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謁見の間

 「ツベヒ君、この軍服で問題ないかな。着丈きたけが長すぎないか」

 式典用の軍服はチュナム集落で紛失し、慌てて用意した式典用の軍服は少し大きかったようで、そでは詰めたものの寸法があわない気がしているのだ。

 「隊長、問題ありませんよ。よく似合っています」

 ツベヒは軍服をきちんと着こなし、どこに出しても恥ずかしくない青年軍人になっていた。

 「アタシは、こんなのでいいのか」

 ユリアンカは、ゆったりとした格子柄の貫頭衣を身につけ、腰を紺色の紐で縛っただけの姿だ。キンネク族の正装にあたる服装をききだし、できるだけそれに近いものを用意したのだが、見ようによってはどこかの端女はしためのようでもある。黒髪は高い結い上げているが、あまりにも無造作であった。

 「ユリアンカさんは、キンネク族の代表なんだ。私たちの儀礼など気にしなくてもいい。堂々としていれば問題ありませんよ」

 少しはにかんだような表情を見せ、ユリアンカはいった。

 「ああ、お前らの儀式とかいわれてもわからないから、精々堂々としとくよ」

 扉が開き、王の侍従じじゅうが部屋にするりと入り込む。

 「準備が整いました。それでは謁見えっけんの間へどうぞ」

 私もツベヒも、国王に拝謁はいえつするのははじめてのことだ。長い廊下を歩きながら、遠くからしか見たことのないフィアンツ国王の姿を思い出そうとしていた。ツベヒの顔に緊張が走り、動きがぎこちなくなっていく。その一方で、私は特別に緊張することもなく、滅多に入ることのできない王宮を観察していた。ユリアンカも物珍しそうにキョロキョロとしている。

 王宮は広いが必要以上に華美な装飾もなく、むしろ質素であるとさえいえる。王は選定侯たちにより十年ごとに選ばれるので、本国の居城には飾り立てられているであろう高価な品々は、この王宮にはなかった。それとも、戦局によっては王宮が占拠されて略奪される可能性を考え、避難させられているのかもしれない。

 先を歩く侍従が、ひときわ大きな扉の前で立ち止まると、大声を張りあげた。

 「ローハン・ザロフ殿、キンデン・ツベヒ殿、キンネク族のユリアンカ様、到着いたしました」

 声に合わせて扉が開き、私たちは謁見の間に招き入れられる。

 さすが謁見の間だ。入り口から玉座までは遠く、両脇には儀仗兵(ぎじょうへい)が並んで厳粛たる雰囲気を醸し出している。儀仗兵たちの横を通り抜けると、今度は文官の列。

 正面には玉座があり、その左右に三席ずつ選定侯が座るための席がある。神殿の代表は通常、王の右後ろに立つことになっている。私のような貧乏貴族の三男坊にとって、王に謁見するなど夢のようなことだ。横を歩くツベヒの呼吸が不規則になる。

 玉座の左側の末席には、タルカ将軍が座っている。その席はギュッヒン侯の席であったはずだ。軍の代表として、選定侯の一員に任じられたのだろう。昨晩、タルカ将軍とは事前に打ち合わせが済んでいる。ツベヒと比べ、私に余裕があるのは、これからおこなわれる論功行賞の内容がすべてわかっているからだ。

 侍従が立ち止まるのを合図に、私とツベヒは膝をついて頭を下げる。ユリアンカも、同じく膝をついたが、頭は下げなかった。頭を下げるという習慣が鬼角族にはなく、そのことも事前に説明はしてある。

 「頭を上げよ」

 侍従の声に、頭を上げて現在の国王フィアンツの方を見る。王はツルツルの頭の上にチョコンと王冠を載せ、その滑稽な姿とは裏腹に鋭い眼光で私たちを値踏みしているようにみえた。

 「ローハン・ザロフよ、この度は大儀であった。敵中であっても決してなびかず、最後まで敵の背後で戦いを続けたこと、賞賛に値する」

 私は軽く頭を下げて謝意をあらわす。

 「そして、キンネク族ハーラント族長殿の代理、妹君まいくんのユリアンカ殿も、我らを助けて戦ってもらったときく。王として感謝の念に堪えない」

 王も軽く頭を下げ、それに応えてユリアンカもぎこちなく頭を下げた。

 「キンデン・ツベヒ。お前もローハン・ザロフを助け、よく戦ったときくぞ」

 ツベヒが感激の面持ちで頭を下げる。

 「この度の活躍に対し、国として報いる必要があると思うのだが、どうだろう」

 フィアンツ国王の問いかけに、沈黙をもって選定侯たちは同意した。

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