知識
「せっかくの贈物が、飯のタネにならないわけか。でも、贈物のない俺にいわせれば、贅沢な悩みだぞ」
ジンベジがやたらと先輩風を吹かせるところからすると、シルヴィオの方が年下なのだろう。
「ジンベジ君、なにも贈物がその人の全てではない。現在の選定侯は、王を含めてみな贈物を持っていない」
口を尖らせたジンベジが、珍しく私に文句をいう。
「教官殿、その方々にはお金も地位もあるじゃないですか。贈物なんてなくても恵まれている。金にも地位にも恵まれず、贈物もない。ホエテテみたいに生まれつき体が大きいわけでもない。それなりに自信のあった槍の腕前も、ユリアンカさんを相手にすると子どもと大人だし――」
「人類が万物の霊長であるのは、槍働きが巧みだからでも、魔術が使えるからでもない。果てしない知識への探求心と、知識をうまく使う知恵こそが、その理由だ」
二人の観衆が、演技がかった私のことばに耳を傾けているのを確認して続ける。
「自分でいうのもおこがましいが、私は古今東西、記録に残っている世界中の武器兵器、戦術戦略に精通している。一介の教育係ではあるが、知識だけなら軍父ギュッヒン侯にも劣ることはない」
つまらないうえに初心な若者を騙す卑怯な演説だが、何度か試したこともあり効果は実験済だ。
「その知識を君に授けよう、ジンベジ君。どうせ冬は暇な時間が多いだろうから、みっちり君に私の知っている限りのことを教えてやる。君に知識を使いこなす知恵があるなら、ギュッヒン侯を打ち倒すことができるかもしれない」
目をキラキラと輝かせたジンベジは、よだれを垂らしそうな顔で私のはなしに聴き入っていた。
どれだけのことを伝えられるかはわからないが、お互いに冬の無聊を慰めることはできるだろう。そのとき、横で神妙にはなしをきいていたシルヴィオが突然口を挟んだ。
「ローハン隊長、大隊長の命令書にはなんと書かれていたんですか」
真っすぐにこちらをみるシルヴィオの視線は鋭く、なにかを探るような動きをしている。
直感的に、こいつは命令書を盗み見たなということがわかった。命令書の内容を無視し、冬のあいだ野営地で時を過ごそうとしている私に対する警告かもしれない。
私は、少し悩んだ素振りをしてから返事をすることにした。
「まあいい、君たちにも伝えておこう。大隊長からの命令は、鬼角族を率いてギュッヒン侯の部隊を攻撃しろということだった。だが、大隊長は大きく勘違いをしている。我々は鬼角族と友好関係にあるが、報酬なしに鬼角族を戦場に導くことは難しいだろう。もちろん依頼はするが、この部族の全戦闘員が参加したとしても百二十人がいいところだ。そんな少数でなにができる」
シルヴィオはどう見ても子どもだが、じつは間諜で、私の命令違反を告発するために派遣された可能性も考えられないわけではない。このことは、心にとどめて置くことにしよう。
「このあと、少しハーラントとはなしをしてくる。本国での反乱の件は誰にもするんじゃないぞ」
人間のことばが話せるのはユリアンカとハーラントだけとはいえ、どこで情報が漏れるかはわかったものではない。一個軍団の定員は五千四百人、二個軍団なら一万人を超えるだろうから、精強な鬼角族の騎兵といえども百二十人程度でははなしにならない。もっと多数の騎兵を集めるなら、キンネク族の他の部族からも動員が必要になるし、そういった動員が可能なのかもわからないのだ。
二人には放牧の仕事を続けるよう命じ、再びハーラントのところへ向かった。




