきだろう…

だが、今回の任務に参加する本官にも非がある。口外はしないでおいてやろう」

 

もともと違法改造車を作っている軽犯罪者のくせに、なぜか偉そうである。

スティーブも意地悪くそこを突いた。

 

「俺も黙っておいてやるよ。

ポリスカーや白バイを個人で所有してるおっさんがいるって事はな」

 

「これは一本取られたな!」

 

 

顔合わせはそこで終了し、スティーブらは帰路につく。

 

ブルックリンに入ると、その足でガンショップに立ち寄ることにした。

 

「銃器じゃなきゃ、身元の保証も不要だからな。正規の店で手に入れるのも問題ないだろう」

 

これはタカヒロの意見である。


『クライン・ガンズ』

 

町中にいくつもある店の中から、スティーブが指差した店の看板。三階建てで、一階と二階がその武器屋のテナントであった。

車が二、三台だけ停められる簡素な駐車場に、バイクを乗り入れる。

 

「なんだ、知り合いでもいんのか、ボス」

 

「いねーよ。どこだって一緒だろ。

ジャックがいれば話は変わってきたかもしれねーがよ」

 

残念ながらこの件はラファエルとタカヒロ以外のメンバーには知らせる事が出来ない。

すっかり拗ねてしまっているジャックなど、知ったところで協力しようともしないだろう。

 

 

チリンチリン。

 

店内に入った瞬間、扉についた呼び鈴が鳴る。

 

「いらっしゃい」

 

あまり広くはない店内。

真正面にカウンターがあり、濃い緑色が基調とされた迷彩柄のTシャツを着た店主が、無愛想にそう言った。

おそらく彼の名前がクラインというのだろう。


「制服や戦闘服はあるか」

 

「そっちの棚だ」

 

うっすらとひげの生えた顎で店主が右手の棚を指す。

 

「ありがとよ」

 

「おい、あんちゃん達よ」

 

「あぁ?」

 

「お前ら、PMCのメンバーだろ。騒ぎはいつも耳に届いてるぜ」

 

スティーブ達がチームのジャケットを着ているので、地元の人間からすれば目立って仕方ないのだ。

 

「なーにが騒ぎだよ。噂には大抵、尾ひれがついちまうもんだろうが」

 

「言うねぇ。どういった服が入り用だ?」

 

店主がカウンターから出てきて、スティーブの横について服の棚を漁り始める。

若く見えるので、おそらく同年代だろう。

 

「ここいらの警官の制服だ」

 

「はぁー?完全に悪巧みじゃねーか。

どうだ、悪さする前に二階のシューティングレンジで射撃の練習でもしていくのは。制服を買うなら貸し銃と弾はオマケしといてやるぞ」

 

「そりゃイイ!」

 

店主の話に、誰よりも先にラファエルが飛びついた。


「射撃の練習だぁ?そんなもん役に立つのか?」

 

スティーブが訝しむ。

 

「知らねーよ。面白そうじゃねーか、やろうぜ、スティーブ」

 

「…っ!」

 

ラファエルの言葉で、店主が急にスティーブを凝視した。

 

「ん?」

 

「こりゃ驚いた。妙な買い出しをさせられてるから、下っ端かと思ってたら…お前、PMCの五代目ヘッド様かよ!こりゃ面白くなってきたぜ!」

 

「何を盛り上がってんだ、おめー?」

 

芸能人にでも会ったかのような反応である。

 

「警官に扮してドンパチやろうって腹なんだろ?相手は?どこのどいつだ?

