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約束

 ヤビツは仲間にこちらの計画を伝えてくれるそうなので、そのままハーラントたちがいる麓の野営地へ向かった。大岩の近くには八つの天幕が広げられ、その横ではつながれた馬が草をんでいる。

 「おお、ザロフよ。ちょうどいいところにきた」

 私が野営地に近づくと、どこからみていたのか天幕からハーラントがでてきた。

 「お前らの食べ物では力がでん。肉が食いたいんだがないのか」開口一番、食料の不満だ。「上には羊がたいくらでもいるだろう?」

 本気でいっているのか、冗談なのかその表情からはわからなかった。

 「君は私に相撲で負けたのだから、捕虜なんだぞ。それに、黒鼻族は私たち人間の仲間だ。仲間を食べるものがいるかな」

 「あの飯は、捕虜へのエサなのか」

 ひょうげた顔で大声を出すガチムチを、手で制して続ける。

 「食事の内容は私たちと同じだよ。まあ、君たちの体格からすると物足りないかもしれないがね」

 「わかったわかった。それより、今日はなんの話なんだ」

 「少し込み入った話なので中に入れてもらっていいかな」

 鬼角族が顎で天幕の中を示したので、後ろからついていく。

 もしここで鬼角族の気が変わり、私を殺そうとすれば簡単に殺せるだろうが、不思議と恐怖はなかった。

 鬼角族の天幕の中に一歩入ると、不思議な芳香が漂っているのに気がつく。香水か香草か。嗅いだことのない匂いだ。天幕の中には机や椅子はなく、絨毯のようなものが敷かれており、入口の奥にはハーラントの妹が寝そべっていた。

 馬上でみたときの姿とは違い、普段着なのか薄いチュニックだけを身につけ、その白い素足がむき出しになっている。妹は入ってきた私の顔を見るやいなや、飛び起きて足を隠し、低い声でハーラントを罵倒する。鬼角族のことばはわからないが、口汚く罵っていることはわかった。ひとしきりハーラントに怒鳴り散らすと、今度は私の方を向いて人間のことばで罵りはじめる。

 「このエロジジイ、なにみてるんだよ。兄貴がなんていおうと、お前みたいな骨皮筋右衛門なんてお断りだよ、このクソ人間が!」

 今度はハーラントがなにかを告げると、妹は怒った顔で天幕を出ていった。骨皮筋右衛門って、老人でもいわない死語だぞ。

 「妹のユリアンカが失礼した。我がお前と結婚するようにいってから、あのざまなんだ。照れていると思うから、許してやって欲しい」

 照れる要素など皆無だし、私が好かれる理由もないから純粋に嫌われていると思うのだが、どうでもいいことなので鷹揚にうなずいておく。

 ハーラントが床の絨毯を指さすので、そのまま腰掛ける。絨毯だと思ったのはなにかの皮のようで、なめされた皮は柔らかい手触りで心地よかった。

 「それで、今日は捕虜になんの用だ」

 別の絨毯の上に寝そべったハーラントがたずねた。

 「君にとってもいい話をもってきた。このチュナム集落が攻撃されることは間違いないんだな」

 鬼角族は正面から私の目をみつめて、肯定した。

 「私たちは、ここから撤退するか戦うかの選択を迫られている」ハーラントの表情に変化はない。「私はここで戦ってもいいと考えているが、勝利の為には戦力が足りない」

 面白そうな顔で、鬼角族はこちらをみつめている。

 「君たちが手助けしてくれるなら、勝つことができるかもしれない」

 「それで、我にはなんの得があるんだ」

 はじめて興味深そうな表情をみせたハーラントは、当然の質問を投げかけてくる。

 「私に相撲で負けたのだから、手伝うのは当然だろう?」一瞬、肉ダルマが怖い顔をするのを確認してから、話をつづける。「もちろん、君たちにも利益はある。もし、この戦いに勝てれば、私は君をキンネクの族長になってもらいたいと考えている。君がキンネクの族長になれば、私たちは無益な戦いをしなくても済むはずだ」

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