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逃亡

 ジンベジが私の肩を揺すり、目をさます。

 寝る前にホエテテにもいったように、ジンベジにもすぐに出発できるような服装で寝るように伝えて、見張りを交代した。

 消えかけた焚火に、わずかの木っ端と集めてきた枯草を足しておく。朝までは持たないかもしれないが、少し冷えてきたので手をかざして暖を取ることにした。

 木がパチパチとはじける音と、虫の声。ホエテテのいびきが小さくきこえるだけだ。

 このあたりには、大型の肉食獣はいないとユリアンカからきいていた。最大の脅威は十頭前後の狼たちの群れで、一人旅などしていると襲い掛かってくることもあるらしい。猛禽類もいるらしいが、人間を襲うような大型の鳥はいないとのことだった。つまり、ここで一番の脅威は人間であり、鬼角族なのだ。小さく燃える焚火を見つめながら、ぼんやりとした時間をすごす。


 そろそろ見張りを交代する時間だろう。別段、星には詳しくないが、この時期に一番明るく輝く牛宿星が地平線に沈む頃が、ちょうど二の鐘が鳴る時刻のはずだ。ユリアンカたちの天幕に向かい、外から声をかける。

 「そろそろ見張りの交代時間だ。見張りをかわってもらえないかな」

 昨晩は、侍女の一人が出てくるのをしばらく待たされたが、今日はすぐにユリアンカがでてきた。

 「わかった。すぐにいくから、あんたは少し眠ればいいよ」

 まだ日も昇っていないのに、なぜか皮鎧を着ている。本当にうかつな娘だ。

 はじめから、どこかで我々をまいて自分たちだけでキンネク族に戻るつもりなのはわかっていた。

 告げ口は相手がいないときにおこなうものであり、その当事者がいれば、いちいち反論されてしまう。

 おそらく距離的に、明日中に到着する場所に兄のハーラントはいるのであろう。

 「それじゃあ、頼んだよ」

 そういって焚火の近くに戻り、マントにくるまって耳をそばだてる。天幕は片付けて移動するのか、それともここに置いていくのか。

 東の空が白みかけてきたころ、馬が小さくいななくのがきこえた。ということは、天幕はそのままにしておくつもりなのか。

 耳をそばだてていると、わずかに複数の馬の歩む音がきこえる。

 その音が、きこえなくなるやいなや、ホエテテとジンベジを起こしてまわる。

 「おい、ユリアンカさんと侍女が逃げた。すぐに追跡するから、荷物をすべて馬に乗せるんだ」

 寝ぼけ眼の二人をどやしつけて、旅の準備を急がせる。

 二人は馬に乗っても早足はやあしすら難しいだろうから、少しの遅れが大きな差となるかもしれない。だが、あくまでもユリアンカに気付かれずに追跡したいので、すぐに出発するわけにもいかなかった。

 二人が準備するのを待つあいだ、こっそりユリアンカたちの天幕に近づいて中に誰もいないことを確認する。あたりを見渡すが、馬もユリアンカと侍女たちの姿も見えない。昨日、ユリアンカたちが馬をつないでいたあたりを調べ、馬の足跡をみつけた。猟兵レンジャー贈物ギフトがあれば、容易に追跡できるのだろうが、私は本で読んだ知識でしか動物の追跡法を知らない。だが、そこまで心配しなくてもよさそうだった。一頭の足跡を追跡するのは不可能かもしれないが、四頭なら追跡することができそうだ。

 焚火の近くに戻ると、すでに二人は出発の準備ができているようだった。

 「よし、それではユリアンカさんを追跡し、ハーラントさんに会いに行こう。そもそもの目的は、バウセン山というところに住む鍛冶屋族という人々に接触することだから、あまり無駄な時間を使うわけにはいかない」

 すでに二人の尻の皮は、鞍擦れでひどいことになっているかもしれないが、ここで休むわけにはいかないのだ。

 「乗馬してくれ。私が足跡を追跡するから、後からついてきてほしい」

 そういうと、馬の腹を軽く蹴って進みはじめた。

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