天下のファントムズに楯突こうってんだ、そこそこのチームなんだろ?」

 

一日中店に座っているのだ。面白そうな情報に目が無いのは分かる。

 

「ベラベラとよくしゃべるな。

残念だが、制服はウチで使うもんじゃねーんだよ」

 

嘘をつくスティーブ。

口の軽そうな人間に下手に話したら、どこからどう広がっていくか分かったものではない。


「おいおい!つまんねー事言うなよ!ファントム…ぐっ!」

 

「いい加減にしとけよ…なめてんのか、てめー?あ?」

 

店主の襟を掴み、無理やり顔を引き寄せて凄む。

 

「じ…冗談だろうがよ…」

 

「誰がてめーの冗談に付き合ってやるって言った」

 

「…」

 

スティーブが手を離すと、すっかり顔が青ざめてしまった店主がその場にへたり込んだ。

 

「タカ」

 

「あー?」

 

真後ろで腕を組んで見ているタカヒロに声を掛ける。

ラファエルはすでに、さっさと二階へ上がって行ってしまっていた。

 

「バリーが二着持ってるから、残り二着買えば足りるんだよな?」

 

「おう」

 

「金、貸してくれ」

 

「…阿呆」

 

 

 

パァン!

 

パァン!

 

「よっしゃぁぁ!全弾命中!」

 

「おー?やってるな」

 

耳当てもつけず、片手でピストルを乱射していたラファエルと合流する。


「どうよ、大した腕前だろ!」

 

ラファエルは自慢げだ。

少し、的が近くにあるが、それでも上出来だと言える。

 

「こりゃ意外だったな、お前の弾はもっとじゃじゃ馬だと思ってたが」

 

二着の制服が入った紙袋を肩にかけたタカヒロが返す。

 

「タカ、身体はもう問題ねーんだろ。撃ってみろよ」

 

スティーブがそう促す。

 

「チャカなんてガラじゃないが、試してみるか。貸してくれ」

 

ラファエルと入れ替わって、簡素な板で仕切られたブースに入る。

ラファエルが適当にばらまいたのだろう、床に落ちている弾薬を空になった弾倉へ詰め直した。

 

その間に、店主も二階へ上がってきた。

 

「どうだい」

 

「今、二人目だ。最後に俺も撃たせてもらったら帰るよ」

 

「約束だからな。お手並み拝見させてもらうぜ」


駐車場も空車だったので、よほど暇なのだろう。

街で名を馳せるワル共の腕を見てやろうと、店主はニヤニヤと笑う。

 

パァン!パァン!

 

タカヒロが二発、発砲した。

 

「当たっ…たのか?ラファエル!おめー、的が代わってねーぞ」

 

今更タカヒロがそんなことを言い始めた。

的は厚紙が貼ってあるだけのもので、ラファエルが撃ち抜いたままになっており、タカヒロが撃った弾の行方がよくわからないのだ。

 

「はぁ?撃つ前に自分で貼り直せよ。

どんくさい野郎だぜ」

 

「的代わりにお前があそこに立ってもイイんだぞ?」

 

「けっ!おっかねーサムライだぜ!」

 

ラファエルが的を貼り替えてやる為、フロアに入っていった。

 

「今のあんちゃんが撃ったのは、二発とも外れだよ」

 

「何?適当に言ってんじゃねーぞ」

 

しっかり見ていたらしく、店主がそう言い放った。

タカヒロもいい気はしない。


「適当なもんか。ちゃんと見てただろうが」

 

逆に『失敬だぞ』とでも言うように店主が口を尖らせた。

 

「何で分かるんだ?」

 

これはスティーブだ。

 

「紙だろうと、当たれば多少の音がするからな。

それに、どう見たって銃口が明後日の方を向いてたぜ」

 

 

「よう!これで文句ねーな!」

 

ラファエルが戻ってきた。

 

「ありがとよ」

 

タカヒロが銃を構える。

 

パァン!パァン!

 

「一発は当たりだ」

 

訊いてもいないのに、すぐにそう言ってくる店主。

 

「ん?おぉ、確かに…すげーな、アンタ」

 

タカヒロが的を凝視し、弾が貫通した痕を一つだけ見つけて返事した。

 

「ほー、さすがプロってところか。本当によく分かってるじゃねーか。

次は俺だ。タカ、交代しろ」

 

「なかなか難しいもんだぜ、ボス」

 

ため息と一緒に、タカヒロからスティーブへ銃が手渡された。


タカヒロが撃った後なので、的に一つだけ穴が空いているが、そのまま構える。

 

パァン!

