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バター茶

 その後は、何事もなく旅が続いた。

 ハーラントたちがいる移動集落を見つけたのは、日が天頂にかかった正午ごろのことだった。

 ユリアンカが馬の腹に蹴りをいれ、駈歩かけあしで天幕の集まりに向かっていく。ここまできて、急ぐことはないようにも思えたが、ユリアンカにとっては久しぶりの自分の家への帰還なのだ。

 私たちはゆるゆると歩みをすすめ、しばらくして天幕の集まっている場所へ到着した。

 「兄貴は羊の世話に出てるんだって。帰ってくるまで、こっちでしばらく待ってなよ」

 いつのまにか部屋着に着替えているユリアンカが、私たちを一番大きな天幕へ連れていく。

 天幕の中は、まだまだ日の高い時間だというのに少しヒンヤリとしている。

 「待ってろ。いま誰かにお茶を入れさせるから」

 ユリアンカはそういい残すと、天幕を出ていった。残された私たち三人は、以前座ったあたりの絨毯に勝手に腰をかける。ずっと馬で移動していたので、柔らかい絨毯が心地よい。しばらくすると、どこかでみたことのある女性が三つの木の椀を運んできた。チュナム集落でユリアンカの待女をしていた女性のうちの一人だ。ホエテテに椀を渡し、なにかを話しかけている。湯気ののぼるコップを受け取ると、白く濁り泡だった液体が入っていた。口に含むと塩辛い。羊のバターでつくったバター茶だろう。疲労した体にはありがたい。

 天幕から女性が出ていったのを見はからって、大男に思わず問いかけてしまう。

 「ホエテテ君。鬼角族のことばが話せるのか」

 ホエテテは笑顔で首を横に振る。ユリアンカも評価していたが、大男で剛力の持ち主であるホエテテは鬼角族に人気があるのだろうか。


 お茶を飲みながら二刻ほど待っていると、外で羊の鳴き声や馬のいななきがきこえた。朝から夕方まで、羊に草を食べさせることが遊牧民の仕事だ。そして、草がなくなると別の場所へ移動する。すぐに、ハーラントが天幕に入ってきた。

 「おお、ローハン。無事に帰ってきてなによりだ。なにか獲物はあったか」

 仕事の埃もはらわず、そのまま上座の絨毯の上にどかりと座る。

 「鍛冶屋たちとは会えたのか」

 私はうなずいて、冷めた茶のお代わりをもらえるようハーラントに頼んだ。

 「いくつか戦果はあったよ。まず、君たちが鍛冶屋といっている人たちは我々と同じ人間だ」

 ハーラントは驚いた顔をする。

 「ハーラントさんはバウセン山へ行ったことはないだろう。まず、あなたたちが鍛冶屋という存在は、私私やジンベジと同じことばを使う。全員の身長が低い理由はよくわからないが、二百年前にあの場所へ取り残されたそうだ」

 「そうなのか。それはたしかに面白いはなしだが、獲物というほどのものではないな」

 ハーラントは興味なさそうな声でいったが、ことばとは裏腹に口元が妙に歪んでいる。

 「ここから先は推測になるが、バウセン山のなにかが、君たちキンネク族に有害だという可能性がある。じつは、ユリアンカさんだけが鍛冶屋の宴で出された料理で嘔吐したんだ。圧倒的に強い君たちが、あれだけの水場を放っておくはずがない。おそらく、君たちの祖先がバウセン山の有害性を知り、あそこは人間に任せておくのが一番良いという結論に達したのだろう。ひょっとすると、羊が小さくなったりするかもしれないぞ」

 これで釘をさしたことになるのかはわからないが、バウセン山の人々には独立を守ってもらいたいものだ。

 「もうひとつ耳寄りな話がある。たくさんの砂蛇がバウセン山の東に巣をつくっている。地面は穴だらけだ。どれくらいの規模かは、ユリアンカさんにきいてもらえばわかるかもしれない。あの砂蛇は、君たちにどんな影響を与えるのか教えて欲しい」

 「砂蛇がでると、近くで羊を放すことができなくなる。お前のいう場所なら、我がキンネクには直接の影響はないだろう」

 「ひょっとして、ナユーム族には影響がありそうかな」

 「いまの話だけでは、なんともいえんな。だが、砂蛇は羊の大敵だ。その話は覚えておこう」

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