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西南西へ

 鬼角族は、いつも決まった場所で冬を越すが、春から秋にかけては羊や馬に草を食べさせるために、きまった牧草地を巡っているという。ハーラントから、だいたいの巡回経路についての話はきいていたが、地図がない場所のことなので、この時期は北、そこから南西に、そこから南、そこから北東といった程度のものだった。だが、ユリアンカと侍女たちは、まるで行き先がわかっているように迷わずチュナム集落から西南西に進んでいく。昨日の出来事からユリアンカはまったく口を開かないし、侍女たちは人間のことばが話せない。大男のホエテテはもともと無口だったし、ジンベジも馬に乗ることに必死だった。日が沈むまで、ほとんど会話もなく、なにもない平原を七人と馬がただただ進んでいった。


 「このあたりで野営する」

 ユリアンカは、そういい残すと侍女たちの方に戻っていった。どのように運んでいたのかわからないが、いつのまにかチュナム集落にあったのと同じ天幕が組みあがっていく。私たちは天幕のようなものを持っていないので、焚火をしてマントにくるまって寝る予定だった。このあたりには、ハーラントのキンネク族以外はいないはずだが、野生動物の襲撃を警戒する意味で見張りは必要だろう。天幕を組み立てるユリアンカたちのところへむかい、あらかじめ話をしておくことにした。

 「すまない、ユリアンカさん。野生動物や怪物を警戒するために、見張りを立てたいと思う。我々三人と、そちらから一人見張りを出してもらい、四交代にしたいと思うのだがどうだろう」

 こちらを見ずに、ユリアンカは答えた。

 「天幕を片付けるから、最後の朝方の見張りをこちらから出す」

 それだけいうと、あとは何もいわずに天幕を組み立てる作業を続ける。

 「わかった」

 それだけいい残すと私は焚火の近くに戻り、簡単な夕餉の支度をはじめる。

 大きな石がないので、土で簡易的なかまどをつくり、鍋を乗せてスープをつくることにした。燃料になる薪も貴重なので、三人がギリギリ椀一杯ずつ飲めるだけの水を入れ、乾燥野菜や腸詰を放り込んで煮立てた。ユリアンカたちと仲良く食事をする雰囲気ではないし、すすめても断られるだろうと思ったからだ。男三人で、固いパンをスープで柔らかくしながら食べていると、天幕の方からはチーズの焦げる香ばしい香りがただよってきた。私たちよりいいものを食べているのであれば問題ない。見張りの順番を決め、その日は長時間の移動の疲れもあり、すぐに眠りにつくことができた。


 「おはようございます。教官、尻がたまらなく痛いんですが、なんとかする方法ありませんかね」

 朝食のパンをかじりながら、ジンベジが泣きごとをいう。隣のホエテテも、ウンウンとうなずいている。

 「こればっかりはどうしようもないんだ。騎兵はみんな、尻の痛みがなくなるまで馬に乗り続ける。マントを鞍の上に敷けば多少マシになるかもしれないが、治癒魔術でも使えないかぎり痛みを消す方法はない」

 二人は目に見えてガッカリした表情をしたが、これだけはどうしようもない。今日一日は地獄かもしれないが、この旅が終わるころには、いい思い出になっているだろう。

 ユリアンカたちが天幕を片付け、馬上の人となり進みはじめたので、我々もその後を追った。

 見渡す限りの平原。まるで大海原を進む船のようだ。会話もなく、内なる自分自身との対話に時間が過ぎていく。

 軍事教練に明け暮れた日々からの解脱。はじめのうちは、私を裏切ったアストの顔や、激情のあまり殺めてしまった間男の顔、私を守るために死んだマヌエレの顔などが思い浮かんだが、次第になにも考えず、現状をあるがままに受け入れるようになった。

 風の香り、土の香り、陽の香り、五感が研ぎ澄まされたような気がする。

 ユリアンカが野営をすると告げにきた時、あっというまに一日が終わったことに気がついた。

 その後は、ホエテテとジンベジの歩き方が、よちよち歩きの赤ん坊のようになっていること以外、まったく同じことの繰り返しだった。土でかまどをつくり、腸詰と乾燥野菜を入れたスープで固いパンを流し込む。今日も四人で交代する見張りの三番目を志願し、早々と眠りについた。

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