 

「外れ」

 

パァン!

 

「外れだ」

 

パァン!

 

「また外れだっての。

どこ狙ってんだ、あんちゃん」

 

ガシッ!

 

「ぶっ殺すぞ、てめー!!」

 

「なんでだよ!?」

 

いちいち後ろから店主が声を発する事に、スティーブが腹を立てる。

再び襟を掴まれて凄まれているが、今度ばかりは店主も苦笑いを浮かべた。

 

「てめーがガタガタ抜かすから外してるだけだっつーんだよ」

 

「下手なもんは下手だって認めろよ…」

 

ラファエルやタカヒロは笑いを抑えてプルプルと身体を震わせていた。

 

 

「チッ…黙って見てろよ」

 

もう一度。

 

パァン!

 

「外れ」

 

「ぶっ殺す!」

 

その後、ラファエル達が腹を抱えて大笑いしたのは言うまでもない。


 

 

ガンショップを出て、ホームベースに戻るかと思いきや、行き先はスティーブの家だった。

 

「タカ、その紙袋は俺の部屋にでも置いとく。アンディ辺りに見つかったら、せっかくの遊びがバレちまう」

 

「さっさと金は返せよ」

 

タカヒロが了解して警官の制服をスティーブに放り投げる。

 

「バカ野郎、チームの金庫から出しとけ」

 

「すっからかんで蜘蛛の巣が張ってんだよ、ボケナスが」

 

タカヒロが毒を吐く。


 

「またか!?」

 

「いつもだろ。

しかしビッグ・ペインの話に乗るためには、アイアンローチのこの問題を沈めるのは近道だ。

お前は間違っちゃいねーよ」

 

「そんな理由じゃねーだろ。

金の為だけにやると思ってんじゃねーぞ」

 

お題目にしか聞こえないが、この瞬間はそうらしい。

 

「くせーんだよ、お前。

帰るぞ、ラファエル」

 

「おう。またな、スティーブ」

 

ドルン!

 

ドドドドド…!!


「ふん…」

 

「何が『ふん…』だい。カッコつけてさ」

 

「ぬわっ!?

いたのかよ、てめー!」

 

家に入ろうとしたところに、すぐそばからレベッカの声が聞こえてきたものだから、スティーブは飛び上がった。

 

「友達にさよならもきちんと言えないようじゃ、いつしか誰からも相手されなくなるよ」

 

「どうでもイイ説教なら、携帯の留守電にでも入れといてくれねーか。

で、何やってんだ」

 

「ちょうど出かけるとこだったのさ。どいてちょうだい。

…それと、今日は帰らないから戸締まりしといてね」

 

「へいへい。どうせ、ゴリとデートだろ」

 

「さぁね」

 

厚塗りの化粧や格好から、よそ行きなのは分かる。

ハンドバッグをミニクーパーの助手席に放り込んで、レベッカはそのまま出かけていった。


まだ日は出ている。

家の中にはテレビをつけたまま、リビングのソファでうたた寝している母親の姿があった。

 

「お袋、風邪ひくぞ」

 

「…」

 

小さな寝息を立てていて、返事はない。

足元に落ちていた厚手のブランケットを母親にかけてやり、自室に向かうスティーブ。

 

母親には世話を焼くような言葉をかけたくせに、自分はファントムズのジャケットだけ脱ぎ捨て、靴も履いたままベッドに寝転んだ。

 

ピリリ…ピリリ…

 

「誰だよ…」

 

まどろんでいたところに入る着信。

 

画面を見ると、ミリアの顔写真が写っていた。

珍しい事もあるものだ、と画面に触れる。

 

「寂しいんだろ?言わなくても分かるぜ」

 

「スティーブぅ!久しぶり~!元気にしてた?」

 

難なくスルー。

 

「どこかにブロンドの巨乳美女がいないかと考えてたところだ」

 

「相変わらず発言がいちいちやらしーなぁ。デリヘルでも頼めばイイじゃん!」

 

「いらねーよ」

 

「ところで仕事は?見つかったの?」

 

「仕事?別に探しちゃいねーが」


単に、辞めた人間を心配しているのならば何らおかしくはない。

しかし、ミリアの意図は違った。

 

「最近新しい人が入ったんだけどさ。

もちろんスティーブの代わりって形で」

 

「よかったじゃねーか」

 

「良くないよ!みんな、スティーブに戻ってきてもらえればイイのに、って嘆いてるよぅ」

 

何かと思えば愚痴である。

新任の従業員がなかなかの曲者なのだろう。

 

「俺より優れたドライバーなんていねーだろうからな!

