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ターボルへの帰還

 チュナム守備隊がターボルに出発したのが七日前のことで、すべての装備をもって移動する命令がだされていたらしい。戦車チャリオットは、ツベヒには装備とみなされていなかったのかもしれない。

 後ろについてきていたユリアンカたちは、兵士がいなくなった本部跡をきょろきょろと見回していた。

 「ユリアンカさん、我々はターボルに向かいます。なにがあるかわからないので、ここで待機していてください。三日たっても戻らなければ、お兄さんのところへ戻ることを約束してください」

 ユリアンカは、私の話などきこえないように横を向いていた。

 「念のためにいっておきますが、私がいないからといって、黒鼻族を害するようなことをしないでください。もし、そんなことがあれば、軍法に照らして厳格に処罰しますからそのつもりで」

 ヤビツに礼をいって、ユリアンカを残しておくこと、これからすぐにターボルへ向かうことを伝える。

 「人間の兵隊がいないと、鬼角どくの人は危険ではないでしゅか」

 「心配はもっともだが、ユリアンカさんには何もしないよう伝えておいた。それに、君たちは一方的にやられる弱者ではなくなっただろう。むしろ、君たちがユリアンカさんを傷つけないかが心配だよ」

 我関せずの態度だったユリアンカが、突然大きな声を出した。

 「なんであたしが、こんな羊に負けることになってるんだよ。なめたこといってると、ブッ殺すぞ!」

 「黒鼻族の強さは、ユリアンカさんも知っているはずだ。だが、もしここでお互いが傷つけ合えば、また戦争がはじまってしまうぞ。それは、君の兄さんも望まないはずだ」

 突然、ヤビツから奇妙な音がきこえた。

 低い音で、バーと長く鳴いたあと、バババババババと弾けるような音が続く。

 皆がヤビツを見つめるが、バババババババという音は止まらない。

 そのとき、これが黒鼻族の笑い声であることに思いが至った。

 表情はかわらないが、この黒鼻族はまちがいなく笑っている。そう思うと、私もおかしくなって笑いはじめた。

 「爺、なに笑ってるんだよ。大男も、チビもなんで笑うんだ!」

 ホエテテもジンベジも、これが黒鼻族の笑い声だと理解したようだった。

 烈火のごとく怒るユリアンカの横で、私たち四人は笑い続けた。


 三人でユリアンカが機嫌をなおすまで謝ったあと、私たち三人はターボルへ向かった。徒歩かちであれば日没までに到着しないだろうが、いまは馬がある。ホエテテとジンベジも、今回の旅で一人前の騎手となっているので問題ないだろう。

 それにしても、なにがあったのだろうか。敵がいなくなったのだから、チュナム集落からの撤退は不思議ではない。そもそもバウセン山への旅は、チュナム集落への駐屯が価値あるものだということを証明し、チュナム集落からの撤退を防ぐためにおこなったものだった。高級品である紙の供給という、経済的な利益があることが判明したことは、その理由となりえるものだろうと思う。ワビ大隊長も、すぐに部隊を撤退するという考えではないようだった。そうなると、なにか本国で事件が起きて、部隊が撤収するような命令が下されたのだろうか。このような辺境の部隊を呼び戻すほどの戦争がおきたのか。政治にはあまり詳しくはなかったが、周辺国との戦争がおきるような兆しはなかった。


 日暮れ前にターボルの町へ到着する。

 夕餉の時間であるにも関わらず、ターボルの町から立ちのぼる炊煙は少なかった。

 この町も、なにかおかしい。自然と馬を速歩はやあしにしてしまう。

 ターボルの町の中心部には、大隊本部の大きな天幕があり、その周辺には兵士用の天幕が整然と並んでいるはずだった。

 だが、私たちが見たのは、長いあいだそこに本部天幕があったであろう痕跡と、がらんとした空き地だけだった。

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