反乱
なぜ、ギュッヒン侯は反乱をおこしたのだろうか。
軍でのギュッヒン侯の地位は絶対で、軍人なら誰でも敬愛するような人物である。
さらに、王を選ぶ七人の選定侯の一人として、栄耀を誇っているはずだ。なぜ、反乱などをおこす必要があるのか。
「噂では、ギュッヒン侯もすでに齢六十をすぎ、いまの国王も壮健であることから、王になるために一か八かの賭けに出たんではないかということでした」
シルヴィオのいうことが本当だとすれば、かつての英雄は歳を重ねて耄碌したのだろうか。晩節を汚すほど、王の地位に魅力があるのか。偉い人の考えることはわからないが、なぜ自分が法によって裁かれず、西方へ放逐された理由がわかったような気がした。反乱を起こすことが決まっていたのであれば、どのようなつまらない醜聞であろうと、許すことができなかったのだろう。
息子が間男をして殺されたというのは、家族の行動すら御せない人間が、王として国を統治できるのかという不安につながる可能性があるだろう。だから、私の殺人は揉み消された。この反乱がなければ、私は生きていなかった。皮肉なものだ。
「シルヴィオ君、ギュッヒン侯は反乱をどうおこしたんだ。そして、なぜ失敗したんだ」
またシルヴィオの、いたずらっ子のような表情があらわれた。自分だけが知っている秘密を、もったいぶって教えないときの子どもの顔だ。
「ローハン隊長、話せば長くなります。大隊長からの手紙もありますので、天幕に戻りませんか」
旅の疲れはどこかに行ってしまった。はやる心を押さえながら、うなずくと、私たちが使っていた天幕に向かう。バター茶が用意され、三人は毛皮の上に腰をかけた。これで話が長引いても大丈夫だ。
「よし、シルヴィオ君。反乱の経緯を説明してもらえないか」
なぜギュッヒン侯が反乱を起こしたか、それは誰にもわからない。だが、反乱の口実は「贅沢のために民から税を貪り、軍を衰退させて王国を周辺国から侮られる存在にした愚王を誅する」というものだったらしい。たしかに軍は、その規模を減じていた。ここ二十年戦争らしい戦争もなく、十個の軍団と補助部隊をあわせて六万の常備軍を維持する意義について、疑問を持つ人々もいた。現在のフィアンツ国王
は、五年前に十個軍団を四個に減らし、都に近衛軍団を置いて軍を半減させたので、たしかに軍を弱くしたということは事実だろう。しかも、その浮いた軍費がどのように使われているのかわからない。不満を持つ軍人が、ギュッヒン侯を頼った可能性もある。
ギュッヒン侯は、自領に駐屯していた北方軍団を手懐け、近衛の中のいる支持者に扇動させてフィアンツ国王を打ち倒そうとしたらしい。ところが、近衛軍団での反乱は鎮圧されてしまった。それをみたギュッヒン侯は、王に反意を持った退役兵でさらに一個軍団を組織し、二個軍団で都を攻撃しようとしたが、私たちの西方辺境軍団が側面から攻撃を仕掛けたことで出鼻をくじかれる。残念なことに西方軍団は徹底的に打ちのめされて多数の戦死者がでたが、時間稼ぎは成功し、都には近衛軍団、東方軍団、南方軍団が集結し、さらに兵士が動員されつつあるらしい。数的優位は王の側にあるが、ギュッヒン侯には用兵の妙がある。
現在は国王側と反乱軍が対峙しているが、反乱軍が外国勢力を導き入れれば、わが国の存続すら危ぶまれる事態なのが現状だということだ。
「教官殿、俺たちが羊の世話をしているあいだに、本国ではとんでもないことになってますよね」
事前にきいていたであろうジンベジは、なぜかワクワクしたような表情で私を見つめた。
え、こいつは何を期待しているんだ?
国を二分する大戦争に、羊飼いの我々がなにをできると思っているのだろう。