比べられちゃ、ソイツが気の毒だ。まぁ、頑張れよ」

 

「むぅ~。暇ならせめて教育してもらいたかったのにぃ」

 

なるほど。それが狙いか。

 

「誰が暇だっての!そんなに使えねー奴なら別の人間を探せよ!」

 

「無職が偉そうにぃ」

 

作戦失敗というところか。ミリアが頬を膨らましている様子が手に取るように分かる。


「だいたい、何をそう困ってんだ?」

 

「ややっ!よくぞ訊いてくれました!」

 

「いきなり盛り上がってんじゃねーよ」

 

耳をほじりながら、つまらなそうにスティーブが返す。

 

「ズバリ、運転がノロノロで、お客さんからのクレームが多い!」

 

「じゃあじきにクビだろ、切るぞ」

 

「それがそうもいかないんだよ~!

せっかく入ってきた従業員だし、根は真面目で可愛くて若い女の子なんだけどさ~」

 

「事情が変わった。

詳しく聞かせろ。主にソイツの容姿について」

 

女と聞いた途端、手の平の返し方が尋常ではない。

 

「は?容姿…?」

 

「あ、いや、客商売には見た目も大事だろーが?

そういう事だよ。分かるだろ、ベイビー」

 

適当な言葉を並べてごまかしきろうとする。

 

「へぇー?あたしが見てきた中ではスティーブより見た目が悪いドライバーはいませんでしたけどね~!」


「とにかく、一回くらいなら…指導してやらねー事もないぜ?」

 

「あーら?急にどうしたのかしらね~」

 

ミリアがくすくすと笑う。

 

「どうもこうもねーよ!明日の朝方なら空いてるが、どうだ!」

 

「やだぁ。何か鼻息荒いよ、スティーブぅ?

明日か。そうね、急だけどカレンも出勤みたいだから、レクチャーお願いします!」

 

カレンと言う娘らしい。ミリアから何も聞き出せないのならば、会ってしまうのが早いと、どんどん話を進めていく。

 

アイアンローチの件は、バリーなくして動けない。彼が仕事から帰宅するであろう夕方までならば時間は取れる。

 

「試しに朝一番でウチまで迎えに来させるのはどうだ?

適当に近い場所まで乗せてもらって、まずはお手並み拝見だ。

もちろんその分の運賃くらいは出すが」

 

「それいいね!じゃあ、予約しときますよぉ!」

 

これはカレンが気になるスティーブには都合がイイ。

 

気に入れば正体を明かして助手席で指導。

気に食わなければ客として、そこでおさらばというわけだ。その場合もミリアへの言い訳などいくらでも用意出来る。


「オーライ。じゃあまたな」

 

「ありがとー、スティーブ!またね!」

 

ミリアとの通話を終える。

ケイティというものがありながら、なかなか罪な男だ。ピッツバーグのサラをナンパした時もそうだが。

 

もちろんケイティとは定期的に食事や飲みに出かけているが、スティーブは常に刺激を求めていた。

ファントムズ然り、ガールフレンドも然りである。

 

 

携帯が光る。

ちょうど、ケイティからのメールが受信されていた。

 

就寝前の他愛もない近況報告である。

きちんと『おやすみ』を飽きもせずに返してやるあたり、彼なりにケイティを大事にしていることがうかがえた。

 

「…さて、明日は楽しくなりそうだ」

 

携帯を放り投げ、レベッカに頼まれていた戸締まりをせずにスティーブは目を閉じた。


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