斥候殺し
何度かこちらを振り返りながら、ジンベジとライドスは国王派の町へ向かっていった。
もし二人を追うような敵がいれば、私たちはそれを阻止する予定であったが、敵の姿は見えない。
「隊長、ここまでは上手くいったようですが、この後はどうするのですか」
轡を並べるツベヒが疑問を口にする。
「攻撃はしてこないにしても、敵は我々を見過ごしにはできないだろう。君ならどうする、ツベヒ君」
質問に質問で返すのは間違っているが、ツベヒがどう判断するのかに興味があった。
「そうですね。私なら、十分に距離を取って追跡できるような斥候を送ります。近すぎると攻撃を受けるので、半日は離れたところから移動の痕跡を追いかけます」
教科書通りの回答だ。ツベヒは指揮官としての能力を十分持っている。
「私もそう思う。敵の追跡部隊は四騎から十騎といったところか。その追跡者を討つためには、こちらの騎兵を二十名ほど伏せておけばいいだろう」
敵の騎兵に追跡されることが目的ではあるが、正確に味方の位置を把握されると、こちらが奇襲を受ける可能性もある。
「念のため、今晩から見張りを厚くする。敵の斥候を消さない限り安心することはできないからな」
即座に反撃部隊を送り出し、夜襲をかけるという判断ができる指揮官が敵にいるならば、かなりの強敵だろうが、その可能性は考えておかなければならないだろう。一息ついて、はなしを続ける。
「斥候を追い払えば、ここから西に進んだところにあるリヒハールという町を襲撃する。敵の拠点への攻撃を続けながら、ギュッヒン侯の騎兵部隊を西へ導いていく。私たちは餌だ。敵が食いつくまで、何度か襲撃を繰り返すことになる」
ギュッヒン侯の一番正しい選択は、私たちを無視することだ。そして、戦上手のギュッヒン侯なら、間違いなく私たちを無視するのだろうが、無視できない要素がある。それが私だった。自分の子を殺されたという恨みが、ギュッヒン侯の目を曇らせてくれるかもしれないということに、一縷の望みを持っているのだ。
日が暮れる直前に、天幕を張って野営の準備をおこなう。天幕を張ることを止めるという考えもあるが、鬼角族たちがそれに納得しないし、夜はまだまだ寒いのだ。
何事もなく翌朝を迎えた私たちは、さらに西へ向かった。リヒハールへはここから二日ほどかかるはずなので、あと一日野営する必要がある。
天幕を片付けると、そのまま西へ向かう。昼過ぎに、進行方向の右側に林があるのを見つけると、ツベヒと顔を見合わせた。まさに、伏兵を置いておくのに最適の場所だ。
「ツベヒ君。軽騎兵を十名、キンネク族から十名を借りて、あの林で敵の斥候を待ち伏せて欲しい。通詞にユリアンカさんを連れていけ。わかっているとは思うが、敵が西に通り過ぎてから。仕掛けるんだぞ」
「わかってますよ。ところで、捕虜は取りますか」
私たちの予想通りなら、敵の斥候を捕らえる可能性もある。捕虜を取るのかという質問は、敵を皆殺しにするかという意味になる。
「馬を奪えば、あとは放っておいてもかまわない。この部隊の指揮官が私であることを伝えておくことを忘れるな。ギュッヒン侯は私に個人的な恨みを持っているから、いい挑発になるはずだ」
ツベヒは少しホッとした表情を見せた。戦うことのできない相手を殺すのは、殺人と変わらないという私と同じ感覚なのだろう。ジンベジには、こういう優しさはない。
荒事はいつもジンベジに任せていたので、ツベヒにとっては初めての単独任務だといえる。
「それじゃあ、頼んだぞ。私たちはこのまま西へ進む。できれば明日中に合流して欲しい」
二十騎の騎兵とツベヒ、ユリアンカの姿が林の中に溶け込んだ。




