ふたたびルビアレナ村へ
ジンベジはターボルの町へ、ホエテテはこの鬼角族たちとともに、そして私はユリアンカとともにバウセン山へ向かう。ジンベジが戻るころには、この野営地は移動しているだろうが、だいたいの方角と、目印になる石を積んでおくことで合流することができるだろうとのことだった。
私は、ターボルの町から持ってきた戦車のうち三台を縦に連結し、最前列の戦車に乗り込んだ。後ろの二台には、ターボルの町で買い付けた小麦その他の食料を積んでいる。おかげで、なけなしの所持金をすべて使ってしまったが仕方ない。戦車には、ハーラントから借りた麻布の中に藁を入れたクッションを置き、少しでも快適にすごせるようにした。馬を一頭借り、二頭立てとなった馬車はそれなりの速度がでるだろう。翌朝早く、私とユリアンカ、そしてジンベジは野営地を出発した。
少し馬を急がせたので、今回は六日でバウセン山にたどり着いた。上機嫌なユリアンカは、道すがらいろいろな話をしてくれた。父親のこと、人間の母のこと、そして兄のこと。この旅で、私たちの距離は確実に近くなった。途中で砂蛇の穴を見ることもあったが、十分な距離を取ることで襲撃されることはなかった。狼の群れも姿を見せず、二人と三頭の馬は日が沈む前に山の麓から頂をあおぎみる。村への道は細く、戦車ではそのまま登れないので、一足先にユリアンカに村にいってもらい、荷物を運ぶ手伝いを頼んでもらうことにする。
ユリアンカたちが戻ってくるのを待ちながら、バウセン山に所狭しと茂っている背の高い植物に目をやる。前回持ち帰ったこの植物を乾燥させると、表皮から麻のような糸が取れることは確認していた。前回みた粗雑な麻のような布は、この植物からできているのであろう。布ができるのであれば、紙もできるはずだ。この植物が、あの茶色い紙の原材料ではないだろうか。さらに、この植物は乾燥させると、かなり固い棒になるので槍の柄にするにはちょうどいい。残念なのは、投槍にするには軽すぎことだが。そんなことを考えていると、バウセン山の住民が山を駆け下りてくるのが見えた。手に武器を持っていないことを確認すると、腰の剣から手を放し、両手をあげて害意がないことを示すことにした。
「あんたはこの前の人だな、ようこそルビアレナ村へ」
山をおりてきた村民の顔には見覚えがあった。たしかベエカという男だ。
「ベエカさん、お久しぶりです。先日の約束を果たすためにきました。ノアルー村長はおられますか」
ベエカがうなずくのを見ると、戦車を指さして、荷物を上に運んでもらえるように頼んだ。小麦の入った麻袋が八つ、干した果物の入った麻袋が一つ、干し魚の入った麻袋が一つ。もともと小麦は十袋購入したが、鬼角族の食生活になかなか慣れず、自分たち用に二袋は置いてきたのだ。干し魚は鬼角族のために購入したのだが、魚は気味悪がって食べないことがわかったので持ってくることにした。
軽々と麻袋が男たちに担がれるのを見てから、戦車の軛から馬を切りはなし、手綱を取って二頭の馬を連れて細い道をのぼっていく。ここに来たのは、二月ほど前のことだったか。いまとなっては、遥か昔のように思われる。
視界が開けると、前回と寸分変わらない風景が広がっていた。この村は、二百年間まったく変わっていないのだから、ふた月くらいで変わるわけもない。
「おお、あんたはローハンさんだったな。ルビアレナ村は、あんたを歓迎するよ」
長い髭を蓄えたノアルー村長だ。そのまわりには、村人がたくさん集まっている。
前回は無視されていたように思えたのだが、なぜ今回はこれほど村人が集まっているのだろう。
「さっそく商談だ。あんたの持ってきた食料を、買い取らせてもらいたい」




