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 西から騎兵がこの集落に向かってきたとき、いよいよ次の戦いがはじまるのかと思ったが、それは杞憂だった。鬼角族が馬の背に積んできたのは、先日の戦いで死んだ馬の皮をなめしたものであった。

 知識として動物の皮を鞣す方法は知っていたが、経験も道具もなかったので困っていると、ハーラントが馬の皮を使えるように加工するとの申し出があったのだ。もちろん、代償がないわけではない。戦利品としていた大太刀を返せば、という条件がついていた。馬や羊は放牧して増やすことができるが、大太刀は鬼角族にも貴重なもので、父から子へ受け継がれる家宝のような扱いになっているらしい。そこで、跡継ぎのいる世帯には大太刀を返却するこという条件で取引をしたわけだ。鬼角族の大太刀は業物わざものだが、形状が特殊すぎて売れそうになかったので、渡りに船の申し出だった。

 騎兵はユリアンカとしばらく話をすると、馬の皮を置いてそのまま来た方向に去ったので、私はユリアンカに声をかけた。

 「兄のハーラントはなにかいってきたのか」

 私に気がついたユリアンカは、なぜか少し頬を染めて怒ったようにいった。

 「なんにもいってきてないよ、爺。頼まれていた馬の皮を持ってきただけだよ」

 なぜ頬を染めているのかはわからないが、今のところ戦いがはじまる様子がないことに安堵する。まだなにも準備ができていない。馬の皮を担ぎ、本部天幕に運び込んでツベヒをよぶ。


 「隊長、さっきの鬼角族はなんていってきたんですか」天幕にはいるやいなや、ツベヒから質問が飛ぶ。「ひょっとして、戦争ですか」

 否定し、鬼角族が馬の皮を持ってきたことを伝える。

 「馬の皮があるなら、鞍をつくって騎兵になればいいのではありませんか」

 貴族の三男だけあって、ツベヒは馬に乗れるのかもしれない。しかし、鞍をつくったことなどはないだろう。

 「残念だが、鞍をつくるのには高度な技術が必要になる。それに、馬の皮は柔らかすぎて、鞍をつくるのには向かない。皮鎧も無理だな。編み込めば、戦車チャリオット用の手綱や、馬をつなぎ留める革紐くらいにはなるだろうが」

 見るからに落胆したツベヒをなぐさめながら、来てもらった本当の理由を伝えることにした。

 「来てもらったのには、頼みたいことがあるからだ。ターボルにいってほしい。馬の皮三枚を、ワビ大隊長に戦利品として納めてくれ。残りの三枚を、フェイルという町にいる<草原の民の店>というところで売ってきて欲しい。その代金で、できるだけたくさんの飴を買ってきて欲しいんだ」

 「飴ですか。あの子どもが好きな飴?」ツベヒは驚いた顔をした。「甘い飴のことですか?」

 「そうだ、ツベヒ君。子どもが大好きな飴だ。私の手持ちの飴が無くなってしまったので、ぜひ手に入れたいんだ。甘いものならなんでもいい。水飴でも焼き菓子でもかまわないから、できるだけ買いこんでほしい。ああ、そうだ。ターボルの鍛冶屋で鏃も買ってきてもらいたい。そのお金はこの正銀貨で支払ってもらいたい」

 財布から正銀貨を取り出すと、三枚をツベヒは渡す。買い物を頼むとき、ストルコムには駄賃を渡していたが、ツベヒには仕送りがあるようでお金に困っているようには見えなかった。中途半端な駄賃は、逆に礼を失する可能性があると考えたのだ。

 ツベヒが天幕を出ていくと、よく研いだ短刀を取り出し、馬の皮を細く長く裁断していく。結局、実戦以外のことは、自分が一番信用できるのだ。四枚の馬皮で長い編んだ革紐をつくり、戦車チャリオット用の馬具をつくろう。兵士たちは、戦車チャリオット作成と、ユリアンカとの訓練で忙しそうだ。

 それにしても、まさかユリアンカが兵士たちに武術を教えてくれるとは思わなかった。

 たとえそれが、飴に魂を奪われ、飴欲しさの故だとしても。

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