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戦車

 そもそも木剣で、火であぶって固くした槍を切ることができるのだろうか。木剣で切れたとしても、このような滑らかな切断面になるのだろうか。ユリアンカとは何度も木剣で戦っているが、これほどの技の冴えはみたことはなかった。

ある考えが私の頭をよぎる。徒歩かちでもユリアンカは強いが、馬上なら私の想像できないほどの強さなのではないか。人間と鬼角族の混血であるユリアンカにも、ヴィーネ神が贈物ギフトを授けたに違いない。馬上でその真価を発揮する贈物ギフトに、騎兵シュヴァリエというものがあるという。本当の力を知らずに、師匠のような気になっていた自分が恥ずかしいが、たぶんユリアンカは気がついていないだろう。兄のハーラントも強かったが、それは理解の範疇はんちゅうに入る強さだった。だが、ユリアンカはまさに規格外だ。鍛え上げれば、どこまで高みにのぼるかわからない。私は指導者としてその姿を見たくもあり、置いていかれるようで怖くもあった。

 「ユリアンカさん、あまりやりすぎると槍がなくなってしまう。少しは手加減してやってほしいな」

 震えそうになる声を抑えながら、何事もなかったように断ち切られた槍を放り捨てる。

 「では、ツベヒは一班と二班で、ユリアンカさんに稽古をつけてもらってくれ。三班から五班は私と一緒に来てもらいたい」

 そういい残し、兵士たちを引き連れ本部天幕から少し離れたところにある、馬をつないだ場所へ向かった。


 「ここ数日、私が大工仕事をしていたのは見ていたと思う。じつは、前の戦いのときに解体した荷馬車の部品を使って戦車チャリオットをつくった。荷馬車をもとにした四輪だと遅いので、これは二輪の戦車チャリオットだ」

 車輪の上に人間二人が横に並んで乗れる灰色をした籠のようなものが取り付けられ、その中央からは一本の木の棒が伸びていた。棒の先端には丁字に短い棒があった。

 「教官殿、一つききたいことがあるんですがいいですか」

 先ほどまでしょんぼりしていたジンベジが、何事もなかったように質問をしてくる。切り替えが早いのも才能の一つなのだろう。うなずいて、質問を続けさせる。

 「なぜ、馬に乗らないんですか。戦車チャリオットなんて、むかし話でしかでてきたことがありませんよ」

 当然の疑問だろう。しかし、わざわざ戦車チャリオットを持ち出してきたのには理由があるのだ。

 「理由は二つある。一つ目の理由は、鬼角族たちは馬に乗るのに鞍もあぶみも使わないから、我々が手に入れた馬に私たちは乗れない。乗れても戦えないからだ。ターボルに鞍とあぶみを送ってもらうよう依頼したが、無理だった。ここで入手できる機動兵器は戦車だけだ。二つ目の理由は、かりに鞍とあぶみがあっても、騎乗しての戦いでは私たちは鬼角族にけっして勝てないからだ。そのことは、さきほど身をもって経験したんじゃないか」

 他の兵士から笑い声が漏れる。

 「鬼角族は弓を使わない。私たちが鬼角族に勝てたのは、ひとえに投槍のような投擲兵器の力だった。戦車チャリオットは騎兵より遅く、小回りもきかないが、騎乗した兵士が弓を射ることができる。しかも、相手は戦車など見たことがないだろうから、対処法がわからないという利点もある。残念ながら、今は馬と戦車をつなぐ革紐が準備できないので乗れないが、あと三台をつくる材料はある」

 私がそこまでいうと、ジンベジが続けた。

 「つまり、俺たちに残りの三台をつくれということですか」

 にっこり笑って肯定する。

 「さきほどコテンパンにやられたジンベジ君には、罰として特製の籠をつくってもらいたいと思う」

 そういいながら、灰色の籠を指さす。

 「この籠は、黒鼻族の住居と同じものでできている。軽くて、乾くと固くなる理想の材料だ」

 本来は、木で作るべきなのだが、このチュナム集落周辺にはほとんど木がない。

 「いまからヤビツといっしょに、黒鼻族の家から羊たちの糞を集めてきてくれ」

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