騎兵
ユリアンカは騎乗して、私は徒歩でそれぞれ兵士たちに対騎兵用の戦い方を教えことになった。
鞍も鐙もないのに、どうやって馬上で踏んばっているのかはわからないが、ユリアンカは巧みに乗馬を操って、木剣で訓練用の槍を持つ兵士たちを蹴散らしていく。
「鬼――キンネクの戦士は、右手で大太刀を持ち、左手で手綱を握っている。つまり、相手の左側に回り込めば戦いは格段に有利になるぞ。おい、誰かユリアンカさんの左側に回ってみろ」
握るのは木剣でも、騎乗する馬に蹴られれば大怪我は免れない。ほとんどの兵士が、せっかくの槍の長さを生かすことができず、へっぴり腰で突き出された槍を見事にかわしては、ユリアンカは木剣で兵士の肩に痛打を与えていった。兵士に怪我をさせないという私の依頼を、しっかり守ってくれていることにホッとする。
「ふん、これだけ男が揃っていて、あたしにかすることもできないとは、人間の男は情けないね」
女傑は兵士たちを煽るが、馬に蹴られるのが怖いのと、木剣さばきがあまりにも見事なので兵士たちは誰も近づけなかった。
「おいおい、人間をバカにするのもいい加減にしろよ。エーレアス先生について免許皆伝。槍のジンベジがお相手するぞ」
兵士をかき分け、お調子者のジンベジが槍をしごきながら飛び出してくる。
確かに構えは堂にいったもので、立ち姿が優雅でありながら腰が据わっていた。
他の兵士たちが、二人を残してまわりに離れていく。
騎士と槍手の一対一の戦いだ。
ユリアンカは馬首を少し左に向け、軽く右半身でジンベジに対して対峙した。
ジンベジは、特に相手の左側に回り込むようなそぶりは見せない。集団戦ならともかく、一対一で騎兵の横に回り込めるとはおもっていないのであろう。
しばらくにらみ合いが続くが、先に動いたのはジンベジだった。
「エイ!」
裂帛の気合とともに、馬上へ真っすぐ槍が突き出される。
気合のわりには、それほど勢いのない突きを、ユリアンカは木剣で叩き落そうと切り下げた。
その時、ジンベジの穂先が驚くほどの速度で引き戻され、再び気合とともに騎士へ向かう。
いわゆる二段突き。武芸者が好む高等技術。
しかし、切り下げられたユリアンカの剣先は、そのまま上向きに跳ね上げられ、突いてきた槍を跳ね上げげ弾き飛ばした。得意げな顔をして、ユリアンカは笑った。
「のこのこ出てくるから、どんな腕前かと思ったら、なんだよその槍は。遅すぎてあくびがでるよ。まだローハンの方がマシだぞ」
兵士たちが一斉に私の顔をみつめる。
ニヤニヤするもの、あきれた顔をするもの、驚いた顔をするもの、兵の反応は様々だが、みな大きな勘違いしていることはわかった。
名前で呼ばれたからといって、私とユリアンカはそれほど親密な関係ではない。そういいたかったが、変に否定すると逆効果なので喉まででかかったことばを飲みこんだ。そんなことより、私は騎乗したユリアンカの腕前が見事すぎることが気になっていた。先ほどの二段突きは、あまりにも見え見えな技だったが、それを差し引いてもユリアンカの剣技は素晴らしいものだった。普段の訓練でも、あれほどの腕前をみせることはなかった。
「ユリアンカさん、今度は私と一勝負お願いできますか」
ガックリとうなだれるジンベジをどかせて、練習用の槍を手にする。
「ローハンが相手か。いいよ、かかってきな」
まわりの視線が少し痛いが、そんなことは気にせずに槍を構える。二段突きは、全力で突いた槍が当たらなかったときに改めて相手を突くという技である。しかし、はじめから二段突きのつもりだと、一撃目の突きがどうしてもおざなりなるのだ。もちろん、武芸の試合なら有効なのかもしれないが、戦場では一瞬の油断が命取りとなる。ジンベジは槍術の師範から試合用の技術を教わったのだろうが、戦場ではただ速く、強いものが勝つ。
互いの位置は、さきほどのジンベジと同じ。ユリアンカは少し馬首を左に巡らせ、右半身の姿勢で私と向かい合った。
「よろしくお願いします」
あくまでもこれは練習だ。礼儀を守ることに意味はある。
ユリアンカはなにもいわなかった。
そのまま、一気に槍を突き出す。
裂帛の気合は勇ましいが、いまから攻撃するぞと宣言しているようなものだ。不意打ちをしたように見えないためにも、礼は必要であった。
稲妻のような穂先はユリアンカの腹部を強打するはずだったが、振り下ろされた木剣が槍を切り落とす。
「やった! あたしの勝ちだ! 槍は苦手なのに、あたしが勝った! ざまーみろローハン」
嬉しそうに馬上で小躍りするユリアンカを横目に、私は切り落とされた槍の穂先をみていた。
その切断面は、まるで剣で切り落とされたように滑らかであった。




